「茜」





 そこは、ガトの辺境の村だった。
 カルマとアカネは、その村の酒場に居る。
 予想外の問題に直面し、身動きが取れずに居たのだ。
「洞窟だと、遠くに投げ飛ばせませんからねえ…強力な魔物だと、軽いみねうちで気絶しないだろうし…」
 アカネは、ため息をついて言った。
 目的の光点に行くのに、洞窟を通過しなければならない。その上、ここには高レベルの魔物が住み着いているらしいのだ。
 2人で通過するのは、アカネの言った理由でかなり難しかった。
 カルマは、少し考えた後に言った。
「賞金稼ぎが現れるまで待とう。そいつ達の後を付いていけばいい」
 この方法は昔使ったことがある。聖域に行った時のことだ。
 カルマは、デバイスをチェックした。
 今の時代、ギルドはサイトに依頼を掲載している。賞金稼ぎは、これからこなす依頼の欄にユーザー名を載せる。
 そして依頼を達成したら、証拠の写真をギルドに送る。これで賞金が手に入るのだ。
 ユーザー名を載せずに依頼を達成すると、賞金が半額になってしまうので、ほぼ全ての賞金稼ぎが利用している。
 カルマは、この洞窟の依頼の欄を見た。
 そこには、2つのユーザー名が載っていた。

”東奔西走” ”解放の糸”

「”東奔西走”ってすごい!最強の賞金稼ぎですよね」
 アカネは嬉しそうに言った。”東奔西走”とは、今最も強いと噂されている、有名な賞金稼ぎである。
 アカネは、もう片方のユーザー名も知っていた。
「”解放の糸”は、最近勢いがある、実は最強なんじゃないかと言われ始めている人ですよね。カルマさん、ラッキーですよ!」
 もちろんカルマも、この2人の名前は知っていた。
 どちらも、この洞窟の魔物を退治できる可能性はかなり高い。
「この洞窟に入るには、この村は必ず通過するな。アカネ、この村で待とう」
「はい」
 カルマの言葉に、アカネも頷いた。


 数日後。
 カルマとアカネが酒場に居ると、周りが少し騒がしくなる。
 人々は喜んでいるように見えた。耳をすましてみると、「ついに来たか」「やっと安全になる」と口々に言っていた。
 そして、酒場の扉が開かれた。

 青い髪の青年と、亜麻色の髪の少女が入って来た。

 2人は武器を装備し、その威圧感と姿勢だけで相当な手練れであることを感じさせた。
 人々は更に騒がしくなり、指笛を吹いたり拍手をする人も居た。
 2人は動じること無く、涼しい顔で席に着き、注文をし始めていた。
 この2人だ。
 カルマとアカネはそう確信し、すぐに2人に近付いた。
「ちょっといいか?」
 カルマの一言に、賞金稼ぎの2人は顔を上げた。
「…何だ?」
「あら、こんにちは」
 青年は無表情、少女は笑顔でカルマとアカネを迎えた。
 カルマはすぐに本題に入る。
「お前たちは”東奔西走”と”解放の糸”だな?」
 青年と少女は顔を見合わせると、少女の方が答える。
「私たちは、2人で”東奔西走”よ。もう片方は別の人よ」
 この2人はコンビで1つのユーザー名を使用しているらしい。カルマもアカネも、そこまでは知らなかった。
 カルマはとりあえず、そこはどうでも良かった。話を続ける。
「私たちは、この洞窟の奥に用があるんだ。だが、実力不足で通過が出来ない。お前たちの後を付いていってもいいだろうか?邪魔はしない」
 それを聞いた少女は、少し笑って答えた。
「別に、邪魔しないんだったらいいけど。ねえ、マモル?」
 すると、マモルと呼ばれた青い髪の青年は、椅子にもたれ掛かったまま、カルマとアカネの全身を目で確認し始める。
 そして、クールな表情をしたまま言った。
「実力不足…?嘘をつけ。お前たちも相当な手練れだろう。俺には分かる」
 青年…マモルは、かなりの実力者である。カルマとアカネが只者では無いことをすぐに見抜いた。
 カルマは、すぐに理由を切り替えた。
「…実力不足は嘘だ。すまない。私たちは、どうしても魔物と戦うことが出来ないんだ。邪魔はしない、後を付くだけだ」
「どうして戦えないんだ?」
 マモルは、中々OKを出してくれなかった。
 そこで、意外にも少女の方がカルマに助け船を出す。
「こいつ、お金さえ出せば動くわよ。お姉さん、お金持ってる?」
 カルマは、はっとした。彼は賞金稼ぎなのだ。金で動くのは納得できる。
「1万出す」
 カルマは、すかさずそう言った。するとマモルは、
「3万だ」
 と返した。少女の言う通り、金で目の色が変わった。
「分かった、3万出す」
 カルマが了承して3万を出すと、マモルは立ち上がってそれを受け取り、カルマと握手を交わした。
「3万分。お前たち2人を必ず魔物から守る。帰り道も守る。明日出発する」
 マモルはそう言うと座り直し、酒を飲み始めた。
 うまくいった。カルマとアカネは目を見合わせた。
 しかも、ただ後を付いていくだけでは無く、帰り道も保障されたのだ。
「ヒナ、お前も飲め」
「バカね、私はまだ19歳よ。臨時収入が入ったからって調子いいわね」
 このマモルと少女の会話で、少女の名前がヒナであることも分かった。
 カルマは2人を見ながら言った。
「出発は明日だな?では、明日またここに…」
 その時。

