2.風:流れに身を











なあ、ユリ。元気にしているか?
俺は今、とある島に居るんだ。お前もここに居るのかな。
それとも、別のどこかに居るのかな。
俺は、少しずつだけど、この島のことを知っていくことになるんだ。
そして…



 牢はうす暗く、コンクリートだけで出来ていて簡素な作りだが、汚れているわけではなくベッドもあり、乱雑な扱いはされていなさそうだ。
 チサトはうす暗い牢の中を、ひたすらうろうろしている。
 出される時があるとしたら、それはこのビルの重要人物と面会する時だろう。
 チサトはその時を、ただひたすら待ち続けた。

 チサトは、そのことで頭がいっぱいだったので、気が付かなかった。
 牢の端に、1人の人間がうつむき、しゃがみ込んでいたことに。
チサト「…ん?…うわああ!!!」
 およそ、20分ほど経った後であった。
チサト「ちょ、誰か居るの?」
??「…」
 その人物は、顔を上げた。
 チサトの目は、驚きで大きく見開かれる。
 そこに居たのが、若い女の子だったからだ。
チサト「な、なんで君がこんな所に…」
 少女はうつろな目をして、か細い声でこう言った。
少女「…あなた、誰」
 チサトは咳払いをし、笑う。
チサト「俺はチサト。外の国から来たんだ」
 チサトは学ばない。これで何度目なんだか…
 しかし。
少女「…そうですか」
 少女は、チサトの発言に、大して興味を示さなかった。
 チサトは少女の反応を見て、何となく気を使い少女から少し離れた所の壁際に座る。
チサト「…君、名前は何て言うの?」
少女「…」
チサト「俺はチサト」
 少女が何も喋らなかったので、チサトの方から名乗った。
 ちょうどそのタイミングで、食事が運ばれてくる。もうすでに夜であった。
 2人で食事をとりながら、チサトは時々少女に話しかけたが、少女の反応は「ええ」「はい」もしくは、無言のどれかであった。
 夜もふけ、2人はそれぞれ両端にあるベッドで眠りにつく。
 チサトは、気になって仕方が無かった。

こんな女の子が…何でこんな所に…

 次の日も牢から出されることは無かった。
 チサトは退屈なので、他愛もない内容の話を時々少女に振っていた。
 少女の反応は相変わらずではあったが…
チサト「そういえばこの、島だっけ?…って、建物ばかりで、自然物が無いよな。何か俺、花が1輪だけ咲いているのを見て感動しちゃって…」
少女「…!」
 少女が、初めてチサトに興味を示す。
少女「…花…私…最近は、景色を見る余裕も…ありませんでした…」
チサト「…そっか」
 チサトは何気ない表情をしていたが、心の中では少女の反応が嬉しくて仕方が無かった。
 ただ、”余裕が無い”というというくだりは、少し気になったが。
少女「…ごめんなさい。私の名前は…」
 ほんの少しだけ、微笑む。
少女「私は、冬華っていいます」
 頭にゴーグルをつけた黒髪の少女の名は、冬華といった。
チサト「そうか、いい名前」
冬華「字は、季節の”冬”に、蓮華草の”華”でフユカです」
チサト「字?漢字?」
 チサトは少し驚いた様子を見せたが、改まって、
チサト「俺の方は、数字の”千”に、里帰りの”里”、分かる?それで千里(チサト)。よろしく、冬華」
冬華「…はい。よろしくお願いします、千里さん」
 一体何をよろしくするのかは、お互い分からなかったが。これも何かの縁だ。

 2人は、この時点では分からなかった。
 この2人が出会ったことには、大きな意味があった。


 次の日。千里の話に、冬華は少しずつ反応するようになっていた。

多分、何かあったんだろうな。それで暗い表情ばかりしているんだ…
こうやって俺と話してて、少しでも嫌なこと考えなくても済んでくれたらいいんだけど。


 結果的に千里と冬華は、数日間共に過ごしたことになるが。
 冬華の心は、千里が思っている以上に千里に癒されていたらしい。
冬華「…千里さん」
千里「何?」
 冬華は、千里の目をじっと見つめた。
冬華「私は…行方不明になっている仲間を探しているんです」

…だからか…

 何故、冬華が暗い表情ばかりしているのか。何となく分かった気がした。
冬華「半年前、このビルは大きな震動で今にも崩れ落ちそうでした。
私は…傭兵一味の一員なんですが、あの時全員あのビルの中に居たんです。
私は気を失っていたらしくて、気が付いたらビルの外に運び出されていたんですが、他の皆がどうなったのか分からなくて…
まだ再会出来ないでいるんです」
 千里は、このビルが修理中である様子を思い出す。
千里「全壊はしなかったんだな」
冬華「…はい」
千里「じゃあ、助かってきっとどこかに居るんだろうな」
冬華「私もそう思います」
 2人は、小さく微笑み合った。
千里「…で」
 冬華のささやかな笑顔に満足した千里は、改めて牢の中を見回す。
千里「何でここに閉じ込められているんだ?仲間を探してるのと関係が?」
冬華「…」
 再び暗い表情に戻る。
冬華「私…あの時、ビルの中で一体何が起こっていたのかを知りたいんです。
でも、それは重要機密だからと言って、ビルの関係者に聞いても傭兵の私には詳しいことは教えてくれないんですよ。だから…」
千里「…だから?」
冬華「端末に進入して、データをハッキングしようとしたんです」
千里「…え!?」
 千里の目は大きく見開かれた。
千里「…大胆だね」
 冬華はそれをきいて、怒った表情をした。
冬華「仕方ないじゃないですか!他に方法が思いつかなかったんだから!!」
千里「ゴ、ゴメン」
 両手を出し冬華を諌める。
冬華「みんなを探すにしても…手がかりが無いと、探しようがないんです…」
千里「そうだよな。仕方ないよな」

俺も人を探してる。冬華も人を探してる。
でも、お互い協力しないか?って。軽い気持ちで言っていいのかは…
ちょっと悩んだ。
人探しのベクトルが違うんじゃないか?重みというものが。
でも…