14.花言葉

14.花言葉

 アリスがまだ入院しており、5人の怪我も完治していない。
 5人は、今のうちに授業を消化しておこうという話になった。この軍学校では、単位を取るために任務以外の時間に必要な教科を必要数受ける必要があるのだ。確かに5人は、最近は色々とありすぎて授業に出ていなかった。

 ラング、エン、アルト、ムジカは17歳で同い年なので4人で授業へ出た。授業が終わった後、シャルと合流するために中庭で待つことになった。
 ムジカは伸びをしながら言った。
「アリス、今学期の授業消化済みなんだって。任務ばっかりなのにすごいよね~」
 それを聞いたエンは感心しながら言った。
「さすがアリス、文武両道だね。私たちも見習わないと…特にランちゃんとか宿題最後まで溜めるタイプだし」
「そうなの?じゃああたしと一緒だね!」
 ムジカのその一言に、ラングは小声で「いやそこが一緒でも嬉しくは無いぞ」と突っ込んでしまった。
 すると、後方からシャルの声が聞こえてくる。
「よう。授業終わったか?」
 シャルは18歳なので1年学年が違い、授業の内容も異なるのだ。ちなみにアリスも18歳である。
 ラングはシャルに「どうだった?」と聞いた。シャルは苦笑しながら答える。
「まあ、あんなことがあったから視線は気になるわな」
 アイオラの危険行為に関して6人が巻き込まれたという話は学校中に伝わっている。しかも5人とも似たような怪我をしているのだ。校内を歩いている時も授業中も、5人とも学生にちらちらと見られているのを感じた。
 なのでシャルは気を使って1人で授業を受けたのだ。シャルもムジカも、チーム:ミモザが合流する前は適当に誰かを誘って授業を受けていたのだが。
 そこでラングは思い出したようにシャルに言った。
「ああ、そういえば、大丈夫かって声かけてくれた人もいたな。ほら、この前のトーラスとか」
 トーラスは、ジェイド地区の特殊任務でシャルとムジカのチームにリーダーとして参加した青年である。
 シャルはそれを聞き、驚きながら答えた。
「え、まじで?トーラス俺にも声かけてくれたぞ。やっぱあいついいやつだよな~」
 とりあえず合流したので5人で寮に帰ろうとすると、エンは学校の庭の木に花が咲いているのを目にする。授業に出る時はいつも通る場所だが、皆特に気にしたことは無い。
 木の側を通りかかる時、エンは白と黄色の混ざったその花を指差しながら、皆に言った。
「みんな見て。これミモザの花だよ。気付いた?」

 それは、白と黄色の混ざったミモザの花だった。

 ミモザは、小さな花が集まった球形の花を多数咲かせる。花の色は黄色が一般的である。
 ムジカは木を仰ぎ驚きながら言葉を漏らした。
「え、ミモザって黄色じゃなかった?白もあるんだね~綺麗!」
 すると、ミモザのひとかけらの球が落ちてアルトの肩に乗った。ムジカは「アルトくん貰ってもいい?」と聞いてそれを取り、じっくりと眺める。ラングとシャルも「へー」と声を漏らしながら木を眺めていた。
 ムジカはミモザの木を写真に撮り、デバイスを操作しながら言った。
「アリスに写真送ろう~」
 それからしばらくして…
「ねえ、アリスから返事来たよ!綺麗、だって!」


 次の日。ラングのデバイスに、アリスから退院のメールが来た。元々体調を整えるための入院だったので期間は短かった。

『ラング、サドネスを持って来てほしいところがあるの。ちょっとした作戦があるから1人で来てね』

 そしてアリスは何故か、ラングだけをサウスエリアのスクラップゾーンに呼んだのだ。
 「サドネスを持って」という理由がついてきたので、ラングは戦闘スタイルで気を引きしめて行った。一応エンには行くことを伝えており、再びエンに「女の子を待たせちゃだめだよ!」ときつく言われていたので少し早めに出ることにした。

