←
キリュウとカルマは、1軒の石の家の前に来た。
聞こえる。
「…なのよ!!…じゃダメなの!!」
聞き覚えのある声が、家の外まで…
2人は家の中に入った。
そこには、机を挟んで1人の老人と、見覚えのある後ろ姿が。
「民間人に犠牲が出てしまったら元も子も無いの!」
大声を出す後ろ姿の少女に、カルマは話しかける。
「…カエデ、何をやっている?」
「えっ!?」
少女…カエデは、カルマの方を振り返った。
「カ、」
カエデは目に涙を溜める。
「カルマ!!!無事だったの…!!」
カエデはそのまま、カルマに抱き付いた。
カルマはカエデを慰めるでも無く、眉をひそめて耳元で囁いた。
「…名前で呼ぶな、全く…」
「ご、ごめんなさい」
一応、カルマが”神の遣いカルマ”であることは2人だけの秘密になっている。
カルマが用のある人物であろう老人を見ると、老人もカルマを見ていた。
キリュウが紹介する。
「この人が、元ガトの軍師、そして村の村長でもある、ソクラ」
「よろしく。あなたの名前は?」
キリュウに紹介された老人・ソクラは、カルマの名前を聞いた。
カルマは、
「ただの旅人だ」
と答えた。
そして、余計なことを聞かれる前に本題に入る。
「あなたはホウテイに詳しいようだな。私は1人でホウテイに忍び込みたいのだが、ホウテイの情報が少ないから行くに行けないんだ」
それを聞いたソクラは、ふぉっふぉっと笑った。
「無謀な少女が2人…少し落ち着け、死に急ぐな」
2人とは、カルマ、そしてカエデを指していた。
カエデが反論する。
「死に急いでいるのは私では無くて、ソーシ村の方々では無いの?民間人が戦に出るだなんて無謀だわ」
先程、大声を出していた話の続きだろう。
ソクラも答えた。
「戦に出るといっても、ホウテイ兵を陽動するだけじゃよ。ガトの兵士になりすまして、ガト襲撃が失敗したように見せかけるんじゃ」
「戦いになって、死人が出るかもしれないのよ??」
「彼らも覚悟はしておる。しかしうちの自衛軍は強いぞ、見くびって貰っては困る」
カルマはこっそり、キリュウに質問した。
「自衛軍とは?」
「ソーシ村の自治体だよ。狩りをしたり、獣から村を守ったりしてきたんだ。俺もその一員さ」
カルマは再び、カエデとソクラの話に耳を戻した。
カエデの声が、少し弱くなる。
「そんな…民間人が戦うだなんて、聞いたことが無かった…!」
「そうじゃ、聞いていないだけじゃろう。民間人も戦う時は戦うぞ。姫は賢そうじゃが、外の世界など見たこともなかろう。無知なのも仕方ない」
「…!」
カエデは、”無知”という言葉に衝撃を受けた。
「…私が…無知…」
知識に自信があったカエデには辛い言葉であった。
すっかり黙り込んでしまったカエデを気遣ってか、キリュウがソクラに話しかける。
「なあ、途中でごめん。今日、また凶暴化した獣を倒したぞ」
「そうか」
カエデは、その話にも反応を示した。
「そうだわ、獣を倒すために軍を配置する要請を各町村にしたのだけど、ソーシ村を始め受け入れてくれない所があったわ。それは…」
「それは、自衛軍があるからじゃ。他の町にも、ある所はあるじゃろう」
ソクラが即答する。
カエデはうつむいた。
「…私は…小さい頃から、ガトの軍が承区:ガトの民を守るんだと教えられて来たわ。
戦はガトの都とホウテイの戦いで、町や村は巻き込まれなかったから守る機会が無くて。獣の騒ぎで、やっとこの機会が来たと思ったの…
でも、町や村の方々はずっと狩りをしたり、今回の獣の騒ぎにすぐに対応出来たり、自分たちの戦いをしているのね。
私が…”私たち”が知らなかっただけで」
”私たち”とは、王や王妃、軍も含めてのことだろうか。
ソクラは再び口を開く。
「王や王妃が我々民を思って下さるのは、本当に有難いことじゃ。
だが、なかなか私たちの話は聞いてくれん。こちらにも意見があるというのに」
「…」
カエデはうつむき、
「…少し、考えさせて。ごめんなさい」
と言って、部屋を出ていった。
話が途切れた隙に、カルマはソクラに対して、カルマにとっての本題に入る。
「自衛軍を出すということは、ガトに加勢するのか?」
「そうじゃ。我々は承区:ガトの民。ガト陥落は見ておれんし、姫の力にもなりたい」
カルマは再びあの質問をした。
「ホウテイについて、分かることを教えて欲しい。私は敵に突っ込む訳では無い、ちゃんと策はある。
うまくいけば、あなたたち民が戦に出る必要はなくなる」
ソクラは少し考え込んだが、やっと答える気になったようだった。
「策も、ちゃんと聞かせてもらうぞ。それなら話す」
「ああ、約束する」
カルマは、ソクラの目を見て頷いた。
ソクラは言った。
「ホウテイは、街は1か所にまとまっておる。そして周りには鉱山だらけじゃ。
だが、街道の方向は地下に坑道があるだけで視界は開けていて、こちらから近付くと丸見えじゃな。
こちらから攻める場合は、相手に丸見えであることを前提に攻めるしかあるまい。もしくは…まあ、これは後で話そう」
後とは、カルマの策を聞いた後のことだろう。
カルマは頷き、もう1つの質問をした。
「”ガクリ”という人物を知らないか?」
「…ほう」
その名を耳にしたソクラの目の色が変わる。
「懐かしいのう。ガト対ホウテイとは、ソクラ対ガクリでもあった…ガクリとは、ホウテイ軍の軍師じゃ」
ガクリは、カルマがガトの城で耳にした人物の名だ。これでつじつまが合う。
ホウテイの軍師であるガクリに罪人が憑りついたために、今回のようなことが起こったのだ。
ソクラは続けた。
「私は年で軍師をやめたが、あちらはどうかのう…その名前が出るということは、まだやっているということか?
