帰り道、風が少し冷たかった。
夕方にスクラップゾーンから極夜に帰還した時、帰り道に考えがまとまったラングが皆に呼びかけた。
「しばらくは新しい懐剣の練習をして過ごしてみよう。使いこなせるかどうか試してみる。変わらなかったら別の方法を考える。あまり深く考えると疲れるしのんびりもしようぜ」
それにエンも同意した。
「そうだね。みんなに極夜にも慣れてほしいし。さあ、さっさと着替えて夜ご飯の準備しよっか!」
夜、皆で食卓を囲うとメノウが「みんなの両親の写真が確かあったはずだから、見つかったら見せるわね」という話をした。
これに一番反応を示したのはムジカである。
「ホント…?見てみたい!どんな人だっかのかも知りたいな~」
それはそうだ。ムジカは父のことも母のことも全く記憶にないのだ。これにはシャルも「正直、俺もちょっと聞いてみたい」と乗り気になった。他の皆も興味深そうな表情をして頷く。
メノウは笑顔で皆に答えた。
「そうね、今日の夜に探してみるわ。見つかったらその時にまた写真を見ながら話しましょうね」
しかし、その時はすぐにはやってこなった。
夜中。アリスのデバイスに、一通のメールが届いた。眠っていたアリスはすぐに飛び起きる。
(父さんからメールだわ。良かった…)
想像通り、父のコーラルからだった。退学に関する返事がやっと来たのかと思った…が、メールの内容は…
『アリス、今すぐ、誰にも言わずに政府ビルに来なさい』
(…どういうこと…?)
アリスは混乱した。意味が分からなかった。とりあえずすぐに返事をする。
『父さん、どういうこと?何かあったの?』
するとすぐに返事が返って来た。
『アリス、君がレギュレート兵器になるんだ。君の父さんも望んでいる』
(…父さんじゃない…?まさか…)
アリスは血の気が引いた。まさか、と思った。真っ青になったままメールを続ける。
『元帥ですか?』
『アリス、どうするんだ。来るのか?来ないのか?』
会話が成り立っていないが、恐らくアイオラ元帥だろう。
(ターゲットを私に変えた…?アルトくんの言った通りだわ…これは罠よ、行く訳がない)
『父さんはどうしたの?父さんと話をさせて!!』
『父さんが無事でいて欲しいなら、一人で来なさい。誰にも言うんじゃないぞ』
「…!父さん…?」
アリスは思わず呟いてしまった。隣のムジカが起きていないことを確認してから続ける。
『父さんに何をしたの!?』
『アリス、これはチャンスでもあるんだ。これが成功したら、この功績でやっとジェイド地区の事件を帳消しにできる。君には事件を起こした事実があるんだよ。他の5人とは違うんだ…』
「…!!」
アリスは震えたままメールを返した。
『そうかもしれないけど…あなたには言われたくない!!』
『誰にも分からないように始発で来なさい』
「…」
(そうだわ…)
私、うのぼれてた。私は取り返しのつかない事件を起こしたんだ…それなのにみんなと居たいだなんて。
…違う!
