「希望」

・き‐ぼう〔‐バウ〕【希望/×冀望】

あることの実現をのぞみ願うこと。また、その願い。「みんなの―を入れる」

将来に対する期待。また、明るい見通し。「―に燃える」「―を見失う」

文法で、1の意を表す言い方。動詞に助動詞「たい」などを付けて言い表す。






 1865年 某日。

 バース、ホウプ、ライク、ドリームの開拓4兄弟は今、酒場に居る。
 4人で机を挟んで食事をしていた。
「…で、どうするよ?」
 ホウプが、そう皆に尋ねた。
「どうするも何も、やることないでしょ?」
 口数の少ないライクが、珍しくホウプに答える。
 カルマの話は、こうだ。

―「私は1人で、獣を秘境に連れ出す作業を続ける。でも人々にそれを見られると、獣と魔物の区別がつかず、また魔物が出たと誤解する。
だから、お前たちは依頼主に、天の坑道の魔物を定期的に退治する約束をしてくれないか。
獣を見られるたびに、お前たちが退治したことになればいい」―

 カルマに言われた通り、4人は依頼主にその話をした。
 つまり、実際に退治する訳ではないので、もうこの話は終わったのだ。
「いやー…何かよぉ…」
 ホウプのその言葉の続きを、ドリームが言った。
「手伝って欲しい、だと思ったのにねー。本当に1人でやる気なのかな?」
 ホウプとドリームが気にしていたのは、そこだった。1人の少女が、あのような大掛かりな作業、1人でやるものでは無いだろう。
 そこでバースの一言。
「私たちはお金目当てで依頼をこなしてるんじゃないのよね。経験が欲しいだけで。そういう意味では手伝いたいわ」
 ホウプとドリームの顔が輝く。長女バースの決断は、4兄弟の中では大きいのだ。
「…そう。皆が決めたなら僕もそれでいいよ」
 先程素っ気なかったライクも、納得したようだった。
 話は、まとまった。


 真夜中。
 4人は天の坑道の前で、獣をまた1体秘境に送ったカルマを待ち伏せした。
 しばらくして、坑道の奥からカルマが現れる。
 カルマは4人に気付いても、表情を変えなかった。
「どうした?」
 そう尋ねたカルマに、ホウプは笑顔で意気込んだ。
「なあカルマ。その作業、俺たちも手伝うぜ!」
「いや、いい」
 即答だった。
 しかし4人には、この返答は予想できた。何となく、カルマは自分の考えをそう簡単に変えるタイプでは無いと感じていたからだ。
 だからこそ。
「俺たち、手伝いたいんだよ。お願いだ、手伝わせてくれ…!」
 ホウプは懇願した。カルマを説得するのだ。
 それでもカルマは、
「気持ちはありがたいが、これは私1人でやりたいんだ」
 と、引き下がらなかった。
 バースは、カルマの言葉の言い回しに注目する。
「自分1人でやりたい理由があるのかしら?それを聞いてからよ、話は」
 4人が思ったよりも引き下がらないので、カルマも素直に理由を話す。
「これは、私1人でやらないとならないんだ。私の問題…だからな」
 すると…
 先程まで笑顔だったホウプの表情が一変する。
 ホウプは、真剣な表情で言った。

