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カルマが夜の街を彷徨っていると、丁度家に帰ろうとしているアサヒと遭遇できた。
アサヒはカルマに気付き、ガンを飛ばしながら不敵な笑みを浮かべた。
「何だ、神の遣いか。何か用かよ」
カルマは別に動じることもなく、
「そうだ。お前と話がしたい」
と答える。
「はあ!?こっちは別に、あんたと話すことなんてねえんだけど?…帰ろうと思ってたのに気が変わったわ」
アサヒは、くるりと進行方向を変えて歩き出す。
それを、カルマは黙って付いていった。
アサヒは歩きながら、カルマの方を振り向いて怒鳴りつける。
「付いてくんな!!」
アサヒは早歩きになったが、カルマも同じ速度で後を付いた。
アサヒは一瞬だけカルマを振り返ると、「くそっ」と呟き、今度は走り出す。カルマも走り出し、アサヒの後を付いた。
「な、何なんだよお前っ!!!」
アサヒはそう叫び、ひたすら走ったが、どんどんスピードが落ちていく。額には汗が浮かび、ぜえぜえと苦しそうに呼吸をしていた。
カルマは、まだ涼しい顔をしている。
遊んでいるばかりのアサヒが、常に鍛えているカルマを振り切るなど、到底無理な話なのである。
2人は、廃屋のコンクリートの部屋に居る。
ガラスの無い窓には、くっきりと月が浮かんでいた。
部屋にはソファやTV、トランプやマージャン、そして音楽CDなどがある。アサヒの遊び場所だろうか。
アサヒはここに逃げ込んだが、カルマを振り切ることは出来なかった。
ソファにもたれ掛かってぜえぜえと息をしているアサヒに反し、カルマは涼しい顔で立ってアサヒを見つめていた。
アサヒはそんなカルマに、軽い恐怖心を覚える。苦笑しながら言った。
「わ、悪かったって。色々言って悪かった。で、話って何だ…?」
カルマは顔色1つ変えず、
「お前の疲れが取れるまで、待つ」
と静かに言った。
アサヒは仰向けになって寝転び、「…そうかい…」と呟いた。
アサヒの呼吸が整った後、アサヒとカルマはソファに座り、向かい合った。
「…で、話って何だよ」
めんどくさそうに言ったアサヒに対し、カルマはすぐに本題に入る。
「アサヒ。お前は、父の後を継ぎたいか?」
それを聞いたアサヒの顔が怒りで真っ赤になる。
「…その話かよ…フザけんな」
アサヒは、激昂した。
「今まで散々ほっといたくせに、後を継げだと!?俺を利用する時だけ近付いてくんじゃねえ!!!フザけやがって!!!」
カルマは、何故アサヒがこうなってしまったのかを、薄々悟った。
そして、あえて口にしてみる。
「…父と母が仕事ばかりで、相手にされず寂しかったのか?」
「…!!!」
アサヒはカルマに近付いて胸ぐらを掴み、目を見開いて怒鳴りつけた。
「そんなんじゃねえ!!!テメエに何が分かるってんだよ!!!どいつもこいつも俺を…!!
親父やおふくろと比べやがって!!俺だって生きてんだよ!!!その上親父とおふくろは助けてくれねえし…!!
来たと思ったら後を継げだと!?そんなのただの道具じゃねえかよ…!!俺だって…生きてんだよ…!!!」
アサヒは、自分でも気付かないうちに泣いていた。
カルマはアサヒの叫びから、彼がどのような人生を辿って来たのかを悟る。
そしてカルマは、ここもあえて質問してみた。
「…父と母のことは、嫌いか?」
「…」
アサヒは、カルマの胸ぐらから手を放し、うつむいた。
「…そういうのじゃねえよ…俺は…別に…見て貰えれば良かったんだ…俺のこと…分かって欲しかったんだ…」
カルマは、アサヒの肩に手をポンと置く。アサヒは、泣きじゃくった顔を上げた。
カルマは言った。
「…私が、クオンとミクリヤと出会ってなかったら…こうはなっていなかったかもな。
あの2人が熱中している”気”のレーダーは…作ったのこそクオンだが、長い間それに関わり続けているのは、私のせいかもしれない。
アサヒ…そうだとしたら、私のせいだ。すまない」
「…」
暗くてよく見えなかったが、アサヒには、カルマが悲しんでいるように感じた。
「…あ…いや…」
悲しそうにしている”少女”を目の前に、アサヒは少し慌てた。
「…カルマ…俺…親父とおふくろのこと、誇りに思ってるぞ?すげえことに関わってるってのは分かってるし。
別に俺は、寂しかっただけで…あっ」
思わず口がすべり、真っ赤になって頭を掻く。
「何でお前にこんな話してんだよ!フザけやがって…」
よく見ると、窓の外には日の出が浮かび始めていた。
「マジかよ、もうこんな時間じゃねーか!」
アサヒはそう言い、改めてカルマを見る。
日に照らされたカルマの顔は美しく、アサヒは思わず見惚れそうになった。
カルマはアサヒに、無表情で話しかける。
「そろそろ帰るか?」
「…え?あ、ああ」
アサヒは我に返り、腕で顔をごしごしと拭くと、
「…顔、洗ったらな」
と照れくさそうに呟いた。
アサヒがペットボトルの水で顔を洗うのをカルマは待ち、2人は太陽の光に照らされながら、クオンの家に向かって歩き始めた。
→「茜」