極夜の夜。やるべき話も大体終わり、後は休むだけだった。
エンの家では、男性陣がラングの家に帰った後、エンがアリスとムジカを自分の部屋に案内した。エンはタンスを開けて中を確認しながら言った。
「着の身着のままで来ちゃったからね。私ちょっと用事済ませてくるから、寝る時の服、私の部屋のタンスから適当に取っていいよ。お風呂とかも自由に使ってね。2人の部屋は隣にあるよ」
「はーい!」
ムジカが元気よく返事をすると、エンはすぐに出掛けて行った。
アリスはエンの部屋を見回しながら呟く。
「エンの部屋、片付いていて綺麗ね」
個室は鉄骨がむき出しになっておらず、エンの部屋も綺麗に片付いた年頃の部屋という感じであった。
ムジカはタンスから出した服を広げながら言った。
「どれがいいかなあ。エン身長高いしスタイルいいからあたし似合うかな~?」
アリスは苦笑しながら答える。
「ムジカは小さいから可愛いんじゃないの?」
「ホント!?アリスに褒められちゃった!ありがとー!」
ムジカは嬉しそうにはしゃいだ。アリスは先程の言葉は無意識に言ってしまったものなので、照れながら「え、ええ…」と答えた。
ムジカはよほど嬉しかったのか、はしゃいだままアリスに言った。
「アリスはスレンダーで綺麗だよねえ」
「…もう。早く選びましょう」
アリスは照れを隠すようにそう言った。
着替え等を済ませた2人はリビングでエンを待つことにした。そこに、寝る準備をしているメノウが通りかかる。メノウは2人の服を眺めながら話しかけてきた。
「あら、似合ってるじゃない」
それに対しムジカは満面の笑みで答える。
「ありがとう、エンのお母さん!」
「エンのお母さん、じゃなくて普通にお母さんって呼んでも平気よ」
それを聞いたムジカは「えっ!?」と声に出し真っ赤になってしまう。ムジカのこのような反応は非常に珍しい。ムジカは、もじもじしながら、小声で呟いた。
「え、お、お母さん…」
「何、ムジカ」
メノウは優しい笑顔でムジカにそう答えた。
「えへへ…お母さん、おやすみなさい」
男性陣はラングの家に着くと、ラングはシャルとアルトを自分の部屋に案内した。ラングはタンスを開けて中を確認しながら言った。
「俺、用事済ませてくるから寝る服タンスから適当に取ってくれ。風呂とかも勝手に使っていいからな。アルト、部屋はいつもの部屋な」
「うん」
アルトが頷きながら返事をすると、ラングはすぐに出掛けて行った。
シャルはラングの部屋を見回しながら呟く。
「へー、意外と綺麗にしてんじゃん」
個室は鉄骨がむき出しになっておらず、ラングも寮に移る時に部屋を片付けたのか、綺麗にしてあった。
シャルはタンスから出した服を広げながら言った。
「俺とラングじゃ体格そんなに変わらないからいいけど、アルトくんには全部大きいかなあ」
「…でも、大きい方があったかそう」
アルトはシャルが広げた服を眺めながら呟いた。そう、アルトは寒がりなのだ。
シャルは少し考えた後、笑いながら言った。
「まあ、それもそうだな。上下なんかモコモコしたやつ無いかな…これでいいか」
「うん」
シャルは、服が合うかアルトの体に当てながら…弟が居たら、こんなかんじなのかなあ…と、何となく思った。
出掛けて合流し、”明日のための準備”を済ませたラングとエンは、やっと帰路についた。
アリスとムジカがリビングで待っていると、エンが帰って来る。ムジカは立ち上がりエンに声をかけた。
「エンおかえり~」
「あれ、2人ともここにいたの?」
エンはそういうと、2人の服を眺めながら笑顔で続けた。
「2人とも似合ってるね、可愛い。明日の予定もうランちゃんと決めてきたから、今日はゆっくり休んでいいよ」
アリスとムジカもエンに声をかける。
「そうだったの。エン、遅くまでありがとう」
「ゆっくり休んでね!」
