――少し先の未来。
むき出しになってしまった地層の周辺に、数人の若者が居た。
彼らは何かを探しているようだった。
”それ”を、見つけなければならなかった。
大切な仲間のために――
そして時は戻る。
ある日、スクラップゾーンの地盤が崩落したというニュースが報じられた。それを皮切りに、住宅街で地盤が崩落したというニュースが何件も流れ始める。
そしてそのタイミングで、チーム:ミモザの6人は、皇帝に呼ばれたのだった。
6人は男性陣の部屋のリビングに集まっていた。ラングは皆を見回し、静かに呟く。
「…さて、どうする」
皆、ラングを見つめていた。ラングは、今度はしっかりとした声で皆に告げた。
「みんな怪我は完治している。動けない状態じゃない。退学するつもりでいるタイミングだ。だけど…話しだけでも聞きに行こうかと思ってる」
それを聞いたシャルは驚きながら言った。
「おい、行って大丈夫なのかよ。絶対ろくでもない内容だろ」
それに対し、ラングは冷静に答える。
「それなら尚更聞いた方がいい。相手の動向を探って作戦を立てることも出来るからな」
そこでエンが話に入る。
「行かないでおいて極夜に逃げるとか?」
「俺が思うのは、呼ばれたのは多分この地盤が崩落したことに関してだ。話を聞いてから判断してもいいと思う」
ラングの返答に、エンは頷いた。
「なるほど。ただの調査なら役に立てるかもしれないし、崩落を止められるなら協力したいしね。様子がおかしかったら極夜に逃げよう!」
「そうだな。さあみんな、行くぞ!」
ラングがそう呼びかけると5人は頷き、気を引きしめて外に出た。
6人は、政府ビルの謁見の間に居た。前回より空気が冷たく感じた。
そこには、皇帝が神妙な面持ちで待っていた。
ここで6人は、謎の胸騒ぎを覚える…
皇帝は6人を見回し、ゆっくりと語り始めた。
「各地の地盤が崩落し、街が崩壊しかかっています。あなたたちにも任務に向かって頂いたことがありますが、輝煌石は全部繋がっていて、むき出しになった輝煌石の抽出を行った時に地層にある輝煌石も同時に小さくなっている可能性がありました。各地の地層の輝煌石が徐々に小さくなり地下に空洞が出来ていて、輝煌石と地上の土との間にある地盤が耐えられなくなり空洞に落下しているようです」
皆、あの時の任務を思い出す。各地の輝煌石の長さを測り、どの輝煌石も短くなっていたことを思い出した。皇帝は続ける。
「輝煌が空気中に漏れ出る、もしくは抽出するだけならまだホープ島の寿命は100年は持つ可能性がありました。しかし、ジェイド地区のエネルギーが長年に渡り噴き出しすぎて地層の輝煌石が過剰に消費され続け、ホープ島の崩落が早まりました」
「!!??」
皆、驚くしか無かった。輝煌石を測る任務が、近い未来に大陸の崩壊を予兆しているものだとは思いもしなかったのだ…
そこでラングは質問した。本当は聞きたくないが、聞くしかなかった。
「それで…俺たちが呼ばれたのは…?」
皇帝は、目を閉じ、静かに口を開いた。
「今日あなたたちを呼んだ理由は、ホープ帝国…いや、ホープ島を救うために、6人の誰か1人を、レギュレート・コアに封印したいのです」
6人は、全身が凍り付くような気持ちになった。
驚きか。衝撃か。無か。空虚か…
今まで帝国に関して何度も驚かされてきたが、今回の件は体が宙に浮いているような、まるで現実の世界ではないように感じられた。
完全に固まってしまった6人に、皇帝は目を開き容赦なく続けた。
「レギュレート・コアとは、元は兵器の部品ではなく、懐剣の使い手を内部に封印することで輝煌を自由に操ることが出来るものでした。本来は特定の輝煌石の消耗を防ぎ、ホープ島を救うために作られた新技術なのです。兵器はアイオラが勝手に進化させたものです」
6人の反応を待たずに皇帝は続ける。
「封印される者は『無情の”壊”剣』の使い手でなければならないそうです。そうじゃないとエネルギーが全然足りない。覚醒はされてなくても良いそうですが、赤い光の方が抑えられる力が強いとのことです。封印後、ジェイド地区に設置します。そのことで噴き出すエネルギーを止めます。これでホープ島の寿命が少しは延びるはずです」