ここで自分を責めたら相手の思うつぼだわ。もうちゃんと割り切ったはず。みんなも私を信じてくれる…
…だけど…
朝。エンがアリスとムジカの部屋を見に行くと、そこにアリスは居なかった。
ムジカが置手紙を見つけたので、エンはラングたちをすぐに呼んだ。
置手紙には、
『私は…やっぱり父さんを見捨てられない
ごめんなさい』
と、書かれていた。
エンは首を横に振りながら呟く。
「どういう意味か分からないの。電話しても繋がらないし…」
ラングは置手紙を見ながら言った。
「コーラル次長から連絡が来て何かあったってことなのか?」
その時、アルトははっとする。
「…まさか…父さん…!?」
「!!??」
アルトの一言で、全員の中で話が繋がってしまった。
シャルは小声で「…人質か」と呟く。エンは「…最悪…!!最低…!!」と声を震わせた。
「父さん。今どこに居るの?」
すぐに、そうアルトの声がする。アルトは咄嗟にアイオラ元帥に電話をかけていた。
電話に出た父の声は、ゾッとするくらい冷静だった。
『どこって…元帥執務室に決まってるだろう』
「アリスちゃんをどうしたの?何しようとしてるの?」
『ククク…気になるのか?ならお前も来るといい』
「…父さん?父さん!!」
電話はすぐに切られてしまう。しかしその電話の内容は、やはり元帥が関わっていることを肯定する内容でもあった。
ラングはすぐに皆に呼びかける。
「政府ビルに行ってみないと分からないな。すぐに行くぞ!!」
エンはメノウに心配をかけないように「ちょっと急用で出掛けるね」とだけ書置きを残し、5人はすぐに準備をした。そして…『無情の”壊”剣』を手にしたのだった。
列車の中では誰も喋らなかった。しばらくした後、最初に言葉を発したのはムジカだった。
「…アリス…お父さん大好きだもんね。アリス優しいから…そこを利用されたの…?許せない…絶対に許せない!!!!!」
それに、エン、シャル、アルトが頷く。4人の顔は完全に怒りを必死に抑えようとしている表情だった。ラングも怒りに囚われそうになったのだが、皆の表情を見て、せめて自分だけは冷静でいなければと思った。
列車から降りると5人はすぐに走り出す。政府ビルの敷地内に入ると、5人の前に黒い制服を着た6人の兵士が現れ、何と懐剣を展開して攻撃してきた。先頭を走っていたラングはそれをかろうじてかわす。
「…攻撃してきた!?」
ラングが驚きながらそう口にすると、アルトは相手の姿を確認して冷静に言った。
「この制服…父さんの直属の手下だ」
「くっ…仕方ない。懐剣展開!!」
ラングはすぐに呼びかけ、5人は懐剣を展開し攻撃に応じた。
しばらく攻撃を打ち合うと、周りがざわざわとし始める。それはそうだ。どちらもホープ帝国の人間だ。傍から見れば仲間同士が攻撃しあっているようにしか見えないだろう。そもそも、自分たちが居なかった間に元帥によって6人がどういった処分になっているのかも分からないのだ。こちらが反逆者だと誤解される可能性もある。
5人は政府ビルに侵入するのに目立たないよう制服を着てきたのだが、この展開だとそれが裏目に出ないだろうか…
ラングは暫く考えた後、皆に呼びかけた。
「話がややこしくなりそうだな。みんな、こっちだ!」
皆は頷き、走り出したラングの後に続く。しかし、ムジカはその場を動こうとせず、敵を見ながら言い放った。
「だめ!!時間が無い!!このまま突破する!!」
皆はその声を聞いて足を止め、そのままムジカを先頭に敵と対峙する形となった。ラングは敵をけん制しながらムジカに近付き、耳元で囁く。
「ムジカ、気持ちは分かる…みんなムジカと同じ気持ちだ。だけどアリスを本当に助けたいなら落ち着こう…いいな?」
「…!」
