4.雪:無を歩く











ユリ、俺だよ、チサトだよ。今どこに居る?
何だか色々あって、お前のこと探しそびれてるよな…
すぐ近くに居ると思ってるから心配してないってのもあるけど。
お前は、俺よりしっかりしてるからね。
俺は、ドリーム島やそこに住んでいる人たちのことを少しずつ知っていってるんだ。
そして、少しずつ
知っていくんだ

”彼ら”――――――――――

―――彼らのことを。



 マンホールから出た時には、外はすっかり暗くなっていた。
 部下たちは用意されていたトラックにレジスタンスたちを詰め込み、早急に出発して走り去る。
 千里、冬華、石投の3人だけがそこに残された。
千里「…今から歩いて帰る?」
冬華「結構、遅いですよ。今は秋だから寒いですし」
千里「今は秋なのか。ドリーム島には季節があるんだよな」
 季節は世界の全ての地にある訳ではないが、千里も知っていた。
 石投は胸を張る。
石投「こんな時のために俺は、ドリーム島のあちこちに部屋をアジトとして借りてんだ。今日はこの近くのアジトに泊まっていこう」
 千里は考え込むようなしぐさをした後、石投の顔をまじまじと見る。
千里「…やっぱりあんた、ボスなんだなあ」
石投「ん?何だよ、今更」
 最もらしく笑った。


 石投に着いて行くと、一軒の小さな宿に辿り着いた。
 宿の中に入り、石投が受付の男と何かを話すと、すぐに部屋に案内された。
 質素な部屋だが、きちんと掃除されていて悪い感じではない。
千里「はあ…疲れた」
 千里はベッドの上で思い切り寝転がった。
 すると…
石投「よし、食材は用意してあるな」
 石投は備え付けの冷蔵庫から食材を取り出すと、同じく備え付けの台所で突然料理を始めた。
冬華「…石投さん、料理するんですか?」
石投「だって俺ら夕食食べてねえだろ??ちょっと待ってろよ、すぐ出来るから」
 そういう意味ではない。
千里「…いや、イシナギが料理するなんて、イメージじゃないというか…」
石投「やんちゃしてた頃は、この手料理で子分たちの腹を膨れさせてたんだぜ♪」
 千里も冬華も、ぽかーんと石投の料理さばきを見ていた。

 そして料理の味は、想像を超える美味しさであった。
石投「よく食べたらよく寝ろよ?明日も忙しいだろうからな!」
千里「う、うん」
冬華「お、お休みなさい」
 石投は、編みこんである三つ編みを1つ1つ解除する。
冬華「あの…それ、自分でされてるんですか?」
石投「ああ。やっぱどんな時でもオシャレで居たいからな」

イシナギ…やっぱ不思議な人だなあ…

 千里は少しずつ知っていく。この島の人たちのことを。


 次の日。出かける仕度を終えた時、冬華は2人の顔を見て言った。
冬華「あの、ちょっと行きたい所があるんですけど…同じ工場区なのでついでに…」
 千里も石投も、身を乗り出した。
千里「どこ?どこでも行くよ?なあ、イシナギ」
石投「どこでも行くよ?…と言いたいが、場所によるなぁ」
 とりあえず、冬華の話を聞いてみることにした。


 そこでまた、重要な出会いが発生することとなる。


 3人が辿り着いた所。
 静かな、無人の2階建ての建物があった。そのすぐ近くに、ひっそりと運営されている、医療所があった。
 冬華はビルから助け出された後、この医療所で怪我の治療をされていた。
 そして、仲間とはぐれて行き場の無い冬華は、主にここで寝泊まりしているのであった。
冬華「あの…零さん」
 扉を開くと、冬華はすぐに人の名前を呼ぶ。
??「冬華かい?」
 その医療所の持ち主は、すぐに答えた。
 今はたまたま患者が居なかった。零と呼ばれた男は、すぐに奥から現れた。
零「おや、お客さんかい?」
冬華「はい。怪我人じゃなくて、私のお友達です。こちらが千里、こちらが石投さん」
 零は、にっこりと微笑んだ。
零「友達かい。良かったね、冬華」
 零は冬華が現在1人ぼっちであることを知っている。余計に嬉しかっただろう。
零「それにしても、最近顔を出さないから心配したよ」
冬華「はい、すいません。だから今日、顔を見せなきゃと思って来たんです」
 冬華としては、ただ本当にそれだけのつもりだった。
 だが…
石投「…ふーん…」
 石投はさっきから、まじまじと零のことを観察していた。
石投「あんたが、噂の零先生か」
零「…噂?」
 零の顔が、真面目な表情に変わる。
零「あなたは…何者ですか?」
 石投は襟を正した。これは、ドリーム島のボスの風貌だった。
石投「俺は石投。このドリーム島のボスを勤めている」
零「…!」
 石投は、自分から正体を明かした。
 そして…

石投「あんたか。<E-ナンバーズ>と親交が深い医者ってのは」

…<E-ナンバーズ>…?

 零は懐かしい名前を聴くと、表情を変える。
 それは、優しさと、切なさを感じさせる、何とも言えない表情であった。
零「そうだよ。彼らは、僕にとってかけがえのない存在さ」
 そして、一歩前に出て石投に握手を求める。
零「政府はボスを中心に、彼らがいつ帰ってもいいように海を360度見張ってくれているって聞いたよ。ありがとう、僕から礼を言わせてくれ」
 石投はそれを聞くと、すぐに握手に応じた。
石投「当然だろ。今ドリーム島があるのは、あの9人のお陰なんだからな」
 握手を交わす2人をじっと見ていた千里は、冬華の方にきいた。
千里「<E-ナンバーズ>って…何?」
 千里の方を振り返った冬華もまた、零と同じような表情をしていた。
冬華「この島にとって…かけがえのない人たちです」
千里「へえ…」
 千里がこの時点で分かったのは、<E-ナンバーズ>という存在、<E-ナンバーズ>は9人、その9人のお陰でドリーム島がある、そして海の外から帰ってくる予定らしい。
 ということだった。
零「ボスは、彼ら9人があなたに決めたんだってね。きっといいボスになるよ」
石投「ああ。いいボスになってみせるぜ!」
 2人は、握手していた手を放す。そろそろビルへ帰らなければいけない。
零「冬華、今は傭兵の仕事をしているのかい?気をつけて」
冬華「はい、落ち着いたらまた来ます」
 3人は零に軽くあいさつをし、外へ出ていった。

<E-ナンバーズ>…か…どんな人たちなんだろ。