18I.天秤-lIbra

18I.天秤-lIbra

 シャルとムジカはジェミニから、カタルシス国の話を聞かないことにした。

 ムジカはジェミニに対し、申し訳なさそうに言った。
「…ごめんなさい、急いでるの。話は今度でいいですか?」
 そこでシャルが咄嗟に話に入る。
「ちょっと待ってくれ…!話を聞くだけだ。何かの役に立つかもしれないし…」
 ムジカは思わず「…シャル…」と呟いてしまう。
 シャルの言葉を聞いたジェミニは、シャルを興味深そうに観察しながら言った。
「気になるの、シャル?ふふ、そう…では話しましょう」
 ジェミニは、静かに語り始めた。
「ジェイド地区が事故で滅んだ時、帝国の報告に違和感を覚えたの。事故の前にいつもは居ない帝国の人間が出入りしていたという報告があったのよ。そこで私が軍にスパイとして入り情報を調べた。それで事件のことを知ったのよ。そして、事件を起こしたこと…というよりも、謝罪もせずに隠ぺいして罪を無かったことにした帝国へ復讐するために、生き残りでカタルシス国を作った」
 ここでムジカはライブラに質問をした。
「ライブラさん、何であの時言ってくれなかったんですか?」
 あの時とは、ライブラがジェイド地区でシャルとムジカを救出した時のことだ。ライブラは冷静に答える。
「ジェイド地区の生き残りの中にも、穏やかに暮らしたい人間も居る。粛清等で彼らに迷惑をかけないように、カタルシス国がジェイドの生き残りということは極力知られないようにしているんだ」
 その返答にムジカもシャルも納得した様子だったので、ジェミニは話を続けた。
「そのまま私は、内部崩壊を狙ってスパイとして軍に残った。そこでアイオラが兵器を作っていることを知ったの。あれだけの事件を起こしておいてまだ兵器を作ってるだなんて…怒りで震えそうだったわ。そこで私は、この兵器を完成させてから奪って、この兵器で帝国を滅ぼそうと思ったの。皮肉としてね」
 ここで、今度はシャルが話に入った。
「アイオラ相手に使ってやろうとは思わなかったんだな」
 シャルは、アルトと2人でアイオラの元に行った時にアイオラが爆破された時のことを思い出した。そう…ジェミニは、アイオラのことはあっさりと処分したのだ。
 そこで、ジェミニの表情が変わる。わなわなと震えながら、言い放った。
「アイオラを早々に処分したのは…本当の敵は皇帝だからよ。いつも穏やかなふりをしているレオ皇帝…ホープ帝国が非情なのはあいつのせいなのよ…アイオラの非情な実験もあいつが全部許可してるの!!全く反省もせず隠ぺいを指示したのも…!!外の島ではクローン計画なんてものを進めてるらしいじゃないの…恐ろしい…あいつだけは絶対に許さない…!!!!!」
 ここでジェミニは我に返る。
「…取り乱してごめんなさい。話はこのくらいにしましょう…ライブラ、2人に兵器を見せたいわ。ちょっと確認してきてくれる?」
 それに対し、ライブラは眉をひそめながら答えた。
「その後2人をちゃんと帰すんだな?それなら協力する」
「もちろんよ。カタルシス国への勧誘、断られたからね。どう生きるかは同胞の自由だもの」
 ライブラが先に部屋を出て行くと、ジェミニは2人に説明を始めた。
「今回設置した兵器には砲台がついてるのよ。”輝煌砲”が撃てるの。これもアイオラが作ってたものよ。まさか自分の国を滅ぼすことになるなんて思いもしないわよね。本当に申し訳ないけれど、兵器だけは手放すわけにはいかないの、ごめんなさい。でもコアは返すわ。そろそろいいかしら…こっちに来て」
 ジェミニが部屋を出て行くと、シャルは顔をしかめる。コアが戻ってくるのはいいが、兵器をそのままにしていいのだろうか…シャルは、とりあえずムジカに呼びかけた。
「…譲歩か…とりあえず行くぞ、ムジカ」
 ムジカは不安そうに「うん…」と答える。2人はジェミニに続き外に出た。