ラングはそのまま再び走り出す。皆がラングに続く中、ムジカもアリスを助けるために、涙をこらえながら後に続いた。
5人は街中の路地を縫うように走り、うまく撒いて敵の姿が見えなくなると正面玄関から速やかに侵入する。強引に突破しなかったお陰で、内部はまだ騒ぎになっていなかった。
騒ぎが起こる前に事を済ませたいので5人は静かに歩いた。先頭のラングはエレベーターのある方面に向かいながら小声で呼びかけた。
「人に見られると厄介だな…早く上へ行くぞ」
しかし、元帥執務室へのエレベーターは止められていた。
シャルが冷静に呟く。
「ま、そりゃそうだな。手下を配置するくらいだし。非常階段でも使うか?」
皆が自然とラングに判断をゆだねようとすると、ラングははっとしてデバイスを見た。
「…!返事が来た!!」
ラングは情報を得るために、信頼できる士官にメールしていたのだ。ラングはメールの内容を伝える。
「アリスは、兵士たちに連れられて…イーストシティ外れのスラム街の…カタルシス国の本部がある方面に謎の機械と共に行った…元帥は執務室…か」
それを聞いたムジカは深呼吸をして、心を落ち着かせてからラングに聞いた。
「ラング、すぐに追う?追ってもいい?」
「ああ、もちろんだ。行こう」
ラングの返答にムジカは力強く頷いた。
そこで、アルトがこう提案をした。
「…僕は父さんに会いに行く。非常階段で行く」
皆それを聞いて驚いた表情をしたが、ラングはとあることに気付き冷静に言った。
「そうか、アリスを追う方と元帥を問い詰める方でチームを分ければいいんだな」
「…僕1人で大丈夫。アリスちゃんを追う方が大事だから」
「いや、元帥を止められれば兵器を無効化できる可能性もある。人数を割く意味はある。さっき手下が攻撃してきたし1人は危険だ」
そこでシャルが話に入る。
「じゃあ、俺がアルトくんと行こうか?ラングと俺で盾役を二分すればバランスいいだろ?ついでにこれで前衛もラングとアルトくんで二分できるよ」
ラングは少し考え、作戦をまとめた。
「なるほど…そうだな。こっちは前衛が俺、後衛がムジカ、エンには臨時で中衛をやってもらう。そっちは前衛がアルト、中衛がシャルだ。室内だから後衛は無くても大丈夫だろう。これでどうだ?」
「いいじゃん。みんなもいいよな」
同意したシャルに、エンとムジカも頷いた。
シャルはアルトを見ながら声をかける。
「さ、アルトくん行こう」
アルトは少しシャルを見つめた後、「…うん」と答えて頷き、2人は走り出す。シャルは走りながらラングたちに「気をつけろよ!」と呼びかけ、ラングも「そっちも!」と答え3人もすぐに走り出した。
シャルとアルトは非常階段を歩いていた。本当は走りたいところなのだが、元帥執務室は40階にあるのだ。体力を温存しなければならない。20階以降に先程とは別のエレベーターがあったはずなので、それが動けばいいのだが…
シャルは歩きながらアルトに話しかけた。
「アルトくん、もしまた敵が出てきたら俺が指示を出すかんじでいいかな?」
「うん、いいよ」
アルトの声を聞くと、まだ息は切れていなかった。
5階の踊り場に出ると、予想していた通りアイオラ元帥の手下3人と遭遇した。懐剣を構える敵に、シャルはまずは冷静に話しかける。
「さっきも言おうとしたんだけどさあ。この子、アイオラ元帥の息子なんだけど。攻撃しちゃっていいの?」
すると…手下の1人が、こう言い放ったのだ。
「アルトを始末しろと命令されている」
「…!?」
シャルとアルトが驚く中、敵はすぐに攻撃してきた。2人は攻撃をかわす。
シャルは思わずアルトの表情を確認する…
アルトは”無表情”で言った。
「…僕はもう…用済みみたいだね…」
シャルは、まさか…と思った。
(…まさか…兵器としてアリスが手に入ったから…?)
