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雨音の中に。何かが歩いてくる音。
あいつだ。
時雨。
時雨「くくく…ついに死んだかあ?オレンジ…ほら、早くオレンジをよこせよ。俺の機械兵の手でめちゃめちゃにしてやるから」
巳六は凄まじい表情で時雨を睨みつけた。
巳六「テメエ…テメエだけは許さねええええ!!!!!」
英二が巳六の横に並ぶ。
英二「巳六、下がってて。ここは俺達が…」
巳六「…いや。こいつは俺がやる。手えだすんじゃねーぞ」
巳六は、瓦礫の端に、七々を横たえて、頬を撫でた。
巳六「七々…がんばったな」
一度微笑み、すぐに立ち上がる。巳六は、服の中から自分の武器・小さな鉄の棒を数本取り出した。
そして、時雨を睨みつける。
巳六「テメエだけは、許さねえ…」
時雨は機械兵の上から、巳六を見下すように見た。
時雨「どいてくんねーかなあ…今から俺は、ゴミを処理するんだけどなあ」
巳六「何がゴミだって…?」
時雨「オレンジっていう、廃棄物だけどー」
巳六は、時雨に向かって走り出した。
巳六「フザけんじゃねえ!!!」
巳六は、能力を発動して鉄の棒を投げた。
棒は、機械兵の足の関節にうまく当たった。普通ならこれで敵を崩せるのだが、時雨の乗る機械兵はとても頑丈だったようだ。ビクともしない。
時雨「早くどけよ…オレンジを早くこの手でスクラップにしたいんだよおお!!!」
巳六はその辺の瓦礫から、長い鉄の棒を見つけて引っ張り出した。そして、再び構える。
巳六「ぜってーさせねーよ…!!」
雨が強くなってくる。
巳六は、棒を時雨に向けて払った。が、うまくかわされる。
時雨「ああ…オレンジ…オレンジ…オレンジオレンジオレンジ!!!
忘れもしないぞ、俺の大事な機械兵を、次々とダメにしてくれたあの日。ゴミのくせに生意気なんだよ!!吐き気がする…!!」
巳六「…ツブす…!!」
時雨は、無数の針がついた機械兵の腕を巳六に向かって振り下ろした。
巳六は、軽々とそれをかわす。
そうやって。
しばらく、2人は戦い続けた。
時雨「オレンジというゴミが―」
時雨「オレンジをめちゃめちゃにしてやる―」
時雨「今回も大分機械兵が壊されたが、オレンジをここまで弱らせたからどうでもいい―」
時雨「思い出すだけで吐き気が―」
時雨「オレンジの悲鳴が心地いい―」
時雨「オレンジはゴミ」
時雨「オレンジは廃棄物」
巳六「…」
雨が、少し穏やかになった。
それと比例するように、巳六の顔から、なぜか怒りの色が消えていった。
…どういう言葉で言えばいいんだろう。
何つーか…何か…
2人は止まって、対峙していた。
時雨は興奮が頂点に達していたのだが、逆に巳六は完全に冷め切った表情になっていた。
巳六が頭を掻きながら、だるそうに口を開く。
巳六「何つーかさあ…」
時雨「…?」
巳六「…お前、もうどうでもいいわ」
時雨はポカンとした。
予想外。巳六が、また怒り狂って反撃してくると思ったのだろう。
時雨「何だと…!?」
巳六は、更に無関心な目で時雨を見た。
巳六「何かお前…言ってることが低俗すぎるっつーか。何だろ。マジ、くだらねえ」
時雨「何だとおおおおおおおおお!!?」
時雨が怒り狂って攻撃してくる。
巳六は、難なくさらりとかわした。
巳六「俺も七々も…お前の言動なんかに、いちいち動揺することは無かったんだ。何でお前なんかに対して怒ってたんだろ、俺」
時雨からのもう一撃。当然、冷静な巳六にはかすりもしない。
時雨「いい…のかなあ…俺のこと早く倒さねーと、オレンジがめちゃめちゃのスクラップにされちまうぜえ…!ゴミにスクラップにゴミはスクラップに…ククククク」
時雨は正直、怒り狂う巳六を見て楽しんでいたところがあった。再び巳六を怒らせようと、七々を罵った。
が。
巳六「だから…お前の言葉なんて、もうどうでもいいんだっつーの」
巳六は、真面目な表情で時雨を見た。
巳六「お前が七々をどう言おうと。もうどうだっていい。七々は、俺の…大切な人なんだ…それだけで、もういいんだ…
難しい理由だとか。理屈だとか。周りの声だとか。もう、考えるのはやめる。俺は七々が大切で、そばにいたいだけ。俺はもう、迷わねーよ…」
巳六は、まっすぐ時雨を見ている。
その目が、時雨を、ひどくいらつかせた。
時雨「ああああそうかよ。そうかそうか…じゃあ、お前の、目の前で、オレンジを…いや、お前の大切な”七々”を、めちゃめちゃにしてやるよ…!」
その時、巳六の目の色が変わった。
巳六「…その名前を、気安く口にすんじゃねえ…!!」
巳六は、雑に体当たりしてきた時雨をさらりとかわし、後ろに回り込む。そして、機械兵によじ登り、時雨を後ろから腕で押さえつけた。
時雨「何…すんだよおおおお!!!!!」
巳六はそのまま、時雨を機械兵から引きずり出し、地面に思い切りたたきつけた。
その時。
さっきまで時雨が乗っていた機械兵が、ショートした。
七々だ。目を覚ました七々が、能力を使って機械兵を破壊したのだった。
機械兵は崩れ落ちようとする。時雨が落とされた場所に。
巳六はすぐその場から離れ、時雨だけが機械兵の下敷きになった。
時雨「ぐえ…」
醜い声が、雨の音に混じって聴こえてきた。時雨の体は完全に機械兵の下敷きになり、顔だけが姿を覗かせる形となった。
時雨の顔に、もう生気は宿っていない。
誰が見ても分かる。
時雨は、死んだ。
あっけなかった。
全ての機械兵を片付け終えたキョーダイたちが、集まってくる。
利九「…終わったんだな、巳六」
巳六は目を閉じて上を向き、雨を浴びながら深く息をついた。
巳六「うん…終わった」
そこに。
無表情の七々が、歩いてくる。
七々は、死んだ時雨の顔を、じっと見つめていた。
そして。
ドカッ。
一発、蹴りを入れた。
英二「七々…?」
ドカッ。
もう一発。
幸四「七々、時雨はもう、死んだんです。もう…」
ドカッ、ドカッ。
何度も、何度も蹴った。
五月「おい、七々!!お前…」
巳六「…」
七々の顔は、完全に憎しみに囚われていた。
巳六が、ゆっくり七々に歩いて近づく。
そして。
パチン。
七々の頬を、たたいた。
七々「…!!」
巳六はそうして、七々の肩に手を置き、優しく、微笑んだ。
巳六「七々…もう、終わったんだ。全部…」
七々の耳に、巳六の声が届いた。
雨の音が聴こえる。雨が降っているようだ。
それと同時に、七々の目に色々なものが飛び込んでくる。
機械兵の無数の残骸。
瓦礫。
キョーダイたち。
下敷きになった時雨。
自分が何度も蹴った、時雨の顔。
そして。巳六の笑顔が…
全てが同時に目に飛び込んできて、七々は頭の中でうまく処理しきれず、ただ、じわじわと、絶望だけが広がっていった。
…もう…いや…
雨の中、七々は泣き崩れた。
地面に崩れ落ちそうな七々を、巳六が両手で何とか支えていた。
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