「雛菊」





 マモルとヒナギクは、サトリとカルマの会話を外から聞いていた。
 もう夜だった。マモルは周りを見回し、小屋の入り口にあったランプを付ける。
 ヒナギクは、ぽつりと呟いた。
「長く生きすぎて…自害した方が幸せ。それしか無いのかしら…」
 ランプで少し明るく照らされたヒナギクの横に、マモルは並んだ。
 マモルは、迷いの無い口調で言った。
「カルマの何が不幸かって、絶望の中、自害しないといけないことだな」
 ヒナギクは、はっとする。
「絶望じゃなきゃいいのかしら?」
 ヒナギクは空を見上げながら話した。
「個人的な話だけどね。ヒナギクって別名”延命菊”っていうのよ。私はこの名前が好きで、ずっと国も人も、長く生きることが幸せで、
長く生きられるように努力するべきだと思っていたわ。いえ…今も、思ってるわ。
カルマは…生い立ちが特別すぎて、常識で幸せを考えることが難しいのね…自害を了承しないといけないなんて…つらい」
 そして、マモルを見て言った。
「でも…それしか方法が無いんだったら…絶望じゃない気持ちにするしか…?」
「そうだな」
 この2人が、カルマのためにここまでする理由は何だろうか?
 そこで、小屋の入り口が開いてサトリが登場した。
 マモルとヒナギクは、サトリの髪の毛を見た。
「…あんたが帽子を取ってるところ、初めて見たわ」
 ヒナギクはそう言って微笑した。
 マモルは、サトリの顔に目をやってから聞いた。
「カルマは?」
「…寝た。今は休ませよう」
 サトリはそう答え、ヒナギクのように微笑した。
 そして、マモルとヒナギクの顔を交互に見て言った。
「今の話、少しだけ聞いてた。俺、カルマを救う方法を考えたいからさ。参考になった」
 マモルとヒナギクは頷き、それぞれ口にした。
「そうだな。カルマを救う方法はお前が考えろ。俺たちも協力はするが」
「そうよね。サトリが一番、カルマと一緒に居たいだろうし。でも、いつでも相談してよね」
 サトリは2人を交互に見て、
「ああ。マモルもヒナギクも、頼りにしてる」
 と言った。


 アカネが寝かせられているベッドはカーテンで仕切られ、花が手向けられた。
 小屋では、サトリとカルマが数日間過ごしていたが、カルマが少し落ち着いてきたので、サトリは再びマモルとヒナギクを呼び出した。
 4人は、部屋の真ん中に地図を広げた。
 カルマは以前、もしかしたらと思うことがあり、地図でそれを確認したがっていた。
 今改めて、それを確認するのだ。
 カルマは皆に説明をした。
「…クライムが現れた光点に加えて、魔物が凶暴化していると言われている所を地図に書き込んでくれ」
 カルマは明らかにやつれていたが、心配をかけまいと気丈に振る舞っているように見えた。
 マモルとヒナギクは、調べてきた情報を元に地図に書き加える。
 カルマはそれを見て頷き、3人も、はっとした。

 クライムの出現場所と、魔物が凶暴化している所は、ほぼ同じ場所だったからだ。

 カルマは、皆に言った。
「クライムは各地に呪いをばら撒き、魔物を凶暴化させている。
あいつは以前、”この大陸を呪って滅ぼしてやる”と言っていた。これが、そうなのかもしれない」
 サトリはこの話を受けて、提案をする。
「クライムに会えないとしたら、魔物を何とかしないとだよな?
このままだと、どんどん凶暴になって手に負えなくなるかも。早めに手を打った方がいいかな」
 4人は、しばらく沈黙した。手を打つ。どうやって…
 4人の中では、実はもう答えは出ていた。ただ、すぐ口に出すことが出来なかった。
 そこで口を開いたのは、カルマだった。
「ギルドへ行く」
 そう…魔物といえば、ギルドだ。だが…
「…カルマ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。他に方法が無い」
 ヒナギクの心配に、カルマはそう答えた。
 マモルは情報を伝える。
「ホウテイ爆破事件は、あの後、死亡の情報は誤りだったとニュースで言っていた。
犯人はまだ捕まっていないそうだ。ギルドは…特に変わりは無い」
 ギルド…グゲン5世は今、どういう状態だろうか。それは、外からは分からなかった。
 カルマは立ち上がった。
「ギルドへ行く。騒ぎになる可能性もあるが仕方が無い。ギルドの力が必要なんだ。…みんな…」
 カルマが”みんな”と口にしたのと同時に、3人も立ち上がった。
 カルマは3人を見回す。
「…サトリ…マモル…ヒナギク…ありがとう」
「みんなが付いてるよ、カルマ」
「後払いでいい」
「ありがとうっていい言葉ね」
 サトリ、マモル、ヒナギクがそれぞれカルマに言葉を伝える。
 4人はギルドへと出発した。