エンは2人をぎゅっと抱きしめる。
「ありがと!2人とも、お休み」
そして3人はそれぞれの部屋に戻っていったのだった。
「…ねえ、アリス」
アリスとムジカはエンに案内された部屋に入り、電気を消して布団の中に入ったが、ムジカがアリスの方に顔を向けて話しかけてきた。ムジカは続ける。
「あたし…こんなこと言ったら怒られるかもしれないけどさ…”兵器”って言われて、何か6人の新しい絆が出来たような気がしちゃったの。えへへ、おかしいよねえ」
「…」
アリスも同じようにムジカの方に顔を向け、こう言った。
「正直に言うわ。私も同じよ」
「えっ」
「というか、みんなもそうだと思うわ。だってみんな、聞いた時はさすがにびっくりしてたけど、受け入れるのが凄く早かったもの」
「…確かにそうかも」
ムジカはクスクスと笑ってしまう。
「…えへへ、あたしだけじゃなくて良かった。アリス、お休み」
「…ええ、おやすみ」
2人は、寝る準備を終えたであろうエンの優しい足音が、部屋の前を通り過ぎるのを感じながら眠りについた。
アルトがシャルを部屋に案内し2人で寝る準備をしていると、部屋の外から音がした。ラングが帰って来たようだ。シャルがドアを開けると丁度ラングが通りかかった。アルトもひょこっと顔を出す。シャルはラングに声をかけた。
「終わった?遅かったな。お疲れ」
「おう。明日の予定もうエンと決めてきたから、今日はゆっくり休んでいいぞ」
「そうなんだ、悪いな。ラングもゆっくり休めよー」
シャルがドアを閉めると、アルトは敷いた布団の上にしゃがみながら言った。
「…この部屋、久しぶり」
「ああ、そっか。アルトくんもこの部屋に遊びに来て…」
そこで、シャルははっとする。
恐らく、遊びに来ていただけではない。本当に”世話になっていた”のだ…
「…アルトくん、今日は楽しい話でもしよっか…ん?」
シャルがアルトを気遣い優しく話しかけると、アルトは布団に横になって既に寝息をたてていた。
「アルトくん寝ちゃった?そうか~アルトくんとお喋りするつもりだったのにな~」
そしてシャルはアルトに毛布をかけてあげながら、「…今日は色々あったもんな」と呟いた。
そこで、ちょうど着替えを済ませたラングが部屋に入ってくる。
「シャル、ちょっといいか?」
シャルは口に指を当てて「しーっ」と言った。ラングは苦笑しながら、小声で「ああ、アルト寝たのか」と呟いた。
2人はアルトを起こさないようにラングの部屋に移動すると、ラングは話を始めた。
「エンにも話しておいたんだけど、元帥のことでさ。みんなを集めて話すってのもなあ…今はあんまりアルトの前で元帥の話はしたくねえし…」
シャルも何となく話の内容は理解出来ており、冷静に答える。
「…確かにな。で、話ってのは…まあ、大体分かるけどな。元帥が、このまま俺たちをほっておくと思うか?ってことでしょ?」
「はは、もう分かってるじゃん。色々手を打っておきたいし、いつ何があってもいいようにいつでも動ける準備はしておいたほうがいい、って話だ」
「そうだねえ。のんびり寝てる場合じゃねえか…」
「ほんとな。本当はみんなにものんびりして欲しいんだけどな」
2人は苦笑するしかなかった。
――シャルの夢に、少し体が悪かったけれど明るかった父さんと、力持ちでいつも豪快だった母さんが出てきた。いつものようにご飯を食べて、父さんと母さんと少し話して、2人に「いってきます」と言ってシャルは出掛ける。
最後の日だった。それが、2人と話した最後の瞬間だった――
そこでシャルはぱちっと目を覚ます。ラングの家だ。鳥の鳴き声が聞こえる…もう朝だった。シャルは手で目を覆う。
(…夢か…考えないようにしてたのに…夢に出てこられたらどうしようもねえじゃん)
シャルが手をどけると、あることに気付いた。
(…ん…?何だ…?)
