1.光:ひとすじの











 もし 1人の少年が この島に辿り着いたら
 何かを変えることが 出来るのだろうか


 ドリーム島の新たなボスが誕生してから、半年が経過した。
 ホープ島との戦争は今も続いているが、新たなボスは終戦へ向けて外交を働きかけていた。
 長く続いた戦争の爪あとは深い。時間がかかるだろう。

 とはいえ、ドリーム島は少しずつだが変わりつつある。
 政府は少しずつ民に目を向けるようになり、民もそれを感じ始めている。
 街やスラム街はほんの少しだけ活気づき始めていた。


 だが 何かが足りない。
 ぽっかりと空いた穴は
 半年経っても、埋まることはなく


 そんな半年後のある日、造船区の一画に、1人の少年が現れた。
 彼が、いったい何のために現れたのか。

ここはどこだ…?

 少年は、周りを見渡した。物々しい雰囲気だが、港のようである。

着いたのかな?目的地で合ってるかな?

 いくつかの区とビルとスラム街と、鉄柱、レンガ、スクラップで構成されているドリーム島。そして、1人の少年…
 少年は、歩いている兵士のような格好をした中年の男に話しかけた。
少年「なあ、あんた、ここがどこだか分かるか?」
兵士「は…?」
 兵士は顔をゆがめた。
 少年はこの場所を知らない。この場所は、一般人が居るはずがない場所なのである。
兵士「お前、何者だ!!」
 戦闘体勢に入った兵士を見て、少年はすぐに両手を上げた。
少年「あ、ちょ、ご、ごめん、あやしい者じゃないんだ!!」
兵士「どこから来た!!」
少年「別の国から…」
 今の回答は相当まずい。
兵士「スパイか!?」
少年「スパイ!?」
 少年は、ドリーム島の外から来た。この島の情勢など、何も知らない。
兵士「今は戦争中だぞ。外から来るのなんてスパイくらいだろう!」
少年「…戦争…!?」
 少年の顔が凍りついた。

戦争…昔話でしか聞いたことがない。

兵士「ホープ島から来たのか?」
 この言葉をきいて、少年ははっとした。
 とんでもないことに巻き込まれるかもしれない。何とか誤解を解かなければ。
少年「島?違うよ。俺は、大きな大陸から来たんだから」

 誤魔化している訳ではない。これは、事実だった。

 兵士の警戒が、ほんの少しだけ解ける。
兵士「大陸か…確かに、西の方には大きな大陸が存在するとは聞いたことがあるが…」
少年「そう、それ!!」
 少年の顔は少し安堵に包まれた。
兵士「そうか…お前、こっちに来い。一応取り調べをさせてもらう」
 少年は少しだけ考えて、
少年「いいよ」
 と答えた。


 数分後。造船区にある小さな詰め所に、2人は居た。
兵士「まず、名前は?」
少年「俺は…」
 微笑む。
少年「チサトだよ」
 少年の名前は、チサト。赤褐色の髪が特徴だ。
 髪にペンを走らせている兵士に、チサトは聞き返した。
チサト「おじさんの名前は?」
兵士「…は?」
 取り調べ中に名前を聞かれたのは初めてだったので、兵士は思わず笑ってしまう。
兵士「俺の名前は、ショウだ」
 中年の兵士の名前は、ショウといった。
ショウ「質問を続けるぞ。お前は本当に西の大陸から来たんだな?ホープ島の人間じゃないんだな?」
チサト「西…の大陸だと思うよ。俺は東に向かって船で来たんだから。じゃあ今度は俺が聞いてもいいかな?」
 再びチサトからも質問が行った。
チサト「イナリ、っていう人と、ユリ、っていう人を見なかったか?」
 ショウは少し考えたが…
ショウ「いや、知らないな」
チサト「…そう」
 チサトは人を探していた。
 目を伏せたチサトを見て、ショウは向こうの道を指差す。
ショウ「人を探しているなら、工場区のスラムに行ったらどうだ?あそこは人が多い。
本人に会えるかもしれないし、何か情報が手に入るかもしれないぞ」
チサト「分かった」
 ショウが指差した方へ歩き出そうとしたチサトが静止する。
チサト「…ここ、戦争してるんだよね。戦争って、どんなカンジ?」
 それを聴いたショウは、ゆっくりと空を仰いだ。
ショウ「何か…色々、失ったな…島は無事だが、大切な物が欠けてしまったというか。俺の知り合いも、何人も帰ってこなかったしな」
チサト「…そっか。ごめん。色々ありがとう」
 歩き出したチサトを、ショウは静かに見送った。
 チサトは明らかにあやしいが、なぜか引き止める気にはならなかった。


