「雛菊」





 カルマたちは、ギルドの正面入口から入った。
 特に咎められたりはしなかった。それどころか…
「どうぞ」
 幹部の者に、ギルド長の部屋に案内されたのだ。
 正気か、罠か。
 どちらにしろ、グゲン5世には会わなければならない。
 4人は幹部の者に導かれ、ギルド長の部屋へ向かった。

 ギルド長の部屋に入り、扉が閉められる。
 そこには、グゲン5世が立っていた。
 慌てたりはしていない。真剣な表情で立っていた。
 そして…
 カルマを見て、土下座をした。
「…」
 カルマは表情を変えず、グゲン5世を見下ろした。
 グゲン5世は顔を床に向けたまま、話し始めた。
「理解して欲しいとも…許して欲しいとも…言えません。自分は、誰かを傷つけ苦しめるためにギルド長になった訳では無い。
私は…許されない。申し訳ありませんでした」
 カルマは、しばらく黙って、グゲン5世を見下ろしていた。
 そして、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「…お前が言っていた…私と、アカネが魔物を全滅させれば良かった…という言葉に関しては…私は、お前を非難しない。
私も、いつも迷っていた。本当にこれで良かったのかと。今でも答えは出ない。
それに、お前が本気で魔物をどうにかしたいという気持ちが伝わってきた。だが…」
 カルマの声色が、少し変わった。
「…ギルドの創設者、お前の父、祖父…彼らの残した言葉。魔物が何故生まれたのか…魔物は元々は何なのか…人々の安全とは何か…
お前は大局的な物の見方が全く出来ていない。そんな奴が…代々守られてきたギルドの長だと…?笑わせるなよ…!」
 カルマは、自分にここまで言う資格があるのだろうかと思った。
 自分がもっと、うまく選択が出来ていれば、避けられることもあったのかもしれない。
 そう思えば、自分だって罪深いのかもしれないと。
 でも…カルマは、ホウプやグゲン3世が否定されたことが悔しくて、どうしても我慢が出来なかった。
 そして、何よりも…アサヒが大切にしてきたアカネを、アサヒの友人であったグゲン3世の孫が殺してしまったことが、
 あまりにも悲しくて、悲しくて、悲しすぎてどうにもできなかった。
「お前にとっては、アカネはただのロボットだったかもしれない。でも…私にとっては…大切な友達だった…」
 カルマは、どうしても我慢が出来なかった。
 グゲン5世は、土下座をしたまま話した。
「…1つの命を奪ったことは、私は自分で自分を戒めなければならない。
そして…ホウテイ市街に爆弾を仕掛けたことは、私はあなたとの会談を終えたら自首するつもりでいます」
「そうしろ。爆弾に関しては感情論でも理屈でも何でもない。ただの犯罪だ。だが、その前に…」
 カルマが個人的にグゲン5世にしたかった話は終わった。
 今度は、本題に入る。
「まず、顔を上げてくれ。各地で魔物が凶暴化していることは知っているな。
これから、どんどん凶暴化していくだろう。厳戒態勢を敷いてこれに対応して欲しい」
 グゲン5世はそれを聞いて、立ち上がりながら言った。
「そうだ。魔物は凶暴化している。そうか…これからもっと…分かった。何よりもそれを最優先にします。
私は人々を守りたい…信じて欲しいなんて言えないけど…」
「…そこは分かっている。よろしく頼む」
 グゲン5世はカルマに一礼すると、すぐに資料やパソコンをいじり出し準備を始めた。
 カルマはギルド長の部屋を出る。ずっと、静かにカルマを見守っていた3人も、カルマに続いた。


 4人は拠点に戻って来た。今度は、自分たちがどう行動するのかを考えなくてはならない。
 マモルは口を開いた。
「俺とヒナ、サトリは、賞金稼ぎとして動くべきだろうな。強力な魔物が出現した情報が入れば、優先的にそっちに行くべきだ」
 この3人は強く、名のある賞金稼ぎなのだ。
 3人が頷き合ったところで、カルマは言った。
「そうだな。私はここで待っている。クライムが出現するまでな」
 それを聞いたサトリは、カルマをじっと見つめて言った。
「ううん。カルマも一緒に行こう」
 カルマの目が、少しだけ揺れる。サトリは続けた。
「戦わなくても、一緒に居るだけでもいいよな。魔物が来てもちゃんと守るし」
「…いや…そんな、足手まといになる」
 カルマは困惑した。カルマはもう、あまり感情を押し殺すようなことはしなくなっていた。
 サトリは一度、マモルとヒナギクを見る。そして再びカルマを見て、笑いながら言った。
「カルマ。俺たちのこと、誰だと思ってんだ?最強の賞金稼ぎが3人も居るんだぞ。
こんなに心強いことって無いだろ。何も心配しなくていいよ、なあ、みんな!?」
 マモルとヒナギクは、サトリに呼応するように笑ってカルマを見た。
 カルマは3人を見回し、
「…分かった…ありがとう」
 と呟いた。