アルトが、シャルの顔を覗き込んでいたのだ。
「…アルトくんおはよ。何?お兄さんの寝顔イケメンだった?」
「…シャル、大丈夫?」
「ん?」
「シャル、うなってた」
(…唸ってた…?ああ…うなされてたのか俺…)
そこで、ドアからまだ寝間着姿のままのラングが現れる。
「2人ともおはよう。よく寝れたか?」
するとアルトは、曇りの無い目でラングを見ながら言った。
「ラング、シャルうなってた」
シャルは苦笑しながら「…ああ、ランちゃんに言っちゃうのね」と呟く。
ラングは心配そうにシャルに声をかけた。
「うなされてたのか?寝心地悪かったか?」
シャルは少し考え込み、「うーん」と唸りながら、こう言った。
「いや、多分、逆」
「逆?寝心地が良くてうなされてたってことか?」
「そうそう。まあ、変な夢見ただけだから心配すんな」
「…そうか。何かあったら遠慮なく言えよ。そうだ、今日も飯、エンの家で食べるからな」
「了解ー」
そしてラングは着替えるために自分の部屋へ戻っていった。
シャルは気持ちを切り替え、立ち上がりうーんと伸びをすると、笑顔でアルトに話しかける。
「よし、飯作るの手伝ってくるか。アルトくんお腹すいた?」
「…うーん…」
「じゃあ、食べられるだけ食べような」
「うん」
シャルとアルトも出掛ける準備を済ませてからエンの家に出掛けたのだった。
着替えを済ませたエンはアリスたちの部屋に行った。
ちなみにムジカは「ちょっとお母さんの様子見てくる」といって部屋を出たきりである。アリスは部屋の外から来たエンに「ムジカは?」と聞いた。それにエンが笑いながら答える。
「朝から台所でお母さんにべったり甘えてるよ。ふふ、可愛いよね」
アリスはエンの返答を聞き、苦笑しながら「そう」と答えた。
ムジカは朝ごはんの準備をしているメノウを手伝いに行ったようだった。エンは、ムジカの様子を聞いて微笑ましそうな表情をしているアリスに、笑顔でこう言った。
「アリスも甘えていいんだよ?」
それを聞いたアリスは咄嗟に真っ赤になってしまう。アリスは慌てながら言った。
「わ、私は…そういうの慣れて無くて…」
「じゃあ甘える練習しよっか!さ、行こう!」
「ええ??」
そうしてエンとアリスも食事の準備を手伝いに行ったのだった。
6人でメノウと朝ごはんを食べ、いつもの日常のような、たわいもない話をした。今日は途中からガネットも来て一緒に食べた。その後6人は自然と「いってきます」と挨拶をして出かけていった。
チーム:ミモザ…と呼んでもいいのだろうか(一応在学はしているが…)。6人は、極夜の地区の近くにあるスクラップゾーンに来ていた。服は、一応いつものような戦闘に適した服を着ているが制服はまとっていない。
6人は手にそれぞれ、いつもの懐剣…『無情の”壊”剣』ではない、別の懐剣を持っていた。そう…今日は、『無情の”壊”剣』以外の懐剣を使う練習をしにきたのである。昨日ラングとエンが出掛けたのは、ガネットに頼んで次の日に使う懐剣の準備をしておきたかったからであった。
ラングは皆に告げた。
「目的は、『無情の”壊”剣』を再び封印するために別の懐剣に乗り換える…だ。みんな、行くぞ」
ムジカは「あはは、何か任務みたいだね」と笑いながら言った。ラングも「…確かにそうだな…何か癖が抜けなくて…」と苦笑してしまった。
ここに来た目的は先程ラングが告げたとおりである。『無情の”壊”剣』を封印し、少しでも自分たちの身に降りかかる危険を回避できないかという話になったのだ。
