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2人は、人通りの少ない裏道を歩いている。念のため、人目につかないように行動することにしたのだ。
クオンの家から廃工場までは10kmほどあるらしい。アサヒの体力を考えて、2人は走らず歩いて行くことにした。
カルマは歩きながら、アサヒに話しかける。
「なあ、アサヒ。クオンはどうやって廃工場にロボットを封印したんだ?クオンは魔物と戦ったことが無いと言っていたが…」
「ああそれ。俺が護衛したから。3年前だったんだけど、あの頃は今ほどグレて無かったからな」
しばらく歩いていると、アサヒが不敵な笑みを浮かべながらカルマの顔を覗き込んで話しかけた。
「なあ、あんた…この前、俺にばっかり色々喋らせたよな?お前も、過去のこととか何か話せよ」
「…」
アサヒは、自分ばかりがカルマに弱いところを見られたのが悔しかったので、カルマを挑発して弱音を言わせようとしているのだ。
黙っているカルマに、アサヒは勝ち誇ったように言った。
「何だよ…恥ずかしくて言えねえのか?お前、俺よりずっと長く生きてんだから何かあるだろ?ほら、何とか言えよ」
「アサヒ」
やった…!ついにカルマの弱いところを見られる。アサヒは勝ちを確信した。
だが…
「すまない、考えごとをしていた。何か言ったか?」
「…!!!」
全く動じていないどころか聞いてすらいなかったカルマに、アサヒの方が挑発されてしまった。
「フザけやがって…!!」
「…?…何怒ってるんだ」
「怒ってねえよ!!!」
これ以上カルマに突っかかったら、また言いくるめられるかもしれない…
アサヒは直感でそう感じ、これ以上はカルマを挑発しなかった。
2人は街から出て森の中へ入る。
カルマは、周りを見回していた。
「…アサヒ。森の中に魔物が数体居る。気を付けろ」
「…マジかよ…」
カルマは周囲に魔物の気配を感じていた。このくらいの”気”なら、集中していなくても感じられる。
そして。
「アサヒ、前から1体来る!」
「!?」
カルマの掛け声で、アサヒは腰に下げた剣を抜いた。
目の前に魔物が現れる。アサヒは慌てること無く、冷静に1体を倒した。
「…よし」
アサヒはそう呟くと、静かに剣を収めた。
アサヒがカルマの方を見ると、カルマはアサヒの方を見てうんうんと頷いていた。
「お前…やるじゃないか」
カルマのその一言に、アサヒは不思議な気持ちになる。
「…え?ああ…一応、俺、よく出歩くし。ちょっとだけなら、まあ…うん」
アサヒは、しどろもどろに言った。カルマに褒められるのは、何だか意外で反応に困ったのだった。
契り廃工場に着いた頃には、既に夕方になっていた。
廃墟となり、草木にまみれた村の中に、その廃工場はあった。
2人は廃工場に足を踏み入れる。かなり朽ちていて天井は無く、空が筒抜けになっていた。
アサヒが床にある蓋を外すと、そこにいくつかのボタンが現れる。
アサヒは持っている端末を見ながら、ボタンを操作した。
カチッ。
そう大きな音が響くと、部屋の中心の床が大きくせり上がる。
そこに、人型の筒が現れた。
アサヒは筒に近付き、表面を撫でて言った。
「そう、コレコレ。親父が封印したあの日に車輪でここまで引いてきたんだよな。中身は俺も見たことねーんだけど。よし、開けるぞ」
アサヒは筒に付いているレバーを引いた。
すると、プシュー…という音を立て、ゆっくりと筒の扉が開かれた。
「…えっ…」
アサヒは、思わず声を漏らした。
筒の中に居たロボットは、ゆっくりと歩き出す。カルマとアサヒを追い越して、1mほど歩いた。
するとピタリと止まり、2人を振り返る。
そこに居たロボットは、美しい女性をかたどっていた。
首から上は人間の女性とほぼ変わらないように見える。首から下は金属だったが、女性の体と同じ綺麗なラインをしていた。
その美しい躯体と、夕日と同じ茜色の髪は夕日に照らされ、更に美しく光る。
「…ちょ…」
アサヒの顔も、夕日のように真っ赤になった。
「お、女の子のロボットなんて聞いてねーぞ!!あの親父、何がエスコートだよ…!そういう意味かよっ!!」
ロボットはカルマを模して作ったので、女性であることは意外では無い。だが、アサヒはそこまでは聞いていないのだ。
