ラングは、皇帝に信じて貰うために一時的な封印に応じて仮説を証明することにした。
ラングは一歩前に出て、皇帝に言い放った。
「分かりました。封印に応じます」
シャルとムジカが「おい!」「本当に…?」とラングに詰め寄る。
皇帝は頷き、冷静に告げた。
「エネルギーが止まったら、約束通りラングを解放します。タイムリミットは朝日が昇るまでです」
「!?」
皆更に驚かされる。皇帝は更に続けた。
「各地が崩落しているんです。時間がありません」
そして、待っていたかのようにラングの両脇に兵士が現れ、ラングの背を押して別室へと導き出す。ラングは兵士に連れられ、皆の方を振り返りながら言葉を伝えた。
「俺が居ない間に頼む…」
そこでエンが前に出て、ラングに対し叫び声を上げる。
「…ランちゃん!私がランちゃんの代わりするから…心配しないで」
「それなら安心だな。頼む、エン」
ラングは笑いながら答えた。
エンは思わず手を伸ばす…ラングも手を伸ばしかけるが、兵士に背中を押され、2人が触れることは叶わなかった。
そしてそのまま、ラングは別室に行ってしまった。
エンは一瞬だけうつむく。そして、意を決したように顔を上げると、皆に呼びかけた。
「みんな、行こう!」
皆は皇帝の方を振り返りもせず、すぐに走って外に向かった。
5人は政府ビルの正面玄関で足を止める。そろそろ夕方だ。エンは走りながら考えていた作戦を皆に伝える。
「本当は全員でレギュレート兵器を壊したいし一緒にジェイド地区に行きたいけど、時間が無いから…2対3に分かれるのはどうかな。少人数で兵器は厳しいかな」
アルトは迷わずに頷きながら答える。
「ううん。大丈夫だと思うよ。一番攻撃力のある僕が兵器の方に向かえばいい」
エンは頷き、作戦の続きを伝えた。
「じゃあ、兵器を破壊するチームはシャルとアルトくん。盾と前衛のバランスがいいし、一回組んだ実績があるからね。ジェイド地区に行くのは私、アリス、ムジカ。火口を塞がないといけないからこっちの人数を多めにしてみたよ。これでどう?」
「了解!」
皆、すぐにエンに答えた。
シャルが「無茶すんなよ?」とムジカやアリスに話しかけていたので、アルトは小声でエンに話しかけた。
「エン、今日体調悪そうだから無理しないでね」
「…さっきの発作のこと?もう大丈夫だよ。ありがとう、アルトくん」
エンが笑顔で答えると、アルトは、エンの目をしっかりと見ながら言った。
「ううん。僕も…いつもありがとう、エン」
「…アルトくん…」
アルトは、エンに長い間世話をして貰っていた礼をずっと言いたいと思っていた。それをやっと伝えることが出来たのだった。アルトの言葉でエンの胸もいっぱいになる…
シャルは、アルトとエンの顔を交互に見ながら呼びかけた。
「よし、行こうアルトくん。エン、気を付けろよ」
「そっちもね!また後でね」
エンも笑顔でそれに答えた。
エンたちが行ってしまうと、シャルとアルトは外でレギュレート兵器を待った。
すると…ガシャ、ガシャ、と機械的な足音のような音が聴こえてくる。そして、ついにレギュレート兵器が政府ビルの敷地内に侵入してきたのだった。
奪われたのは兵器の部分のみなのでコアは無いのだが、コアのあった部分には輝煌タンクのようなものが積まれており、兵器はそれを動力として動いているようだった。兵器は暴れ、周囲の門や植木がなぎ倒されていった。
そして、しばらくすると兵器は静かになり、兵器の横に数人のカタルシス国のエンブレムを身に着けた人間と、彼らに囲まれた女性が登場した。
シャルたちは、彼女に見覚えがあった。その女性は静かに口を開く。
「こんにちは、私はカタルシス国の代表のジェミニよ」
それに対し、アルトは動じず冷静に言った。
「…まさか…父さんの助手の…」
「そうよ。覚えててくれて嬉しいわ」
何故、アイオラの助手がカタルシス国の代表なのか…2人とも、どういうことなのか考えを巡らす。そこで、シャルがぼそりと呟いた。
「…スパイか何かだった?」
「そう。このレギュレート・兵器を奪い、ホープ帝国の政府ビルを破壊してカタルシス国に勝利をもたらすために…さあ、レギュレート兵器よ…行きなさい!!」