6人ともガネットから、今まで使っていた懐剣と似た性能を持つ懐剣を借りていた。ラングは剣と盾が併用されたもの、アリスは双剣、シャルは特殊効果を持つ短剣、エンは槍、アルトは大剣、ムジカは銃である。ここのスクラップゾーンはがらくたのような機械が飛び回っているだけで機械兵も出ないので、新しい懐剣を試すのに適しているということでここが選ばれた。
ラングは目の前に動き回る機械が現れると、「最初に俺が行く」と言って懐剣を展開し、まずは自分から新しい懐剣を試した。機械からの攻撃を盾で防いでみる。これはうまくいった。だが、剣モードに戻して敵を斬ってみると、機械はすぐに破壊できずに3回ほどの攻撃を必要としてしまった。
機械を破壊するとラングは再び盾モードを展開する。しばらく盾を眺めた後、展開を解除するとラングは懐剣を見ながら呟いた。
「これ、盾に特化されすぎてて剣が弱すぎるな…あと結界は作れ無さそうだ」
そして次の機械が現れると、ラングは「次は…アリス、頼む」と言い、アリスは「分かったわ」と答え懐剣を展開した。
アリスはそのまま美しい身のこなしで機械を破壊し、皆は思わず「おー」と声を上げた。しかしアリスは不満そうだった。
アリスは懐剣の柄の部分を眺めながら呟く。
「柄を繋ぎ合わせるところが無い…これは両剣に出来無さそうね」
それを聞いたラングは首を傾げながら言った。
「それでも強くは見えるけど?」
「私の感覚だと…いつもの6割、くらいかしら。慣れても8割いくかどうか…」
まだ機械は残っていた。恐らくアリスが意図的に残したのだろう。ラングが「次は…シャルだな」と言うと、シャルは「はいはい了解~」と軽く答え懐剣を展開した。
シャルは敵の前を横切り、光の玉を出そうとした…が、切っ先の残像がしばらく現れ敵を攻撃するとすぐに消えてしまった。シャルは仕方なくもう一度残像を出して機械を破壊した後、思わず顔をしかめてしまう。
「これ、光の玉が留まる訳じゃねーんだな。残像が数秒残るだけっぽいな…剣の性能自体がいつもと違いすぎる…だいぶ戦略変わっちまうな~」
次に現れたのは宙を舞う機械だった。ラングが「エン、頼む」と言うと、エンはいつものように「了解!撃ち落とす!」と答え懐剣を展開した。これは任務では無いが、いつものようなやりとりとなった。
エンが槍を伸ばすと、何と敵に届かなかった。エンは「えっ?」と思わず声を上げてしまう。
「あんまり槍が伸びないなあ。これじゃうまく撃ち落とせないね」
仕方なく近付いてから撃ち落とすエンを見て、ムジカは無邪気に言い放った。
「撃ち落とさないエンなんてエンじゃないもんね!」
ラングは思わず「…どういうことだよ」と突っ込みを入れてしまった。
まだ宙を舞う機械は残っていたので、ラングは「ついでだ、ムジカ頼む」と言うと、ムジカは「はーい!」と答え懐剣を展開した。
「あたしのは当たるかな~?よし、撃ち落とすっ!」
ムジカはそう言って銃を放ち、元々狙撃の腕があるムジカはほぼ当てたが、攻撃力が異常に低くどれも一撃では撃ち落とせなかった。
ムジカは複数回銃を打ってやっと機械を一掃した後、不満そうに呟いた。
「弱すぎるんだけど…なんでだろ…慣れたら強くなるのかな?」
次に現れたのは大き目の機械だ。ラングは迷わず「アルト、頼む」と言い、アルトは「…了解」と答え懐剣を展開した。
戦闘スイッチの入ったアルトが素早い動きで機械を破壊したので、皆は再び「おー」と声を上げた。しかし…
「…?」
傍からはアルトが懐剣を使いこなしているように見えたが、アルト本人は懐剣を見ながら首を傾げてしまう。本人としてはしっくりきていないようだった。
これで一応、全員新しい懐剣を試したことになる。ラングは腕を組み、「うーん…」と唸りながら呟いた。