ロボットは、カルマとアサヒの顔を交互に見た。
そして、アサヒの顔に思い切り自分の顔を寄せた。
アサヒは心臓が飛び出そうなくらいドキッとした。
すると、ロボットは…
「…アナタ…ハ…”アサヒ”、デスネ。記憶シテイマス」
喋った。
アサヒはロボットの声を聴き、急に冷静になる。
目の前に、もの凄い科学技術が存在している…そのことに対する感嘆が沸き上がった。
次にロボットは、カルマをじっと見つめた。
「…アナタハ、”カルマ”。記憶シテイマス」
アサヒとカルマのことは、クオンの手によってあらかじめインプットされていた。
「…凄いな」
さすがのカルマも、感嘆の声を漏らさずには居られなかった。
ロボットは、改めて2人を交互に見る。
そして、言った。
「私ノ名ハ、”アカネ”デス。人間ト接スルコトデ、言葉ヤ、感情ヲ、学ビマス。
人間ト、接スレバ接スルホド、メモリーニ、感情パターンガ、インプットサレテイキ、人間ラシク、ナリマス。ヨロシクオネガイシマス」
アサヒもカルマも、思わずロボット…アカネに見入ってしまったが、やらなければならないことを思い出し我に返る。
カルマから、アカネに話しかけた。
「アカネ、アサヒと共にホウテイのギルドに行って欲しい。そして、グゲンという男とクライムという男を、指定の場所におびき寄せて欲しい。
詳細は、その都度アサヒに聞いてくれ」
カルマが行くと、街中でクライムが攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
ここはアサヒとアカネに任せるのだ。
アカネは、こくりと頷いた。
「了解シマシタ」
そして、アサヒをじっと見つめる。
「アサヒ、ヨロシクオネガイシマス。クオンさんハ、アナタガ私ヲ、エスコートシテ、可愛ガッテクレルト、言ッテイマシタ」
アサヒは、呆れてため息をついた。
「こいつにも言ったのか…アカネ、エスコートとかは忘れてくれ」
「了解シマシタ」
もう既に日は沈み、夜になっていた。
アサヒは周りを見回す。
「なあ、夜に森に入ると危ねーから、ここで朝になるのを待った方が良くねえか?」
アサヒの提案に、カルマも頷いた。
「そうだな…魔物が出たら戦うのはお前だしな」
そこで、アカネが口を開く。
「私ガ、魔物ヲ退治シマショウカ。ソレナラ、夜中デモ、行ケマス」
アカネの提案に、カルマは考え込む。
カルマを模したアカネが、魔物を倒す…それは、使命に反するものだろうか?
カルマは”神がかった力”を持っているが故に、命を左右することを避けている。
では、カルマを模して作られたアカネの力は、”神がかった力”に相当する物なのだろうか?
どっちの方面に考えても、屁理屈に思えた。
カルマは、口を開いた。
「アカネ…魔物は倒さないでくれ。理由は…すまない。うまくいえない。とにかく、まだ倒さないで欲しい」
「…?…ハイ、了解シマシタ」
アカネは理由の無いカルマの言葉に一瞬困惑したが、すぐに受け入れた。
「よし、じゃあ寝ようぜ」
アサヒはそう言うと、部屋の壁に寄りかかって座り、目を閉じる。
カルマも、今は休もうと思って同じようにした。
夜中。
カルマが目を覚ますと、目の前にアカネが座り、カルマを観察していた。
「…何だ?」
カルマがアカネに聞くと、アカネはカルマの目を見て言った。
「カルマさんハ、私ト、似テイルト、聞イテイマス」
「…」
アカネはカルマを模している。そう思えば、似ているのかもしれない。
「…そうだな」
カルマは、そう答えた。
アカネは更に質問する。カルマから色々学ぼうとしているのだ。
「カルマさんハ、不老不死デスネ。私モ同ジデス。似テイマスネ」
カルマもアカネの質問に応じた。
「私は、クライムを倒したら消えるけどな」
「ソウデスカ…アト、雰囲気デスカ?私トカルマさん、似テマスネ」
「…アカネ」
さすがにカルマは、一晩中アカネの質問に答え続けるのは面倒だと思った。
「お前は寝ないのか?」
「寝マス。寝ルト、エネルギーガ充電サレ、回復シマス」
「じゃあ寝ろ」
「了解シマシタ」
アカネはカルマの横に並び、目を閉じると寝息を立てた。
「…」
アサヒは、寝たふりをして2人の会話を聞いていた。
この時からアサヒは、とあることについて考え始めることになる。
→「具現」