 チサトは辺りを見渡しながら、殺伐とした道を歩いていた。工場区のスラムを目指して。
 しかし、途中で、ショウが差した方の道を大きくそれた。
 チサトは、決して方向オンチなどではない。
 チサトには、どこか抜けている所があった。


 チサトは”目的地”に辿り着いた。
チサト「ここが…工場区のスラム…か?」
 目の前に広がるのは、ガレキの山。
 チサトは大きく道をそれ、兵士区に来てしまっていた。

戦争…本当なんだな…
俺が来たかったの、本当にここで合ってるのかな?


 それは、工場区と兵士区を間違えたことに対してではない。
 この地に流れついたことが正解なのかどうか、に対してだった。
??「おい、お前!!」
 後方から男の声と共に、数人の足音が聴こえてきて、チサトは振り返った。
兵士「なぜここに居る!?お前は誰だ!?」
 兵士の反応は最もである。ここは兵士区で、造船区以上に一般人が居るはずのない場所なのだから。
 チサトは慌てて両手を上げる。
チサト「ごめん、道を間違えたみたいだ!!俺はスラム街をめざしていたはずなんだけど、ここに来ちゃって…」
兵士「…身元は?」
 チサトは、どこか抜けている所があった。
チサト「外の国から来たんだ…あっ」
 言った後に気付いたが、もう遅い。
兵士「スパイか!?」

またやっちゃったよ…ホント、俺ってバカだな…

兵士「連行しろ!!」
チサト「ちょ、ちょっと、放せよ!!!!」
 とは言ってみたが、放すはずなどない。
 チサトはトラックのような車に入れられ、車はどこかへ向かって走り出してしまった。


 チサトは車にあった小窓から、何となく外をながめる。
 ガレキの道を越えた先には、小さなスラム街があった。しかし工場などは見当たらず、規模も小さい。
 ここはまた、どこかのスラム街なのだろう。
 他には、店や小さな町工場などがあった。どれも作りは粗雑だ。
 殺伐とした景色の中、チサトに目にとある物が映った。

花…

 スクラップのようなものばかりの景色なので、道ばたに咲いている一輪の花がとても良く目立ったのだった。
 それが何だか、とても愛おしい物のように思える…
 車は走っているので、ほんの一瞬のことではあったが。


 しばらくすると車は止まり、チサトは外へ連れ出された。
 小窓から正面は見れなかったのだが、外へ出ると目の前に大きな建設中のビルがあったので、チサトは圧倒される。
 チサト自体、ビルは見慣れてるのだが(チサトの出身地では珍しくはないらしい)、周囲の建物より飛びぬけて高いビルだったので、とても印象的に映ったのだった。
チサト「おお…何かすごいな!」
兵士「黙れ!」
 チサトは引っ張られる形で、ビルの中に入れられる。
 ビルの中も、まだあちこちが作られている最中だった。
 しかし、作られているというより、直している最中のような…
 チサトはそのまま、個室へ連れていかれた。
 牢であった。
チサト「いてて…!!ちょっと!!」
 チサトは室内に突き飛ばされ、そのまま扉は閉められてしまう。
チサト「話を!話を聴いてくれよ!!!」

 チサトとは一体、何者なのだろうか。
 何のために、ドリーム島に現れたのか――――――――――










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