固まったままの6人に、皇帝は今度は申し訳なさそうな表情をした。
「…恐ろしいですよね。私も、何の罪もないあなたたちにこんな恐ろしい話など…本当に申し訳ないです。封印されている間はコールドスリープ状態になり意識も途切れてしまう…ですが他にホープ島を救う方法が無い。その代わり、コアに封印される方の人権を尊重し、封印前にその者の全ての願いを叶えます…それでどうですか?こんなことしか出来ませんが…」
そこまで聞いたラングは強引に気力を取り戻し、喉の奥から声を絞り出した。
「…皇帝…少し…」
「何ですか?」
「…少し、考えさせて下さい…」
「…確かにそうですね。こんな恐ろしいことを唐突に言われても混乱しますね。よく話し合って下さい。宜しくお願いします…本当に…申し訳ありません…」
深々と頭を下げる皇帝に、6人は一礼するのも忘れ部屋を後にしたのだった。
6人は政府ビルの踊り場に出る。皆押し黙っていたが、最初に言葉を口にしたのはアリスだった。
「…私が封印されるわ。私が赤い光に一番近いもの」
すると間髪入れずアルトが声に出す。
「ううん、本来は僕が封印される予定だったんだ。ラング、僕を…」
「待て、ちょっと待て。ちょっと落ち着こう」
ラングが咄嗟に話に入る。ラングは続けた。
「本当に他に方法は無いのか?探してみないと分からないだろ。そうだ…アルト、何か元帥から話は聞いてないか?」
アルトは少し考え、はっとする。そして…
「…リマインド…」
と、小声で呟いた。
ラングはそれを聞いて、以前アルトとガネットが話していたリマインドの話の内容を思い出す。
「リマインドって輝煌石に結界を張るっていう?そうか…それならエネルギー流出を止められるな!」
ラングのその一言を聞いて、エンが話に入った。
「どこにあるのか分からないんじゃなかった?」
それに対し、アルトは冷静に答える。
「僕は父さんからリマインドのことを教わったけど、話に聞いただけなんだ。ガネットおじさんの方がもしかしたら詳しいかも…」
ラングは頷きながら言った。
「親父か。少しでも情報が欲しい。極夜に行ってみよう」
皆頷き、すぐに行動に出た。列車に乗り極夜に行くのだ。
政府ビルを離れる時、シャルがぼそりと呟いた。
「…封印されるなら人権を尊重するか。封印を拒否したらどうするつもりなんだろうな」
6人は列車に乗り極夜に着くと、すぐにラングの家に向かった。家に着くと、ガネットはいつもは仕事の時間なのだが、今日は休みなのかたまたま家に居た。
ガネットは、突然ラングたちが戻って来たので驚きながら言った。
「どうした、ラング」
ラングは一瞬考え、少し慌てながら答えた。
「あ、いや…ほら、最近各地が崩落してるだろ。それの調査の任務なんだ」
ラングは、心配をかけないように封印のことは言わないでおいた。ラングは続ける。
「俺たちはリマインドがあれば何とかなるかなと思って親父に話を聞きにきたんだ。少しでも情報があればと思ってさ」
「そういうことか。分かった、俺の知っていることを話そう」
ガネットは頷き、すぐに話を始めた。
「約150年前。懐剣による民族戦争を終わらせるため、開拓民として島外から渡って来たホウプは技術者を集めて、輝煌石に結界を張る機器リマインドを開発した。技術者には極夜の一族も居たんだ。俺がリマインドに詳しいのはそのためだ。当時は極夜も『無情の”壊”剣』を開発した者とリマインドを開発した者で割れていたようだな」
ガネットが懐剣を作った極夜の一族とはいえ、リマインドにやけに詳しい理由は分かった。ガネットは皆が真剣に聞いている様子を見て更に続ける。
「ホープ島の6か所の地中に、輝煌石に結界を張るための機器が埋め込まれている。大陸の中央の空に、6角形のプレートであるリマインドを置くと発動し、大陸中の全輝煌石が停止するらしい。約150年前にリマインドが発動し、輝煌が一切使えなくなった。それから数十年後に輝煌のエネルギーを求めた人々の手でリマインドは地中に封印されて輝煌は復活した。今では歴史から抹消されて無かったことになっている」
