怒りとは突発的なもの。確かに、自分の考えようでどうにでも出来るのかもしれない
ラングは砲台に向かいバイクを走らせた。
ムジカはラングの後ろに乗り、機械やカタルシス国と思われる人間に”懐剣:アイラ”を振るう。
ムジカは「全部撃ち落とす!!!」と叫びながら次々と赤い光を撃ち込んでいった。
赤い光…凄まじい破壊力だ。
バイクで障害物を避け、機械をなぎ倒し、カタルシス国と思われる人間を威嚇し、定期的に結界を使いながら猛スピードで進む。
それと同時刻…砲台では…
――苦しい…
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
レギュレート・コア内でシャルの上げた叫びに、思わず砲台を見るジェミニとライブラ。
ライブラはジェミニに言い放った。
「おい、大丈夫なのか!?」
「…」
ジェミニは答えず、砲台を睨み付けるように見つめる。そして…
もう一度輝煌砲が撃たれた。
それは再び政府ビルから外れた。
その様子を目にしたラングは思わずバイクを止めてしまう。ラングは輝煌砲が外れたことを確認すると、ふう…と息を吐きながら言った。
「…外れたか!良かった…」
ムジカは目を細め、小声で呟いた。
「…今の砲撃、シャルの悲しみみたい」
今自分が味わっている苦しみと同じ状態でシャルが利用されている…シャルは今どんな気持ちなんだろう、どんな状態なんだろう、とムジカは考えを巡らせた。
ラングはムジカが肩で息をしていることに気付き、結界を使う。優しい声でムジカに言った。
「ムジカ、行けるか?少し休むか?」
「…ありがとう、大丈夫。今のあたしならいける…!!シャルを助ける!!ラング、行こう!」
「…ああ」
ラングは結界を解除し、再びバイクを走らせた。
ムジカは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「…憎しみと怒りが一気に来るみたい…苦しい…でも大丈夫…シャルも同じだから…」
(辛くなったらみんなのことを想い出すんだ)
輝煌砲はもう一度放たれた。政府ビルから外れたことだけを確認し、ラングはすぐにバイクを走らせる。時間が無い…
――…やっとこの時が来たな。ホープ帝国を滅ぼしてやる…
シャルの心は完全に暴走していた。
ムジカはシャルを思い、小声で呟いた。
「…シャル苦しいかな…たまたま選ばれたのがシャルだっただけなのに…シャルに手を汚させたくない。早く行かなきゃ…」
そろそろカタルシス本部である。ムジカは、空を仰ぎながら、一人で静かに語り始めた。
「…ジェイド地区の話をしてからなの。同じ立場…シャルと私は同じだと思った。でもシャルは時々悲しそうな顔してた。だからずっと見てたの。折角みんなと過ごすようになって最近心から楽しそうだったのに…!!シャルを悲しませたら絶対許さない…!!!!!」
そこでムジカは我に返る。
(だめ、落ち着かなきゃ。穏やかな方がいいってシャルも言ってたもん。私にとってはその言葉が宝物だった…)
以前ムジカが、感情の起伏が激しいことをシャルに相談した時のことだ。シャルは「明るいムジカもいいけど、穏やかになってみるのもいい」と言ってくれた。
その言葉がきっかけだった。それ以降、ムジカは穏やかに前向きに変わろうと少しずつ努力をし始めたのだ。
ラングの耳に、ムジカの「絶対許さない…!!!!!」のところだけが聞こえた。ラングはムジカの様子を心配し、スピードを緩めて話しかける。
「ムジカ、大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。怒りに身を任せてはいけないの…シャルを助けるために…」
ラングは頷き、再びバイクのスピードを上げる…
シャルは輝煌砲を撃つ度に叫び声を上げていた。
ライブラには、ジェミニが動揺していないように見えた。
「彼には撃ち抜く気はあるはず。あと少しね…」
そう冷静に呟くジェミニに、ライブラは声を絞り出すように言った。
「…大丈夫なのか…苦しそうじゃないか…」
「一撃。一撃当たるだけでいいの」
そこでライブラは、ついに我慢の限界を超え声を荒げてしまう。
「ジェミニ、本当にこんな方法でいいのか!?双方の同意で開戦し正規の戦闘で帝国を打ち取れば、人々を納得させた上で新たな国を作れる…だからカタルシス国を作ったんじゃないのか!?」
「…そう。重要なのは人々を納得させることなの。それがこの砲台よ。これで政府ビルを撃ち抜けばそれが勝利の象徴になる…」
「…彼を苦しめてまでやることじゃない…」
ここでジェミニは涙目になり、ライブラに対し叫び声を上げる。
「もう後戻りできないのよ!!ずっと皇帝とアイオラの元で耐えてきた…やっとここまで来たの…一撃だけでいいの。政府ビルさえ撃ち抜けば…ライブラ、思い出すの!!帝国に殺された父さんと母さんの顔を!!!!!ジェイド地区の惨状を!!!!!帝国が私たちから全て奪い取ったのよ!!!!!」
ライブラはジェミニの肩を掴み涙声で言い放った。
