「守」





 アカネは跳躍した。
 アカネは凄まじい武器さばきを見せ、ロボットを次々と破壊していった。勝機があったので、アカネはここに来たのだ。
 その、強く、美しいアカネの戦いぶりに、その場に居た全員が魅せられた。
 もちろん…グゲン5世もだ。
「…欲しい…欲しい…!」
 その、グゲン5世の声をアカネは聞いた。クライムに呪われている訳でも無いのに、昔クライムに呪われかけたグゲン3世のそれに似ていた。
 大半のロボットを破壊したアカネは、グゲン5世の目の前に降り立った。
「…グゲン5世…今からでも間に合います。私を追うのをやめなさい」
 グゲンは動じずに、アカネを見つめる。
 アカネは続けた。
「何故、あなたの祖父が私を追うのをやめたのか、分かりますか?それは…ギルドが魔物を倒す宿命を持っていることと同じです。
ギルドは魔物という”神がかった力”を消すためにあります。そして私は、”神がかった力”を模しています。
ギルドもカルマさんも、最終的には”神がかった力”が存在しない、人間だけの世界を目指しています。
そこに、大量の”神がかった力”を模した人型ロボットが残されたらどうなります?
あなたはギルド長ですよね?ギルドの背負った宿命を無視するんですか?」
 アカネの言葉は、グゲン5世の心を少し動かしかけた。
 しかし、グゲン5世は首を思い切り横に振る。そして叫んだ。
「…分かっている!!分かってるよ!!だが…カルマとアカネが、さっさと魔物を全滅させれば良かったんだ…!!!
屁理屈なんだよお前たちも、創設者も、父も、祖父も!!今世界で何が起きてると思ってんだ!!手段なんか選んでる場合かよ!!!」
 そのグゲン5世の意見に、カルマは少し反応する。屁理屈…それはまさに、カルマが時々悩んでしまうそれであった。
 しかしアカネは、何も迷うこと無く答える。
「それはあなた1人の考えですよ。あなたは人々を守りたいはずなのに誰の声も聞いていない。
1人で居てはダメです…誰かの声を聞いて下さい。本当に今のあなたは正しいですか?グゲン3世さんには、アサヒという友人が居ました。
あなたには?いつからあなたは、こうなりました?」
「…うるさい…」
 グゲンは頭を抱え、まるで考えることを拒絶するかのように大声で叫んだ。
「心臓を狙え!!!」
 カルマは頭が真っ白になった。心臓…”核”…
「アカネ逃げろ!!!早く!!!!!」
 悲鳴にも似たカルマに叫びは、

 遅かった。

 ロボットに核を射抜かれたアカネは、遠くに吹き飛ばされ、宙を舞った。
 アカネを受け止めなくては…でも、カルマの足はもつれてうまく走れない。
 しかし、アカネが地面に叩きつけられる前に、サトリがアカネを受け止めた。
 カルマはようやくアカネの元に辿り着き、アカネの顔を覗いた。
「アカネ」
「…カルマさん…」
 アカネは目をうっすらと開け、小さな声でカルマを呼んだ。
「…カルマさん…カルマさんは…1人じゃありません…よ…大丈夫…
私は、ずっと、カルマさんと一緒に居ますからね。忘れないで下さい…ね…」
「アカネ喋るな」
 カルマは、アカネの頬を撫でた。
「…」
 サトリは…以前のアカネの話を思い出していた。サトリ1人が、アカネに呼び出された時だ。

『サトリさん。心って、本当に”無”になると思います?』

「アカネ、しっかりしろ」
「…カルマ…さん…」
 アカネは体をふるわせ、必死に喋った。
「…サトリさん…たちが…カルマさんの、そばに、居てくれますよ…?
ちゃんと、カルマさんが1人にならないように…考えてたんですから…ね…」
「アカネ…お願いだから喋るな」

『カルマさんは、”無”になりたかっただけだと思います。
そうしないと…耐えられないから』

「カ…ルマ…サン…ワタシ…生まれて来れて良かった。確かに、罪人が生まれたことは、悲劇だったかもしれません。
でも、お陰で私はカルマさんと出会えたんです。私…幸せ…カルマ、さん…カルマサン…ワタシハ、アカネ」
「…嫌だ」

『カルマさん、今まで1人で泣かなかったでしょうか?
知り合った何人もの大切な人たちと別れて悲しくて寂しくて苦しくて耐えられなかったんじゃないでしょうか。
だからカルマさんは、人間と関わるのが怖いんです。避けようとするんです』

「…嫌だ…アカネ死ぬな…約束したじゃないか…私をおいていくな…もう1人は嫌だ…アカネ嫌だ…死なないでくれアカネ」
「ア…」
 アカネは、宙を見て微笑んだ。手を…ゆっくり上に伸ばす。
「ア…サヒ…」
 アカネの目から、涙がこぼれた。
「…アサヒ…会いたかった…あ、あいたかった…ア…サ…ヒ…」
 そして…
 アカネの手は、がくりと下に落ちる。
 目が、ゆっくりと閉じられた。

 その後アカネは、永遠に動かなかった。

「アカネ…嫌だ…アカネ!!!嫌だ…もう嫌だ!!!もう沢山だ!!!!!
もう嫌だああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 カルマは立ち上がると、剣を抜いた。
 カルマは目を見開く。そこからは、大量の涙が溢れていた。
 カルマは力を解放し始める。この”神がかった力”を、グゲン5世に向けようとしていた。
「カルマ駄目だ!!!」
 サトリはアカネを抱き抱えながら叫んだが、カルマには聞こえていない。
 グゲン5世と対峙していたマモルとヒナギクは、すぐに状況を理解した。
 マモルはすかさず叫んだ。
「サトリ!!!カルマを止めろ!!!」
 サトリはアカネを優しく地面に下ろし、後ろからカルマにみねうちを喰らわす。
 カルマは気を失い、サトリの腕の中に倒れた。
 マモルとヒナギクはグゲン5世から離れ、サトリたちの方へ向かって走って来た。
「グゲンは混乱していて話にならない。とりあえず逃げるぞ」
 マモルはそう言うと、アカネを抱き抱えて走り出した。
 サトリもカルマを抱き抱えて走り出す。
 ヒナギクも走り出したが…
 ピタッと止まり、グゲン5世の方を振り返った。
「何が人々のためよ!!!何が夢よ…!!!この人殺し!!!!!」
「…!」
 グゲン5世の体が、ビクンと動いた。
 ヒナギクは涙をこらえて、マモルとサトリの後を追った。
 グゲン5世は呆然とし、しばらくそこから動けないでいた。

『カルマさんを救う方法って、あるんでしょうか?
私は…それを探したかったんです。
カルマさんが出会ってきたみんなも、きっと、そうだったはずです』










→「雛菊」