「学理」





 次の日の昼頃。
 まだホウテイに残っていた、呪われたホウテイ兵たちが、ホウテイ方面からガトへ向かって行進していた。
 ガクリの作戦の全貌は、1軍でガトの城を制圧。2軍でガトを本格的に奪ってからガクリがガトへ向かうという物だった。
 1軍の制圧が先日の襲撃だ。そして今日、2軍がガトを本格的に奪いに来たのだ。

 しかし、ガトはこの時を待っていた。

 ホウテイの前にある、高台の上に居るガクリの後ろに、カルマは居た。
 何故ここにカルマが突然現れたのか。

 カエデとキリュウは、迷路状になっている坑道の構造を、2人で完璧に理解した。
 そしてその間に、カルマはガトに居るホウテイ兵から、作戦の全貌とガクリがどのあたりに居るのかを聞く。
 2軍が行進した直後のガクリが孤立している間に、カルマはガクリに接触したかった。
 ホウテイへ街道がある正面から攻めると、ホウテイから丸見えだとソクラは言っていた。
 そこで、例の坑道だ。
 ガクリが居ると聞いた高台へ出るように、カエデとキリュウはカルマを案内した。
 そしてカルマは見事、作戦通りガクリの元へ辿り着いたのだった。

 カルマは、ガクリを見て安心した。
 間違い無い。罪人の気配を感じる。
 カルマは、深い邪気を纏いふらふらとしているガクリに、一撃大きな打撃を喰らわせる。
 ガクリの中から罪人(つみびと)が現れた。

 カルマは気付いた。
 罪人の体力は、数十年前から一切回復していない。

 神は「回復するまで力を蓄えている」と言っていたが、罪人の体力は回復していなかった。
 今回で仕留められるかもしれない。カルマは剣を抜いた。
 剣は光り輝き、カルマは罪人に攻撃を仕掛ける。
 カルマの攻撃に触発されたかのごとく、罪人もカルマに攻撃を仕掛けてきた。
 罪人の放った衝撃波をカルマはひらりとかわす。
 衝撃波は、以前よりも力が増していた。罪人は神の言った通りとするならば、”力”の方を蓄えていたのだ。
 カルマは最初の一撃以外は攻撃を仕掛けなかった。そう、カルマには目的はあったのだ。
 罪人は、中途半端に攻撃を加えると空気中へ逃げてしまう。
 カルマは力を溜めていた。
 そして、次々と攻撃を繰り出してくる罪人に生まれた一瞬の隙に、罪人の心臓にあたる部分を、蓄えた力を一気に解放して一突きした。
 この心臓部分から大きな”気”を感じていたのだ。これで仕留められたはずだ。

 しかし…
 あの時と同じように、罪人の体は闇に包まれ、大気中に拡散されてしまった。

「…くそっ…!!」
 一撃で仕留められなかった。
 しかし、カルマはもう次のことを考えていた。
 罪人への攻撃は蓄積する。時間はかかるだろうが、いずれ倒せるだろう。
 本当は今回で最後にしたかったが仕方ない。
 今回の方法で仕留められないということは、罪人を一撃で仕留めるということ自体が不可能ということなのだ。