 アリスとの再会は、武骨なスクラップゾーンとなった。ここはさほど難度の高い場所では無い。ラングは戦闘スタイルのアリスの姿を確認すると、「アリス、来たぞ」と声をかける。するとアリスはラングに気付き、笑顔で手を振りながら答えた。
「ラング、来たわね。ちょっとだけ久しぶり」
「ああ。元気そうだなアリス。にしても、いきなりスクラップゾーンって…訓練か何か?」
「ううん。ラング怪我してるでしょ。怪我の具合はどう…?」
 心配そうに聞いてきたアリスに、ラングは笑顔で答える。
「いや、見た目ほど大したことはねーかな。ちょっとぐらいなら戦えるぞ」
「いえ、今日は戦闘じゃないの。じゃあ、さっそく本題に入りましょう」
 アリスはそう言って、懐剣を構えながら続けた。
「ラング、私に何かあったらサドネスの結界お願いね」
「え、まさか…アリス、ちょっと待った…!」
 慌てるラングをよそに、アリスは懐剣を展開した。すると、先日は赤くなっていた刃の光が青緑に戻っていたのだ。
 アリスは青緑の光を見ながら小声で呟く。
「青緑に戻ってる…不完全だったからかしら?それともそういうものなの…?」
 ラングは、ふう…息を吐きながら言った。
「これを試すためにサドネス使いの俺を呼んだのか…無茶するなっつーの全く…」
「だって、まだ赤いままだったら軽はずみに元の生活に戻れないでしょ。そうなったら別の策を考えなきゃいけないと思って…」
 アリスは懐剣を解除して、苦笑しながら言った。
「みんなにも来て貰おうかと思ったんだけど、これを試すって言ったらアルトくん絶対心配するでしょ?」
 それに対しラングも同じく苦笑する。
「ああ。絶対するな」
「ふふ…アルトくん、優しいよね。ラング、とりあえずこれで用は済んだわ」
「そうか。じゃあそろそろ帰るか」
 会話を終えると、2人とも自然と寮へ戻る方面の列車に乗った。

 列車の中、アリスは窓の外を見ながらぼそりと呟いた。
「またみんなに迷惑かけちゃった。私の人生こんなことばっかりよね」
 それに対し、ラングはアリスを見ながら声をかけた。
「迷惑だなんて誰も思ってないけどな。巻き込まれてばっかりで一番大変なのはアリスだろ。それに、こんな言い方していいのか分からないけど…やっと6人にとっては平和になったし」
「…そっか」
 それはアイオラが居なくなったからということなのだが、名前は出さないでおいた。
 アリスは窓から目を放し、ラングの顔を暫く眺めてから話し始めた。
「やっぱりラングをリーダーにして良かった。やっぱりリーダー向いてるわよね。ラングのことを良く分かってるエンも向いてるって言ってたし」
「そうか?実感わかないんだけど」
「私は…ダメなのよ。本当はリーダー向いてないの」
「そうか?」
「あ、もちろん、あなたに押し付けた訳じゃないのよ。冷静に判断してあなたに決めたのは事実よ。よく周りを見てるし、瞬時の判断能力に優れてるし。それに比べて…私、いざって時慌てちゃうの。冷静な判断が出来なくなるのよ」
 それに対し、ラングは笑いながら言った。
「俺も冷静じゃない時あるぞ。元帥に怒鳴って命令違反したことあるしな。人間なんてそんなもんだろ」
「ふふ、そっか。そうかもね」
 アリスも笑いながら答えた。
 アリスは改めて、ラングを見つめながら言葉を伝えた。
「ラング…私、色々あったけど、卑屈にならないで正直に言うわ。これからも、みんなと一緒にいたい」
「みんなもそう思ってるよ。さあ、寮に帰ろうぜ」
「…うん」
 ラングは、2人で帰るならバイクで来ても良かったかな、と少し思った。


 夕方。今日はアリスが帰ってくるということで、女性陣のリビングに皆集まっていた。
 玄関の扉が開くと、ラングとアリスが一緒に登場した。
「みんな、ちょっとだけ久しぶり」
 こちらを見る皆にアリスがそう言うと、ムジカが咄嗟に飛びつく。
「わーんアリス~~~」
 抱き合う2人に、エンも近付いてアリスに話しかけた。
「アリス、すっごくいい顔してる。元気そうで良かった…」
「2人ともありがとう…何か、前もあったわねこんなこと」
 アリスはそう返し苦笑してしまう。
 シャルは、今回はアリスがラングと共に来たのを見て面白がるように話しかけてきた。
「何、今回は王子様が迎えに来てくれたの?ランちゃん羨ましい…そこ変われよ」
「全く…あなたも変わらないわね」
 いつものようにそう返したアリスは大分落ち着いていた。
 シャルは自分からアリスに話しかけたのだが、突然話題を変える。
「そんなことよりアリス、味噌汁の味見してくれよ。大分良くなったんだぜ」
 料理の話になると、エンが話に入った。
「そうそう。今日のご飯は和食だよ。お味噌汁は私しぬほど味見させられたんだから」
「そうそう。ご苦労。練習の成果試させてくれ」
 シャルは極夜から戻って来てからは和食の作り方を練習していたのだ。

