この日は、とても天気が悪かった。
政府ビル・元帥執務室。アイオラ元帥は助手の女から書類を受け取ると、それに目を通しながら呟いた。
「…機は熟したのかもしれんな」
「何がですか?」
助手の女はそう聞き返した。アイオラ元帥は続ける。
「アルトが突然反抗的になったのでな。新たな策を練る必要が出てきた」
「アルトくんは年頃だから仕方ありませんよ」
「…アルトも薄々感づいているようだし…例の件を話したら…今度はどんな行動に出るか…興味はないかね?」
”例の件”とは…
助手の女は、不気味に笑いながら言った。
「…ついに話すのですか…ふふ…そう…」
「アルトとアリス以外の4人は長い間放置していたのに、放っておいても素晴らしい懐剣使いに成長した。やはりこういうものは血が騒ぐものなのかね?実に興味深い…さあ、先に覚醒するのは誰かな?」
アイオラ元帥は、まるで自分に酔っているかのように喋り続けた。
「シャルとムジカも今回の件で覚醒するものかと思ったが、まだ輝煌が足りないようだな。まあ、覚醒しなかったら死ぬ可能性もあったが生きていただけでもいいか。次は誰に何を試そうか…」
それを聞いた助手の女は、呆れたように呟く。
「元帥は本当に博打のようなやり方が好きですね…とても研究者とは思えませんね」
「何を言うかジェミニ。科学を発展させてきたのは好奇心と挑戦する勇気だ。それが出来なければ何も成せず凡人に成り下がるだけなのだよ」
「…そうですか。恐ろしい恐ろしい…」
そうしてジェミニと呼ばれた助手の女は、半笑い状態で部屋を後にしたのだった。
ある日。チーム:ミモザの6人はアイオラ元帥に呼び出された。コーラル次長からの情報よりも、元帥からの呼び出しの方が早かった…ということになる。まだシャルとムジカの怪我の完治の報告すらしていないのに…
元帥に会いに行く前日、ラングは皆を男性陣のリビングに集め、皆を見回しながら告げた。
「元帥に会ったら、俺が質問を畳みかける。特殊任務のこと、8年前の事件のこと。相手の答えによって、軍学校に残るのか出るのかまた話し合おう。何も怖いことは無い…今日はゆっくり休んでくれ」
皆は頷き、今日は早めの解散となった。
その日の夜、アリスは父であるコーラルに電話をかけた。
「父さん、元帥は何か言ってた?」
『元帥に話を聞こうとしてもはぐらかされて答えてくれない。時間がかかりそうだ。ふらっと気まぐれで話す時もあるんだ。その時を待つしかない…』
「父さん、今日電話したのはね。チーム:ミモザが元帥に呼ばれたの」
『…!!そうか…私には何も話さないのに…クソッ…』
コーラルか悔しそうな声で言った。そこで、しばらくの間。コーラルは言葉を絞り出した。
『…アリス、行ってはいけない。危険だ…あの人は何を考えているのか分からない…』
「大丈夫。一回話をしてみて、おかしかったらみんなで軍学校辞めることになったの」
『…そうか、離れるのか…良かった…』
やはり、アリスが軍学校を辞めると聞いて父は安心したのだった。アリスの思った通りだった。
「それで、退学したら、身寄りのないみんなはラングたちの住んでる極夜の地区に行くみたい」
『なるほど…あの一族の…確かにあそこは信用できるな』
そして再び間が開くと、コーラルは静かに言った。
『アリス…アリスもそこに行きなさい』
「…でも…父さんは…」
『アリスが安全な場所にいるのが私は一番嬉しい』
「…うん、分かった。父さんも気を付けてね…もし危険だったら、無理して元帥に話聞かなくても大丈夫だからね」
『分かった。落ち着いたらまた2人で話そう』
この日は、朝から雨が降っていた。
元帥に会いに行く朝、男性陣のリビングに6人は集まっていた。今回は事が事だ。6人とも神妙な面持ちで向かい合っていた。ラングが気合を入れ、6人に呼びかける。
「よし、みんな…行くぞ」
「…みんな」
皆が返事をする前に、アルトが話に入った。5人ともアルトをじっと見つめる。アルトの瞳が少し揺れている…ように見えた。
アルトは、静かに言った。
「みんな…今から父さんの話を聞いても…僕たちは、何も変わらないと思う?」
アルトは何を思って、この言葉を発したのか…アイオラ元帥はアルトの父だ。皆に気持ちを確認したくなるのも分かる、と皆は思った。ラングは迷わずに答える。
「…変わらないよ、何も」
「…そうだね。じゃあ大丈夫だね」
アルトはすぐに納得したように答えた。6人は頷き合い、部屋を後にする…
チーム:ミモザの6人は、政府ビルの元帥執務室の前に居た。ラングはノックをし、冷静に「失礼します、チーム:ミモザです」と礼儀正しく入室した。5人も静かにラングに続いた。
