「業」





 坑道はもう使われていなかったのだが、今回の依頼のために依頼主が電気を入れてくれたので、坑道内は少しだけ明るかった。
 今のところ魔物は現れていないので、5人は再び話し始める。
「なあ、カヤ」
 ホウプが、カヤに話しかけた。
「俺たち、外の国から来たんだぜ。凄いだろ」
「やはりそうか。金髪は本の中でしか見たことが無いからな。名前も外来語だろ」
 ホウプは笑いながら頭を掻いた。
「まあ、バレてるよなそりゃ」
 そう、この4兄弟は、大陸の外の国からやって来たのだ。
 金髪はこの大陸の人間にはおらず、バース・ホウプ・ライク・ドリームという名も外の国の言葉である。
「何をしに来たんだ?」
 カヤは、何となく聞いた。
 その問いに答えたのは、バース。
「開拓をしたかったのよ、未知の土地に行って。その土地の文化に触れたり、自分たちの文化を伝えたり。
そして新しいことを始めたりしたいのよね」
 彼らは、開拓者だった。
 ホウプが続ける。
「ま、今はとりあえず、とっかかりとして賞金稼ぎしてる訳だが。その中で、何かを始めるきっかけを探してる日々だな。
いずれは、大陸の東にあるとされる島々にも手を広げるつもりだ」
 話の途中で、再び魔物が現れる。4兄弟は剣を構えた。

 歩きながら話をして、魔物が現れて。坑道の中では、その繰り返しだった。

 ある時、またホウプがカヤに話しかけた。
「…お前、本当に戦えないのか?」
「?」
 無表情のままホウプを見たカヤの体を、ホウプは何となく眺める。
 そして、歩きながらカヤの顔を覗き込んだ。
「魔物が現れた時のお前の殺気と身構え方…熟練者の俺だから分かるが、お前タダ者じゃないだろ。本当は戦えるんじゃないか~?」
「…」
 カヤは何も答えなかった。が。
「まあ、だからって女の子に戦えとか言わないけどな、俺は」
 ホウプが勝手に自己完結し、会話は終わった。

 何度か魔物と戦った後、今度はドリームがカヤに話しかけた。
「ねえねえ、神の遣い・カルマって知ってる?」
「…」
 カヤは一瞬ぴくっと反応したが、無表情のまま答えた。
「話には聞いたことがある」
 ドリームはカヤの反応を聞いて、続けた。
「この前文献で読んだんだけど。”カルマ”って、あたしの国の言葉だから気になったんだよねー。
この大陸だと、本の中の物語にしか出てこない言葉でしょ?何でだろ、と思って」
 大陸には、昔、外の国から伝わった物語という物が幾つか存在する。
 それらは本となり、人々に読まれていた。
 カヤは無表情のままドリームに尋ねる。
「何で急にそんな話をするんだ」
 するとドリームは、先程のホウプのようにカヤの体を何となく眺めた。
「いやー…文献のカルマにそっくりでさ、カヤが。それで思い出して」
「私はカルマでは無い」
 カヤは間髪入れずそう言い放ち、正面を向いて歩いた。
 ドリームは、カヤの横を歩き続ける。
「だからー、似てるって言ったんじゃん!本人だなんて思ってないよ、さすがに」
 ドリームは笑いながらそう言った。


 何時間か経った頃。
 ついに、坑道の奥地へと辿り着いた。つまり、坑道内の魔物を全て退治し終えたということだ。
「終わったわね、さて…」
 バースのこの言葉終わりの合図となり、「さて…」で皆一斉にカヤを見た。
 カヤは、奥の光の射す方を見ていた。カヤは皆に言った。
「ここまで、ありがとう。私はこの奥に用がある。皆は先に帰っていい」
 それを聞いたホウプは、首を横に振って言った。
「いや、ここまで来たら付き合うぞ。折角だしな」
 ドリームも、それに続く。
「そうだよ。一緒に行こうよ、”カルマ”!」
「…?」

 ドリームは、カヤを”カルマ”と呼んだ。

 カヤは再び間髪入れず否定する。
「カルマでは無いと言っただろう」
 それを聞いたドリームは、うんうんと頷いた。
「分かってるってば。あだ名のつもりで呼んだんだけど」
「…」

