19S.”哀”-Sadness

19S.”哀”-Sadness

 生まれてきたこと自体が哀しいことになってしまわないように、ひたすら互いの存在を確認し合う





 6人はジェイド地区を歩く。
 しばらく歩いていると、今度は元々ジェイド地区に居た機械兵が再び現れた。
 ラングは思わず「忙しいな…」と呟くと、皆に戦闘を呼びかけてからアリスにそっと話しかけた。
「どうする?アリスは休むか?」
「いえ、戦ってみる。みんなも疲れてるでしょ…覚醒したら危険だわ」
 アリスはそう答えると、自分も戦闘に加わった。
 ラングとシャルが盾と光の球でアリスとアルトを守りながら敵と戦う。
 アリスの攻撃は凄まじかった。いつもより双剣が長くなっており、ほぼ長剣になっている懐剣を振るうと機械兵が次々となぎ倒されていくのだ。これが赤い光…
 しかし、アリスの額から汗が流れ落ちるのを見たアルトは、ラングに「前衛は僕1人でやる」と言って一気に前に出る。ラングは迷った。確かにアリスは安定していない。だが、アルト1人に無理をさせるべきかどうか…
 アルトがラングの返答を待たず斬り込むと、自然とアリスが後ずさる形になった。しゃがんで休むアリスにラングは念のために結界を使う。シャルが光の玉を使ってアルトを守り、エン、ムジカも全力でアルトをサポートした。

 先程の兵士との戦闘で消耗していたのもあった。

 一瞬だった。アルトの懐剣の刃が一気に赤く染まり、目の前の機械兵を殲滅したのだった。

「アルト!!」
「アルトくん!!」
 ラングとエンが叫ぶ。アリスはもう落ち着いており、「ラング、早く!!」と叫んだのでラングはすぐにアルトにかけつけ結界を使う。アルトはその場にしゃがみ込み、自分の側にかけつけたラングとエンに対し「…大丈夫」と呟いた。
 遅れて、シャルとムジカに支えられたアリスもアルトの元に来た。アルトは自分の側にしゃがんだアリスに、囁くように言った。
「…アリスちゃん、僕も覚醒したよ。もう1人じゃないから大丈夫」
 それを聞いたアリスは、苦笑しながら答える。
「アルトくんてばもう…覚醒しちゃったのに何言ってるの。そうだわ…私は1人じゃない…みんなのことを考えれば大丈夫だったはず…アルトくんも…」
「…うん、そうする。みんな、行こう」
 アルトはそう答えると立ち上がる。結界のお陰でアルトも大分落ち着いたようだった。
「アルト、サドネスがあれば大丈夫だ。でも無理はするなよ。やばかったらいつでも言えよ」
「…うん。ありがとう、ラング」
 ラングが声をかけアルトが穏やかに答えると、6人は再び歩き出した。

 しばらく歩いていると、考え込んでいたエンが、ぽつりと口にした。
「もしかして私たち今、覚醒しやすくなってる…?」
 それに対し、アルトは落ち着いた様子で答える。
「僕もそうだと思う。やっぱり追い詰められた状況で輝煌の濃度が高いと覚醒する可能性が高くなるのかも…みんな、気をつけてね」
 皆が頷き再び歩き出すと、ラングは少し考えた後、エンに小声で話しかけた。
「…エン、メリーは確か…」
 エンも同じことを考えていたらしく、冷静に答えた。
「…うん。一番覚醒したら危険って言ってたね。追い詰められないように、穏やかになれるように気を付けるね」


 それは、まるで鎖で繋がれた連鎖のようだった。

 今度は再び兵士が現れる。今回も複数の機械兵を連れており、6人は囲まれた。
 アルトとアリスに負担がかからないように、ラングとシャルが積極的に前に出た。しかし、囲まれているので後衛のエンとムジカも狙われやすくなっている。
 そこで、背後から兵士が現れムジカが斬りかかられそうになった。
「ムジカ!!」
 それに気付いたのは…シャルだった。

 シャルの懐剣は赤い光を帯び、ムジカを狙った兵士を一瞬で切り倒したのだ。

 そのまま膝をついたシャルにラングが結界を使うと、今後はエンの叫び声が聞こえる。
「ランちゃん!!ムジカが!!!」
 エンはうずくまっているムジカの傍にいた。
 その瞬間、ラングの目の前を赤い玉が飛ぶ。赤い玉はラングの前方に居る兵士を一撃で倒した。

 ラングは気付いた。先程の赤い玉は、ムジカの懐剣から放たれたのだ…

 落ち着きを取り戻したシャルはラングに言った。
「…こっちはもう大丈夫だ。早くムジカに…」
 ラングは頷きすぐにムジカの元で結界を使う。
 しばらくして、シャルもムジカに近付いた。ムジカは少し落ち着きを取り戻しており、顔を上げて苦笑しながら「…へへ、私も覚醒しちゃった。仲間、仲間」と呟く。シャルも「なるほど。仲間か、いいな」と笑いながら言った。
 エンは、アルトとアリスが2人で兵士に応じていることに気付く。
「2人とも無茶しないで…!」
 エンがそう呼びかけ前に出ようとしたが、アルトとアリスは赤い光を振るい兵士と機械兵を一気に倒した。2人は暴走しているようにも見えた。
 ラングはすぐに、ふらふらしているアルトとアリスにも交互にサドネスを使った。そして…
「しばらく休もう」
 と、皆に呼びかけた。凄い惨状だ。体勢を立て直さなければ危険だった。
 シャルは、ふらふらしているアリスとアルト、皆をサポートするために汗だくになっているラングとエンを見る。シャルの表情は先程と違い、目が血走っているように見えた。シャルはそのまま言葉を漏らす。
「…なあ。この世界に救う価値はあると思うか?俺たち何かしたか?」
 それにムジカも同意する。ムジカの目は、怒気に満ちているように見えた。
「そうだよ。もういいじゃん。何であたしたちがこんなことしなきゃいけないの?もう終わりにしよ」
 ラングは結界は使わず、シャルとムジカに落ち着いて囁くように言った。
「2人とも…深呼吸、深呼吸」
「…」
 自分たちも暴走しかかっていることに気付いたシャルとムジカは、目を閉じて深呼吸をする。

