「雛菊」





 マモルとヒナギクは、ガトの王宮の手前に着くなり、すぐに魔物退治を始めた。
 王宮は街に囲われている。街中に魔物が侵入してしまっているのだ。
 幸い人々は屋内に居る。魔物は建物を攻撃したり侵入すること無く、外に居る兵士や賞金稼ぎに襲いかかっていた。
 そこにマモルとヒナギクが投入されると、戦況は一気に逆転する。
 兵士たちと協力して魔物たちを次々と倒し、魔物たちの前線をどんどん街の外へ押し退けていった。


 街中から魔物を排除し、兵士たちは再び前線を張る。
 マモルは、またいつでも出撃できるように、王宮のバルコニーで体を休めながら外を観察していた。

 ヒナギクは王宮の者と話をしている。マイオウギの方は、軍がすぐに対応したのでフシン軍の侵攻は免れたらしい。
 フシンは元々、軍の留守を狙っていたようで、マイオウギ軍が現れると軍を止め、今はこう着状態になっているとのことだ。
 マイオウギ周辺の魔物は、ガトの軍がすぐに向かい、少しずつギルドの手が伸びて何とか抑え始めている。
 とりあえず、最悪の事態は回避できた。

 マモルがバルコニーの柵に寄り掛かって休んでいると、そこに1人の男が現れた。
「…あなたが、マモルさんですね。いつも妹が、世話になっているとのことで…」
 妹とは…ヒナギクのことだろうか。男は続けた。
「私は第一王子、ヒナギクの兄の、シオンです。ガトでは兄弟の1人が王を継ぎ、1人は見聞を広める旅に出る。
私たち兄妹では、ヒナギクが旅に出ています」
 マモルも、その法則は耳にしたことがあった。ただ、女が旅に出たという話は聞いたことが無い。
「よく、ヒナ…ヒナギクが旅に出ることを了承したな」
 マモルはシオンに聞いた。
 シオンは、苦笑しながら答えた。
「皆、止めたんですけどね。ヒナギクは旅に出ると言って聞かなくて、自力で男にも劣らない実力を身に付けました。
もう誰も、”女だから”という理由だけでは止められなくなったんです」
「…ヒナらしいな」
「はい。ヒナギクは、特に魔物に興味を持っていました。
ガトが最も魔物が多いことについて、対策を練る情報を身をもって入手するために、賞金稼ぎになったんです。でも…良かった」
 シオンは、マモルをじっと見つめて言った。
「ヒナギクが、最強の賞金稼ぎであるあなたに守って貰えていると以前知り、安心することが出来ました。いつも妹を、ありがとうございます」
「守っているといっても、俺もサポートして貰っているけどな」
 マモルは謙遜している訳では無い。本心だった。
 シオンはその一言に一礼し、何かを思い出したように話した。
「…あなたは確か、貧しい故郷の村を支えるためにお金を稼いでいるらしいですね。あなたの村の方に聞きました」
 マモルはそれを言われ、「誰だ…」と呟いてため息をつく。
 しかし、観念したのか、スッキリしたのか。マモルは語り出した。
「金を稼げば村が救われる。とても分かりやすくていいだろ。
お前たちも、神の遣いも、みんな大局的なことを考えなくてはならなくて大変だろうな。
俺は、人のために力が出せる人間が好きだ。ヒナは…素っ気ないようで、戦闘でも会話でも、誰かを気遣いサポートすることに長けている。
俺に利があるからってだけじゃない。気に入ったから一緒に組んでいる」
 マモルの話を聞き、シオンは兄の顔を見せ、嬉しそうに笑った。
「…ありがとう。私もバルコニーから外の様子を見に来たんでした。ではまた…」
 そしてシオンは、いそいそと戻って行った。
 シオンが去ってしばらくした後に、ヒナギクがマモルの元にやってきた。
「…マモル。全部聞いたわよ~」
 ヒナギクはそう言い、ニヤニヤしながらマモルの顔を覗き込む。
「何よあんた。そういう理由でお金稼いでたのね。言ってくれても良かったのに」
「…お前だって黙ってただろ。お互い様だ」
「それもそうねえ」
 ヒナギクは笑い、空を眺めた。
「まあでも、あんたがカルマに付いてきた理由、何となく分かったわ。人のために力が出せる人間…確かに、そうよね」
「お前も、同じ理由だろ」
 マモルはそう答え、ヒナギクの顔を少し眺める。
 そして、特別でもない、いつも通りの表情で言った。
「俺は相手を気遣える人間が好きだ。だからお前を近くに置いている。これからもそうする」
「あはは、何よそれ。プロポーズでもしてる訳?」
「そんな風に聞こえるかよ?」
 2人は、冗談めかしい言い方をしていた。
 まだ戦いは終わっていない。2人は気を引きしめた。


 その頃。
 サトリは残された村で、何度か魔物を退治した。
 普通は何人かで対応するようなレベルの魔物だったが、サトリ1人で何とかなった。
 サトリは、宿で待っていたカルマの元へ戻る。
 カルマはサトリを見るなり、左腕の方に駆け寄った。
「…怪我をしているじゃないか…」
 カルマはそう言うと、傷付いたサトリの腕に包帯を巻き始めた。
「いてて…あ、嘘。全然痛くねえからな?…あ、いてっ…!!」
 サトリは笑ったり痛がったり、色々な表情を見せた。
「ありがとう、カルマ」
 サトリは笑ってそう言うと、ゆっくりとベッドに座る。
「ギルド隊が、大勢かけつけてくれた。この村はもう大丈夫だと思う」
 サトリ1人で持ちこたえているうちに、援軍が来たのだった。
 サトリはベッドに、ごろりと寝転がった。
「あーちょっとだけ休むか。あ、疲れたとかじゃなくて、体力温存みたいなヤツ?」
 サトリがいちいちカルマを気遣おうとしていることが、カルマにも分かった。
「サトリ…お前、そんなに無理しなくてもいい…」
「いやいや、してないって」
 自分を心配そうに見下ろしているカルマの目を見て、サトリはドキドキしていた。
 そして、ぽつりと口にする。
「…使命もだけどな…守りてえなあ…」
「?」
 サトリにとってカルマは、神の遣いでも何でもない、1人の女の子に見えることが多くなってきている。
 そしてカルマも…サトリを、リゾクやミコと重ねて見ることは少なくなっていった。










→「罪」