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利九はマーキングを完了し、6人はアジトへ戻ってきた。
七々は、自分の部屋に居る。
雨で濡れたまま、部屋へ戻って行ったのだ。
七々は、ベッドにそのまま横になって、ボーっと閉じた窓の方を見ていた。
黒 黒 私の中
憎かった すごく 何も見えなくなるくらい
捨てられた 奪われた
カラッポを通り越して 黒くなっちゃったんだね
ガチャッ。
誰かが、部屋に入ってきた。
七々は、微動だにしなかった。
私…分かる。誰が入ってきたか
七々は目を薄めた。出来るだけ、見ないように。
…見えた。
窓の所に。巳六が。
巳六「…窓、開けるぞ」
巳六が窓を開けると、うっすら光が差し込んでくる。雨はやんでいた。もう少しで夕方だ。
七々は、ピクリとも動かなかった。
巳六くん、何で
何で入ってくるの
見たでしょう?醜い私
笑顔ってどうやって作るんだっけ
ああ 分かんなくなっちゃった
もうあなたがまともに見れないんだ私
七々「巳六…くん…」
巳六「…ん?」
振り向いた巳六の顔を見るのが怖くて、七々は目を更に細めた。そして、口元だけが空虚に笑う。
七々「巳六くん…見たでしょ。私、憎くて憎くて、時雨が憎すぎて、我を忘れたんだ。私、醜くて汚くて真っ黒。だから…」
巳六「昔、大切な人たちを殺されたんだ。憎くたって仕方ねーじゃん。おかしくねーよ」
どうしてなの…
なんで、そこまで
こんな 私を
七々は、ガバッと起き上がって、巳六を睨みつけた。
七々「私は…!!あの時、時雨が死んだって知ってた…知ってたのに何度も蹴ったんだよ…!!
憎くて、憎くて、だから蹴った。捨てられて奪われて。頭の中が真っ黒で憎しみだらけ…!」
いっそ、私を嫌って下さい。私に絶望して下さい。
七々「巳六くんが知ってた私は、どんな私だった…?こんな、真っ黒な私だった??違うでしょ。私はもう…」
巳六「ごちゃごちゃうるっせえええな!!!!」
巳六の声が部屋に響き渡り、静まり返った。
圧倒されて思わず黙ってしまった七々を、巳六は、じっと見つめる。
巳六は、しぼり出すように言った。
巳六「お前の中が黒くても憎しみだらけでも何でもいいよ…細かいことはどうでもいい…
俺にとって、お前は大切な存在なんだよ!!理由なんてねーんだよ…!お前は、だまって俺のそばに居ればいいんだよ…」
ああ
巳六「…お前が何言おうと、俺、曲げねーから」
涙が
巳六「つーか俺は、七々が捨てられたのが納得いかねーかな。俺が研究員だったら、絶対七々を捨てねーのに」
涙が
涙が
涙が止まらない
巳六は再び、窓の方を向いた。
涙が止まらない
巳六は空を眺めだした。
なつかしい。あの頃のオレンジと、同じ。
憎しみで真っ黒な私
捨てられた哀れな私
それでもいいと、言ってくれるんですか?
どうして…って聞くのは、おかしいかな
だって、理由なんて無いんだもんね
巳六「七々、見ろよ。虹が出てる」
久々に、空を見た気がした。
巳六くんは、今でも時々空を眺めてるよね。
あのね、巳六くん。
昔の私も、あなたみたいに空を眺めてたの。
空に想いを馳せている、昔の私と、今のあなた。
同じ空だったらいいのに。
…私ももう一度、幻を見てもいいですか?
処理区の、レンさんたち。もしかしたらこの空の何処かに居て、私を見守っていてくれるかもしれないって
いつか、あの日のことも、今日のことも、思い出になってくれる日まで
七々は再び、横になった。
涙で目がかすんで、よく見えないのに。
空と、巳六のことは、良く見えた。
七々「巳六くん」
巳六「ん…?」
巳六が、優しい笑顔で自分を見た。
七々「…何でもない」
よく分からないが、七々の目からまた涙が溢れてくる。
よく分からない。
自分が名前を呼んで、巳六が振り向くことが、そんなに嬉しかったのだろうか。
窓の外に目を戻した巳六は、思い出したように七々を見た。
巳六「七々」
七々「…ん…?」
巳六はいつもと同じ笑顔を見せた。
巳六「呼んだだけ」
七々も思わず笑ってしまう。
そしてようやく巳六は、七々の涙を拭いに行ったのだった。
すげー綺麗。
何だ、全然黒くなんかないじゃんな。
→「灰」