 夜になり、キッチンの前にあるテーブルに和食が並ぶと、6人は食卓についた。
 アリスはシャルに言われた通り味噌汁を飲むと、うんうんと頷きながら言った。
「美味しい…メノウさんの味に似てるけどまたちょっと違うかも…エンとも違うし」
 それを聞いたシャルは、自分も味噌汁を飲みながら呟く。
「これが自分の味ってやつかのかな?」
 ムジカは皆の様子を観察しながら、広げてある料理を次々と食べ「楽しいし全部おいしいな~」と嬉しそうに言った。
 ラングは「うまっ」と言いながらかき込む。相変わらず大食いである。
 シャルは思わず苦笑してしまう。
「お前何食っても旨いって言うからな…」
「だって…旨いし」
 アルトも少しずつだが美味しそうに食べていたので、エンは笑顔で話しかけた。
「どう、アルトくん、美味しい?」
 それに対し、アルトは食卓を一通り眺めてから答えた。
「うん。料理、全部美味しいよ」
「ふふ、その肉じゃがは私が作ったの。良かった~~やったね!」
 そしてシャルとエンは立ち上がってハイタッチをする。皆は笑い、アルトはその様子をきょとんとした表情で不思議そうに見ていた。

 エンがテーブルの周りを綺麗にしていたので、キッチンで片付けをしているシャルを今日はムジカが手伝った。ムジカはシャルの横でにこにこしながら言った。
「シャルのお味噌汁美味しかった~」
「マジで?練習した甲斐があったなー」
 笑いながら答えるシャルに、ムジカはしばらくうつむき、そして穏やかな口調でぼそっと呟いた。
「…それに…シャルが楽しそうで良かった」
「…!!……あー…うん…」
 シャルの体が一瞬熱くなる…しかしどう反応すればいいのか分からず狼狽してしまう。笑ってごまかせばいいのか、いっそこういう時は思い切って抱き締めるべきなのか?とりあえず、咳払いをしてごまかしてしまった。


 食後。アリスが退院したので、今後のことを話し合うために6人はリビングに集まった。
 まずはアリスが情報を伝えるために話を始めた。
「さっき、試しに懐剣を使ってみたら、光が青緑に戻ってたわ」
「…!!」
 ラング以外の皆はそれを聞いて驚いたが、やはりアルトの驚きが一番大きかった。アルトは心配そうな表情をしながら言った。
「アリスちゃん、無茶しちゃだめだよ」
 それに対し、ラングは思わず苦笑してしまう。
「はは、本当に心配した」
 アリスも笑顔でアルトに対し答えた。
「そうだね。アルトくん、ありがとう」
「?」
 これはスクラップゾーンでのラングとアリスの会話に基づいた話なので、アルトは訳が分からず首を傾げてしまった。
 ラングは改めて、アリスに先日5人で話し合った時の情報を伝えた。
「アリス、とりあえず元帥が居なくなっても危険が無くなった訳じゃないから退学の線もあるかな、って話まではした」
 アリスは状況を理解し、頷きながら言った。
「そうね…私も『無情の”壊”剣』があるかぎり危険は無くならないと思うわ。覚醒した時のこと、はっきり覚えてる訳じゃないけど…負の感情が次々と襲ってくるの。感情に連動するみたいに体もどんどん辛くなって…そして何もしてないつもりなのに勝手に体が動く…そういう感じだったわ」
 そこで、アリスは「あっ」と口にして続けた。
「でも…みんなのことを想い出したら少し楽になったの。心も、体も」
 それを聞いたアルトは少し考えた仕草をした後、小声で呟いた。
「…暴走してるのが感情だからなのかな?」
「分からないけど…」
 アリスも考えながら答える。エンも「確かに、アリスの名前を呼んだら動きが止まったもんね」と呟いた。
 アリスは改めて、皆を見回しながら言った。
「私は、『無情の”壊”剣』は封印した方がいいと思うわ。元帥が居なくなっても、濃度が高いと覚醒する可能性があることに変わりは無いのよね?みんなにあんな思いしてほしくない…」
 それにアルトも続く。
「そうだね。それに、今まで覚醒しなかったのに今回は急に覚醒した…濃度以外にも条件があるのかな…例えば、追い詰められた状況の時、とか」
「確かにそうだわ。私だけが特別輝煌を多く浴びた訳じゃないし…」
 そう答えたアリスに対し、アルトは頷きながら続けた。
「とにかく、分からないことが多すぎる。今回は覚醒が完全じゃなかったし光も元に戻ったけど、次はどうか分からない。150年前は元に戻らなかったからリマインドが必要になったんだろうし…やっぱり『無情の”壊”剣』危険なんだ…」
 そこでエンは、以前極夜のスクラップゾーンで出た話を再び皆に振る。
「封印するなら新しい懐剣に持ち変えるしかないよね。それか懐剣を使うこと自体諦めて別の職業につくとか…」
 ラングもその話を思い出し、頷きながら言った。
「じゃあ、やっぱり退学だな。もし新しい懐剣に持ち替えたとしても確実に戦力は落ちる。もう今までみたいな任務は無理になる」
 そこでムジカが話に入る。
「退学して極夜に戻って新しい懐剣の訓練すればいいんじゃない?」
 それに対しシャルは笑いながら言った。
「はは、ムジカは極夜に戻りたいだけだろ」
「ばれた~?」
 ラングは最後に、話をまとめた。
「まあでも冷静に考えてそれが一番いいと思う。完治したら6人で正式に退学しよう。それまでは寮でゆっくり過ごしてくれ。皇帝がどう考えてるのかも分からないし、怪我したままだと下手に動けないからな」
 話が終わると、ムジカは皆を見回しながら質問をした。
「今日も夜更かしパーティする?」
「うーん、でも怪我してるしなあ…まあ、ちょっと喋るくらいならいいか」
 ラングが苦笑しながら言うと、皆は自然と雑談を始める。
 しかし結局は夜が更けるまで話し込んでしまったのだった。


