19A.”憎”-Animus

19A.”憎”-Animus

 心の奥底で、憎しみはふつふつと煮えたぎる。抑えようとしてもどうにもならない





 ラングは砲台に向かいバイクを走らせた。
 シャルはラングの後ろに乗り、機械やカタルシス国と思われる人間に”懐剣:アニムス”を振るう。
 アニムスはいつもの短刀の長さよりも長くなっており、剣のような形状になっていた。
 赤い光…凄まじい破壊力だ。
 バイクで障害物を避け、機械をなぎ倒し、カタルシス国と思われる人間を威嚇し、定期的に結界を使いながら猛スピードで進む。

 それと同時刻…砲台では…

――苦しい…

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 レギュレート・コア内でムジカの上げた叫びに、思わず砲台を見るジェミニとライブラ。
 ライブラはジェミニに言い放った。
「おい、大丈夫なのか!?」
「…」
 ジェミニは答えず、砲台を睨み付けるように見つめる。そして…

 もう一度輝煌砲が撃たれた。
 それは再び政府ビルから外れた。

 その様子を目にしたラングは思わずバイクを止めてしまう。ラングは輝煌砲が外れたことを確認すると、ふう…と息を吐きながら言った。
「…外れたか!良かった…」
 そこでラングがシャルの方を振り返ると、異変に気付く。シャルの様子がおかしい…
 シャルは目を血走らせ、笑い狂いながら言い放った。
「いいぞムジカ…そのまま撃ち抜いちまえ!!!ホープ帝国を滅ぼすんだ!!!!!」
「…シャル!!」
 ラングはすぐにシャルに結界を使った。
 シャルは肩で息をしながら落ち着きを取り戻す。そして、小声で呟いた。
「…俺、今変なこと言ったな」
「赤い光の影響だ。シャルのせいじゃない」
 ラングがシャルを気遣ってくれたが、シャルは自分の本心に気付いていた。
(…いや…今のは…赤い光の影響だけじゃない。多分、俺の本音だ)
 シャルは、両親のことも、帝国のことも出来るだけ考えないようにしていた。
 ジェイド地区の事件の話を聞いたあたりからだ。その感情は日が経つにつれ、どんどん大きくなっていった…

 シャルは、本当は帝国がずっと憎かったのだ。

 シャルは落ち着いた様子でラングに言った。
「ありがとう、もう大丈夫だ。行こうラング」
「…ああ」
 ラングは結界を解除し、再びバイクを走らせた。
 シャルは、ムジカに呼びかけるかのように呟いた。
「…憎しみと怒りが一気に来るみたいだ…ムジカ…1人はだめだ…こんな状態で1人で居たら頭がおかしくなる…!」
(辛くなったらみんなのことを想い出すんだ)

 輝煌砲はもう一度放たれた。政府ビルから外れたことだけを確認し、ラングはすぐにバイクを走らせる。時間が無い…

――…ううっ…熱いよ…怖いよ…もう疲れたよ……寂しいよ……

 ムジカの心の声は誰にも届かない。

 シャルはムジカを思い、小声で呟いた。
「…ムジカ、耐えてる…たまたま選ばれたのはムジカだった。俺だったらとっくに撃ち抜いてたかもな…」

 そろそろカタルシス本部である。シャルは、空を仰ぎながら、一人で静かに語り始めた。
「…ジェイド地区の話をしてからだ。あれから、ムジカにはいつも本音を見透かされてたみたいだったよな…似てるもんな、俺たちの立場…」
 そしてしばらくした後、再び口を開く。
「でも…ムジカは変わろうとしてたな。アリスを助ける時も必死に落ち着こうとしてた…極夜のことも…第二の故郷って…あいつなりに前向きに変わろうとしてたのに…ムジカに…何かあったら絶対に許さねえ…」
 ラングの耳に、「ムジカに…何かあったら絶対に許さねえ」の部分だけが届いた。ラングはバイクのスピードを更に上げる…


 ムジカは輝煌砲を撃つ度に叫び声を上げていた。
 ライブラには、ジェミニが動揺していないように見えた。
「彼女の狙撃の腕は確かなのよ。まだ迷いがあるみたいね」
 そう冷静に呟くジェミニに、ライブラは声を絞り出すように言った。
「…大丈夫なのか…苦しそうじゃないか…」
「一撃。一撃当たるだけでいいの」
 そこでライブラは、ついに我慢の限界を超え声を荒げてしまう。
「ジェミニ、本当にこんな方法でいいのか!?双方の同意で開戦し正規の戦闘で帝国を打ち取れば、人々を納得させた上で新たな国を作れる…だからカタルシス国を作ったんじゃないのか!?」
「…そう。重要なのは人々を納得させることなの。それがこの砲台よ。これで政府ビルを撃ち抜けばそれが勝利の象徴になる…」
「…彼女を苦しめてまでやることじゃない…」
 ここでジェミニは涙目になり、ライブラに対し叫び声を上げる。
「もう後戻りできないのよ!!ずっと皇帝とアイオラの元で耐えてきた…やっとここまで来たの…一撃だけでいいの。政府ビルさえ撃ち抜けば…ライブラ、思い出すの!!帝国に殺された父さんと母さんの顔を!!!!!ジェイド地区の惨状を!!!!!帝国が私たちから全て奪い取ったのよ!!!!!」
 ライブラはジェミニの肩を掴み涙声で言い放った。
「だからって何の罪も無い彼女を苦しめて…!!!手段を選ばない帝国と何が違うんだ!!!!!こんな方法じゃ新たな悲しみが生まれるだけだ。もしこれで帝国に打ち勝っても、いつかムジカを大切に思う人が今度は俺たちに復讐しに来るぞ…」
「…」
「…どけ!俺が解放する」
 ライブラは業を煮やし、呆然と立ち尽くしているジェミニを手でどけて砲台のレギュレート・コアの蓋をこじ開けようとした。
 しかし、どうやっても開かない。
「…壊れている?どうなってるんだ?」
 砲台もレギュレート・コアも、過激な使用方法により暴走しているようだった。ジェミニは小声で「…もう手遅れなのよ…」と呟き、その場にへたれ込んだ。