付き合いも長くなってきた。無表情から心情を読み取ることはできる。
もしアルトがアイオラを本当に憎んでいたり、もしくはどうでも良ければ、こういった扱いを受けてもどうも思わないのかもしれない。確かにアイオラに対して怒りや反抗の意思はあるだろうが、アルトの反応を見て、まだ父のことを割り切れないでいる…とシャルは思った。
シャルは懐剣を展開し、敵にじりじりと近付く。シャルの目は、完全に怒りに囚われていた。
シャルは敵に吐き捨てるように言った。
「…なるほどねえ…ふーん……ふざけんな……ふざけんな……ふざけんな!!!!!」
シャルはもう我慢することが出来なかった。本当は先程ムジカをたしなめるのも自分であるべきだと思ったのだが、正直自分の怒りを抑えることでいっぱいいっぱいだったのだ。
ジェイド地区の事件のこと。
これまでのアルトのこと。
今回のアリスのこと。
「…ふざけんな…」
明らかにまだ父への想いを断ち切れていないアルトが父に道具のように切り捨てられてしまったのを見て、シャルはついに我慢の限界を超えてしまった。いや、これは、怒りというよりは…むしろ…
「アルトくん、懐剣展開して、俺が光の玉で敵の動きを止めてる間に敵を一掃してくれ。遠慮はいらない」
「…シャル…うん、了解」
アルトは気持ちを切り替え、敵を睨みながら懐剣を展開した。シャルが光の玉で敵をけん制し、アルトが怯んだ相手を撃破する…こうして2人は凄まじい勢いで敵を一掃した。
「…」
倒れている敵を睨み付けているシャルに、アルトはそっと話しかける。
「…シャル…僕…」
「アルトくん、もうアイオラに気を使わなくてもいいかな?あんなの親じゃないよねもう。もうぶっ飛ばしてもいいかねえ?アルトくんには俺たちがいるから大丈夫だよね」
シャルは笑いながら言ったが、目は全く笑っていなかった。
「…うん、いいよ。もう大丈夫」
アルトはそう答え、表情が穏やかになったような気がした。アルトの表情を見て、シャルも少しだけ落ち着きを取り戻した。
階段を上り、踊り場に着く度に2人は襲われた。シャルは戦いながら内心穏やかではなかった。
(本気でつぶしにかかってきてやがる…ああ胸糞わりい…)
10階の踊り場に敵は出なかったので2人は休憩をとった。休んでいる中、シャルは”懐剣:アニムス”を見ながらアルトに話しかける。
「…アルトくん。2人でここまで来れちゃったね。やっぱこの武器やばいな」
「…うん。『無情の”壊”剣』は…恐ろしいんだ…」
今までカタルシス国の人間や野良のレジスタンスしか相手にしてこなかった。初めてホープ帝国の人間と練習以外で本気で戦ったのだが、2人だけで元帥の手下を倒してしまえているのだ…
また再び何度か戦闘をして20階に着く。20階のエレベーターは動いていたので、2人はそれに乗り元帥執務室へ急いだ。
その頃…
ラング、エン、ムジカの3人は、イーストシティのカタルシス国本部方面に列車で向かっていた。
霧がかかっている。今日は晴れだったはずだが…
列車を降りると、異常に気付く。ラングはすぐに2人に告げた。
「2人とも、懐剣展開だ!!」
そう…何故か、輝煌の濃度が異常に高いのだ。先程の霧は輝煌だったということだ。ここは街中で輝煌石も無いはずなのだが…
エンは周囲を見渡しながら呟く。
「どういうこと…?輝煌タンクから漏れたのかな?それかわざと放出してる?」
ラングも周囲の様子を確認しながら答えた。
「…いや…その割には濃すぎる…」
「輝煌タンクは霧は出せないもんね」
輝煌タンクを放出すると島外で懐剣が使えるようになるが、常に空気中に輝煌があるポープ島と同じ環境に出来るというだけであって、霧ができる濃度にまではできない。
スラムとスクラップゾーンが一体化したような場所なので、輝煌の霧の影響で多くの機械が暴れ回っており、人々が避難するために走り回っていた。
ラングは周囲の様子を確認し、2人に呼びかけた。
「あっちが騒がしいな。行こう」
3人はすぐに走り出す。エンは走りながら呟いた。
「アリスが帰ってきたら…ぎゅっとしてあげようね…」
ムジカも頷きながらそれに答えた。
「うん…アリス…」
――ここはどこ…?
