「守」

・ま‐も・る【守る/▽護る】

侵されたり、害が及ばないように防ぐ。「身を―・る術」

決めたことや規則に従う。「約束を―・る」「教えを―・る」

目を離さずに見る。みまもる。






 2000年 某日。

 あれからカルマとアカネは、何度も現れる光点へ向かった。
 クライムは何をしても、必ず消えてしまうのだ。
 そこで、彼がどこに現れるのかをパターン化してみた。
 クライムは、人々が住んでいない、だがあまり人が住んでいる所とは離れすぎていない所に現れる。
 これは、罪人の呪いがそもそも人々の罪から生まれているので、人間から離れすぎることが出来ないからでは、と思われた。
 そして光点に行くまでには、必ずといっていいほど魔物が出現することにも最近気付いた。

 それが、この1年クライムを追った収穫だった。

 カルマがクライムを追う時は、大体はアカネと2人で行く。
 しかし、時々はマモルとヒナギクとサトリの手を借りていた。

 今日もカルマとアカネは、その3人と一緒に酒場に居た。
「いや、サトリと勝負する時はヒナには席を外してもらっている」
 マモルは、酒を飲みながらそう言った。
 ヒナギクは説明をする。
「そうなのよ。私は魔物図鑑を作ってる学者だから、こいつと居るだけで仕事が進んで利があるのよ。
だから賞金はほぼマモルにあげて、一緒に居るのが許されてるの。でもこいつ、現金な男だけど勝負の時は燃えてるのよね」
「2対1で勝ってもつまらないからな」
 マモルはそう答えた。
 アカネは皆の話を、楽しそうに聞いていた。
「そうなんですね!えっと…あと、マモルさんとサトリさんって、お酒好きですよね。
ヒナギクさんは飲まないんですね。みなさん、いくつなんですか?」
 それには、サトリが答えた。
「俺は23歳、マモルは24歳だっけ?ヒナギクは…20歳だっけ?」
 ヒナギクは、首を横に振る。
「今年で20だけど、まだその日じゃないわね。私も20になったらお酒を飲みまくってやるわ」
 話が盛り上がっている中、カルマは1人、考えごとをしていた。
「…具合悪い?」
 サトリがカルマを心配し、話しかける。
 カルマは考えごとをしながら、
「…いや…クライムのことを考えていた」
 と答えた。
 カルマとサトリはあの後も、特に気まずくなることも無かった。分かるのは、サトリがカルマに近付きすぎないレベルで気遣っていることだ。
 カルマはそのことに気付いていたが、深く考えることを避けていた。
 明日、ホウテイの入り組んだ渓谷に行く。5人は宿に戻り、体を休めた。


 次の日。5人は、ホウテイの渓谷にやって来た。
 ここは細い道が多く逃げ場が少ないので、カルマはマモルたちを呼んだのだ。
 賞金稼ぎの3人は、今日も順調に魔物を倒していった。
 しかし、アカネは何か異変を感じ始めていた。
「…カルマさん、地響き聞こえません?」
「…地響き?」
 カルマは耳をすませてみる。
 それは、機械音だった。カルマは考えを巡らせて言った。
「ここはホウテイだからな。ギルドの対魔物ロボットが、テストで動いているのかもしれない」
「…」
 カルマは、アカネの顔色が悪いことに気付く。
「…アカネ…そうか」
 カルマは思い出した。アカネは、ギルドに狙われているのだ。
 アカネが不安に思っているのだろうと思い、カルマはアカネを励ます。
「安心しろ。ギルドの誰が現れても、このメンバーなら振り切れるだろう」
「…いえ…」
 カルマに励まされても、アカネの表情は変わらなかった。
 アカネは、声を絞り出しながら言った。
「…カルマさん、私…1つ、言ってないことがあるんです…」

 その時。
 渓谷の周囲の崖から、ロボットが数体現れた。もちろん人型では無い。ギルドが流用し始めた、対魔物ロボットだろう。

 カルマやマモルたちは、「あれがロボットか」と少し興味を持って見ただけだが、アカネは1人だけ動揺していた。
「…アカネ、どうした」
「…カルマさん…すいません、私は逃げます、みなさんは私から離れて」
 カルマの問いにアカネはそう答えると、咄嗟に走り出して来た道を引き返す。
 すると何と、ロボットたちはアカネを追いかけ始めたのだ。
「…まさか」
 カルマはピンと来た。
「アカネ!!!」
 カルマはすぐに走り出す。グゲン5世は…ロボットを使ってアカネを追っていたのだ。
 魔物を退治した3人も、アカネとカルマの異変に気付いた。
「…カルマ」
 そう呟いて走り出したのは、サトリだった。彼はカルマの後を追ってすぐに見えなくなる。
 マモルとヒナギクは、その場に残された。すぐに追いたい気持ちもあったが、状況が分からず動いていいものなのか迷っていた。
 マモルは武器を手にしたまま言った。
「どういうことだ?何で対魔物ロボットがアカネを追うんだ?」
「分からないわ。でも、行った方が良くない?ロボットはともかく、途中で魔物に遭遇したら危ないわよ」
 同じように武器を手にしたままのヒナギクは、そう提案する。
 マモルはすぐに走り出した。ヒナギクもそれに続く…

 …が、2人の進行上に数人の人影が現れていた。

「グゲン…?」
 マモルは、その後ろ姿の人影の1人に対して呟いた。
 その人影はこちらを振り返る。
 グゲン5世だった。
「…君たちは…」
 グゲン5世は2人を見るなり、呟いた。
「”東奔西走”か。いつもご苦労様」
 2人は、グゲンの前で足を止めた。
 何故ここに、ギルド長のグゲンが居るのか…恐らく、あのロボットに関することだろう。
 だからこそ、ヒナギクは彼に言った。
「ねえ、あのロボット、人間を追いかけてるわよ。壊れてるんじゃない?早く何とかした方がいいわよ」
 しかし、それを聞いたグゲン5世は、「ククク」と少し不気味に笑った。
「”人間”は追ってないぞ。”人型ロボットアカネ”を追っているのさ」
 そのグゲン5世の言葉に、マモルとヒナギクは顔を見合わせる。
「…アカネが…」
「…ロボット…?」
 2人も、そしてサトリも、アカネがロボットであることを知らない。
 しかも今のアカネは、人間と見分けが付かないほど人間らしかった。気付くのは難しい。
 グゲン5世は、更に言った。
「アカネを手に入れ、解析して、人型ロボットを大量生産する…それが祖父の夢だったんだ。私がこの手で、必ず叶えてみせる」
 ヒナギクは、疑問を覚えた。
「夢って…カルマとアカネ、明らかに嫌がってたけど。ギルドの創設にカルマが関わってるのに、カルマが嫌がることする訳?」
「そうさ、嫌がってるのさ。だから祖父は、この夢を諦めた…だが、魔物を退治する人型ロボットは必ず人々の役に立てる。
これは、人々を守るための夢なんだ。だから私はどんな方法を使っても、どんな痛みがあろうとも、この夢を実現しなければならない」
 グゲンは一息でそう言った。
「…」
 するとマモルは、何も言わず走り出す。ヒナギクも、すぐにマモルを追った。

 2人は、カルマとアカネを追って走った。
 マモルは正面を向いたまま言った。
「…俺はギルドのお陰で食っていけている。だからグゲン5世の意見には何も言えない。だが、カルマとアカネは守る」
「…そうね」
 2人は、ひたすら走り続けた。