「守」





「アカネ!!!」
 カルマは何度もアカネを呼びながら走っていた。
 ロボットは速く、とっくに見えなくなっていた。
 だが、アカネはうまくロボットから逃れ、どこかに隠れているかもしれない。
 そう考え、名前を呼んでいるのだ。
「アカネ…!!!」
 その時、カルマはピタッと足を止めた。
「アカネ」
 もう一度名前を呼んだ。耳をすませる。
「…カルマさん」
 アカネの声が聞こえた。カルマは声がする方にすぐに向かう。
 大きな岩の陰に、アカネが座り込んでいた。
「アカネ、大丈夫か」
「…はい、何とか。ちょっと足捻って歩けないけど」
 カルマの問いに、アカネは苦笑して答えた。
 カルマは、ふう…と一息つくと、真剣な表情になる。
「アカネ、どういうことだ。これが、”言ってないこと”か…?」
「…」
 アカネは、観念したように話し始めた。
「私…ギルドに追われてるって言いましたよね?グゲン5世が、ロボットを使って私を強引に捕らえようとしているんです」
「何で言わなかった」
 アカネは、笑いながら言った。
「…だって、言ったらカルマさん、私を心配して外に出さなくなるでしょ?
私は…半分はカルマさんを魔物から守るためにカルマさんの元に来たんです。それは困ります」
「…」
 カルマは、何も言えなかった。
「危ない!!」
 その時、カルマとアカネに襲いかかろうとしていた魔物を、咄嗟に現れたサトリが退治した。
 カルマはアカネのことに夢中で、気が付かなかったのだ。
「間に合った。2人とも無事で良かった」
 サトリは、剣を収めながら言った。
 カルマは我に返り、サトリを見る。
「…サトリ。すまない」
「いいよ。無事で良かったよ」
 カルマの言葉に真剣な表情で答えたサトリを、カルマはじっと見つめた。
 彼の表情から、”誰か”を探そうとしていたのだろうか…
 少し遅れて、マモルとヒナギクも駆けつけた。
「2人とも無事か」
「ねえ、すぐにここを離れた方がいいわよ」
 2人はここに着くなり、すぐに提案をする。グゲン5世の言葉が気になった。
 カルマは、アカネを見て頷いた。
「…そうだな。クライムは気になるが…アカネを奪われた後を考えると恐ろしい。3人とも、渓谷の出口まで頼む」
 カルマのその言葉に、サトリは首を横に振って言った。
「いや、家まで送るよ。アカネ、歩けないし。カルマ1人で担げないだろ?」
「…」
 カルマは迷った。いつもらな断るところだが、カルマには1つの考えが浮かんでいたのだ。
 そして…
「…分かった」
 と、静かに答えた。


 カルマとサトリ、サトリに担がれたアカネ、そしてマモルとヒナギクは、カルマの拠点へとやって来た。
 マモルとヒナギクは道中、グゲン5世の言葉を皆に教えた。
「サトリさん…すいません」
 アカネは、サトリから離れて自分のベッドに座ると、捻った足のメンテナンスを始める。
 足に機械を当てる特殊なメンテナンス方法は、3人にアカネがロボットであることを実感させた。
 カルマは、アカネを見つめていたが、意を決してように口を開く。
「…アカネ…もう外には出るな。ずっと、ここに居ろ」
「…」
 アカネは、それを言われるのを分かっていたようだった。
 苦笑しながら答えた。
「…そうですね。知られちゃったからには…カルマさん、私が外に出たら気になって使命に集中できないですしね」
 カルマは、アカネの”サトリさんたちと会う機会を増やした方がいい”という言葉を思い出した。
 アカネはこうなることを想定していたのだろうか?
 カルマはそれを受けて、提案しようとする。
「…マモル…ヒナギク…サトリ。無理にとは言わないが…頼みが…」
「分かってる。アカネの分もカルマを守る」
 カルマが言い切る前に、サトリは答えた。
「金さえあれば、俺は何でもやる」
「そうね。乗りかかった船だしね」
 マモルとヒナギクも同意した。
「…すまない」
 カルマは思わず謝った。魔物に関することでは人間と関わることに決めてはいるが、自分から率先して巻き込むのは、やはり気が引けた。
「みなさん…すいません」
 そしてアカネも謝った。冷静に考えれば、どちらにも落ち度は無いのだが。
 そこでヒナギクが、重い空気を一掃する。
「2人とも、謝らない!私たちが好きでやってるんだからね。それよりカルマ、渓谷に戻る?クライムまだ居るんでしょ?」
「…そうだな」
 カルマはクライムのことを思い出し、デバイスでレーダーを見た。
「…ん…?」
 カルマは気付いた。レーダーから、クライムの光点が消えている…
 他の3人もデバイスを見た。やはり、クライムは消えている。
「カルマから逃げている、って訳じゃなさそうだな」
「その場での目的を果たしたから消えたってこと…?」
 マモルとヒナギクが推理する。
 カルマが行く前にクライムが消える例は、今回が初めてだった。また1つ、新たな発見があったのだ。
 カルマは、3人を見回して言った。
「みんな、今日はありがとう。クライムは消えてしまった。とりあえず今日は帰ってもらってもいい」
 3人の手を借りるのは、再びクライムが出現した時だ。それ以外の時は、3人は賞金稼ぎに戻る。
 サトリは、カルマをじっと見つめて言った。
「分かった。カルマ、いつでも連絡しろよ?」
「…ああ」
 サトリに見つめられる度に、カルマは”何か”を思い出し、心がざわざわとした。
 この日は、マモルとヒナギクとサトリは拠点を後にした。

「あの…カルマさん」
「アカネ」
 カルマは、何か言いたそうなアカネの言葉に途中で割り込む。
「何も気にするな。お前が居てくれるだけで、私は助かっている」
 その言葉は、アカネを励ますために作った言葉なのか、本心なのか、カルマにも分からなかった。だが…
「…エヘヘ。嬉しい。カルマさん、ありがとう!」
 アカネは嬉しそうに、くしゃっと笑った。

 それからは、何度かクライムが出現し、その度にカルマはあの3人を呼んでクライムを追った。
 クライムは必ず消えてしまうが、カルマたちは地図を使い、クライムの出現パターンを少しずつ絞っていった。


「サトリさん」
 ある日。拠点を訪れていたサトリを、アカネが呼び出した。
「何だ、アカネ?」
 サトリはそう答えると、アカネが真剣な表情をしていることに気付く。
 アカネは言った。
「…サトリさんになら、話してもいいかも」
「…?」
 アカネはサトリに、長い、長い話を始めた。