そこには、待ち焦がれていたかのように、アイオラ元帥が椅子に座りこちらを見て待っていた。当然ながら、元帥には話したいことがあるのでラングたちは呼ばれたのだが、ラングは先を越されないよう先に話し始める。
「元帥に聞きたいことが山ほどあります」
「その前に、私の話を聞いてくれないか?きっとこの話を聞けば君達も納得いくだろう」
元帥を問いただすつもりで来たのだが、納得のいく話を元帥自らしてくれるならそれはそれで問題ない。ラングは、とりあえず「…分かりました」と答え、元帥の話に耳を傾けることにした。
アイオラ元帥は立ち上がる。とても冷静で、ゾッとするくらい冷徹な表情をしていた。そして彼は…静かに語り始めた。
部屋の空気は、凍り付くように冷たかった。
「…”兵器”…」
――真実を、語り始めた。
「”懐剣:ディライト”。”懐剣:アイラ”。”懐剣:サドネス”。”懐剣:メリー”。”懐剣:ラブ”。”懐剣:アニムス”…お前たち6人は、6本の『無情の”壊”剣』を使うために生まれてきた”兵器”なのだよ」
「…!!??」
皆、彼が何を言っているのか理解できなかった。ただ、驚きのあまり目を見開いて呆然とするしかなかった。
ただ、6人の中で1人だけ驚いていない人物がいた。
アルトである。
アルトだけは、驚きではなく、悲しみに包まれた表情をしていた。
アルトは元帥をじっと見つめ、今まで見たことが無いような悲壮な表情をして、元帥に言った。
「…父さん…やっぱり…」
アルトは、声を震わせた。
「”兵器”は…僕だけじゃなかったんだね…」
ラングは目を見開いたまま、アルトに対し、声を絞り出す。
「…アルト…どういうことだ…?」
「私から、順を追って話そう」
アイオラ元帥は動じることなく冷静にそう言い、長い、長い話を始めた。
――約150年前。懐剣による民族戦争が盛んだった時代、『無情の”壊”剣』と呼ばれる、強力なエネルギーを引き出せる6本の懐剣が開発された。適性が特に高い6人が集められ、彼らは通称”兵器”と呼ばれた。
その6本の懐剣は、性能があまりにも危険だったために戦争が終わる頃に封印された。それから150年後の今、アイオラ元帥は残された情報を元にその6本を掘り起こした。しかし、使い手を探していたが相当高い適性が必要となるため適合者が現れず、とある実験を行うことにした。
それが、”プロジェクトヘクス”と名付けられた実験である。
ジェイド地区には大陸いちの輝煌石がある。12人の研究員…6組の夫婦がその輝煌石の輝煌の濃度が高い場所に集合住宅を建設して住み込み、そこで子供を産む。こうして意図的に適性の高い6人の人間を生み出す、という実験だ。この方法が選ばれたのは、適性が決まるのが生まれる前の胎児の時に浴びた輝煌の量と言われているからである。
結果、ラング、アリス、シャル、エン、アルト、ムジカの6人は”兵器”として生み出された。意図的に適性が異常に高く生まれたのである。
しかしその数年後、研究員たちは輝煌の浴びすぎで、12人のうち数人の体に異常が現れ、何人かは命を落としてしまった。
話の途中、ラング、アリス、ムジカは小声で呟いた。
「…俺の母さんは…俺が生まれた頃に死んだって言ってた…」
「…私の母さんもそうだわ…まさか…?」
「…あたしのお父さんとお母さんも…?」
「そうだ。ラングの母。アリスの母。ムジカの両親。そして、アルトの母であり私の妻はその件で命を落とした」
そう冷静に言った元帥に、エンとシャルも呟く。
「…私の母さんが具合悪いのも…もしかして…?」
「…俺の父さんもずっと体調悪かったな…」
「体調の変化には個人差があるようだったな。だが、皆好んで実験に参加したのだ。自分で選んだ道だから仕方が無いだろう」
そう続けた元帥に、ラングは小声で返した。
「…でも…俺たちには選択肢はないじゃないか…好きでそうやって生まれたんじゃない…」
うつむくラングを見て、アルトは元帥を睨み付ける。
「…父さん、みんなを巻き込まないでって言ったよね…?」
「巻き込むも何も、皆このために生まれてきたのだ。お前が反抗しなければ皆にこんな話をしなくて済んだのにな」
「…!!」
元帥の一言に対しアルトが明らかに傷付いた表情をしたので、エンは元帥を睨み付けて絶叫した。
「そんな言い方!!!!!反抗するに決まってるでしょ!?アルトくんにずっとひどいことしてたくせに…!!」
アルトもうつむいてしまい、消えそうな声で呟く。
「…僕は…父さんがみんなを巻き込まなければ反抗なんてしなかった…」
「俺からすれば、アルトがたった1人で苦しみ続けるくらいだったら巻き込まれてむしろ良かったけどな」
