「気流」

・き‐りゅう〔‐リウ〕【気流】

温度や地形の変化によって大気中に起こる空気の流れ。「―に乗って飛行する」






 1817年 某日。

 カルマは、承区:ガトからホウテイへ続く街道を歩く。
 まずは、カエデを探す。そしてその後、ホウテイ兵から情報を聞き出し、ホウテイへ向かう。
 罪人(つみびと)の気配があちこちに散っているのは気になるが、罪人がホウテイに現れたのならば奴を倒せばいいのだ。
 カルマは以前から、気配を感じる範囲にホウテイが含まれていることを感じ取っていて、気になっていた。
 しかし、もしあの時に散っている”気”を1つ1つ確認していたとしても、今回の襲撃には間に合わなかっただろう。
 結果的に、ホウテイに向かえばいいことが今回の件で分かってしまった。
 罪人は必ず人間を巻き込む。
 カルマは1日でも早く、罪人を倒さなければならなかった。

 街道を歩くカルマは、やはりこのあたりから罪人の気配がすることに気付く。
 気にはなるが、今は罪人本体を倒すことが優先だ。
 そしてカエデの生存を確認しなければ。
 街道の途中に、町や村があると聞いている。カエデはそちらに向かったのではないか。
 カルマは辺りを見渡しながら、街道をひたすら歩いた。

 カエデを見つけること。罪人を倒すこと。
 そのことに目標を定めたカルマは、予想外の出来事に遭遇する。

 近づいてくる、罪人の気配が。

 カルマは頭で考えるよりも先に武器を構えた。
 予想外ではあるが、奴を倒すことが出来ればそれでいい。
 しかし、現れたのものは、その予想外を遥かに超えた。

 獣だ。

 罪人の気配を帯びた、獣が現れたのだ。
「!?」
 カルマは躊躇する。罪人が獣に憑りつくなどとは、一切聞いていない。
 更に、1匹の獣が現れた。
 そして何と、その獣からも罪人の気配を感じたのだ。
「何だ!?どうなっている…!?」
 思わず声に出したカルマは、この獣にどう対処するのが正しいのか分からずにいた。
 罪人は1体のはずだ。呪いだろうか?
 しかし、例えば人間が罪人の呪いを受けた場合、その人間から気配を感じることは無い。
 この獣たちは、ただ呪いを受けた訳では無い。獣から気配を感じるからだ。
 カルマが再び攻撃体勢に入ろうとすると、どこからともなく、
「危ない!!」
 という声が聴こえて来る。
 その声とほぼ同時に剣士が現れ、2匹の獣を打ち倒した。
 倒れて絶命する獣。
 そしてカルマは、獣から気配が消えていくことを感じた。
「…」
 カルマはしゃがみ込み、獣の様子を観察する。普通の獣だ。
「あんた、大丈夫か?」
 後ろから話しかけられ、我に返ったカルマは振り返った。
 そこには、大剣を担いだ、短い銀髪の青年が立っていた。
 カルマは答えた。
「ああ、大丈夫だ。…この獣は?最近凶暴化したと言われているそれか?」
 青年もカルマの質問に答えた。
「ああ。元々、俺たちの村は狩りをして暮らしているんだが…最近は狩り以外でもこうして巡回しているんだ」
 カルマは、考えをまとめてみた。
 あちこちに散っている罪人の気配は、全て獣からだろう。何故、こんなことになったのかは分からない。
 とりあえず獣の中に罪人が居るようでは無かった。
 やはり、ホウテイに居るであろう罪人を倒すことに集中するべきだ。
 カルマは冷静さを取り戻し、再び青年に質問した。
「この辺りに、カエデ姫は居なかったか?」
「ああ、居たよ、村に居る」
 問題はあっさり解決した。
 カルマは、カエデの無事さえ分かればそれで良かった。
「そうか。では、私は城に戻る」
「えっ!?」
 青年は驚いた。
「危ないぞ…ホウテイ兵に占領されているんだろ!?行って何をするんだよ?」
 恐らく、カエデから事情を聞いたのだろう。
 カルマは冷静で無表情だった。
「ガトとホウテイの争いを鎮圧する。…だが、確かにもう少し時間が必要かもしれない」
 カルマが生き急いでいるように見えた青年は、何かを思いつく。
「そうだ、うちの村のソクラに話を聞いたらどうだ!?ガトの元軍師なんだ。もう年で引退しているけど、ガトとホウテイについて詳しいぞ?」
 カルマの目の色が変わる。
「…ホウテイに詳しいだと?すぐに連れていってくれ」
「ああ。その方がいい」
 カルマは倒れている獣たちを尻目に、青年に連れられて再び街道を歩き出した。


 青年とカルマは、小さな村に辿り着いた。
 村は自然に囲われていて、建物は石で出来た物と木で出来た物が混在している。
「ここはソーシ村」
 青年はそう言い、カルマを誘うように村の中を歩き始めた。カルマもそれに続いた。
 しばらく2人が歩いていると、どこからともなく子供たちの声が。
「あっ、キリュウがまた女連れてる!」
「女好きぃ~」
 そしてカルマと青年は、子供たちに囲まれた。
 青年…キリュウは、子供たちの頭を小突いたり、抱き上げたりしてあやした。
「偶然だ偶然!この人もソクラに用があるんだよ」
 子供たちは、へー、ふーんと言いながらカルマを取り囲む。
 特に反応しないカルマを見たキリュウは、カルマが戸惑っていると思い込み、「こら!」と子供たちを追いかけ回す仕草をした。
 子供たちは大喜びをしてキリュウの周りを回り始める。
 子供たちはキリュウに遊んで貰い満足したようだ。
「ほら、あっちで遊んでろ」
 キリュウのその言葉に子供たちは素直に従い、ばらばらと向こうの方へ走っていった。
 キリュウはキリュウで、満足した表情だった。
「あいつらは、この村の子供たちだ。突然びっくりしただろ、ごめんな。さあ、行くか」
 カルマはちらりと、走り去る子供たちの背中に目をやり、すぐにキリュウの方を見た。
「ああ、行こう」