 連鎖するように次々と覚醒してしまった。6人の心は、一気に絶望に向かう…

 そこでエンは皆を見回し、少し考えた後、笑顔で言葉を伝えた。
「そうだ、声をかけ合わない?定期的にお互いの姿を確認して。辛くなったらみんなのことを想い出すの」
 ムジカは静かに目を開くと、笑顔で呟いた。
「…うん、やってみる」
 そしてシャルとムジカが頷きあうと、ラングは笑顔で「俺のサドネスにも遠慮なく頼ってくれ」と伝えた。アルトは「危険だと思ったらすぐに言うようにしようね」と皆に呼びかけ、アリスは「それでも無理だったら…ラング、結界をお願いね」と穏やかに言った。
「了解!」
 ラングは皆を励ますかのように、元気よく答えた。


 再び歩き出すと、今度は機械兵数体が現れた。
 戦闘になるたびに、アリス、アルト、シャル、ムジカの4人は暴走気味になった。ラングとエンがサポートすることで何とか乗り切った。
 再び休憩に入る。シャルは片手で頭を抱えながら言った。
「あーやべえ、頭いてえ…ムジカムジカムジカ~」
 ムジカは笑いながら答える。
「あはは、何?呼んだ?」
「いや、こうすれば収まるんじゃないかと思って」
 シャルとムジカの様子を見て、アリスは微笑んだ。
「…ふふ」
 こんな状況だが笑うことが出来た。
 アルトはむすっとしながらシャルとムジカに話しかける。
「もう、何遊んでるの?」
 そう言いながらも、目は穏やかだった。

 4人で話す様子を見ていたエンは、笑顔でラングに耳打ちをする。
「何とかなるかもね!それに、まだ私とランちゃんは覚醒してない。このまま2人でみんなを支えて奥まで行こう!」
「ああ!赤い光のことは後で考えよう。全部終わったら懐剣を封印すればいいんだ…」
 そこで、エンはぽつりと弱音を漏らす。
「…全員覚醒したらどうなるんだろう。封印できるのかな?」
「今、覚醒してても何とかなってる。もしかしたら奇跡が起こるかもしれない…」
 ラングはそう力強く答えると、「みんな、あと少しだ。行こう!」と皆に呼びかけ、6人は再び歩き出す。
 ラングは歩きながら、ぽつりと呟いた。
「奇跡を起こしてやる…」


 ラング、アリス、シャル、エン、アルト、ムジカ。
 6人は、呆然と前を見つめていた。
 一体何人居るだろうか。6人は無数の兵士に囲まれていたのだった。
 一気に戦意を失ってしまう。人数か多いからとか、そういう問題では無い…

 6人は、何故、自分たちがこんな扱いを受けなければいけないのだろう…と思った。

 エンは思わず言葉を漏らす。
「…どうしてそこまで…」
 そのままエンの心が一気に絶望に包まれる。すると…
「うっ…何これ…?」

 エンの懐剣が、強い光を放ち、赤い光に染まったのだ…

 エンはすぐに苦しみ出しうずくまった。他の皆の時よりも症状がひどいように見えた。確か、メリーが一番感情がおかしくなりやすいと言っていたが、明らかに体の方にも大きく影響が出ている…
「エン!!!」
 ラングはすぐにエンのそばにしゃがみ結界を使うが、それと同時に皆が懐剣を構え暴走し始める。
 エンの症状は中々改善しない。ラングはエンから手を放せず、「みんな、無理はするな!!!」とだけ叫び、暴走しながら赤い光を振るい始めた皆を眺めることしか出来なかった…
「…どうして…あと少しだったのに…」
 ラングが小声で声を漏らすと、エンはうずくまりながら呟いた。
「…ランちゃん…私よりみんなを…」
 ラングは首を横に振り、再び皆を見回す。
 敵をなぎ倒していく皆と、更に無数に現れる兵士…
「…何で…」
 ついにラングは絶望してしまう。
「…何で…?」
 ラングは、ゆっくりと立ち上がる。結界は剣に戻っていた。

「俺たちだってこうなりたくてなったんじゃねえんだ!!!!!」

――そしてついに、最後の砦だったラングの”懐剣:サドネス”の赤い光が目覚めてしまったのだった。

 ラングはすぐに暴走気味になった。サドネスは感情がおかしくならないはずなのだが…これは恐らく、懐剣の影響では無い…
 エンもゆっくりと立ち上がる。エンも暴走していた。

(…俺たちは…何のために生まれてきたんだ…?)

 …6人の目が哀しみに包まれていたのを目にした兵士が何人か居た。敵を一気になぎ倒し、そのまま6人はジェイド地区の奥へと消えた――





 それからしばらくして…
 ジェイド地区の噴き出すエネルギーが止まった、 との報告が皇帝の元に届いた。
 崩落は鈍化し、輝煌石の消耗により出来た地下の空洞に対し対策を講じながら、ほんの少しだが一時の平和が訪れる。
 ラングたちが火口を塞ぐことに成功したのだろうか?しかし…彼らの行方を知る者は誰も居なかった。彼らは今どこに居るのか…
 各地が崩落したことにより、地層がむき出しになっている場所が至る所にあった。
 …そこに、どこにあるのかも分からない…途方もない探し物をするために彷徨う人影があった。





 

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