アリスは暗闇の中に居た。
ほんの少しだけ外の景色が見えた。
体の感覚が無い…
かろうじて手の感覚だけ少し残っていた。手に力を込めると外の景色に粉塵が広がった。
ラングたちは、開けた所で立ち尽くす巨大な機械兵と遭遇する。
咄嗟に攻撃しようとすると、エンが異変に気付く。
「…待って、ランちゃん、普通の機械兵と違う…」
その機械兵は、両手に巨大な両剣を装備していた。
中央にカプセルのようなものがあり、小さな窓が付いている。
そしてそこに、目を閉じたアリスの顔が映った。
ラングは思わず名前を呼んでしまう。
「アリス…!!??」
エンは、その機械兵の様子を見て、はっとする。
「…まさか…レギュレート兵器…?」
そう。これが”レギュレート兵器”で、中央のカプセルが”レギュレート・コア”であった。中にアリスが封印されていた。
その時、周りのカタルシス国と思われる人々が兵器に攻撃する。
ムジカはそれを見て絶叫した。
「待って!!やめて!!!!!」
しかし彼らの攻撃は一切効いていなかった。兵器は暴れたりはしておらず、時々双剣を振るって建物を攻撃している状態だった。
3人も、アリスが中にいるので攻撃できずにいた。
アリスは、暗闇の中に居た。
――…ジェイド地区を滅ぼして…今度は兵器でまた街を滅ぼすのね。私、やっぱり兵器として生まれてきたんだわ
そういえば夢の中でもずっと戦ってた。あの夢、予知夢だったのかしら
体が熱い
その時…
レギュレート・コアの中でアリスが握りしめていた”懐剣:ラブ”が、赤い光を放ち始める…
それと同時に、兵器の双剣も赤い光を放ち始めたのだ。
「あれは…まさか…赤い光…?」
ラングが呟くと、兵器は激しく暴れ出す。兵器が発する赤い光が周囲の建物を攻撃し始めた。凄まじい勢いだった。とても近づける様子ではない。
ラングは咄嗟に呼びかけた。
「…一旦避難して作戦を立てる。ムジカもいいな!?」
「…分かった」
ムジカもすぐに納得した。3人は兵器から一旦距離を取り、物陰へ避難することになった。
その頃、シャルとアルトは元帥執務室に到着していた。2人は間髪入れず扉を開ける。
アイオラは椅子に座って巨大なモニターを見ていた。モニターに映っているのは街中で暴れ回る機械兵である。恐らくこれが、レギュレート兵器だろう。
アルトは父の背中に話しかけた。
「…父さん…」
アイオラは椅子に座ったまま椅子ごと振り返った。
「…アルト…?兵士はどうした?」
これには、シャルが一歩前に出て答える。シャルの目は怒気に満ちていた。
「全員倒したけど?」
「…シャルも居るのか。ふん…アルトの体力を削ってから捕らえるつもりだったんだがな…」
「は?アルトくんの体力がないのあんたのせいだと思うけど。親だよね?」
「仕方ないだろう。食事を与えても食べないのだ」
「毎日兵器兵器言われたら食欲もなくなるだろ。アルトくんの心が傷付いてるかもとか普通考えない?俺とエンの作った食事はちゃんと食べてるぞ。顔色も以前よりだいぶ良くなったけど気付かなかったか?」
そしてシャルは更に一歩前に出て、吐き捨てるように言った。
「…あんた、ジェイド地区が滅んだのは事故じゃなかったそうだなあ…」
「…」
アイオラは無言で立ち上がる。シャルとアイオラは不敵な笑みを浮かべ、2人はしばらく睨みあった。
最初に言葉を口にしたのはシャルであった。
「…と、本当ならぶん殴りたいところだけど、今日あんたに会いに来たのはアルトくんだからこの辺でいいぜ」
「…シャル、いいの?」
アルトは少し驚きながら言った。アルトにも、シャルがジェイド地区についてアイオラと話したい気持ちがあることを充分分かっていたのだ。シャルはアルトに、そっと囁く。
「今日はアリスを助けるために来たんだろ?」
「…うん」
