19L.”愛”-Loves

19L.”愛”-Loves

 愛してる。あなたのことも、あなたたちのことも。だから何も怖くなくなってしまった





 政府ビルの一室で、コーラルはアリスに、衝撃の事実を明かした。
「アリスはドリーム島に出兵した後、行方不明になった。それから数か月後、頭に謎のチップを埋め込まれた状態で、ドリーム島の兵士として発見されたのだ」
「!!??」
 アリスだけでなく、ラングも驚くしかなかった。
 目を見開き呆然としている2人に、コーラルは言った。
「アリスは過去の記憶を全て失った状態だった。名前すらも、だ。久々に再開したアリスは、こう名乗った」
 コーラルの口から、その名前は放たれた。

「…”十香(トーカ)”」

 その名前を聞いたアリスははっとし、声を上げる。
「十香、それよ、その名前よ…!!夢の中で笑顔の人が私の名前をそう呼んだの…」
 夢…以前から、ラングがアリスから聞いていた話だ。

『ホープ島じゃないどこか…私は私じゃなくて、戦場でずっと戦ってるの。何人もの兵士と戦って、全員倒したところで目が覚める…そんな夢を何回も見てるの』
『前、変な夢を見るって話をしたでしょ?最近、内容が変わって来たの。誰かが、私に笑いかけてる…そんな夢』
『笑顔の人も、私のことをアリスじゃなくて、違う名前で呼んでるの。はっきり何て呼んだか分からないんだけど、アリス、では無かったと思うわ』

 コーラルはアリスの一言を聞き、声を漏らした。
「…そうか、夢とはそのことか…アリス…」
 アリスはコーラルに心配をかけまいと、夢を見ていることは伝えたが内容までちゃんと話した事は無かったのだ。
 コーラルは目を伏せ、続ける。
「アリスは自らのことを、強化”兵器”の<X-ナンバーズ>の十香、と名乗った。記憶を失い、自分のことを完全にドリーム島の人間だと思い込んでいたのだ。その後ホープ帝国がお前を強引に連れ帰り、チップを手術の末に外したが、アリスの記憶は戻らなかった…私はその時に、やっとアリスが私にとってどれだけ大切な存在か気付いたのだ…遅かった…」
 アリスは、微笑みながらコーラルの手を握る。
「遅くなんかないよ、父さん。私、元気でここに居るじゃない」
「…この話はアリスが知る必要は無いと思っていたが…聞いてみて、どうだ?」
 アリスの目をじっと見つめるコーラルに、アリスはすっきりとした表情で答えた。
「知れて良かった。私、変な夢を見てると思ってたの。でもあの夢、ドリーム島の記憶だったんだわ。ホープ島の状況とかけ離れすぎてて夢だと思ってたんだわ。すっきりした…父さん、ありがとう」
「…そうか。むしろ、もっと早く話すべきだったんだな…」

 これで明らかになった。アリスの見る夢は、ドリーム島の記憶だったのだ。
 アリスにとってこれは、ジェイド地区やレギュレート兵器に次いで自分が再び争い事に利用された記憶だったのだが、アリスの中では絶望では無い、別の感情が浮かぶ…

 話は終わったようだった。アリスは笑顔でコーラルに言った。
「父さん、ありがとう。私、今後どうしたいのかちゃんと自分で決めるね」
 ここでアリスは、コーラルをぎゅっと抱き締める。
 少し驚きながらもアリスを抱き締め返したコーラルは、優しい表情で囁いた。
「…アリス、どうしたんだ?」
「…ううん。何でもない。またね、父さん」
 アリスは笑顔で答え、そのまま何でも無いような様子で父と別れた。ラングも、コーラルに軽く一礼をしてアリスと共に部屋を離れた。


 ラングとアリスは、兵器と戦っている4人をロビーで待つことにした。
 アリスはぽつり、と声を漏らす。
「…ドリーム島。名前でしか聞いたことないと思ってたけど…少しどきどきした。何か、一気に世界が広がったみたいな…そんな感じ」
 目を輝かせるアリスの横顔を、ラングはじっと見つめる。
(…そうだ、アリス。世界は希望に満ちている…絶対に封印なんてされるべきじゃない)
 ラングは、丁度こちらに顔を向けたアリスに言った。
「なあアリス。ドリーム島行ってみたくないか?」
「…えっ?」
 これはほぼ、アリスを引き止めたくて言った言葉なのかもしれなかった。ラングは続ける。
「笑顔の人。アリスがお世話になった人じゃないのか?」
「…うん。私、知らない部屋で、戦場に行って戦わされて、その部屋に戻って…の繰り返しみたいな日々だったの。でも、私と同じ立場のその人はいつも笑顔で、『いつか一緒に脱出しよう』って話してくれた」
「名前は憶えてるか?」

