6.空





 百里と葵はパソコンの前に居る。
 フロッピーディスクを挿入した。
葵「何か…緊張するな」
百里「しっかりしろよ!堂々としてろ!」
葵「そ、そうだよな。よし…!」
 静まり返った部屋に、パソコンの機械音が響く。
 その音は、やけに耳障りに2人は感じた。

 『トーキョーシティの正しい歴史』

 タイトルが表示される。

 『この内容は、ダース以外が知ってはいけない重要機密である。
 この街には、2つの歴史を用意する。1つは…』

 そこには、この街が出来るまでに先祖が他国と戦いを繰り返し、勝利した過程が書かれていた。
葵「そう、これだ、俺が学んだ歴史は。そしてこの後…」

 『先祖は悪魔に取り付かれた全ての民族を倒す。心の清き民族は全て、先祖の元へ集う。
 そしてトーキョーシティが出来た。現在は、世界にはこのトーキョーシティしか存在しない』

百里「…なるほど。嘘ばっかりだな」
葵「ああ。俺たちは街の外から来たんだからな…」

 『…以上が1つめの歴史。これは、これから起こす計画のカモフラージュとする。
 トーキョーシティの住民の洗脳に成功したら学校などで教え、植えつける』

 ここで、このデータがそれなりに古いことが判明する。
百里「つまり、今の洗脳・管理が始まる前に作成されたフロッピーディスクか。そして、今は何らかの計画の最中…?」
葵「続きを見よう」
 画面は先に進んだ。

 『そしてもう1つは、これから行われる”本当の歴史”』

 百里は、一歩後ずさった。
 そこには、恐ろしい単語が、書かれていたから。



 ―――『クローン兵育成計画』――――――――――



葵「…クローン…だと…!?」
 計画の名前は、2人が予想だにしないものだった。
 何がクローンなのか。誰がクローンなのか。
百里「クローン?誰が?ダースが?どういうことだ?」
 葵は、次のページに進もうとしている。
百里「…葵…待て」
 百里が葵の手を掴んだ。
百里「これ、知っていいのか…?」
葵「ここまで来たら引き下がれない。もしアレだったら、俺1人でも…」
百里「いい、私も見る!」
 必死に冷静になろうとした。心音が自分でもきこえる…

 次のページに進んだ。
 2人は、クローン計画の全てを知る。



 段階1:ホープ国の都市の1つであるトーキョーシティを外壁で囲い、元々居た先住民や、
 この国での個人情報を持たない人間を閉じ込める。洗脳するための電波を定期的に流し、街の外の記憶や存在を消す。


 段階2:かねてから進めてきた”クローン技術”を住民に試す。体の遺伝子を移植しクローンを作る。
 成功したら、少しずつ住民を、本物と全く同じ記憶・遺伝子を持つクローンと入れ替えていく。
 違和が無いかを十数年に渡り観察する。(現段階では、クローンを作ると本物は死に至る)



百里「葵」



 段階3:観察中に、クローンを作っても本物が死に至らずに済む方法を研究する。



百里「葵」



 段階4:トーキョーシティに住む、全ての人間をクローンと入れ替えることに成功し、
 本物が死に至らずに済む方法が見つかったら、クローン増殖に移る。
 1人の人間に戦闘術を教え込んでから増殖すれば、容易に高い戦闘能力を持った兵士を大量に作ることが出来るようになる。
 そうすれば、我がホープ国の軍隊は世界最強となる。



百里「葵」
葵「…」
百里「…葵…」
 2人は、立ち尽くした。
百里「…クローンなのか…私たち…?」
葵「…」
 葵の額から、汗が滴り落ちる。
 百里は腰を抜かし、その場に座り込んだ。
百里「あの…めまいは…まさか…」
 クローンが体になじむための反動だったというのか。
 いつからクローンになった。
 どこがクローンなのか。
 クローンとは一体、
葵「…百里、落ち着け。少し落ち着け。よく聞けよ」
 百里は葵の声を聞き、我に返った。
葵「今は段階いくつだ?まだ1かもしれないじゃないか。自分たちがクローンだと思い込むのは、まだ早すぎるぞ…そうだろ?」
百里「…」
 葵は、冷静になろうと必死だった。座り込む百里に、手を差し延べる。
葵「このことは、2人だけの秘密にしておこう。俺は…今が段階いくつなのかを知る方法を考えようと思う。早とちりだけはしたくない」
百里「…2人の秘密…そうか…<星>も…」


 <星>の9人も、クローンなのかもしれない。


百里「あいつら…帰るって約束したって言ってたのに…もしクローンだったら…?」
葵「百里、落ち着け」
 葵は百里の手を取る。
葵「俺たちはクローンじゃないって…信じよう…今は…そうじゃないと…動けなくなりそうだから…いいな…分かるな…?」
 クローンじゃない、って思わないと恐怖で動けなくなりそうだ。と葵は言っている。
 そういうことだ。
百里「…」
 その気持ちは、百里にも伝わった、痛いほどに。
百里「…分かった」
 百里は、葵の手を借りて立ち上がった。
百里「電波塔に行ったタイチたちは、どうなったんだろうな。見に行こう。動いていた方がいい、余計なことを考えなくて済むから」
葵「そうか、確かに…」
 いつもの百里の頭の回転の早さに、感心しようとしたが…
百里「…いや、でも…お前は、クローン計画のことを知る方法を考えたいんだっけな…やっぱ…やめた方がいいか?」
 逆に、葵に聞いてきた。
 葵は迷うそうになるが、すぐに即決する。
葵「いや、行こう。電波塔、ここに来る時に見えたよな?あそこに向かうぞ」
 2人はすぐに歩き出す。
 利九に一言告げ、真夜中の外に出た。
 走って電波塔を目指すと、数分で着いた。
葵「みんな、この中に居るのか?ちょっと入ってみるか…警備員も居ないみたいだし」
 葵は正面玄関に手をやるが、さすがにここは開かない。
 周りをぐるりと回ると、1ヶ所開いている窓があった。<星>の皆も、ここから中に入ったのだろうか。
 電波塔に侵入した葵に続こうとした百里は、一瞬…夜空を仰ぐ。

百里「…チサト…」










→7.幻