あやつがこのような卑怯な作戦を立てるとは考え難いが…」
敵対していようが、旧知の仲でもあるようだ。
「さて、旅の者。あなたの策とは?」
今度は、ソクラがカルマに聞く番だ。
「…」
カルマは迷った。
ここまで来れば、ある程度のことは話さなければならない。しかし、神の遣いであることが分からないように、どう掻い摘んで話すべきか…
「カルマ、全て話しましょう」
それは、再び部屋に入って来たカエデだった。
「ごめんなさいカルマ。私たち、皆で協力して作戦を成功させるべきよ。
もう悩んでる場合じゃない。ソクラさん、キリュウ。彼女は神の遣い・カルマよ」
キリュウは驚いたが、ソクラは納得したように頷いた。
「やはりな。姫が最初に”カルマ”と呼んだ時に、そうではないかと思っていたんじゃ」
ソクラは長く生きている。カルマのことを耳にしたことがあったのだろう。
カルマは観念した。
「…そうだ。私は神の遣い・カルマ。そして、ガクリは恐らく罪人に憑りつかれている。
私がうまく奴に接触出来れば、この戦いが終わる。では、策の話をしよう」
「まあ待て」
カルマの話は、ソクラによって遮られた
「今は朝だ。皆で朝食を食べよう」
「…は?」
カルマはきょとんとした。
「今はそんな事をしている時間は…」
「時間が無いのか?」
ソクラにそう聞かれ、カルマは答えられずに居た。ホウテイ兵の呪いが解けるまで待たなければいけないのは事実だ。
ソクラはにっこりと笑って言った。
「よし、食べよう。キリュウ、今日は隣のお姉さんが朝食を作る番じゃったな、持ってきてくれ。子供たちも呼ぼう」
この村には、朝食に関して何らかの決まりがあるようだった。
キリュウは「ああ」と言い、家を出て行った。
カルマに、カエデが近づく。
「神の遣いも、食事をするの?」
「…ああ。体は普通の人間だからな」
観念して答えたカルマに、カエデは久々に笑顔で、
「そう!じゃあ一緒に食べましょ!」
と言った。
カエデの目には隈があった。ほとんど寝れなかったのだろう。
それはそうだ。城があのようなことになり、両親が捕虜にされ、従者が死んだのだ。
しかしカエデは前を向きたかった。まだ終わりでは無いからだ。
カルマ、カエデ、キリュウ、ソクラ、そして先程の子供たちで食卓を囲った。
子供の1人が、食べながらキリュウをからかう。
「ところで~、キリュウの好みはカルマと姫のどっちなの?」
キリュウは呆れた表情で言った。
「またそんな話を…」
「あのねぇ、キリュウの好みは姫の方だよ~!」
もう1人の子供の言葉には、さすがにキリュウも慌てる。
「な、何言ってるんだよ!何でそうなるんだ!」
キリュウがちらりとカエデを見ると、カエデは赤くなってキリュウを見ていた。
「…そうなの?」
カエデに見つめられ、つられてキリュウも真っ赤になった。
「あ、い、いや、その…」
そんなやりとりを尻目に、カルマは黙々と食べ続ける。
子供たちはそんなカルマが物珍しかったのか、逆に懐いた。
「カルマの髪って綺麗~!おとぎ話の女神様みたい」
「女神では無い。…ただの人間だ」
いちいち真面目に答えるカルマが、子供たちには面白おかしかった。
ソクラは皆の様子を楽しそうに見ながら言った。
「食事は大事じゃよ。食によって、人は生きたり死んだりするからのう」
カルマは、マイオウギとフシンが食料を巡って戦争をしていることを思い出した。
食事を終え、子供たちが帰ると、話は再び本題に入る。
本題に入る前に、カエデがソクラに言った。
「平和になったら、獣と戦う自衛軍を国で支援出来るようにします。そのことについては、王と各町村の代表が会談をする機会を設けます」
ソクラは満足そうに頷いた。
「とても有難い。喜んでお受けしましょう」
食事を挟んだことで、凝り固まった空気が少し和らいだようだった。
ソクラは咳払いをする。
「では、本題に入ろう。まずは…」
4人は作戦会議を終えた。
カルマはすぐに動き出す。家を出て、城へ向かった。
そして残されたカエデとキリュウは、ソクラと最終確認を行った。
「良いか、2人とも。この戦いを終わらせるのは、カルマ。そして、2人が地形を知ることじゃ。頼んだぞ」
ソクラの言葉に、カエデとキリュウは、
「ええ、分かったわ」
「ああ、任せておけ」
と、それぞれ答えた。
カエデとキリュウも動き出す。この戦いを終わらせるのだ。
→「学理」