 …そしてアリスは、その名前を口にした。

「…ええ、覚えてる。その人の名前は…”太一”と言ったわ」


――『どうした十香。また泣いてるのか?』
『…太一。私もう、戦うの嫌になっちゃった。みんな私のこと兵器、兵器って…私、人間なのに…早く脱出したい…』
『そうだよ十香。俺たちは人間だ。だから絶対に諦めない…大丈夫だ、俺が何とかする。いつか絶対に、一緒に脱出しような』――


「…太一の笑顔が支えだった。名前を思い出せなかった私に、十香って名前を付けてくれた…私…太一に…会いたい…」
 アリスが漏らした言葉に、ラングは笑顔で言った。
「太一か。いつか、一緒に会いに行こうな」
 アリスも笑顔で答える。
「うん。私も太一に会いたいし、ラングにも会ってほしいな」
「そうだ、前バイクの後ろに乗せるって言ってたけどまだだったよな。今度絶対乗せるからな」
「そうだったわね。楽しみにしてる」
「…アリス…俺…」
「…」
 ラングの体が熱くなる。アリスには、ずっと言いたいことがあるような気がした。彼女を失うかもしれないと感じた今、言うべきだと思ったのだ。
 だが…
「…はは。こういう時何て言えばいいんだろうな」
 結局はぐらかしてしまい、言えなかった。
 アリスはラングとは逆の方を見ていた。ほんのり、顔が赤くなっているようにラングには見えた。
「…私も、こういう時、何も言えないのよ」
 アリスは小声で言った。お互いに、何となく気持ちは伝わっていたのかもしれなかった。


 ラングは、この後また6人で集まった際に話し合う内容について考える。アリスの封印を拒否するとしたら、他にエネルギーを止める方法を見つけなければならないのだ。
(もう一度、コーラル次長の言っていた仮説について話し合ってみよう…皇帝から連絡が入って、ちゃんと話し合う時間が無かった気がするもんな)
 ラングの中で話がまとまった。後は4人の帰りを待つだけである。


 政府ビルの敷地内。肩で息をするエンたちの前に、破壊されたレギュレート・コアの破片が煙を出して散らばっていた。破片の側でへたり込むジェミニに、エンはそっと近づく。ジェミニはうつむきながら呟いた。
「…そういえばラングにも、コアと分離したら兵器の破壊をお願いしてたわ…」
 以前アリスをレギュレート兵器から救出した際、ジェミニはラングにその話をしたことを思い出した。あの時は、いずれ兵器を奪うためにラングを騙したつもりだったのだが。
 ジェミニは顔を上げ、再び呟いた。
「…恐ろしい兵器だったもの…これで良かったのかもしれないわね。これを望んでいたのかも…」
 そしてジェミニは立ち上がり、懐剣を展開しながら後ずさる。
「…兵器なんて無くてもいい。まだ諦めない…!!非情な皇帝…!あいつを屈服させるまでは…」
 非情な皇帝…恐らく、何かがあって皇帝に恨みでもあるのだろう。皇帝のやり方は確かに恨みを買いそうだと皆思った。
 ジェミニとカタルシス国の人間はそのまま走り去ったが、こちらも戦闘でかなり消耗しており、後を追うことは出来なかった。


 戦いを終えた4人はアリスを心配し、すぐに政府ビルに戻った。4人がロビーまで来ると、ラングとアリスが4人に駆け寄る…

 刹那。

 アリスが後ずさってその場から離れ、ラングと戻って来た4人は透明のシャッターに閉じ込められたのだ。それと同時にアリスの側に皇帝が現れる。
「これは…皇帝!!??」
 ラングは叫び、皇帝を睨み付ける。5人は懐剣を構えようとした。すると…
「待ってみんな。これは…私が皇帝に言ったの」
 それは、アリスの一言だった。
 皆、呆然とする。その時、ラングははっとした。その理由に気付いてしまったのだ。
「アリス…まさか…」
 ラングの一言に、アリスは泣きそうな目をしながら無理矢理微笑み、言った。