 カルマが、ふとガクリの方に目をやると、ガクリはカルマと罪人の戦いを見ているようだった。
 カルマは見られていたことを好都合と考えた。
「ガクリ、見ただろう。今回の戦いはお前の意志では無い、お前は憑りつかれていたんだ。
今回の戦いに関して、お前には罪は無い。戦いはこれで終わりだ」
「…そうか」
 そう静かに答えたガクリにカルマは納得し、その場を去った。
 罪人が居なくなれば、もうカルマがやるべきことは無いのだ。
 そこへ…カエデとキリュウが現れる。
 カエデは微笑んで、ガクリに言った。
「この戦いは仕組まれていました。あなたは悪くありません。さあ、終戦協定の準備をしま…」
 カエデの言葉はそこで途切れた。
 ガクリが、剣を構えていたからだ。
「…ガクリ、戦いは終わったわ」
 カエデの言葉に耳を貸さず、攻撃を仕掛けて来たガクリの剣を、キリュウが剣で止める。
「おいおい、呪いは解けたんじゃ無かったのか?」
 キリュウと鍔迫り合いになったガクリは、カエデとキリュウに言い放った。
「…私を倒さなければ、戦は終わらんぞ?」
 キリュウとガクリは押し合い、2人は後ずさる。
 カエデは叫んだ。
「どうして!?もう終わったのよ。何が目的なの!?」
「私が生きていれば、また戦を起こすぞ!!」
 ガクリもカエデに対し、大声で叫ぶ。
 何度も剣を交わすキリュウとガクリ。そして剣を交わすうちに、キリュウはガクリが何をしたいのかが何となく分かってきていた。
 キリュウは、ガクリに言った。
「…俺は、キリュウ。ガトの元軍師・ソクラの孫だ。俺で満足出来るか?」
「…」
 ガクリの目に、闘争心が宿る。それは、光り輝いて見えた。
「再びソクラと戦えるとは…!これだ、私が求めていたのは!!」
 2人は再び、剣を交えた。

 しばらくして…
 戦いの終わりが見えて来た。明らかに、キリュウが有利だった。
 それはそうだろう。ガクリは軍師であり、兵士では無い。その上、年が年だ。
 しかし、ガクリはいつまでも倒れなかった。
「私を殺せ、キリュウよ…私を殺さなければ、戦は終わらん…ぞ…」
「…もう、よせよ、あんた。勝負あっただろ。俺にはお前を殺す理由なんて無いぞ」
 もうガクリを攻撃する気の無いキリュウに向かい、ガクリは尚叫んだ。
「私を殺せ!!!さもなくば、私がガトを滅ぼす…」
 ガクリの言葉はそこで途切れた。

 カエデが槍で、ガクリの脇腹を突いたからだ。

「ぐは…っ」
 ガクリは崩れ落ちた。
 キリュウは剣を収める。
「…カエデ…」
「…大丈夫。致命傷じゃない。黙らせただけよ」
 カエデは、肩で息をするガクリに近づいた。
「今の一撃で戦は終わりました。もう勝敗に関係無く、時代は平和に向かって進み出したのです。もう諦めなさい…これで戦は終わりです」
「…甘い…甘いな」
 ガクリはそう言い、静かに喋り始める。
「私は…古い人間だ。戦うことでしか…生きる喜びを、感じられないのだよ。人生を、戦いに捧げて来た…
戦いのために、様々なことを学んで来た…そして…ソクラも、同じ考えを持つ人間だと思っていたが…違ったな。
奴は、平和のために戦い、学んで来たのだ」
 ソクラは、自分の胸に剣を突き付けた。
「平和になるのなら、もうこの世に用は無い。再び戦う機会があって本当に良かった…
ガトとホウテイは私を切り捨てて前に進むべきだ。戦いの中散ることが出来て、私は幸せだ…」
「!!やめなさい!!!」
 カエデの叫びも虚しく…
 ガクリの剣は、ガクリの胸を貫き、ガクリは命を落とした。
 涙を流すカエデの肩に、キリュウはそっと手を置く。
 カエデが泣き止むまで、しばらくそうしていた。

 カルマは、別の高台からこれらの様子を見ていた。
 今回も、止めるべきかどうか、カルマには分からなかった。
 罪人と自分が居るかぎり、このようなことが繰り返されるのだろうか?
 カルマは、罪人を倒す決意を新たにしたのだった。


 呪いが解けた行進中のホウテイ兵たちは、ガトから現れたホウテイ兵により行進をやめる。戦は、ついに終わった。
 その後、ガトとホウテイは無事に終戦協定を済ます。
 ここに、転区:ホウテイが誕生した。
 ついにガトとホウテイに平和が訪れたのだった。