ジェミニがそう呼びかけて周りの人間と共に後ろに下がると、レギュレート・兵器は再び暴れ出した。
シャルはすぐに呼びかける。
「アルトくん、今回も俺が指示を出すよ。懐剣展開、迎え撃つ!!」
「…了解!」
アルトは答え、懐剣を展開する。
戦いの火ぶたは切られた…
エン、アリス、ムジカの3人は、ジェイド地区に行くために列車に乗っていた。
そわそわしているエンに、ムジカがそっと話しかける。
「エン、今のうちに発作のお薬飲んでおいた方がいいんじゃない?」
「…!?…えっ、何で発作のこと知ってるの?」
エンは驚いてしまう。発作のことは皆に話していないので、幼馴染であるラングとアルトしか知らないはずなのだ。
ここでアリスも話に入った。
「ラングに聞いたの。エンのことを知りたい時はラングに聞けば大体分かるからね」
「ちょ、ちょっとアリス、何言ってるの!?」
真っ赤になったエンを見て、アリスとムジカは笑った。
ムジカはエンの顔を覗き込みながら言った。
「エン時々咳してるけど、あんまり自分のこと話してくれないんだもん。エンってみんなのことばかりで自分のことに無頓着だもんね」
アリスもそれに頷きながら続く。
「ほんとよ。もっと自分のことを大事にしないと…さあ、お薬飲んで」
エンは少し考え、薬を取り出しながら言った。
「お薬…朝飲んだけど…そうだね、ジェイド地区に行くし飲んでおこうかな」
アリスは、再びエンにそっと話しかけた。
「そうそう。私たち、いつもエンに支えられてるから…たまには私たちにも支えさせて…」
エンは薬を飲み終えると立ち上がり、アリスとムジカの頭をぎゅっと抱きしめる。
「…2人ともありがとう。絶対に成功させようね…!」
政府ビルの敷地内。肩で息をするシャルたちの前に、破壊されたレギュレート・コアの破片が煙を出して散らばっていた。破片の側でへたり込むジェミニに、シャルはそっと近づく。ジェミニはうつむきながら呟いた。
「…そういえばラングにも、コアと分離したら兵器の破壊をお願いしてたわ…」
以前アリスをレギュレート兵器から救出した際、ジェミニはラングにその話をしたことを思い出した。あの時は、いずれ兵器を奪うためにラングを騙したつもりだったのだが。
ジェミニは顔を上げ、再び呟いた。
「…恐ろしい兵器だったもの…これで良かったのかもしれないわね。これを望んでいたのかも…」
そしてジェミニは立ち上がり、懐剣を展開しながら後ずさる。
「…兵器なんて無くてもいい。まだ諦めない…!!非情な皇帝…!あいつを屈服させるまでは…」
非情な皇帝…恐らく、何かがあって皇帝に恨みでもあるのだろう。皇帝のやり方は確かに恨みを買いそうだと2人は思った。
ジェミニとカタルシス国の人間はそのまま走り去ったが、こちらも戦闘でかなり消耗しており、後を追うことは出来なかった。
エン、アリス、ムジカの3人は列車を降り、ついにジェイド地区に到着する。
3人はすぐに懐剣を展開した。瓦礫、深く立ち込める霧…ジェイド地区の様子は以前と同じに見えた。だが、恐らく輝煌石が更に消耗し地形は以前とは変わっているだろうと思われた。
そこで、再び地響きが聴こえる。またどこかが崩落したのだろうか…
エンは、謎の胸騒ぎを覚える。しかし立ち止まってはいられない。
「2人とも、行こう!」
エンの呼びかけに2人は頷き、ジェイド地区を歩き出したのだった。
相変わらず機械や機械兵が多い。今回も3人しか居ないが、何とか倒しながら前に進んだ。
しばらく歩いていると、再び地響きが聴こえる。
今度は近い。すると地面が揺れ出し、3人の立っている地盤が崩れ始めたのだ。
「アリス!!!ムジカ!!!」
エンは咄嗟に叫ぶが、3人は地盤と共に落下してしまったのだった。
しばらくしてエンは目覚める。上を見ると、5メートルほど落下したようだった。
周囲を見渡すと、そこにアリスとムジカが横たわっていた。
「…アリス…ムジカ…」
2人にそっと話しかけると、気絶をしているようだった。良く見たら怪我もしている…
(2人を…早く病院に…)
落下したのは5メートルほどだ。脱出できない高さでは無い。だが…
エンは、頭が真っ白になった。
(ランちゃん…間に合わないよ…どうしよう…)
そしてエンはそのまま、気を失ってしまったのだった。