5.月:影が落ちる











そう、きっと俺は、気になって仕方ないんだ。
この島のことと、そこに住んでいる人たちのことと、そして…
今はうまく説明できないんだ…
何でこんなに胸がむしゃくしゃするんだろう。
俺にはなんだか、この島でやらなきゃいけないことがある気がするんだ…



 夜、3人はビルのボスの部屋に居た。
 広間の向こうの方で、石投は部下と何かを話している。
 そして千里と冬華は、広間の端の壁際に並んで座っていた。
千里「…なあ冬華。これからどうする…?」
冬華「…」
 冬華はうつむいたままだった。
冬華「どうしたらいいんですか?私、どうしたら…」
 冬華の落胆ぶりは、千里のそれを遥かに上回っている。
千里「…冬華。俺、ちょっとイシナギと話してくるよ。ちょっと待ってて」
 千里は、冬華に出来るだけ笑顔でそう言い、すぐに石投の元へ向かった。

 千里が石投の近くまで来ると、丁度部下との話が終わった。部下は部屋の外へ出て行く。
石投「よお千里。お前たちはこれからどうするんだ?」
 石投の方からそう聞いてきた。
千里「あんたは、次のアジトへ向かうんだろ?」
石投「ああ、明日にな。今回捉えたレジスタンスだが、さすが上の方の幹部なだけあって中々口を割らない。
にしても…レジスタンスの名前が四季だったのは、奇跡とも言えるな。そうじゃなければ、お前は今頃まだ牢の中だったんだぞ?」
千里「…なるほどね…」
 そういう考え方もあるか。
 そこで石投は、突如真剣な顔つきになった。
石投「さっき、ビルの崩壊で亡くなった人たちの建設中の墓を見てきた。…名簿も途中まで見てきた」
千里「…え」
 千里の失意の表情が、更に険しくなる。
石投「とりあえずはまだ分からん、途中だしな。だが千里。俺が見て口で教えるより、自分の目で見た方がいいと思うぞ」
千里「…」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


千里「…うん、分かった」
 千里は、ようやく笑った。
 丁度そのタイミングで、冬華もそこに現れる。
石投「おお、ちょうどいい。2人にちょっと話がしたいんだよな俺」
 石投は2人の顔を交互に見た後、再び千里の顔を見た。
石投「お前、兄貴を探してるんだってな」
千里「うん」
石投「お前の兄貴は、いい兄貴か?」
 すると千里ではなく、冬華の方が反応した。
冬華「はい。いつもマイペースで余裕があって…一緒に居ると、安心するんです」
石投「そうかそうか」

…やっぱりそうか、兄貴はドリーム島でもそうだったんだな。
俺の知っている兄貴と同じ…


冬華「そして、ドリーム島に、すごく”こだわって”ました」

…えっ…

 そこで石投は突然、嘲笑した。
石投「俺にも兄貴が居たんだが…どうしようもない奴でな」
 石投は昔話を始めた。暗い顔をしていた2人の表情が、ほんの少しだけ興味の表情に変わる。
石投「兄貴は理想家だった。それはそれで良かったんだが、その内容が…俺は気に入らない」
 石投の表情は、今まで見たことがないくらい険しかった。
石投「…いかんだろ。人体実験は」
 それをきいた冬華の目が、驚きで見開かれる。
冬華「…まさか…」
 石投は再び嘲笑する。
石投「そうだ。俺の兄貴は、あの息吹だ」
冬華「…!」
 石投は、息吹の弟であった。
冬華「え…だって、石投さんと全然…」
石投「あはは、全然、似てないだろ!?」
 笑いながら言った石投の表情は、いつもの石投だった。
 冬華は慌てて両手を出す。
冬華「い、いえ、そんなことは…」
 冬華は、息吹のことを何回か見たことがあった。しかし、あまりにも…
千里「…息吹ってどういうカンジ?」
冬華「細身でクールで…」
千里「そうか、イシナギと正反対じゃないか」
 千里は、石投の全身を改めて観察しながら言った。
石投「しかし、確かに何もかも正反対だったなぁ。俺は、最終的に兄貴を止めるために政府に入ったんだ」
 石投は昔、本人の言っていた通りとてもやんちゃであった。
 子分たちと地下を探検したこともあったし、ごろつきのような仲間と戯れ、各地で騒動を起こしたりもしていた。
 しかしそれは、心のどこかにある兄貴への反抗心でもあった。
石投「変えてやる、と、ある日思ったのよ。そのためにはまず政府の内側から、と思ってな。
兄貴には改心したフリをして政府に入れてもらったのさ。そこで…」
冬華「あの騒動があって、息吹は亡くなったんですね」
 石投は頷く。
石投「不思議なことってあるもんだねぇ…その後、俺は政府兼ドリーム島のボスに抜擢されてよ。
兄貴を変えてやる、と思ってたのにドリーム島を変えてやることになっちまったのさ。
ああ変えてやるよ、兄貴がめちゃくちゃにしちまったこの島を。これは運命なんだ、きっとそうなんだ、と。
この島は本来とってもいい島なんだ、皆にもっと知ってほしいんだよ俺は」

運命。きっとそうだ

千里「俺には分かるよ。何で、<E-ナンバーズ>って人たちが、イシナギをボスに選んだのかが」
 石投は面白がるように笑った。
石投「お、何だ?お前、俺につっかかってばかりだったのにヤケに素直じゃねーか」
 確かに。石投の破天荒さに振り回され、つっかかる言い方ばかりになってしまっていたが。
千里「俺には…分かる…」
 千里は、真剣な眼差しで石投に向き直る。
千里「イシナギ、俺もレジスタンスの拘束に最後まで付き合わせてくれないか?乗りかかった船だし、最後まで関わりたいんだ」
石投「いいのかよ?この件、お前の兄貴は関係ないかもしれないんだぜ?」
 千里は目をきつくつぶり、頭を横にぶんぶんと振った。
千里「関係…無くはないかもしれない。考え方によっては…俺は…」
 千里自身、まだうまく言葉に出来ない感情であった。
石投「分かった分かった。で、冬華はどうする?」
 冬華の表情には、まだ迷いがあるが。
冬華「…私も行きます。他にアテも…ないですから…」
 千里は冬華の肩にポンと手をやり、微笑んだ。
千里「冬華、この件が終わったら、改めて一緒に兄貴を探そう。それまではイシナギと3人で協力してがんばろう!」
 その言葉をきいて、冬華はやっと微笑んだ。
冬華「…はい。ありがとう、千里」

うん…やっぱ、笑ってる方が…

石投「…笑ってる方が可愛いってか」
千里「は!?何!!??」
 心を読まれた気がして、千里は真っ赤になる。
千里「何なんだよ、やっぱあんた変な奴だな!!!」
石投「変な奴か。そう褒めるなよ」
千里「褒めてないし!!」
 千里は冬華の手を引いて部屋を出ようとした。
 が。
千里「俺たちどこに寝ればいい!?」
石投「あっはっは!!変なのはお前だ!」
 確かに。何も言い返せなかった。
 2人は客間に案内され、食事をとったりゆっくり眠ったりして、”色々な疲れ”を癒したのだった。