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城内は、作りは民家と同様に石とレンガだが、かなり広かった。
リゾクとミコは、中に居る兵士や従者、侍女にあれこれと説明をしている。
長引きそうだったので、カルマは人々を観察してみた。
リゾク、ミコ。従者、侍女。全員髪が緑だ。恐らく、血族同士の結婚により王族が保たれている国家なのだろう。
そして、全員何かしら髪飾りか耳飾りを付けている。これで身分を示しているのだろうか?
通りかかった兵士たちが、何やら話をしている。
「また、山脈の方で災害があったらしいぞ。ついに我々も神から見放されたのかのう…」
カルマはこの会話を、聞き逃さなかった。
「カルマ、終わったぞ」
リゾクに話しかけられた。話がついたのだろう。
「今日は遅いから、謁見は明日でいいだろうか?今日はもう休もう。私の部屋へ来い」
それを聞いたミコが、顔を真っ赤にした。
「何でカルマが男の部屋に行くのですか!!今日は私の部屋に泊まるに決まってますわ!!!」
それはそうだ。
「しかし、私だってカルマから旅の話を聞きたいのだ!!」
興奮しすぎて納得しないリゾクを、カルマが冷静に制す。
「さすがに、ミコの部屋で寝る」
「…!…まあ…それは…そうか、確かに」
やっとリゾクは我に返った。リゾクもミコも、好奇心が旺盛だった。
そしてカルマには、無邪気で、無垢に見えた。
カルマとミコは、なぎなたを持った侍女たちと共にミコの部屋へ向かう。
カルマが何か仕出かさないかの見張り…それはそうだろう、少女とはいえ、部外者だ。
「ねぇカルマ、部屋に行ったら、色々なお話を聞かせて頂いてもいいですか?」
「ん…ああ」
部屋に来る途中、そんなやりとりをカルマとミコはしたのだが。
「…」
部屋についてすぐ、ミコは、爆睡した。
「…変な奴ら」
カルマの口元は、ほんの少しだけ笑っていた。
次の日。
カルマは、謁見の間へ通された。
玉座に座っている、がたいの良い男が結区:マイオウギの王。
「旅人よ、昨日はリゾクとミコ姫を無事城まで送り届けて頂き、感謝する。さて…私に話があるようだが?」
王の両脇には、兵士や従者、そしてリゾクとミコも居た。
一応礼儀として片ひざをついて話を聴いていたカルマは、迷うことなく言葉を発する。
「私をこの国の兵に志願させてほしい」
「…?」
リゾクとミコが、顔を見合わせる。
王は冷静に、
「理由は?」
と、聞いた。兵士に志願するものが城を訪れることは、さほど珍しくはない。
「どうしても倒さなければならない奴が居る」
「仇か?」
「…そんなところだ」
仇。
リゾクとミコは、何となく納得がいった。
少女が1人旅…家族の仇か何か、と考えればしっくり来る。
王は続けた。
「兵士になるためには、いくつかの試験を突破してもらわなければならないが、いいか?」
「かまわない。今すぐ始めたい」
「分かった」
カルマがスッと立ち上がるのと同時に、王は兵士と従者に色々と指示を出し始める。
カルマは王に一礼し、兵士と共に歩き出した。
さすがに、リゾクもミコもこれには着いていかなかった。1人の人間がこの国の兵士になる…大切な行事だからだ。
城の一角にある、兵士宿舎。そこに、訓練用の中庭がある。
兵士を取りまとめている士官数人の前で、カルマは素振りや構え、藁人形を斬る等の動きを披露した。
少女の兵士など誰も見たことが無かったためか、休憩中の多くの兵士たちが集まって興味深そうにそれを見ていた。
そして、リゾクとミコは上の階からこっそりと…
「…やはり、すごいな」
「…ええ…カルマがこの国の兵士に…」
2人は頷き合う。
「そうなったら、カルマがこの国に住むということになるな」
「そうですわね。大変なことだから、喜ぶのは失礼かもしれませんが…」
話をしているうちに、試験は終わっていた。
城内に戻るカルマの姿を確認し、2人はすぐに下の階に下りる。
「カルマ!!」
廊下を歩いていたカルマは、2人の姿を見て足を止める。
「カルマ、どうだった?」
「”第一試験”は合格だそうだ。いくつか段階があるようだな」
リゾクは頷く。
「ああ。次は兵士に混じって乱取りだ。乱取りは明後日だったかな」
兵士たちが普段やっている乱取りに入る、それが第二試験だ。
カルマは無表情で言った。
「兵士になるには時間がかかりそうだな。簡単になれるのもどうかと思うし、当然か。…何でもいい、”あの国”にさえ入れればな」
カルマは無表情だった。
そう、この表情。
カルマは、無表情でいることがほとんどだった。時々、少し驚いたり、少し困ったり。
表情が変わるのはそのくらいか。
しかし、その神秘性にリゾクとミコは更に惹かれるのである。
「カルマは、乱取りの日まで何をして過ごす?」
カルマは周りを見回す。
「資料を見られる部屋はないか?この国と”あの国”のことを勉強したい」
それを聞いたミコは、咄嗟にカルマの手を取った。
「私たちもこれから勉学をする時間なのです。一緒に向かいましょう!」
また、出会ったあの時のように、2人に引っぱられながら資料室へ向かった。
資料室は、それなりに広い。木で組み立てられた棚が、30ほど並んでいた。
棚には、荒い紙で出来た無数の資料が。
「カルマの言う”あの国”とは、敵国の”起区:フシン”のことでいいのか?」
「そうだ」
起区:フシン。それが、結区:マイオウギの敵国だった。
本をめくっているリゾクを横目に、ミコが語りだす。
「マイオウギとフシンの戦いは、500年以上前から続いていると言われています。
一時的に休戦などはありましたけど…終戦されたことは一度もありません」
リゾクが続く。
「フシンは土地が痩せていて、長く食糧難が続いている。マイオウギの豊かな土地を求めているのだが…
こちらも、あちらが思っているほど裕福という訳でもないからな。譲れないものがある」
この2人は、ただの好奇心旺盛な若者ではない。国の知識は確かにあった。
カルマは2人の話を興味深そうに聴き入っていたが、フシンに関して、彼女にとって一番気になっていることがあった。
「最近のフシンに、何かいつもと違う所はないか?」
カルマは、2人の知識力を信頼して、あえて聞いてみた。
「…」
2人は考える。
口を開いたのは、リゾク。
「今あちらで活躍している武将に”ホンメイ”という名の者が居て、全く名が売れていなかったのに突然台頭してきたと聞いたな。
奴が台頭してからはあちらの軍の残忍さが増し、こちらが少し不利になっている現状がある…」
「そいつだ」
カルマが大きく頷いた。
「え、カルマが倒さなければならない奴とは…そのホンメイなのですか?」
ミコの質問に、今度は首を横にゆっくり振る。
「私が倒さなければならない相手は…その武将の裏に居る影…」
影。
「”罪人(つみびと)”だ。私は罪人を倒すために生まれてきた”業(カルマ)”だ」
→「里俗」