「だからって何の罪も無い彼を苦しめて…!!!手段を選ばない帝国と何が違うんだ!!!!!こんな方法じゃ新たな悲しみが生まれるだけだ。もしこれで帝国に打ち勝っても、いつかシャルを大切に思う人が今度は俺たちに復讐しに来るぞ…」
「…」
「…どけ!俺が解放する」
ライブラは業を煮やし、呆然と立ち尽くしているジェミニを手でどけて砲台のレギュレート・コアの蓋をこじ開けようとした。
しかし、どうやっても開かない。
「…壊れている?どうなってるんだ?」
砲台もレギュレート・コアも、過激な使用方法により暴走しているようだった。ジェミニは小声で「…もう手遅れなのよ…」と呟き、その場にへたれ込んだ。
ラングのバイクはカタルシス国本部のあるスラム街に到着した。
ビルの屋上にある砲台にすぐに目が行く。ラングはバイクを止めると2人はすぐに降りるが、カタルシス国の人間に囲まれてしまった。
「ムジカ、砲台を頼む!!ここは俺が引き付ける」
ラングが懐剣を展開し敵に応じると、ムジカは頷きすぐにビルに入る。
エレベーターは動いた。すぐに最上階へ向かった。
ムジカは最上階に着くとそこにある砲台を目にした。
充填され始めたところだ。再び輝煌砲を放とうとしている…
考えている時間は無い。ムジカは懐剣を構えた。
そして砲台を、”懐剣:アイラ”の赤い光で撃ち抜いたのだった。
砲台は音を立てて壊れ、コアの蓋が自動的に開く。
「シャル!!!」
ムジカはすぐに中にいる、黒い無数のケーブルに繋がれ気を失ったシャルに駆け寄る。しかし…
「…何!?」
黒いケーブルがどうやっても外れない。
そこでジェミニが無言で飛び出し、ケーブルを一本一本丁寧に外した。ライブラがシャルを運び出し、砲台から少し離れたところに横たえた。
ジェミニは砲台をいじり出し、ライブラに呼びかけた。
「ライブラ手伝って!このままだと爆発する…回線を1つ1つ外すわ」
「分かった」
ライブラはシャルをムジカに任せジェミニの元に向かった。シャルもムジカも、気付けばもう懐剣を手にしていなかった。
「シャル、シャル、しっかりして」
ムジカがシャルに呼びかけると、シャルは静かに目を開いた。
シャルはうつろな目をしながら、消えそうな声で呟く。
「…政府ビルには…当たったか…?」
ムジカは、優しい声で、囁くように言った。
「当たってないよ。大丈夫だよ」
「…俺は…当てるつもりで撃った…」
「赤い光のせいだよ、シャルのせいじゃない」
「違うんだムジカ…この憎しみは…俺の本音でもある。俺は本当は…帝国が憎いんだ…どうにもできねえんだよ…家族の顔が浮かんできて、どうにも出来なかった…」
「うん…そうだよね。辛かったね、シャル。シャルなら分かるよね…あたしも同じ気持ちだよ。でも一緒なら乗り越えられるよ。みんなにもさ、相談してみよ。みんなで考えようよ。ね?」
「…」
シャルの目から涙がこぼれ落ちる。
その時、砲台が暴発し始めた。破片がライブラとジェミニを襲う…ジェミニは叫び声を上げた。
「だめ、間に合わない…!!!!!」
ライブラはジェミニの腕を引っ張りながら言った。
「ジェミニ、逃げよう」
「だめよ、私のせいなのよ…私が…!!」
「…お前を止められなかった俺のせいでもある」
「…」
「行くぞジェミニ。シャル、ムジカ!!逃げろ!!!!!」
ムジカの体力は既に限界だった。苦笑しながら呟く。
「どうしようかな。あたしの力じゃシャルを運べないし…ここまでかな…」
「…ムジカだけでも…逃げろ…」
ムジカはシャルの目を見つめ、笑顔で言った。
「もう、逃げる訳ないじゃん…最期まで一緒だよ」
そしてムジカは、シャルを抱き締めるように覆いかぶさる…
その時、ライブラは見た。盾を展開しながら走ってくるラングの姿を…
「2人を頼む…!!!」
ライブラは叫び、破片を浴びて怪我をしたジェミニに肩を貸しながらその場から離れる。
「シャル!!!!!ムジカ!!!!!」
ラングは2人の名前を叫ぶと、盾を限界の距離から飛ばし、2人と砲台の間に展開した。それとほぼ同時に爆発が起こる。
盾により爆風は軽減され、爆発による衝撃で大気が揺れたことと破片が飛び散っただけで済んだ。
そして、シャルとムジカは…
それからしばらくした後。
ジェミニが砲台跡を確認する。砲台が爆発した際にレギュレート・コアも一緒に壊れてしまったようだった。しかし…別行動をとっていたアリスたちがジェイド地区のエネルギーを止めることに成功する。
崩落は鈍化し、輝煌石の消耗により出来た地下の空洞に対し対策を講じながら、ほんの少しだが一時の平和が訪れる。
シャルとムジカはというと…
ラングの結界はギリギリ間に合ったのだが、消耗した状態で爆発の衝撃を受け2人は意識を失ってしまった。2人は病院に運ばれ、命に別状はなかったが意識はまだ戻らない。
ラングたちは、自分たちに出来ることをするために立ち上がった。
各地が崩落したことにより、地層がむき出しになっている場所が至る所にあった。
…そこに、どこにあるのかも分からない…途方もない探し物をするために…
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