「ちょっと待った!」

 どこからか、声が聞こえてきた。
 すると、酒場のカウンターで1人で飲んでいた青年が、カルマたちの前に現れた。
「ごめん。話、勝手に聞いてた。マモル、俺だよ」
「…またお前か」
 その青年はどうやら、マモルの知り合いのようだった。
「またお前って、こっちのセリフなんだけどな…」
 青年は苦笑し、頭を掻きながら言った。
 カルマは、ピンと来た。
 ”東奔西走”のヒナなら知っていると思い、ヒナに聞いてみる。
「こいつは、”解放の糸”か?」
「そうよ。勘がいいのね。私たちも彼も、高い賞金を狙ってるからね。どうしても鉢合わせちゃうのよ」
 マモルたちのテーブルに聞き耳を立てていた人々は、”解放の糸”も現れたことに気付き、「おお…!」と声を上げる。
 この小さな村に、有名な賞金稼ぎが2組も居るのだ。仕方がない。
 マモルは不敵な笑みを浮かべ、青年に言った。
「今回も、どっちが獲物に辿り着けるか勝負するのか…?」
「…いや」
 しかし青年は、首を横に振る。
「そのつもりだったんだけど…ほらお前、そこの女の子たち守るんだろ?」
 青年はそう言うと、カルマとアカネを指差す。
「この子たち守ってる間に獲物を横取りするの、気が引けるよ、さすがに。だから今回は、手伝ってやるよ」
 それを聞いたマモルは、顔をしかめて言った。
「手伝うって…どういうことだ?賞金山分けか?なら断る」
「いや、今回は金はいい。”東奔西走”が誰かを守るとか、意外でさ。何か感動したから手伝いたいんだよな」
 マモルはそれを聞くと、クールな表情に戻ってまた酒を飲み始めた。
「…そうか。勝手に付いて来い」
「分かった。また明日な」
 マモルは青年の意見に同意したのだった。かなり現金な男であった。
 青年は去り際に、カルマとアカネにも話しかけてきた。
「俺は、サトリ。明日は俺も一緒だから。よろしくな」
 帽子を被った”解放の糸”の青年は、サトリといった。
「私は…カヤだ」
「私はアカネです。よろしくお願いします」
 カルマは偽名を使い、2人も自己紹介をした。
 アカネは、ふと気付く。
 カルマが…じっと見つめていたのだ。サトリの目を。
 そしてサトリがその場を去ると、カルマはその後ろ姿をじっと見つめた。
「…カルマさん?」
 カルマはアカネに話しかけられ、我に返った。
「…何でもない」

 何故だろう。カルマは…彼に、見覚えがあるような気がしたのだ。