 カヤと名乗ったこの少女。
 この少女は、”神の遣い・カルマ”。本人だった。

 髪は赤褐色。その少し長い髪を1つに結い、服は主に青と紺。そして腰に1本の剣を下げている。
 カルマは、偽名を使って活動していた。
 今の目的は、4人に自己紹介をした時に言ったように、秘境を探すことだった。
 そして秘境を探すことと魔物の存在には、大きな関係があった。

 坑道の奥へは、5人で向かうことになった。光の射す方へ向かうと、坑道の出口が。射していた光は出口の光だったようだ。
 そして、出口を出ると…。
 そこには、とても美しい草原と木々が広がっていた。
 端は崖になっており、崖の先には美しい海原が広がっている。
 草原は1つの街がすっぽり入りそうな広さがあり、360度鉱山と海に囲われていて、まさに秘境の名にふさわしい場所であった。
 カルマは一通り見渡し、
「これでいいか。これでいい」
 と、小声で呟いた。そして、
「無事秘境が見つかった。帰るぞ」
 そう4人に言った。
 バースも満足そうに皆に号令をかける。
「さあ、それぞれ目的を果たしたし、帰りましょう」
 皆頷き、魔物の居なくなった坑道へ戻って歩き始めた。


 5人は酒場に戻り、4兄弟は依頼主から報酬を貰った。
 ホウプは伸びをしながら、カルマの方を見る。
「なあ、カルマ。これからどうするんだ?」
 既にドリーム以外も、ドリームの言うところの”あだ名”でカルマを呼んでいた。
 カルマはもういちいち気にしていなかった。無表情で答える。
「新たにやることが出来た。ここでお別れだ」
 ドリームはカルマの手を取って言った。
「また機会があったら会いたいね!」
 カルマは少し考えた後、
「…ああ、そうだな」
 と、適当に答えた。
 カルマは4人に軽く会釈をし、酒場を出た。これから、やることがあるのだ。


 数日後。
 4兄弟は酒場で、再び先日の依頼主に呼ばれた。
 依頼主の話は、こうだった。
「真夜中、天の坑道に入っていく魔物を見たんだ…」
 4人は顔を見合わせる。
「魔物があそこを選んで、自分から入っていったってことか?」
「とりあえず、見に行ってみましょう」
 ホウプとバースの会話の後、4人はすぐに天の坑道へ向かった。


 4人が天の坑道へ向かって山道を歩いていると…
 坑道の前に立っている人影を見かける。
 カルマだ。
 4人が坑道の前に近付くと、カルマもこちらに気付いた。
 ホウプは笑いかけたが、すぐに眉をひそめる。
「よおカルマ、また会ったな。秘境に行くのか?魔物がまた入ったかもしれないから、やめといた方がいいぜ」
 カルマは4人の顔を見回し、少し考え込む。
 4人はカルマの様子を見て、返答を待った。
 しばらくすると、カルマはこくんと頷き、口を開いた。
「今、実験をしていたんだ。このままなら上手くいきそうだ。
天の坑道の依頼の難易度を考えると、ここに近づくのはお前たちくらいだろうな。だから、1つ頼みがある。金も払う」
 これは、カルマからの依頼だろうか。4人は身を乗り出した。
 しかしそこで、バースが我に返った。
「今、別の依頼主からの依頼もあるのよね。内容によるわ。とりあえず、話だけ聞かせてくれる?」
 丁度、ここなら誰にも盗み聞きされずに済みそうだ。
 カルマは、話を始めた。
「獣は、空気中に漂っている”気”に侵され続けると魔物になってしまうようだ。魔物は人間を積極的に襲う。
私は、魔物になる前のおとなしい獣を、”気”が漂っていない秘境に閉じ込めようとしている。
そうすることで、人間を襲う魔物の数を根本的に減らすことが出来るし、獣の生態系も保つことが出来る」
 そう。カルマは長い間、魔物への対処法を考えていたのだ。
 そして、これが今出来る最善の方法だと考えた。
 カルマは罪人が現れるまでに出来ることを考えていた。
 魔物の存在は、ある意味罪人より脅威だった。
 何故なら…カルマの手で殺めていいのか、殺めてはならないのかが、分からない存在だからだ。










→「希望」