「久遠」

・く‐おん〔‐ヲン〕【久遠】

長く久しいこと。遠い過去または未来。

ある事柄がいつまでも続くこと。永遠。「―の理想」






 1898年 某日。

 カルマは色々な研究所に関する書籍を読みながら、クオンの研究室に通っていた。
 そして、クオンがレーダーのソフトの作業以外に、何か別の作業をしていることに薄々気付き始める。
「クオン、それは何だ?」
 カルマは、レーダーとは違う作業をパソコンで行っていたクオンに話しかけた。
 クオンはパソコンから、ぱっと手を離す仕草をして言った。
「ごめんごめん!レーダーの方もちゃんと進んでるよ。これはね…」
 そして、今作業をしている画面を少しいじり、カルマにとある画面を見せる。
 そこには、人型をした機械の設計図があった。
「これは、”ロボット”だよ」
 クオンはカルマに説明した。
「僕は、前にも言ったけど元々は理数系でね。こっちの方が本業だったんだ。
元々、人型じゃない作業用ロボットの研究をしてたんだけど、最近になって人型のロボットに興味を持ち始めてね。何でか分かるかい?」
 当然、カルマには分からない。
 クオンはカルマの返答を待たずに続けた。
「カルマ、君を見たからだよ。自分の手で、神の遣いのような、不思議な力を持つ不老不死の人間を作ってみたくなってね」
「…!」
 カルマが明らかに不穏な空気を醸し出したので、クオンは慌てて訂正した。
「いや、今の言い方は誤解を生むな…まあ、カルマがカッコ良かったからカルマみたいなカッコイイロボットを作りたくなったってだけだよ。
神様がどうとかは全然考えてないから安心してくれ」
「…」
 カルマは迷った。
 自分が、人間の歴史に与える影響…
 カルマは出来れば、あまり人間に干渉したくない。それは、自分が”神ががった力”を持つからだ。
 魔物に関することだけは干渉しようと心に決めてからはそうしていたが、
 このロボットに関する話は、人間への干渉に該当してしまうことだろうか?
 クオンが、カルマの影響で人型ロボットを作り始めたことによって、歴史は大きく歪曲してしまわないだろうか?と。
 考え込むカルマを見て、クオンは決意をした。
「人型ロボットを作っても、それをどこかに流用したり大量生産したりはしない。約束するよ、カルマ」
 クオンは、カルマが考え込んでいる理由を察していた。
 クオンは神の遣いとしてのカルマを崇拝しているが故に、カルマを裏切るようなことは絶対にしたく無かったのである。
「…分かった」
 カルマは渋々と納得した。
 クオンが約束を守ってくれれば、そこまで歴史に大きな影響を与えることは無いのではないか?
 少なくとも、無理矢理やめさせるほどの影響が起こることを証明できないのだ。
 クオンは「ありがとう」と礼を言い、話題を変えた。
「カルマは、長く生きていることへの不満は無いかい?」
 クオンの質問に、カルマは答える。
「無い。罪人を倒すために必要だからな」
「君には心があるよね?それは何故だと思う?」
「心があるといっても、人間より薄いがな。罪人を倒すための情報を集めること、
その都度必要になる判断のために考えたり、悩んだりが必要になる。そのために私には心がある、と思っている」
「…なるほど。ただ長生きするだけじゃ、可哀想だもんな…やっぱ、目標が無いとダメなんだね。
じゃあカルマ、君は勉強をよくしているけど、やっぱり勉強って大事だと思う?」
「もちろんだ。何故なら…って…お前」
 カルマは、クオンがカルマの言葉をメモしていることに気が付く。
「お前…ずるいぞ」
 カルマはそう呟き、クオンから目をそらす。クオンは、人型ロボットを作るための情報をカルマから引き出していたのだ。
「えっ何で?質問に答えてくれたのは君じゃないか」
 あっけらかんと言い放つクオンを尻目に、カルマは研究室を出た。
 クオンはカルマの後ろ姿に、
「カルマ、また来てねー!」
 と明るく言った。
 確かに、レーダーのことがあるので来ない訳にはいかないのだが。


 ある日。今日は嵐だった。
 カルマがいつも通りクオンの研究室を訪れると、クオンはパソコンでレーダーのソフトの作業に集中していた。
 カルマが来たことにも気付いていないようだ。カルマが横からパソコンの画面を覗くと、クオンはようやくカルマに気付く。
「あっ…カルマ!ついにソフト完成だよ!!今ディスクに落としてるから、ちょっと待ってね」
 クオンは、ソフトの最終作業をしていたのだ。
「…そうか」
 カルマは声を漏らす。この日が来るのを待っていたのだ。
 ついに作業は終わり、クオンはディスクを取り出すと、それをカルマに渡した。
「はい、カルマ。お疲れ様」
「…それはこちらのセリフだ。クオン、本当にありがとう」
 関係の無いことに巻き込まれもしたが、カルマはクオンに素直に感謝していた。
 クオンは自分の胸に手を当て、カルマの言葉を噛みしめる。
「くう…っ…胸に沁みるよ…!25年生きてきて、1番の感動だ…やった甲斐があったよ。あっ、ギルドにも渡すんだった」
 クオンは、改めてカルマと向き合う。
「カルマ、もうここには来なくなるのかな…?」
「ああ。これが目的だったからな」
 クオンは、寂しそうに笑いながら言った。
「また、いつでも来てくれよ。君なら用が無くたって大歓迎さ」
「…ああ」
 カルマは理由も無く人間とは関わらない。とりあえず、社交辞令でそう答えただけだった。

 その時。ずぶ濡れになったミクリヤが、研究室に飛び込んで来た。
「もう、すごい嵐…!あっ、カルマも来てたのね」
 ミクリヤはタオルで体を拭きながら、カルマに笑いかけた。
 今日は大陸全土に嵐が来ている。それは、予報では夜になるにつれてどんどん勢力を増す、とのことだった。
 カルマは、ミクリヤにも礼を言った。
「ミクリヤも、今までありがとう。私はこれで失礼する」
 それを聞いたミクリヤは、カルマの両肩をがしっと掴んで言った。
「外は凄い嵐よ。これからどんどんひどくなるわ。今日は、ここに泊まっていきなさい」
 確かに、嵐が凄くなれば電車なんかも止まるかもしれない。カルマはここから直接、森の中の拠点に帰るつもりだったのだ。
 途中で宿を取る手もあるが、それならここに泊まった方が余計な手間を掛けずに済むかもしれない。
「…確かにそうだな。申し訳ないが…1日世話になってもいいか」
 カルマのその言葉に、クオンは顔を輝かせる。
「そうだよ、そうしなよ!!ミクリヤが使ってる休憩室に寝る所や水回りがあるから、そこに泊まるといいよ!」
 カルマはクオンの勢いを見て少し面倒な気持ちになったが、ここは素直に泊まることに決めた。


 嵐は、予報の通り夜になるにつれて激しくなっていった。室内に居ても、雨の音で目が覚めてしまうほどであった。
 そして嵐は…大陸から、様々なものを奪っていった。