シャルは二歩下がり、アルトと再び横に並ぶ。アルトはアイオラを睨みながら言った。
「父さん、アリスちゃんを今すぐ止めて。そうじゃないとここで暴れて、その後すぐに兵器を破壊する」
「兵器の装甲は外部からは破壊出来ないように出来ている。だが、確かに暴走した時のために『無情の”壊”剣』と振動数を合わせ『無情の”壊”剣』でのみ破壊出来るようにはなっている」
アイオラが突然重要なことを話したので、シャルは笑いながら言った。もちろん目は笑っていなかったが。
「はは、良い情報だな~気が狂ったの?」
それに対しアイオラは冷静に答える。
「中にはアリスが居る。はたして攻撃できるかな…?」
「…そういう理由で喋ったのか。趣味、悪っ」
その時、アイオラが懐剣を展開し近くの機械を操作すると、部屋の輝煌の濃度が一気に上がり、室内に霧が広がった。シャルとアルトも咄嗟に懐剣を展開する。
「完成したばかりの装置だ。輝煌の味はどうかね?」
アイオラがそう言うと、別室から小さな機械兵が無数に現れた。
シャルはアルトに呼びかける。
「あいつから仕掛けてきたんだから正当防衛だよね…アルトくん、機械兵数が多いから俺が一気に片付ける。そのうちにアイオラを引き付けてくれ、無理はしなくてもいい」
「了解」
戦闘の火ぶたは切られた。
機械兵はシャル、アイオラはアルトが相手をすることになった。アイオラは余裕の表情で言った。
「アルト、何故私が元帥と呼ばれるのか分かるかね?この懐剣は普通の懐剣だが、強さというものはそれだけでは無い」
そしてアイオラの方から仕掛けてきた。アルトはシャルの言った通り、アイオラの攻撃をかわし引き付けることに集中する。自分から仕掛けることは極力避けた。
「この濃度では覚醒してしまうかな?」
アイオラはアルトのことを挑発しながら戦っていた。シャルは光の玉を大量に出し機械兵をそれに触れさせることで1つ1つ破壊していった。
しばらくして、アルトは既に汗だくになり、肩で息をしていた。そもそもここに来るまでに相当な戦闘数を重ねているのだ…
アイオラは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「もう体力が無さそうだなあアルト…」
それに対し、機械兵を1つ1つ破壊していたシャルが「テメエ、ふざけんな!!!!!」と激昂する。そしてシャルは最後の機械兵を破壊したのだった。
アイオラは、さすがに少し驚いた表情をしながら言った。
「まさか…破壊し終えたのか…??素晴らしい…素晴らしいぞシャル!!」
アイオラは何故か嬉しそうだった。シャルは間髪入れず、アルトとアイオラの間を駆けて光の玉を出した。
アイオラはシャルとアルトを交互に見て、静かに語り出す。
「いい表情だ、シャル。”懐剣:アニムス”も素晴らしい懐剣だな…”Animus”とは…憎しみ…」
アルトは光の玉によりこちらに近付けないアイオラの隙をつき、ディライトで攻撃をした。アイオラはそれをかろうじてかわす。
アイオラは、更に語り続けた。
「…”Delight”は喜び。アルト、お前はどんなことに喜びを感じるのかな?”Ile”は怒り。”Sadness”は哀しみ。”Merry”は楽しみ。”Love”は愛…『無情の”壊”剣』、感情が狂わされるのに名前が六情とは。先人たちは何を思ってこのような名前を付けたのだろうな。『無情の”壊”剣』は特定の感情のみを増長させることは出来ない。この言葉の力は何に作用するのだろうな…」
そこで、アルトの攻撃が元帥の腕をかすめる…
アイオラは攻撃を受けた腕を押さえながら機械を操作し、透明のシャッターが閉まる。奥にアイオラ、入り口側にシャルとアルトという形で、2間は透明のシャッターで区切られた。
それは、運命の分かれ道だった。