 その日の夜までに、ギルドから厳戒態勢が発せられる。各国は応じ、自衛軍が配備された。
 ギルドとしては、幹部の率いるギルド隊が各地に常駐した。
 そして、強力な魔物や、軍やギルド隊の手が足りない所に出現した魔物は、依頼を出すのだ。
 ここまですると、経済や交通機関がマヒしてしまう。だから、厳戒態勢なのである。

 ガトの地方で手が足りていない、との依頼が出た。4人はまずはそちらに向かい、魔物を退治した。
 マモルたち3人は、出来るだけ難易度の高い依頼を受ける。通常の難易度の依頼は、他の賞金稼ぎたちに任せても大丈夫だった。
 依頼はガトに集中している。3人は、ガトを中心に依頼をこなしていった。
 魔物の勢いは日に日に増す。厳戒態勢が敷かれていなければ、今頃どうなっていただろうか…


 ある日。4人が小さな村で休んでいると、マモルがデバイスで電話をしていた。
「…そうか。なら、とりあえずは大丈夫だな。何かあったらすぐに連絡してこい」
 マモルはそう言い、電話を切った。
 ヒナギクが、体を休めながらマモルに話しかける。
「マモル、あんた最近よく電話してるけど。故郷かしら?」
「…まあな。ギルド隊が常駐していて、とりあえずは安全らしい。ヒナ、お前は連絡しなくていいのか」
「…」
 ヒナギクは、口ごもった。
「…私はね、連絡しなくても情報が入るの」
「…?」
 それからしばらくした後のこと。
 全員のデバイスに、非常事態メールが入った。
 全員が、目を疑った。

『フシン軍がマイオウギに進行中。マイオウギ軍はそれに対応し、マイオウギ周辺の魔物はガトの軍とギルドが対応して下さい』
『ガトの軍はガト周辺で手いっぱいです。ガトの王宮に強力な魔物出現。ギルドは対応して下さい』

「…」
 このタイミングでフシンが攻めてくるのは、何なのだろう。クライムだろうか?
 カルマはデバイスのレーダーを確認する。そして、
「…クライムでは無い」
 と呟いた。フシン国内には一切、光の点は出現していなかった。
 フシンは混乱に乗じて、マイオウギに攻めてきたのかもしれない。
 ここは、どう動くべきか…
 正に四面楚歌だ。魔物だけなら何とかなったのかもしれないが、フシンに攻められることは全く想定に無かったのだ。
 すると…ヒナギクが、電話を掛け始めた。
「もしもし、どう?…そう。”東奔西走”が向かえば何とかなるかしら。マイオウギの方に少し人数を割いてちょうだい。すぐ行くわ」
 そしてヒナギクは、電話を切った。
 ヒナギクは皆を見回し、言った。
「みんな、細かいことは後ね。とりあえず言っておくわ。私、実は、承区:ガトの王の娘、第一王女なの」
 その場にいる全員が、驚きで目を見開いた。
 マモルさえもだ。相棒であるマモルでさえ、それを知らなかった。
 ヒナギクは続けた。
「もう一度言うけど、細かいことは後ね。マモル…一緒にガトの王宮に来て欲しいの。私たち2人なら何とかなりそうなのよ」
 マモルは、驚いてはいたが、すぐに切り換えた。
「分かった。準備をする。サトリはここを頼む」
「ああ」
 そしてマモルとヒナギクは、休憩中から戦闘スタイルへ入るために準備を始めた。
 カルマは…準備をしている2人に、話しかけた。
「マモル、ヒナギク。準備をしながらでいい。2人には…言いたいことがある」
 2人は、準備を続けながらカルマの話に耳を傾けた。
「マモル。いつもお前に守られて、私は心強かった。お前は本当に頼りになる。どうか、無事でいてくれ」
 マモルは一瞬手を止め、カルマの方を見てクールに笑った。
「…どうした、急に。俺も実は理由があって行動している。お前と共にいるのは成り行きではあるが、そう言われるのも悪くは無いな」
 次にカルマは、ヒナギクを見た。
「ヒナギク。お前は、さり気なく人を気遣う。とても自然で、私は安心した。無理をしすぎるな、無事で居てくれ」
「…ふふ。ありがとう。人を気遣ってるのは、あなたもでしょ?」
 ヒナギクはガトの王女…つまり…カエデの子孫ということになる。
 ヒナギクの笑顔は、どことなくカエデに似ているような気もした。
「行くぞ、ヒナ」
「ええ」
 マモルとヒナギクは準備を終え、すぐに出発した。