 それから数日間、皆はとりあえず、皇帝に色々と勘ぐられないように授業を消化しながらいつも通り過ごした。


 怪我がほぼ完治した頃。夜、ラングとエンは状況確認のために電話をしていた。
『ランちゃん、アルトくんの様子はどう?』
「ちょっと落ち着いてきたかな」
『そっか。良かった』
 行動に出る前に、色々とあったアルトとアリスの日々の様子を確認しておきたかったのだ。
「アリスの様子はどうだ?」
『いつも通り振る舞ってるけどどうかな…?無理してるかなあ』
「うーん、アリス真面目だからな…」
 そこでラングは、エンのことも聞いた。
「エン、発作の方はどうだ?」
『最近は出てないかな。調子いいみたい』
「そうか、あんまり無理するなよ」
『ありがとう、ランちゃん…もう、私のことはいいの!』
「…いい訳ねーだろ。お前なあ…」
『ほら、ランちゃん。私アリスとお話ししてくるね。じゃあね』
 そして電話は切られてしまった。
「…ったく…」
 ラングがそう呟いて頭を掻くと、リビングで電話をしていたラングはソファでアルトが本をぺらぺらとめくっていることに気付く。
「よおアルト。調子はどうだ?」
 ラングが笑顔で話しかけると、アルトは少し考えてから、穏やかな表情で答えた。
「…うーん…普通」
「ははは、普通か。いいな」
 その時、アルトは「あっ…そうだ」と言って部屋の方に戻っていった。
 アルトの後ろ姿を見ながらラングは思う。確かに、アルトは以前に比べだいぶ表情が豊かになってきた。だが、1つだけ、まだ誰も見ていない表情があったのだ。


 シャルが自分の部屋のベッドに座ってデバイスをいじっていると、ノックがした。
「はーい居るよ~」
 シャルは片手間に答える。すると…
「…ん?アルトくん?」
 そこに現れたのはアルトだった。シャルはてっきりラングが今後の相談等をしにきたのかと思っていた。
 アルトは、うつむきながら小声でシャルに言った。
「シャル、その…ありがとう」
「ん??俺なんかしたっけ?」
「…政府ビルで…色々…」
「あー」
 アルトは、政府ビルでシャルが自分を色々と支えてくれたことをしっかりと覚えていたのだ。
 シャルは笑顔でそっと答える。
「あれはアルトくんが頑張っただけだよ。俺は何もしてないよ」
「…」
 申し訳なさそうにしているアルトに、シャルは笑顔で言った。
「アルトくん、こういう時は笑顔笑顔」
 するとアルトは顔を上げて、きょとんとした表情で聞いてきた。
「笑顔ってどうやってやるの?」
「…!」
「僕、この前も笑顔になろうと思ったんだけど、やったことないから出来なくて」
 確かに最近はアルトの表情が見えてくるようになったが、笑っている表情を見たことはまだ一度も無かった。恐らく、やったことがないので笑い方が分からないのだ。
 シャルは少し考え、アルトに言った。
「…そうか。そうだなー…ちょっと練習してみる?今試しにやってみな」
「うん」
 するとアルトは目をぱっちりと開き、眉間にしわを寄せ、口元をむすっとさせる。
 そして、こう言い放った。