 …すると、何故か外は輝煌の霧に包まれていたのだ。

 シャルはすぐにムジカに呼びかけた。
「これは…霧!?ムジカ、懐剣展開だ!」
「何で?ここ街中だよね?」
 ムジカは答えると2人はすぐに懐剣を展開する。
 これは、ジェミニが開発した輝煌フィールドによる霧だった。2人は知らないが、以前アリスが覚醒した際にジェミニがラングに話していた物である。
 そして2人は、数体の機械兵に囲まれた。シャルはムジカを庇う仕草をしながら呟く。
「…やばいことに巻き込まれたかもな」
 ムジカは目を見開いて叫び声を上げた。
「…騙されたの?嘘!!だってあの人私たちのこと同胞って言ってたじゃん…!!」
「さっさと倒して脱出するぞ。俺が指示出してもいいか?」
「了解…!」
 シャルがすぐに呼びかけたので、ムジカも冷静を取り戻しシャルに答えた。
 機械兵は、倒しても倒しても新しい物が現れ次々と襲ってきた。
 ジェミニの狙いは何だろう…先程まで同胞だの仲間だの言っていたのに。ただ…

 2人は思った。やっぱり、人間なんて信じられない…

 その時、疲れて動けなくなっているムジカに機械兵が斬りかかろうとする。
 それを見たシャルの頭が、一瞬真っ白になった。

 刹那。

 シャルの懐剣の光が赤く染まり、シャルはムジカに斬りかかろうとする機械兵を一瞬で撃破した。
 そしてそのまま他の機械兵も一瞬で片付ける。
 肩で息をしながら佇むシャルを見て、ムジカの頭も真っ白になった。
 ムジカは、銃口から赤い光を放ち、周囲に居た機械兵は一体も残らず撃破されたのだった。

――そう…”懐剣:アニムス”と”懐剣:アイラ”の赤い光が目覚めたのである。

 シャルとムジカは我に返り、互いの姿を確認した。そして、「ムジカ」「シャル」と名前を呼ぶ…
 と、同時に2人は膝から崩れ落ちる。突然睡魔に襲われたのだ。
 意識がもうろうとする2人の前に、ガスマスクを付けたジェミニが現れた。ガスマスクを付けているということは…催眠ガスを放ったという事だろう。
「…本当に目覚めたわ…凄い…」
 ジェミニはそう呟くと、2人の間にしゃがみ、小声で囁いた。
「悪く思わないでね、砲台を使うにはどちらかをコアに封印しないといけないのよ。2人のこと観察させて貰ったけど、シャルの方が向いてそうね」
 シャルは何とか「…だ、騙した…な…」と声を絞り出すが、そのまま気を失ってしまった。
 ムジカも既に気を失っており、ジェミニは同じくガスマスクを付けた仲間に指示を出すと、仲間はシャルとムジカを担ぎだした。ジェミニは気を失った2人に話しかける。もちろん聞こえてはいないが。
「全て終わったらちゃんと解放するわ。それと、今から道路と線路を封鎖するの。片方は今のうちにセンターシティへ返してあげるわね」


 カタルシス国本部のあるスラムのビルの屋上に、砲台はあった。
 ライブラがジェミニに言われた通り待っていると、そこにシャルが懐剣から赤い光を放ったまま、気を失った状態で担ぎ込まれた。
 ライブラは目を見開きながら言った。
「…どういうことだ、ジェミニ。約束が違うじゃないか。彼らに手荒な真似をしないと言ったから連れてきたんだぞ!?」
「だって、そう言わないとあなた従わないでしょ」
 冷静に返すジェミニに、ライブラは激昂する。
「俺を騙してたってのか!?彼らは俺を信じてここまで来てくれたのに…!!」
「大丈夫、うまくいけばいいの。私を信じて…すぐに終わらせて彼らを解放するわ。その後は自由よ」
 ライブラの目をしっかり見ながらジェミニが答えたので、ライブラは信じて従うしかなかった。
「…分かった。だが、そんなにうまく行くのか…?」
 ライブラは砲台やレギュレート・コアの仕組みが分からないので、疑いながらも見ていることしか出来なかった。


 その頃…ラング、アリス、エン、アルトの4人は、シャルとムジカの後を追うために駅に向かっていた。
 駅に着くと、誰かが駅の椅子に横たわっているのが見えた。
「…赤い光!?」
 アルトは思わず叫んでしまう。
 そこには、懐剣から赤い光を放ったまま横たわっているムジカが居たのだ。
 ラングはすぐにムジカに結界を使う。アリスが「ムジカ、ムジカ」と名前を何度も呼ぶと、ムジカはゆっくりと目を覚ます。そしてラングの顔を見ると、飛び跳ねるように起き上がって叫んだ。
「…ラング…!!カタルシス本部に急いで!!シャルが!!!!!レギュレート兵器のコアに封印されたかもしれないの!!早くしないと砲台が…!!」

 その時。空が一瞬赤く光った。
 カタルシス国本部のある方面から政府ビルに向かって、巨大な赤い光が放たれたのだ。
 光は逸れ、政府ビルには当たらなかった。

 エンは「今のは何…?」と聞くと、ムジカは答えた。
「確か輝煌砲…って言ってた…砲台型のレギュレート兵器で政府ビルを打ち抜こうとしてる。もうコアにシャルが封印されたんだ…早く行かないと取り返しがつかなくなる…!!」

