「茜」





 夜。
 5人は酒場に居た。
「金があれば、いつでも護衛してやる」
 マモルは、そうカルマに提案した。
 ヒナギクはニヤつきながら、マモルに突っ込む。
「あんた、そんなにお金が欲しい訳~?」
「それもあるが、金が半分、興味が半分だ。面白そうだからな」
 このマモルの提案は、カルマにとっては願ってもないものだった。
「ありがたい。機会があったら頼みたい」
 アカネがくれた考える時間のお陰で、カルマの頭の中は整理が付いていた。
 今回のようなケースがあった場合、またマモルとヒナギクかサトリの力を借りたいと考えていたのだ。
 話がまとまると、ヒナギクはデバイスを出す。
「そうと決まれば、アドレスを交換しましょう」
「ちょっと待った。カルマ、俺も」
 そう口を挟んだのは、サトリだった。
「マモル、抜けがけしてずるいぞ。俺にも護衛させてくれよ、カルマ」
 サトリはそう言い、カルマの目をじっと見つめた。
 まただ…
 見覚えがある。誰だろうか?カルマは思い出そうとした。
「…カルマ?」
 サトリに再び名前を呼ばれ、カルマは我に返る。
「…あ…ああ…そうだな。お前にも、頼みたい」
 カルマはそう答えた。動揺しているのが自分でも分かった。
 皆でアドレスを交換しあうと、今日は解散となった。

 解散といっても、今日はもう夜だ。その上、この村に宿は1つしか無い。全員同じ宿に一泊することになる。
 カルマは、宿の部屋の電球がたまたま切れたので、フロントに替わりの電球を受け取りに行くところだった。
 ふと…
 ロビーに人影があることに気付く。

 それは、サトリだった。
 彼は、泣いていた。

「!?」
 ソファに座り、寄り掛かって泣いていたサトリは、カルマに気付くと真っ赤になって目をぬぐった。
「うわ、ヤバイ、すげえ恥ずかしいところ見られた」
 サトリは必死に泣くのを我慢したが、カルマを見るとまた涙ぐんだ。
「…ごめんカルマ。ちょっと話に付き合ってくれる?」
「…何なんだお前…」
 サトリは、カルマと話をしたがっていた。
 断ってもいいことだが、カルマは無意識に、
「…分かった」
 と答えていた。

 2人は、ソファに並んだ。
 サトリはもう泣きやんでいた。ポツリポツリと語り出す。
「俺さ、ずっと前。カルマのことが載ってる文献読んだんだ」
 サトリは正面を向き、カルマのことを見ないようにして話した。
「…やっと見つけた。こんな小柄な女の子だったんだな…」
 カルマが、ほんの少しだけ反応する。
 見つけた?自分を探していた?それは何故。
 その顔で、こんなことを言ってくる…彼は、一体、
「カルマ、ずっと1人だったんだよな?女の子が1人で生きてきたなんて…辛い、悲しい、寂しい、そんな感情の中で、たった1人で?」
「そんな感情は無い。私には、無いんだ」
 カルマは咄嗟に口にしていた。
 カルマはサトリが誰に似ているのか、思い出そうとするのをやめた。
 サトリはカルマを見た。
「無い?本当かよ」
「ああ、無い」
「嘘つくなよ」
「嘘なんかじゃない、無いものは無いんだ」
「心や感情があるのに、そこだけ抜け落ちてるのか?」
「そうだ、抜け落ちてるんだ。私は無なんだ。私は…」

 一瞬だった。

 カルマは、サトリに抱き締められていた。

 カルマは、すぐに状況を理解することが出来なかった。
 何でこんな状況になっているのか…
 カルマほどの実力のある者が、サトリの行動をかわせないはずがない。
 いや、サトリが実力者だから、その素早い動きに反応出来なかったのだろうか?
 そうだとしても、すぐに押しのけるだの突き飛ばすだのすればいいのに、カルマは、それすらしないでいた。

 すると、身動きが取れずにいたカルマより先に、サトリがバッと手を放した。
「あっ、えっ…!?な、何やってんだ俺!?ごめん…うわああ、ヤベエ」
 サトリは真っ赤になり、両手の手の平を前に出した。
「出会ったばっかりの女の子を抱き締めるとか頭いかれてるな…カルマ、ごめんな。今の話は忘れていいからな!?」
 サトリはそう言うと、慌てて自分の部屋へ戻っていった。
 その場に残され、呆然とするカルマ。
 しかし彼女は、すぐに我に返った。
「…アカネ。何をしている」
「ギクッ」
 柱の陰から、アカネが現れた。
「いやあの、カルマさん…!見ようとしてた訳じゃ…」
 アカネは釈明しながらも、その髪の色のように真っ赤になってどことなく嬉しそうだった。
「カ、カルマさん、抱き締められて、どんな気持ちでした…?」
「別に」
 アカネの質問にカルマは素っ気なく答え、部屋の方へ戻ってしまった。
「カルマさん、電球は?」
 アカネはクスッと笑い、カルマの代わりに電球を受け取りに行った。


 次の日。
 カルマとアカネは拠点へと戻って来た。
 宿から出る時、マモルとヒナギクとサトリに軽くあいさつをした。
 サトリは、何ごとも無かったかのように普通だった。

 カルマとアカネは、いつも通りの日常に戻る。
 夕方にさしかかった頃…アカネが、カルマに話しかけてきた。
「カルマさん…」
 カルマがアカネの方を見ると、彼女は神妙な面持ちでカルマの方を見ていた。
「…何だ?」
 カルマがそう答えると、アカネは言葉を絞り出すようにして言った。
「…私…サトリさんたちと、時々じゃなくて…もっと会う機会を、増やした方がいいように思います」
「…?」
 カルマは首を傾げる。何故、アカネがそんなことを言い出したのか、分からなかった。
「何故だ?理由も無いのに、あいつらと会う必要は無い」
「…」
 カルマの質問に、アカネはうつむき、考え込んだ。
「…理由…か」
 そして、そう呟くと、
「…考えときます」
 と言い残して、扉を開き夕日に照らされる小屋の外へ行ってしまった。
「…?」
 カルマは結局、アカネが何を言おうとしているのかを知ることが出来なかった。

 もしかしたら。もしかしたら―
 もし、その時が来たら、私は。










→「守」