「具現」





 結局電車は、アサヒの家までは間に合わなかった。
 しかし、アジトには行けた。3人はアジトの手前で降り、アサヒのアジトへ向かった。
 歩いてアサヒの家に行く手もあるが、これ以上衰弱したカルマを夜風に当てるのは危険だ。
 アジトに着くと、アカネはカルマをソファへ寝かせる。アサヒはすぐに、自分がたまに使っている綺麗な毛布をカルマに掛けてあげた。
 グゲンは再びカルマの脈を測ると、寝息を確認した。
「…大丈夫だ。良かった」
 グゲンの一言を聞いて、アサヒも安心する。
 そして、アカネに向かって笑った。
「アカネ、ありがとうな。助かった!」
「…どう、いたしまして」
「…あっ」

 アサヒは思わず声を漏らす。アカネが、アサヒにつられて微笑んだからだ。

 アカネは、感情を学ぶ…
「ふーん」
 アカネの笑顔を見て、アサヒは感慨深そうに笑った。
 カルマを休ませることが出来た。今は夜中である。
 アサヒは、グゲンを見て言った。
「朝までここで寝ようぜ。グゲン、ソファ使っていいからな」
 そしてアカネを見る。
「アカネは、ソファの方がいいか?」
「いえ、床でも寝れマス」
 アカネはそう言うと、壁に寄り掛かって座り、目を閉じた。
 ソファは3つだった。これで、カルマ、グゲン、アサヒがそれぞれ1つずつ使える。
 グゲンはソファに横になりながら、同じようにソファに横になったアサヒに話しかけた。
「ありがとう。アサヒはいつも、ここに寝ているのか?」
「いや…俺、グレて遊んでばっかだったからさ。ここに友達呼んでアジトとかいってつるんでたり、1人で音楽聴いたりしてたんだけど、
やりたいこと見つけたからもうここには来ねえかな…」
 そういって天井を見たアサヒを見て、グゲンも天井を見つめて呟く。
「…明日になったらギルドに戻らなくては。きっと今、混乱してる…まずはそれを何とかしないと…」
「お互い、”カルマのために”がんばろうぜ」
 アサヒの言葉に、グゲンは頷いた。
「ああ。がんばろう」
 ほぼ同年代の2人は起き上がり、拳をコツンと打ち合わせた。
 アサヒの言った”カルマのためにも”は、アサヒの”やりたいこと”に関係していた。


 カルマは、窓から射す光に照らされて目を覚ます。
 ここは…
 カルマは周りを見回す。ここは、見覚えのある部屋だった。
 そしてソファに寝ているアサヒ、グゲン、壁際で寝ているアカネ…
 カルマは、状況を理解した。
 カルマは立ち上がり、入り口に立って朝の光を浴びる。すると、後ろから…
「カルマ!?起きたのか!!」
 振り返ると、涙ぐんだアサヒがこちらを見ていた。
 カルマはアサヒをじっと見つめて言った。
「アサヒ。ここまで連れてきてくれたんだな。ありがとう」
 逆光でカルマの表情はよく見えなかったが、アサヒには微笑んでいるように感じた。
「ん…?ああ、いいよ。つーか、運んだのはアカネだけどな」
 アサヒはそう答え、カルマに対して素直な自分に内心驚いてもいた。
 2人の声で、続いてグゲンも目を覚ます。
「…カルマさん…!目を覚ましたんですね。良かった…」
 そう言って立ち上がったグゲンにも、カルマは礼を言った。
「グゲン、ありがとう。お前が完全に呪われずに自我を保っていたお陰で、スムーズにクライムをおびき寄せることが出来た。凄い精神力だな」
「…!」
 グゲンはカルマに褒められ、感極まる。
「…私も、あなたの役に立つことが出来たんですね…先代に誇れます。ありがとうございます!」
「何でお前が礼を言うんだ」
 カルマは首を傾げた。
 いつのまに起きて、みんなの様子を見守っていたアカネは、アサヒの耳元で囁く。
「良かったですね、アサヒ」
 耳元で囁く…ギルドでの作戦の時のアレを真似したのだろうか?
 アサヒはアカネに微笑んだ。朝日に照らされたアカネの笑顔が、アサヒには眩しかった。


 グゲンと別れた後、アサヒの家に向かう帰り道。アサヒは、カルマに話しかけた。
「カルマ。話があんだけど」
「何だ?」
 アサヒは、後ろを歩いているアカネをちらりと見て、再びカルマを見ながら言った。
「あんた…これからも、長い戦いが続くんだろ?いつか…アカネがカルマの助けになるように、俺がアカネを何とかしてやるよ」
「…?どういうことだ?」
 カルマの疑問に、アサヒは少し考えてから答えた。
「時間掛かるかもしれねえから、今は忘れてくれていいわ。まあ、とりあえずアカネと”気”のレーダーのことは俺に任せろ」
 カルマが何かと気に掛けていたアサヒは、気が付いたらカルマの助力になれる人間になっていた。
「…ああ、よろしく頼む、アサヒ」
 カルマはアサヒを見つめながら、しっかりとした口調で言った。


 アサヒの家に帰ると、クオンとミクリヤが3人を迎えた。
「3人とも大丈夫だったかい!?良かった!」
 さすがのクオンも、最初の一言はいつものアレでは無かった。
 アサヒは、ひらひらと手を上げて言った。
「大丈夫大丈夫。全部終わったし。なあ、カルマ、アカネ?」
「ああ」
「無事、終わりまシタ」
 ミクリヤは嬉しそうに、3人を見回して微笑んだ。
「まだご飯食べてないわよね?今から作るからね。アカネも手伝ってみる?」
「手伝いまス」
 2人はそう言って、台所へ向かって行く。
 アカネの笑顔を見たクオンの「おお、笑ってる!」と喜ぶ様子を横目に、アサヒは笑いながら自分の腹を手で押さえた。
「確かに、ハラへったなー。カルマも食ってけよ」
「…ああ」
 カルマは、今は素直にこの家に世話になろうと思った。





 1936年 某日。

 アサヒの手により、レーダーの端末が商品化される。カルマがレーダーを失うことを心配する必要が無くなった。

 カルマは行く。いつかこの手で、クライムを倒し使命を全うする、その時まで。










→「業」