 ラングのバイクはカタルシス国本部のあるスラム街に到着した。
 ビルの屋上にある砲台にすぐに目が行く。ラングはバイクを止めると2人はすぐに降りるが、カタルシス国の人間に囲まれてしまった。
「シャル、砲台を頼む!!ここは俺が引き付ける」
 ラングが懐剣を展開し敵に応じると、シャルは頷きすぐにビルに入る。
 エレベーターは動いた。すぐに最上階へ向かった。

 シャルは最上階に着くとそこにある砲台を目にした。
 充填され始めたところだ。再び輝煌砲を放とうとしている…
 考えている時間は無い。シャルは走り出した。

 そして砲台を、”懐剣:アニムス”の赤い光で貫いたのだった。

 砲台は音を立てて壊れ、コアの蓋が自動的に開く。
「ムジカ!!!」
 シャルはすぐに中にいる、黒い無数のケーブルに繋がれ気を失ったムジカに駆け寄る。しかし…
「…何だ!?」
 黒いケーブルがどうやっても外れない。
 そこでジェミニが無言で飛び出し、ケーブルを一本一本丁寧に外した。ライブラがムジカを運び出し、砲台から少し離れたところに横たえた。
 ジェミニは砲台をいじり出し、ライブラに呼びかけた。
「ライブラ手伝って!このままだと爆発する…回線を1つ1つ外すわ」
「分かった」
 ライブラはムジカをシャルに任せジェミニの元に向かった。シャルもムジカも、気付けばもう懐剣を手にしていなかった。

「ムジカ、ムジカ、しっかりしろ」
 シャルがムジカに呼びかけると、ムジカは静かに目を開いた。
 ムジカはうつろな目をしながら、消えそうな声で呟く。
「…シャル…私…政府ビル撃っちゃった…」
 シャルは、優しい声で、囁くように言った。
「大丈夫だ、当たってない。ムジカががんばって耐えたお陰だよ」
「…もう…疲れちゃった。何やってもこの世界は私を苦しめてくる。もう…疲れた…」
「そうだな。ほんとな…よく頑張ったな、ムジカ。でも、俺たちにはさ…故郷があるじゃん。一緒に極夜に帰って、ゆっくりしよう。6人みんなで帰って、また楽しい話をしよう…な?」
 ムジカの目から涙がこぼれる。ムジカは声を絞り出した。
「極夜に…帰りたい」
「俺もだよ、ムジカ」

 その時、砲台が暴発し始めた。破片がライブラとジェミニを襲う…ジェミニは叫び声を上げた。
「だめ、間に合わない…!!!!!」
 ライブラはジェミニの腕を引っ張りながら言った。
「ジェミニ、逃げよう」
「だめよ、私のせいなのよ…私が…!!」
「…お前を止められなかった俺のせいでもある」
「…」
「行くぞジェミニ。シャル、ムジカ!!逃げろ!!!!!」

 シャルの体力は既に限界だった。苦笑しながら呟く。
「体が動かねえな…極夜に帰りたいのに…ここまでかな…」
「…シャルだけでも…逃げて…」
 シャルはムジカの目を見つめ、笑顔で言った。
「はは、逃げる訳ないだろ?…最期まで一緒だ」
 そしてシャルは、ムジカを抱き締めるように覆いかぶさる…

 その時、ライブラは見た。盾を展開しながら走ってくるラングの姿を…
「2人を頼む…!!!」
 ライブラは叫び、破片を浴びて怪我をしたジェミニに肩を貸しながらその場から離れる。
「シャル!!!!!ムジカ!!!!!」
 ラングは2人の名前を叫ぶと、盾を限界の距離から飛ばし、2人と砲台の間に展開した。それとほぼ同時に爆発が起こる。
 盾により爆風は軽減され、爆発による衝撃で大気が揺れたことと破片が飛び散っただけで済んだ。
 そして、シャルとムジカは…





 それからしばらくした後。
 ジェミニが砲台跡を確認する。砲台が爆発した際にレギュレート・コアも一緒に壊れてしまったようだった。しかし…別行動をとっていたアリスたちがジェイド地区のエネルギーを止めることに成功する。
 崩落は鈍化し、輝煌石の消耗により出来た地下の空洞に対し対策を講じながら、ほんの少しだが一時の平和が訪れる。
 シャルとムジカはというと…
 ラングの結界はギリギリ間に合ったのだが、消耗した状態で爆発の衝撃を受け2人は意識を失ってしまった。2人は病院に運ばれ、命に別状はなかったが意識はまだ戻らない。
 ラングたちは、自分たちに出来ることをするために立ち上がった。
 各地が崩落したことにより、地層がむき出しになっている場所が至る所にあった。
 …そこに、どこにあるのかも分からない…途方もない探し物をするために…





 

<E6>=壊剣 最後のページについて
パスワードの5文字目→「d」

 

↓分岐点に戻る