「カルマ1人の問題?どこがだよ。魔物のことは、人間全員の問題だろ。人間全員で立ち向かわねーと解決出来ないんだからよ」

「…」
 今まで無表情だったカルマの表情が、一瞬だけ驚きの表情に変わった。
 4人は、カルマの返答を待った。
 カルマは無表情に戻りしばらく考え込む。そして…
「…分かっている。分かってるよ。ここまで呪いが広がってしまえば、もう私1人の力で抑えきれないことぐらい。
何をしても矛盾ばかりになる。だからこそ、その都度最善の方法を選んでいくしかないんだ。私が生きているかぎり、な」
 それは、1人ごとのようでもあった。
 しかし…
 その1人ごとが、4兄弟に火をつける。
 ホウプは、カルマの手を取った。
「カルマ、いったん酒場行こうぜ!話するぞ。このままだと、人間は増え続ける魔物に滅ぼされちまう。それは困るだろ?」
 そのホープの言葉に答えずにいるカルマに、今度はドリームの一言。
「カルマってやっぱり神の遣いだったんだね。ねえカルマー、私たちに、天の坑道に関する依頼してるじゃん?
それ、お金返すから話することと交換条件にしようよ。ダメなら破棄するよ?困るでしょ?」
 カルマは、答える前に、
「…お前たち、何でそこまでするんだ」
 と聞いた。
 それに答えたのは、バース。
「ホウプとドリームは、あなたが心配っていうのと、皆で協力して乗り越えたいって気持ちかしらね。
私は、大きなことをやることに興味があるから協力したいわ。そしてライクは、私たち兄弟の決断をいつも尊重してくれるの。
という訳で決まりね。さあ、酒場へ行きましょう」
 今回も、長女バースの言葉で話がまとまった。
 カルマは、観念した。
「…仕方ない。分かった」
 どちらにしろ、4兄弟の手を借りなければ作業は続行出来ないのだ。
 5人は山道を下り、いつもの酒場へ向かった。


 5人は酒場で、机を囲っていた。
 カルマが話し始める。
「呪い…それは、人外の力だ。人外の力によって、獣は次々に魔物になってしまった。
過去に人間が呪われたことがあったが、それらはすぐに呪いから解放することが出来ていた。
しかし、呪われた獣…魔物は倒すしか方法が無い上に、どんどん増え続けている。
そして魔物という人外の力と、人間は戦っている。人外の力によって人間の運命が変わってしまっている。
つまり、”神がかった力”によって人間が支配されてしまうのと同じなんだ。
私は、人間の歴史は人間同士で紡ぎ合うべきだと考える。人間の問題は人間で解決、それが私の考えだ。
私の考えという意味で、これは私の問題だ、と言った」
 先程カルマが「私の問題」と話したことについてだろう。
 そして今度はホウプが話し始める。
「だが、魔物が増えていることに関しては、人間の問題。そうだよな、カルマ。だからさっき、”何をしても矛盾ばかりになる”って言ったんだろ?
魔物のことは自分だけで何とかしたい。でも、1人では対処しきれずに、結果人々が魔物と戦うハメになってる。
だからって、他の人間に協力を頼むと自分の判断で人間を巻き込んじまう。どちらにしろ、人間は魔物と戦わなければならないんだよ」
 カルマは、まっすぐホウプを見つめながら頷いた。
「そうだ。全くその通りだ」
 そう認めたカルマに納得し、ホウプは続ける。
「俺は、カルマのやっている獣を秘境に閉じ込める作業を、もっと大勢でやるべきだと思う。
どうだ?それは、カルマの言った今の”最善の方法”じゃないか?」
 まさに、そうとしか思えなかった。
 その時。ホウプの意見を聞いたドリームが、思いついたように具体案を出した。
「ホウテイの首相に話してみる?それで、その作業をする専門の組織をあたしたちで立ち上げる許可貰おうよ。
それでメンバー募れば、賞金稼ぎいっぱい居る国だし人数も揃うかもよ。人数揃ったら、魔物退治専門組織にしてもいいし」
「それだ!」
「あら、楽しそう。いいわね」
 ホウプとバースが、ほぼ同時に言った。
 そしてドリームは、カルマに確認を取る。
「カルマ、いいよね?」
「…」
 もう、どちらにしろ人間は巻き込まれるのだ。今は最善な方法を取るしかない。
 しかし、カルマは答えなかった。
 何で答えれないのか、4人には分かる。カルマは独自の考えを持っている。自分の口から、人間を巻き込むようなことを言えないのだ。
 バースは立ち上がり、
「さあ3人とも、行きましょう、政府に」
 と、号令を掛ける。ホウプ、ライク、ドリームはすぐに立ち上がった。
 そして、黙っているカルマを横目に酒場を出て行く。
 ホウプは立ち止まり、
「止めないんだな。いいのか?」
 と、再確認をする。
 カルマはすぐに答えた。
「人間の決断を、私は否定しないから止めない」
 これは、まさに理屈だ。自分は人間を巻き込みたくない。だが人間が決めたから止めない。
 そうすることで、カルマは自分を納得させたし、4人もその方法でカルマを納得させたのだった。
 このままでは、いつか人間が魔物に滅ぼされるかもしれない。4兄弟の決断は、今出来る最善な方法そのものであった。