 そこで、『カタルシス国本部への道が封鎖されました。列車の運行を休止します』という放送が響き渡った。

 ムジカははっとして呟いた。
「そういえば、道路と線路、封鎖するって言ってた…」
 ラングは思わず「…用意周到だな…」と口にした。
 道路や線路の周囲を機械が飛び回り始めた。カタルシス国が封鎖をするために放ったのだろうか。
 アリスはシャルを心配し、慌てながら声を漏らす。
「どうしたらいいの…!?すぐに行かないといけないのに…」
 皆、考える。どうやって砲台まで行けばいいのか……
 その時、ラングは何かを思い付いたようにはっとし、呟いた。
「…バイクを使う。俺が助けに行く。バイクなら道路を一気に突破できる」
 そこで、ムジカはラングに懇願した。
「私も行かせて。結界が無いと…何故か懐剣が手放せないの。そういう効果なの…?」
 それに対しアルトが反応する。
「そっか…懐剣を手放せば覚醒が収まるくらいなら、150年前にリマインド使う必要無かったもんね…」
「…じゃあ尚更あたしが行った方がいいよね。ラングの結界が無いとどうなるか分からないし…」
 ムジカの言葉に、ラングは納得して答えた。
「分かった。エン、バイク取りに行くの手伝ってくれ。飛び回ってる機械がジャマだ」
 エンは「そっか…!了解!!」と答え頷いた。
「ちょっと待っててくれ。鍵は持ち歩いてるから車庫に行くだけだ。すぐ戻る、結界が無い間耐えてくれ…!」
 ラングはそう言うと返答を待たずすぐに走り出した。エンが後に続く。もう時間がない…

 赤い光のせいかムジカの感情は不安定になり、ひどい頭痛に襲われた。心を落ち着かせるために、ふう…と深呼吸をするムジカに、涙をにじませたアリスが近付く。ムジカも涙をにじませ微笑んだ。
 そのままアリスとムジカは、無言で抱き合った。
 そこに、今度はアルトが近付く。アルトはムジカと目が合うと、瞳を揺らしながら言った。
「ムジカ…あの…僕もシャルに沢山助けられたから…」
 不安そうにしているアルトの頭を、ムジカはぽんと優しく叩いて囁くように言った。
「うん、分かってるよアルトくん。ちゃんとシャルのこと、お姉さんが助けるからね」
 そんなやりとりをするうちに、ムジカの心は一気に落ち着いたのだった。
(不思議。アルトくんとアリスの顔見たらあんまり苦しくなくなった。みんなのこと考えたらいける気がする)

 その時、バイクの音が聴こえてきた。
 ラングである。後部には、エンが立ち乗りで進行上の機械を撃破していた。
 ラングがムジカの前でバイクを止めると、エンはバイクを降りながら涙声で「無理しないで…みんなでまた美味しいもの食べようね」と短く伝えた。色々伝えたい気持ちがあるが時間がない。
 ムジカは力強く「了解!!」と答えた。
「さあ、乗ってくれ」
 ムジカはラングに言われた通り後ろに乗ろうとするが、小声で呟く。
「機械がジャマだなあ…よし、エンの真似しよう!」
 そしてそのまま立ち乗りで後ろに乗り、ラングはすぐにバイクを出発させた。

 残されたエン、アリス、アルト。エンは2人に話しかけた。
「私たちに出来ること、何かないかな?」
 アリスは少し考えた後、意を決して言った。
「…父さんが言ってた、ジェイド地区の火口を塞ぐ仮説…試してみる?」
 それと同時に、再び地響きが聴こえる。またどこかが崩落したのだろうか…
 アルトはすぐにアリスに答える。
「そうだね。コアも無いし、このままだと崩落がどんどん進んでしまう…」
 アリスは、2人を交互に見て、真剣な表情で言った。
「…命がけになると思うわ」
 それに対し、エンは迷わず頷く。
「大丈夫。ランちゃんたちも命がけだから全然迷わないよ」
 アルトもエンと同じように頷いた。
 しかし、列車が止まった今、どうやってジェイド地区まで行くのか…アリスはその方法を考える。
「列車が止まってるのよね。父さんに車出してもらえないかな?家からここまで遠いから時間かかるかもしれないけど…」
 それにエンも同意した。
「何もしないよりはいいよね。それでお願い、アリス」
 アリスは早速デバイスで電話をかけ始めた。

 考えている場合では無い。みんな、今、自分に出来ることを…

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