そこで、ガネットは首を横に振る。
「『無情の”壊”剣』は多少資料が残っていたから発掘できたが、リマインドはどこにあるのかヒントすらない。俺はリマインドを探すのは現実的ではないと思う」
リマインドを探すのは現実的では無い…
ラングは少し考えた後、ガネットを見ながら言った。
「親父、ありがとう。また何かあったら戻ってくるよ」
「…」
ガネットはラングの顔を眺め、眉をひそめながら質問をする。
「…大丈夫か?何か面倒なことに巻き込まれてないか?」
ガネットはラングの様子に何かを察していた。さすが父親…といったところか…
ラングははっとし、平常を装って答えた。
「…ううん、大丈夫」
ガネットは最後に、ラングの目をしっかりと見て、こう言った。
「ラング。誰に何を言われても自分の道を進むんだ。どんな選択をしてもしっかり考えて決めたならきっといいことがあるさ」
「…うん。ありがとう、親父」
ラングは、しっかりと頷き、6人はラングの家を出て行った。
外に出ると6人はすぐに輪になる。ラングは顔をしかめながら呟いた。
「リマインドは難しいか…どうしたらいいんだ…」
6人とも押し黙ってしまう。他に方法が見つからない…
その時、アリスは何かを思い出したかのようにはっとした。
「そうだ…ジェイド地区の噴き出すエネルギーを止めたらどうかしら?父さんが以前その話をしていたわよね。崩壊が早まった原因はジェイド地区のエネルギーが噴き出してるせいなのよね」
アリスの案に、皆の目は少しだけ光を取り戻す。ラングは頷きながら言った。
「…そうか。ホープ島はいつか崩落するって言ってたけど、寿命さえ延びればその後ゆっくりリマインドを探せるもんな。次はコーラル次長の所に行こう」
皆が頷き歩き出すと、ムジカはエンの家がある方向を見ながら小声で呟いた。
「…お母さん、元気かな?」
それを耳にしたエンは笑顔で言った。
「今日は時間無いけど、落ち着いたら母さんにも会おうね」
「…うん!」
6人はしばらくすると走り出す。そしてすぐに列車に乗ったのだった。
今日は列車に乗ることが多いが、皆余計なことを考えないようにしているのか、「今日は天気が悪いね」「明日は雨かな」等、他愛もない話をして気を紛らわしていた。
ラングは、先程まで皆を励ましていたエンの様子がおかしいことに気付く。
「…エン?」
「…ごほっ…ちょっと、外の空気吸ってくるね!」
エンはそう言って外の空気を吸いに行く。異変に気付いたラングもすぐに後を追った。
列車の外の展望スペースで、エンはペットボトルの水を飲んでいた。
しばらくするとラングが横に並び、真剣な表情でエンに話しかけた。
「…発作か」
エンは「ふう…」と深呼吸をして、落ち着いた様子で答えた。
「…うん…昨日から調子悪くて…朝は平気だったんだけど。もうお薬飲んだから大丈夫」
「そうか。あんまり無理するなよ」
それに対し、エンは笑顔で言った。
「アルトくんも、アリスも、シャルもムジカも…みんな辛い思いばっかりしてるんだ。私の体調なんてみんなの苦しみに比べたら大したこと無いから平気だよ」
「…エン」
ラングは、真剣な表情でエンにぐっと近づいた。エンは少し驚きながらラングを見る。2人は近い距離で見つめ合った。
ラングは言った。
「エン、苦しみは比較するもんじゃない。お前の体調は本当に大変なんだ…」
ラングはエンが定期的に発作で苦しむ様子を子供の頃から知っている。そして、エンがそのことについて人に話そうとせず弱音も全く吐かないこともだ。
エンは少し照れくさそうに、うつむきながら答えた。
「…ランちゃん…ありがとう」
ラングはエンの顔を覗き込む。
「はは、何泣いてんだよ」
「ランちゃんのばか!!見ないで!!」
「…うん。先行ってるな」
ラングは笑顔でそう言い、車内に戻っていった。
車内に戻ると皆もエンの様子を心配しており、アルトが「エン、大丈夫?」とラングに話しかけると、ラングは「大丈夫、大丈夫」と笑顔で答えた。
エンも、咳と涙と、顔の熱が落ち着いてからいつものような様子で車内に戻っていった。
そして6人は、運命の時を迎えることになる。
…どんな道を辿ろうと、その先を…