始まり:この時間軸の最初
1755年 某日。
そこには大陸があった。
大陸に名は無いが、多くの島からなる列島の中でも西の方に位置しているので、「西の大陸」と呼ぶ人も居たらしいが。
この島は、列島の中でも特に大きかった。
そこに、結区:マイオウギという1つの国があった。
建物は基本的に石とレンガで出来ている。人々は織ってある布を羽織り、それを紐で結んだりして着こなしていた。
明かりは火を灯す。時間は日の傾きで判断する。そういう時代だった。
マイオウギは王制だった。都の中心には、頑丈な塀に囲われた城があった。
今は戦争中なので、都の雰囲気は少し物々しい。
平民は出歩きはするが、長時間外に居ないようにいそいそと行動をし、都内には兵士がうろうろしていた。
そこに、1人の旅人の姿があった。
髪は赤褐色。その少し長い髪を1つに結い、服は上下共に赤黒い。そして腰に1本の剣を下げている。
彼…いや、彼女は、夜の都、城の塀沿いを、城の入り口方面へ向かい歩いていた。
しばらく歩いていると、旅人の上に何かが降ってきた。
人間が1人、降ってきた。
「…!」
旅人はすぐに、その人間を受け止める。
人間は、
「きゃあっ、あ、す、すみません…!!」
と言った。そう、女だった。
「…誰だお前は。大丈夫か」
旅人は、表情を変えずにそう女…少女に聞いた。
少女が答える前に、頭上からもう1人の声が。
「ミコ、大丈夫か!!ミコ!!」
その男の声にミコと呼ばれた少女は、
「大丈夫ですわ!通りすがりの方が助けて下さったから…」
と、すぐに答える。
旅人は、この少女が誰なのかを何となく悟った。ここは城の塀沿い。そしてこの緑髪の少女の質の良い服、無垢な表情。
あながち、お姫様が城から脱走…といった所か。
「ミコ、今行く…うわっ!!!」
旅人があれこれ考えていると、何と声の男も頭上から降ってきたのだった。
「チッ…」
旅人はミコと呼ばれた少女を下に降ろし、自分よりも少し体の大きい青年を軽々と受け止める。
「…何でお前まで飛び降りるんだ」
「す、すまない、ミコが心配で…」
青年を見て、旅人は少しハッとした。緑髪の青年も、服の着こなしからして明らかに王族だったからだ。
てっきり従者か何かだと思っていたのだが。
「2人で仲良く脱走か、騒ぎになるぞ」
それを聞いたミコは、首を横に振った。
「いえ、違います。私、一度都とはどんな物か見てみたくて、塀の上から眺めようと…
この国は私が生まれた頃から戦をしていまして、城から外に出ることはおろか、目にしたことも無いのです。
リゾクばかりずるいのです。同じ立場なのに…ねえ、リゾク?」
リゾクと呼ばれた青年は、少し困った表情で言った。
「仕方ないだろう…私はいずれ、自らも戦に出なければならない立場だから、外のことを何も知らないではまずいからな」
つまり、王族では同じ立場であるはずなのに、リゾクだけが外出を許されることにミコが腹を立てていた、ということか。
しかし、そんな細かいことは旅人にはどうでもいいことだった。
「私は旅の者だ。お前たち、この城の入り口まで少し距離があるだろう。そこまで私が護衛する。
その代わり、私が王と謁見出来るように取り持ってくれないか?」
旅人は、王に用があった。
リゾクは頷く。
「ああ、私も武術を習っているが、今は丸腰だからな…むしろこちらから護衛を頼みたい。父上…王には私から話をしよう」
「父上か。なら話は早いな」
リゾクは、マイオウギの王の跡取りだった。
ミコは…
「私からも、伯父様に頼んでみますわ!」
リゾクの従妹だった。
「えっ!??」
歩いている途中、リゾクとミコが、突然大きな声を上げた。
「…何だ、2人とも」
そこは丁度、松明の近くだった。
立ち止まり、2人を振り返った旅人の全身が露わになる。
「…いや…てっきり、がたいの良い女戦士なのかと…」
リゾクの声も当然である。
そこに立っていた旅人は、17、8歳程の少女だったからだ。
今は夜で、先程の落下地点は松明も無く特に暗かった。しかも2人は、明るい所から急に暗い所に行ったので目が慣れていなかったのだ。
ミコは改めて、旅人の体を上から下まで確認する。
「私とほとんど変わらない年ではないですか!?何故あなたが旅を…何故こんな夜に!?」
「それに、あの力は…私を軽々と受け止めた…信じられない…」
リゾクも改めて旅人を見る。
旅人は、少し顔をしかめた。色々疑われたら少々面倒だ…
しかし。
「すごい…格好いい!!!私より体が小さいのにこの力…この貫禄!!」
「本当ですわ。あなたは何者なの?私たちに色々教えて下さる??」
2人は、松明の光に照らされた旅人を、目を輝かせて見ていたのだった。
「…」
少し困った表情をした旅人に向かい、リゾクが、
「なら名前は!?」
と前のめりになって聞いてきたので、旅人もそこには答えてやろうと思ったのだろう。
リゾクと、ミコの顔を交互に見て、こう言った。
「私の名前は、業…”カルマ”だ」
リゾクとミコは、凛としたその声と、発せられた不思議な響きの名前にうっとりした。
「カルマ」
「カルマ」
そう一言呟き、咄嗟に少女…カルマの手を取る。
「さあカルマ、すぐに城に向かおう。すぐに父上と話が出来るようにしよう」
「カルマ、もう夜ですし、城に泊まりますわよね?そこは私にお任せ下さい!」
カルマは2人に引っぱられる形になったが、敵の気配も無いので素直に従った。
歩いている途中、見張りの兵士見つかり、リゾクとミコは事情を説明していた。
「ああ、中庭に居たのは確かだが、塀から…」
カルマは念のために少し離れた所から見ていたが、2人がこちらを見て頷くと自分もその輪に入る。
「そう、彼女が我々を助けてくれたのだ。今日は城に招待しようと思っている」
「…こんな少女に…?」
兵士は明らかに困惑していたので、カルマは自分から説明した。
「私は訳あって、1人で旅をしている。今日は泊まる宿もない…見ての通り所詮女だ、城に入っても悪さは出来ない、どうだ?」
見た目以上に貫禄のある喋りは気になったが…
「…分かった。リゾク様と姫様を助けて頂き、感謝する、旅の者」
リゾクとミコの目が、再び輝く。
3人は兵士と共に歩き出し、城の前の兵にも先程と同様の説明をした。
3人は、大きな扉から城内に入った。
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