「茜」





 次の日。5人は、酒場に集合して洞窟に出発した。
「自己紹介してなかったわね。私は、ヒナギク。こいつは、マモル。よろしくね」
 ”東奔西走”の少女…ヒナギクは、カルマたちに自己紹介をした。
「私はカヤだ。よろしく、マモル、ヒナギク」
「私はアカネです!」
 自己紹介をし、入口に入って間もないうちに、空気が一気にピリッとしたものに変わる。
 マモルは槍を組み、サトリは剣を抜いた。
「…入口から凄い殺気だな」
「ホント。俺、1人で来なくて正解だったかも…」
 マモルとサトリは喋りながらも、全くスキを見せない構えをしながら一番前を歩いた。
 この2人は噂の通り、かなりの手練れであった。
 ヒナギクも剣を抜く。
「私は後方支援だから、ここでいいの」
 ヒナギクは、マモルのサポートとしてコンビを組んでいるのだろう。
 この布陣になってから、1分もしないうちに魔物の気配がした。
 来た。2体の、巨大な魔物だ。明らかに、その辺に居る魔物とはレベルが違う。
 するとマモルとサトリは、素早い身のこなしで、2体の魔物を軽々と片付けてしまった。
「…すごいな」
 さすがのカルマも、思わず感嘆の声を漏らしてしまう程の腕だった。

 5人は、魔物を倒しながら洞窟の中を歩いた。
 レベルの高い魔物はマモルとサトリが。比較的、普通の魔物はヒナギクが倒す。
 この3人の布陣があまりにも完璧で、カルマとアカネが危険になる瞬間は一度も無かった。

 こうして戦い続け、洞窟の魔物は、ほぼ全て退治し終えた。
 サトリは肩で息をしながら、笑ってマモルに話しかける。
「共闘すんの初めてだよな。結構、息合ってたよなあ!?」
「…賞金は俺が貰うからな」
「分かってる、分かってる」
 マモルは話を反らしながらも、まんざらでも無さそうだった。
 カルマは…洞窟の出口を見ていた。カルマの目的はこの先にあるのだ。
 カルマは、皆を見回して言った。
「みんな、少し待っててくれ。いや…私が戻らなかったら、帰ってもいい」
「私も行きます」
 そしてカルマとアカネは、出口に向かって歩き出し、行ってしまった。
「あ、そうだったわね。この先に用があるんだっけ」
 ヒナギクはそう言うと、デバイスで”気”のレーダーをチェックしだす。
 ”気”のレーダーは商品化されている。今では誰でもインストールでき、特に賞金稼ぎなら誰でも利用していた。
 ヒナギクはレーダーを見て、はっとする。
「…1体、居るわ。カヤとアカネ、大丈夫かしら?」
 この1体とは、恐らくクライムであるが、この3人は事情を知らないのだ。
 マモルは出口に向かって歩き出す。
「3万分、守らないとな」
「いや、カヤ待っててくれって言ってたじゃん?」
 サトリはマモルの言葉に意見を言いつつも、カヤとアカネが心配なので自分も歩き出していた。


 カルマは、遠くの崖にクライムの姿を確認する。
 しかし、すぐには手は出さない。
 カルマは剣を抜くと、静かに力を溜め始めた。
 クライムに気付かれて消えてしまう前に、ここから遠距離攻撃をするのだ。
 カルマは力を溜め終えると、それをクライムに向かって思い切り放出した。
 クライムに向かって、光の玉が飛ぶ。
 するとクライムは、光の玉が当たるギリギリのところでそれに気付き、間一髪でかわした。
 クライムの殺意が、カルマに向けられる…
「アカネ、離れてろ!!」
 カルマは攻撃態勢に入った。
 クライムは、カルマに向かって衝撃波を放つ。
 カルマはこれを軽々とかわしたが、衝撃波によって砂埃が舞った。
 カルマは、砂埃のどこかから攻撃が来ると思い身構える。
 しかし…攻撃が来ない。
 カルマは気付いた。
「クライム!!…くそっ」
 そう、今回もクライムに、まんまと逃げられてしまったのだ。
「カルマさん…!!」
 アカネがカルマの元に駆けつけた。
 カルマは、剣を収めながら言った。
「無理だったか…奴の目的を詮索する前に、倒せないかと思って試してみたが。次は、話しかけてみる。アカネ…ひとまず帰ろう」
「はい」
 とりあえず、クライムがカルマを避けて何かをしようとしていることは分かった。
 カルマとアカネが洞窟に戻ろうとした時…
 2人は、はっとした。

 マモル、サトリ、ヒナギク。
 3人に、一部始終を見られていたのだ。

 3人は動じてはいなかったが、それなりに驚いている様子だった。
 カルマとアカネは、この3人に付いていかないと帰れない。
 仕方なく、3人に近付いた。
「…お前、神の遣いのカルマだろ」
 それが、マモルの第一声だった。
「…」
「カルマ、クライム。魔物と戦えない理由。そうだな?」
 答えずにいるカルマに、マモルは更に言葉を浴びせた。
 この3人は文献を読んでいるようだった。
 文献…それは、カルマが現れてから、各時代の文豪がカルマの表立った活躍を書き記してきた物である。
 時が経つほど、過去は遠くなる。文献は時を重ねる程、その価値を増していったのだ。
 カルマは、これ以上黙っていても仕方ないと思った。
「…そうだ。私は”神の遣い・カルマ”。基本的に、人間のふりをして生きている。だから言えなかった。すまない」
 カルマのその言葉を聞き、3人は思い思いの感想を漏らす。
「いいもの見させて貰った。3万は貰いすぎたな」
「ホント、そうよね!びっくりしたけど、この目で見られるとはねー」
「…感動…」
 マモルも、ヒナギクも、サトリも、カルマとクライムの戦いを見られたことに感動しているようだった。
「みなさん、とりあえず戻りませんか?」
 カルマには考える時間が必要だと思ったアカネは、話をそらした。
「それもそうね。暗くなる前に戻りましょう」
 ヒナギクがアカネに同意し、その場をまとめる。
 5人は来た道を戻り始めた。帰りは魔物には会わなかった。