「久遠」





 次の日。
 カルマが外を覗くと、雨はまだ降っているが、昨晩のような嵐では無くなっていた。
 しかし…

 クオンとミクリヤは、黙ってテレビのニュースを見ている。
 今回の嵐で、各国に大きな被害が出ていた。
 建物の半壊、全壊。行方不明の人や、亡くなった人も居るとのことだ。
 カルマも、2人に並んでニュースをチェックした。
「…きっと大丈夫だよ」
 クオンがミクリヤの肩をポンと叩き、彼女にそっと話しかける。
「でも…まだ繋がらないの」
「きっと、停電してるんだよ」
 クオンがミクリヤを励ます。ミクリヤの顔は、蒼白だった。
 カルマは、小声でクオンに話しかける。
「…故郷か?」
「うん。僕はガト出身で、両親は昔、亡くなっている。とりあえず親類に電話したら無事だったよ。
 ミクリヤは…マイオウギ出身なんだけど。テレビで、彼女の街で被害が出たって言ってて。電話もまだ繋がっていないんだ」
 2人の会話は、ミクリヤには聞こえていない。
 彼女は目の前で手を組み、祈るようにテレビの画面を見ていた。
 そして…
 電話が鳴った。
 ミクリヤはガタンと音を立てて一瞬で電話の前に移動し受話器を取る。
「もしもし…?あっ…うん…大丈夫…」
 ミクリヤは、涙声になった。
「良かった…うん…そうなんだ。色々ごめんなさい…良かった。大丈夫よ…ありがとう…」
 ミクリヤは、静かに受話器を置いた。
 そして、静かに見守っていたクオンとカルマの方を振り返りながら言った。
「…ふふ。家出同然に家を飛び出して研究者になったのに、何やってるのかしらね、私」
 クオンは泣き腫らしたミクリヤに近付き、肩をポンと叩く。
「心配して当然だよ。家族だからね」
 ミクリヤは、笑顔でそう言ったクオンに笑顔で返し、真剣な表情になった。
「私…今から実家に行こうかと思ってるんだけど。どうしても両親の顔が見たくて…」
 ミクリヤのその言葉を聞き、クオンの表情も真剣になる。
 彼は、首を横に振って言った。
「今は危ないよ。まだ雨は降ってるし、被害状況が分からない。もう少し待とう。行けるようになったら、心配だから僕も付いていくよ」
「…うん。ありがとう」
 このクオンは、カルマが見てきた中で一番人間らしいクオンだった。
 カルマも2人に近付く。そして、申し訳なさそうに言った。
「私も行きたい気持ちはあるが…申し訳ない、ギルドの方が気がかりなんだ。私はホウテイに行こうと思っている。すまない」
 別にカルマが謝ることは何も無いのだが、そういう空気だった。
 ミクリヤは、くすりと笑って言った。
「何で謝るのよ?…ありがとう、カルマ。分かったわ。ギルドは、昔あなたも関わってたんだっけ?気になるわよね」
 ニュースでギルドは無事とあったが、聖域の情報が入ってこない。カルマはそこが気になっていた。
 3人は、一日中ニュースを見ていた。


 次の日。ようやく晴れた。
 ニュースで、被害状況が明らかになる。
 マイオウギの被害が一番大きく、建物が半壊、全壊した地域があり、行方不明の人や、亡くなった人が居るとのことだ。
 ガトとホウテイは、人々は怪我で済んでいるが、建物に大きな被害が出ているらしい。
 電車は、一部だけ運行を再開した。
 3人は、自分の目的地に行けるかどうかをそれぞれ確認した。
 クオンとミクリヤ。
「途中までは電車で行けそうだね、ミクリヤ」
「下車してからは、2時間くらい歩きになるけど…いいかしら?クオン」
「もちろん!」
 そして、カルマ。
「ホウテイまでは、電車が運行していたりしていなかったりしているな。途中は歩きになるが、距離的には問題ない」
 3人は、すぐに出掛ける仕度をする。そして、
「カルマ、気を付けるんだぞ」
「また後でね、カルマ」
「ああ。2人も気を付けろよ」
 3人はお互いに言葉を掛け、すぐに出発した。


 カルマは駅に向かいながら、街を観察していた。
 人々が、道路や庭を片付けている。半壊した家の前では、人々がざわざわとしていた。
 呆然としている人や、泣いている人も居た。

 カルマは、その風景1つ1つを目に焼き付け、駅に向かった。

 電車に乗った後は、電車の窓から風景を目に焼き付けた。
 途中からは徒歩になる。そこでも、街を観察しながら歩いた。

 それを何回か繰り返すうちに、ホウテイのギルドに到着した。
 ギルドは、ニュースでやっていた通り無事だ。
 出入口では、人々が行ったり来たりしている。魔物退治に加え、復旧作業を手伝っているのかもしれない。

 そしてカルマは、聖域の入口へ向かう。
 そこには、ギルドの関係者らしき人々が話をしていた。
 カルマはそこに居た男に、
「なあ…聖域は大丈夫だったのか?」
 と、街の人間を装って聞いてみた。
「大丈夫だったよ。いやー、ヒヤヒヤしたぜ。魔物や獣のことは、ギルドに任せておきな、お姉さん」
「そうか。ありがとう」
 カルマは男に一礼し、そこを去った。
 念のため、人目につかない所で意識を集中してみる。
 どうやら魔物が迷い込んだ様子も無い。聖域は大丈夫だろう。

 カルマは、ホウプたちと別れてからはギルドに立ち寄っていなかった。
 ギルドはもう安定しており、接触してやり取りをする必要が無くなったからである。
 今のギルド長は、「グゲン2世」という若者が就いているらしい。ホウプから直接ギルドを引き継いだのが、グゲンという名の男。
 グゲン2世は、その息子である。父の功績を一族で誇りにしているのか、同じ名前を名乗っている。なので、「グゲン2世」なのである。

 グゲンの息子なら信頼できる、とカルマは思っていた。

 カルマは目的を果たしたので、クオンの研究室に戻ることにした。
 カルマは歩き出した。
 被害が出た街、町、村を、目に焼き付けながら。










→「御厨」