「何か、いつもと使い勝手が違いすぎるし、そもそも6個とも総じていつもより威力が低そうだな…」
それにアルトも同じく呟く。
「『無情の”壊”剣』は、覚醒してなくても普通の懐剣よりはちょっとだけ強いからね…」
「そうか…参ったな…想像より難しそうだ…」
ここでシャルは気になることを聞いた。
「思ったんだけどさ。『無情の”壊”剣』の双剣と大剣がアリスとアルトくんにしか使えないのは分かるけど、俺たちが全員適性が高いってことは、普通の懐剣なら俺らも双剣や大剣を使えるってことなのかね?」
「原理としてはそういうことになるわね」
これにはアリスが答えた。シャルは苦笑しながら言った。
「何か、いきなり例の懐剣渡されたから選択肢無かったよな。仕組まれてたんだっけ」
懐剣は基本的に、変な癖がつかないように1本に決めたら他の物は使わないのだ。
エンは手に持った懐剣を眺めながら言った。
「でも、こうも別の懐剣が使いづらいってなると、1本に決めたら他の懐剣は使わない理由が分かった気がするね…『無情の”壊”剣』なんて言うから特に癖が強そうだし。それになれちゃったのかな私たち」
それを聞き、ラングは話を取りまとめた。
「…そうか…ちょっとまた考えるか…懐剣使わないって選択もあるけどこの世界じゃ生きづらいよな…」
エンが「別の職業に就くとか?」と言うと、ラングは「それも合わせて考えるか」と話を締めた。
帰り道。最後尾を、考えごとをしながら一人で歩くシャルにムジカが話しかけてきた。
「…シャル、調子悪い?」
シャルははっとする。そして、ごまかすかのように笑顔で答えた。
「いや、別にいつも通りだけど?」
「そうかなあ…何か、いつもと違うように見えるけどな~」
「…(見透かされてる…)」
シャルは観念し、ふう…と息を吐くと、空を見ながらぽつりと呟いた。
「…何だろうな。変な夢見たからかな?」
「どんな夢?」
「…昔の夢」
「…あっ」
ムジカははっとした。シャルにとっての昔とはいつのことかなど、考えなくても分かる。
シャルは、今朝見た夢のことが頭から離れずにいたのだ…
ムジカは少し考えた後、笑顔で「よしよし」と言いながらシャルの頭を撫でた。
シャルは笑いながら言った。
「はは、だから子供扱いするなっての」
そしてムジカとは逆の方向を向き、ムジカに聞こえないくらいの声で「え、本当に好きになっちゃうけど」と呟いた。
ムジカはシャルの顔を覗き込む。
「今何か言った~?」
「別に何も。ムジカは調子良さそうだな」
「うん。ガネットさんも、お母さん…メノウさんも優しいし。みんなも居るし何か楽しいの」
そしてムジカはうつむき暫く考え込むと、再びシャルを見ながら、こう言ったのだった。
「ねえシャル…ここがあたしたちの第二の故郷ってことにしない?」
「…!」
それを聞いたシャルは驚いてしまう。そして少し考え込んだ後…
「…なるほどねえ」
と、穏やかに呟いた。ムジカはシャルの反応に笑顔でぴょんぴょんと飛びはねる。
「いいよね!よし、アリスにも話してこよう!」
ムジカはそう言い、前を歩いているアリスの元へ向かっていった。
シャルは少し心が軽くなった気がした。故郷のような雰囲気に昔のことを思い出してしまっていたが、ここを第二の故郷に決めてしまえばいいのだ。ジェイド地区とは別の場所を故郷と呼ぶ罪悪感もあまりない。なぜなら…ガネットとメノウは父と母とも繋がっているのだ。
そしてムジカは、アリスにも第二の故郷の話をした。
「…そっか。いいかもね…」
アリスは穏やかに微笑みながらそう答えた。そして、うつむいて考え込みながら、ぽつりと口にする。
「…父さんもここに住んでほしいな…軍辞めないかな…元帥の近くにいて欲しくない。父さんにも安全な場所にいて欲しい…ここには父さんと知り合いのガネットさんとメノウさんも居るし…」