「…ええ、私が皇帝にお願いしたの。私を封印して貰うために。ごめんなさい…話し合っても私の意思はきっと変わらないから」

 そういえば、アリスが、小声で皇帝と話をしている瞬間があったのだ。恐らくあの時だ。
 …アリスはやはり封印されようとしている。
 ラングは叫んだ。叫ぶしか無かった。
「まだ他に方法はある!!コーラル次長が言ってた仮説の話だってちゃんと出来てないだろ!!」
 アリスは”懐剣:ラブ”を握りしめ、皆に懇願した。
「…みんな、お願い。これは私の願いでもあるの。私の意思なのよ。誰かに言われてやってる訳じゃない。ジェイド地区で事件を起こしてしまったこんな私でも、誰かを助けられる。やっとみんなのためにこの力を使える…」
 ムジカは「そのこと、まだ気にしてたの…?」と呟き、シャルは「アリスのせいじゃないって言ったろ…」と漏らした。アリスは2人の声を耳にし、真剣な表情で言った。
「ジェイド地区の事件のこと…一度だって忘れたことはないわ。でも、自分を攻めてる訳じゃない。こんな私でもやっと力を役に立てる方法を見つけることが出来て、嬉しいの」
 ラングは先程の約束を思い出し、アリスを引き止めるように叫んだ。
「ドリーム島に行きたいって言ってただろ!?自分を支えてくれた太一に会いたいって…」
 アリスは、ラング、アルト、エン、シャル、ムジカの顔を1人1人見てから、言った。
「もういいの。だって、過去の記憶よりもっと大切な物に出会えたから…ミモザのみんなと居ると自然と笑顔になれる。私はただの兵器じゃない…みんなと居ると人間で居られる。封印されることで大好きなみんなを守れることを誇りに思う。これは私の意思よ…!!無駄じゃないでしょ。大陸も救えるのよ、これが私にとっての本当に幸せなの!!」
 ラングもアルトもエンもシャルもムジカも、アリスの名前をぽつりと口にした。
 アリスは皇帝の方に向き直り、最後の願いを言った。
「皇帝。私の願いは…みんなにひどいことしないで。ラングも、アルトくんも、エンも、シャルも、ムジカも…大好きなみんなに何かあったら絶対に許さない」
「分かりました、願いを叶えましょう。アリスを封印した後に皆を解放します」
 皇帝が答えると、部屋が静まり返る。
 話が終わった…そういう空気になった。このままではアリスが行ってしまう…
 そこでアルトはアリスを見ながら目を細め、
「…リマインドさえあれば…」
 と、小声で呟いた。
 ラングはその言葉にはっとし、悲痛な表情でアリスに呼びかけた。
「分かった。そこまで言うなら…俺たちはアリスの意思を無駄にしたくない…だけど…じゃあ…約束する。リマインドを見つけ出して必ずアリスをそこから助け出す。だから封印されても何も心配いらない。すぐにまたアリスは俺たちと一緒に居られるようになる…みんな、これでどうだ!?死ぬ気でリマインドを探し出すぞ…」
 アルトもエンもシャルもムジカも、全員悲痛な表情で頷いた。エンとムジカは泣いていた。
 アリスは首を横に振る。
「ううん…みんなはゆっくり休んで…」
「これは、俺たちの意思だ」
 力強く言ったラングに、アリスは涙を流し、笑顔で答えた。
「…分かった。待ってるね。意識は無くても、みんなのことちゃんと覚えてるから。何度でも想い出すからね」





 それからしばらくして…
 アリスを封印したレギュレート・コアがジェイド地区に設置され、ついに噴き出すエネルギーが止まった。
 崩落は鈍化し、輝煌石の消耗により出来た地下の空洞に対し対策を講じながら、ほんの少しだが一時の平和が訪れる。
 各地が崩落したことにより、地層がむき出しになっている場所が至る所にあった。
 …そこに、どこにあるのかも分からない…途方もない探し物をするために彷徨う人影があった。
 大切な彼女との約束を果たすために。





 

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