19M.”楽”-Merry

19M.”楽”-Merry

 どれだけ日常が脅かされようと、楽しいことを考え続ければ全て乗り越えられると信じていたのに





 ここはジェイド地区。
 気を失っていたエンは、気が付いたら、ジェイド地区の瓦礫の道にたたずんでいた。
(…?何…?何で私ここに…)
 エンは、はっとする。右手の懐剣を見た。

――”懐剣:メリー”が、赤い光を放っていたのだ。

(…覚醒したの…?いつのまに…?)
 覚醒したせいで気を失ったのだろうか?でも、なぜ自分はこんな所に…
(…アリスとムジカは?)
 エンはすぐに2人のことを想い出す。いつものエンなら、怪我をした仲間を置き去りにして単独で進む訳がないのだ。
 エンは、はっとした。そしてすぐにメリーを見る。
(…まさか…これのせい…?)
 エンはメリーが一番感情がおかしくなりやすいことを思い出した。当然ながら、ラングが居ないのでサドネスの結界に頼ることは出来ない。
 どうするか。戻るか、進むか…
(…早く行かなきゃ…)
 エンは先に進むことにした。何故冷静な判断が出来ないのか自分でも分からなかった。

 エンは、ジェイド地区を、ふらふらしながら前に進む。もう夜になっており、明かりの無いジェイド地区はメリーの赤い光で照らされ、その明かりを頼りに進むしかなかった。
 今日は風があり、粉塵が前回よりも凄かった。
(…お薬…飲んでおいて良かった…自分のことに無頓着…確かにそうかも)
 途中で機械兵に襲われるが、一瞬頭が真っ白になり、気が付いたら倒していた。”懐剣:メリー”は槍型で攻撃力は先端に集中しているのだが、覚醒したメリーは柄の部分の攻撃力も凄まじく、長剣のように敵を斬り倒すことが出来た。
(…今の何…?)
 エンは戦闘中の記憶が無く、何が起きているのか分からなかった。
 エンの心は絶望に襲われ、徐々に頭が痛くなり、呼吸がどんどん激しくなった。感情だけでは無い…感情と連動するように体も辛くなっていった。
(…苦しい…これが赤い光…?それとも、メリーが特別ひどいって言ってたから…?)
 エンはふと、サドネスがあれば…と思った。
(…ランちゃん…)
 …そう、ラングだ。早く行かなければラングが封印されてしまうことを、エンは想い出した。
「大丈夫…きっと全部終わったら…いいことあるよ…あと少し…」


 それから、エンの視界と記憶は断片的なものとなった。
 機械や機械兵が現れたら気を失い、気が付いたら目の前に機械が散らばっている…そんな状況が続いた。


 ふらふらと歩き続けるエンに、色々な感情が飛来する。
(…違う…私…こんなふうになりたかったんじゃない…!!)
 
(…人間でありたい…ただ…みんなで笑ったり…怒ったり…それだけあればいいのに…他に何もいらないのに…)

 エンは、小声で呟く。
「…みんなに会いたいな…」
(不思議…みんなのことを想い出せば楽になる…何とかなるかもしれない…よし、行こう)

 エンは全く覚えていないが、戦闘中は笑い狂っていた。

(アリスとムジカ、倒れたままかな?泣いてないかな。再会したらぎゅっとしてあげなくちゃ…)

(2人は私が守るよ)

(シャルとまた美味しいご飯作って、みんなでお喋りしながら食べたいな)



(…ランちゃん、私…本当はね…)



(アルトくん…あんなに小さかったのに…大きくなったね)





 ただ、人間でありたかった

 普通に笑ったり
 普通に怒ったり
 どうってことない
 人間として、当たり前の日常
 ただそれだけでいい





 それだけで良かったのに





(…ランちゃん…)





(アリス、)





(シャル、)





(ムジカ、)





(…アルトくん…アルトくん…)





(ランちゃん)










(…ランちゃん、)










(…ランちゃん…)










 エンは、気が付いたら崩れ落ちた崖下に居た。瓦礫と土の隙間から輝煌石が覗く場所を歩き、異常に光っている場所によろめきながら近付く。
 そしてついに、エネルギーが噴き出す火口を見つけたのだった。覚醒した『無情の”壊”剣』の吸収力により、あちこちが輝煌による爆発を起こしても火口に近付いてもエンに爆風は当たらなかった。
 エンは火口に、”懐剣:メリー”の赤く染まった切っ先を突き刺す…

 刹那。

 閃光が鳴り、地響きのような大きな音がする。
 そして、しばらくすると…エネルギーは完全に止まっていた。巨大な輝煌石には穴のようなものは空いておらず、エネルギーが噴き出していた火口は完全に塞がっていた。
 気が付いたら、メリーの赤い光も完全に消えていた。それと同時に朝日が差す…
(…朝日…間に合った…ランちゃん、間に合ったよ)
 体の感覚がほぼ無い。エンはすでにぼろぼろだった。
 エンはメリーを手放し、そのままそこに倒れ込む。噴き出すエネルギーが消えても巨大な輝煌石の近くだ。懐剣を展開していないエンの体は一気に濃度の高い霧に包まれた。
(…はは…ここまでか…まあいっか。エネルギー、何とか止められたし…)
 エンの口から、大切な仲間の名前が漏れ出す…
「…ラン…ちゃん、アルト…くん…、アリス、シャル、ムジカ、…」
(…最期に…みんなの顔見たかったな…みんな…今まで…ありがとう…)
 エンの目から涙がこぼれる。そしてエンは、最後の言葉を絞り出した。
「…1人ぼっちは…嫌だな…」
 エンの意識は、そこで途切れた――





 それからしばらくして…
 エンが火口を塞いだことにより、ジェイド地区の噴き出すエネルギーは止まった。
 崩落は鈍化し、輝煌石の消耗により出来た地下の空洞に対し対策を講じながら、ほんの少しだが一時の平和が訪れる。
 レギュレート・コアから解放されたラングは…怪我などの治療を終えた仲間を連れて、行方不明になったエンを救出するためにジェイド地区に向かっていた。
 エンは今どうなっているだろう。無事だとしても、長時間生身で輝煌の霧にさらされている状態だ。タイムリミットが迫っている。
「…エン、俺が必ず見つけてやるからな…必ず…必ず…!エン…!!」





 

<E6>=壊剣 最後のページについて
パスワードの2文字目→「_」(※半角アンダーバー)

 

↓分岐点に戻る