「アリス、本当にお父さんが大好きなんだね」
「…うん」
アリスは照れることもなく、ムジカの言葉を全く否定しなかった。ムジカはアリスを気遣い、穏やかな口調でアリスに声をかける。
「お父さんも大切なアリスの願いならきっと聞いてくれるよ」
そこでアリスは、とあることを思い出しはっとする。
「そういえば、父さん電話がずっと繋がらないの。大丈夫かな…?」
「そうなの?きっと忙しいんだよ」
「…そうね。そうだといいけど」
ムジカが気を使ってくれたので、アリスは笑顔でムジカに答えた。
その頃…政府ビルでは、コーラル次長がアイオラ元帥に呼び出されていた。何故か元帥執務室では無く、別のフロアにある個室に呼ばれた。
やっとこの時が来た…コーラル次長はアイオラ元帥に言い放った。
「やっと、ジェイド地区の特殊任務について話して下さる気になったのですか?」
「ついに”レギュレート兵器”、”例の装置”の両方が完成した」
「…元帥」
アイオラ元帥はコーラル次長の質問に答えず、全く別の話をし始めた。恐らく今回呼ばれたのはその話をするためだろう、とコーラル次長は思った。アイオラ元帥は話を続ける。
「後はレギュレート・コアに誰を封印するかだな…」
「…もう止めにしましょう、元帥」
コーラル次長はもう我慢することができなかった。アイオラ元帥は不思議そうに言った。
「どうした、お前は唯一あの後も着いてきたじゃないか」
「ジェミニに聞きました。レギュレート・コアとは何なのか…何故私が途中で開発から外されたのかも今なら分かります。真実を知ったら私が反対すると分かっていたからですよね?私はレギュレート・コアは平和の為の物だと聞いて参加していました。アリスの”懐剣:ラブ”を使わせ続けたのもそのレギュレート・コアに必要だからと聞いたからです」
「嘘は言っていない。レギュレート・コアは輝煌を自由に操作できる。ジェイド地区のエネルギーを止められる可能性もあるんだぞ」
「では何故兵器なんかに進化させたのですか!?」
コーラル次長はついに声を荒げてしまった。しかしアイオラ元帥は全く慌てずに冷静に答える。
「外敵から身を守る手段を用意するのも平和のためだ」
「コアの中に人間を封印するなんて、それが平和に繋がるとでも…!?しかも対象は我々の子供だ。私は、あの事件でアリスが自分にとってどれだけ大切な存在か思い知ったのです。私にとって、アリスは大切な娘です。あなたもアルトくんが大切ではないのですか?」
「大切だとも。私の夢を叶えるために生み出した、世界一大切な兵器だ…」
「…アルトくんは人間だ。道具じゃない…」
そると、元帥は勝手に語り始めた。全く会話が成り立っていなかった。
「6人とも無事生まれたが、私のアルトが一番適性が高かった。だから他の5人は懐剣のみ与えて適当に泳がせていたが、何と他の5人も素晴らしい使い手に成長したではないか。だから監視しやすくするために6人を組ませたのだ。しかしそれが仇となってしまった…アルト、今まではあんなに従順だったのに、何に感化されたのか…」
元帥はそこまで話し、コーラル次長にじりじりと近付く。そして、不気味に囁いた。
「…アリスは、君の願いなら聞いてくれるだろう…」
「もう止めましょう、元帥!!…うっ」
コーラル次長は、元帥に気を取られているうちに後ろから兵士に殴られ、デバイスを奪われてしまった。コーラル次長はその場に倒れ、そこで意識は途切れる…
アイオラ元帥は、夜が更けた頃にコーラル次長のデバイスを操作し始める。そして、とあるメールを送信した。その相手は…