「どう、出来てる?」

「…」
 シャルは驚いた後、にこっと笑い、そしてうつむいてしまった。
「うーん…そうか…そう来たか…」
 そう呟くシャルに、アルトはきょとんとした表情に戻り「どうしたの?」と首を傾げる。
 シャルは少し考えた後、顔を上げて、こう言い放った。

「うん、まあまあ出来てるな。いいかんじだ」

 実際は全く出来ていないのだが。
 シャルは机の引き出しから手鏡を取り出し、アルトに渡しながら言った。
「ほら、次は鏡見てやってごらん」
「うん」
 そしてアルトは、鏡を見ながら先程と同じむすっとした表情をする。
 そして、その表情のままシャルを見て呟いた。
「…出来てないじゃん」
 それに対し、シャルは動じずに笑顔で返す。
「そう?お兄さんには笑顔に見えたけどなあ」
「もう、何言ってるの?全然じゃん」
 シャルはからかうつもりでは無く、面白い事を言ったら笑うかなと思ったのだが。
(何でもないような時に自然と出るのが理想なんだけどな)
 シャルは少し考えた後、笑顔で言った。
「そうだなあ。ちょっと、しばらく練習してみるか」
「今日?」
「ううん、毎日。訓練訓練!」
「訓練?どうやるの?」
 アルトがそう言いながら鏡を見て練習し始めたので、シャルはアルトが眠くなるまで付き合ってあげることにした。


 部屋でラングとの電話を終えたエンは、アリスの部屋に行こうとしたのだが、リビングでアリスとムジカが話をしていることに気付いた。
 エンは2人に笑顔で話しかける。
「2人とも、何の話してるの?」
 よく見たらアリスはうつむいて赤くなっている。ムジカは笑いながらエンに答えた。
「アリスがね、お父さんに甘えるの恥ずかしいっていうから。大好きなんだから思い切り甘えてもいいんじゃないかな~と思って」
 それに対し、アリスはもじもじしながら呟く。
「わ、私に出来る訳ないでしょ…」
「でも本当は甘えたいんだよね?じゃなきゃ言わないよ~」
「…ま、まあ…え、何で分かるの…?」
「アリス分かりやすいよ」
 そこまで話を聞いたエンは、笑顔でアリスの前に両手を広げながら言い放った。
「よし、じゃあ私で練習しよ。アリス、おいで。ぎゅーっとしてあげるから」
 それを聞いたアリスは真っ赤になり、「えっ!」と声を上げる。そして、うつむいたまま「わ、私はいいわ…」と小声で呟いた。
 ムジカはアリスの顔を覗き込み、笑顔で言った。
「そうだよ、アリス甘えなよ~」
 それを聞いたエンは、そのまま広げた両手をムジカに向けて言った。
「ムジカも、甘えてもいいんだよ。ほら、おいで」
「こうやるんだよアリス。エン~~~」
 ムジカはそう言ってエンに飛びつくと、エンはそのままムジカを抱き締め、優しく囁く。
「はい、いいこいいこ」
 それからしばらくして…アリスは見た。

「…うっ…うっ…」

 ムジカはエンの腕の中で、すすり泣いていた。

(ムジカ…)
 エンはムジカの頭をそっと撫で、優しく囁く。
「よしよし。明日はムジカの大好きな辛い鍋にしようかな」
 そのままエンは、片手でムジカを抱き締めたままアリスの前にもう片方の手を出す。
「アリスもおいで」
「…私は…」
「いいからいいから。おいで」
 アリスは照れながら、控えめに頭を差し出す。エンはアリスの頭をそっと抱き締めた。
「アリスもよしよし。ほら、甘えて甘えて」
「…うん」
 アリスの目から、自然と涙が出てくる。
 エンは、2人の頭をそっと撫でながら、優しい声で囁いた。
「2人とも、よくがんばったね…」


 きっとあと少しで穏やかな日常が訪れる…と6人は思っていた。
 それまで何も起こりませんように。
 どうか。


 ラングがそろそろ退学の準備を考え始めた頃。ホープ島の各地で、地盤が崩れたというニュースが流れ始める。

 それが、全ての始まりだった。

>>15.終末と宿命