ラングはしっかりした口調で言った。事実がどうであれアルトが傷つけられていることに我慢が出来なくなり、既に顔を上げていた。そして、元帥を睨み付けながら言った。
「何でアルトだけに真実を話してたんだ?反抗しなければ俺たちには話さなかったって、アルトをどうするつもりだったんだあんた…」
「そうだな。では、次の話に移ろう」
兵器として、適性が異常に高く生まれた6人は、一定の年齢になってから『無情の”壊”剣』を与えられるように仕向けられた。アルト、アリス、ラング、エンは親から。シャル、ムジカは政府の施設で。
なぜ、アイオラ元帥は『無情の”壊”剣』の使い手を求めたのか…それは、彼が開発した”レギュレート兵器”を操るためであった。
本体は”レギュレート・コア”という、輝煌から引き出せるエネルギー量を自在に操れる新技術による機器である。懐剣の使い手を兵器の一部として内部に半永久的に封印する。封印された者は懐剣を端末として輝煌を兵器のエネルギーに変換することになるが、通常の懐剣ではエネルギーが足りない。そこで…
「『無情の”壊”剣』の赤い光を目覚めさせる…」
「…赤い光?」
ラングは元帥を睨みながら聞いた。元帥は続ける。
「『無情の”壊”剣』は懐剣と使い手が覚醒すれば、剣の刃の青緑の光が赤く変化し莫大なエネルギーを引き出せるようになる。覚醒には輝煌の濃度が高い場所に居ることが条件らしいがまだまだうまく行かんな…」
「…俺たち6人を組ませて濃度が高い場所に行かせたり懐剣の変化を聞いてたのはそれか」
「実際はアルトさえ覚醒すればそれで良かったんだがな。私の大切な息子…私の大切な兵器…」
「…アルトを覚醒させてその兵器に封印するつもりだったのか…絶対にさせない…アルトに何かしたら俺たち5人が黙ってねーからな…!?」
ラングの一言に、アルトの瞳が揺れた。アルトの目は光を取り戻し、元帥を睨み付けながら言った。
「僕だって絶対にみんなを守る…僕たちは…あなたなんかには負けない…」
それを聞いた元帥は、冷静に言い放った。
「アルトの適性が一番高いことに変わりは無い。だが、アルトが駄目なら…次に適性が高いのは…アリスかな?」
「…!!」
アルトは今の一言を聞いて、元帥を睨みつけながら壊剣に手をかける。
元帥は鼻で笑いながら吐き捨てた。
「父に懐剣を向けるか。親不孝ものめ」
「親らしいこと何もしてねえのに何言ってんだお前」
今の一言は、シャルである。シャルはイライラしながら元帥の話を聞いており、既に我慢の限界を超えていた。シャルは皆の方を振り返りながら続ける。
「もういいだろ。みんなさっさと行こうぜ、時間の無駄だ」
アルトはすぐに頷き、元帥に言い放った。
「…父さん、僕たち行くから。止めたらここで6人で暴れる。『無情の”壊”剣』の怖さは父さんだって知ってるよね?」
「…どちらにしろ戻ってくる運命だ。好きにしなさい」
元帥はそう答え、不敵な笑みを浮かべた。
アルトが皆を見回したので、ラングは「みんな、行こう」と呼びかけて6人は元帥執務室を足早に出たのであった。
6人が去った部屋で、アイオラ元帥は全く慌てることなく、冷静に呟いた。
否。冷静ではない…喜びで、奮い立っているように見えた。
「…ククク…そう来たか…本当に面白いなあ…さて…次の手だな…クックック…」
政府ビルを出た6人は、雨の中、ラングの手招きでとりあえず目立たないように人が多い駅周辺に来ていた。ラングは皆を見回しながら言った。
「細かいことを考えるのは後だ。まずはどこかに逃げよう」
「ランちゃん。やっぱり一番安全なのは”極夜”の周辺だよ」
エンはそう提案をした。極夜とは、ラングとエンの一族が住む地区である。2人が仲間の住む場所にそこを選んだのは、とある理由により「安全だから」というのもあった。ラングは頷きながら言った。
「そうだな。予想してたよりかなり危険だ…予定より早いけど一旦避難しよう」
そのまま6人は駅のホームへ行った。列車が来るまでまだ少し時間がある…ラングはその間に、アルトに色々聞くことにした。
「アルト。兵器って言っても、普通の人間と何が違うんだ?」
アルトは考える仕草をしながら答えた。
「輝煌の適性が異常なほど高い…それだけといえばそれだけだけど…後は、『無情の”壊”剣』が使えることかな」
「つまり、適性が高い以外は普通の人間なんだな?」
「うん。あと、『無情の”壊”剣』は、威力だけなら普通の懐剣より少し強いだけなんだ。違うのは、適性が相当高くないと使えないってことと、赤い光が覚醒したら手に負えなくなるってこと…僕は、『無情の”壊”剣』は僕の”懐剣:ディライト”だけだと思ってたんだ…父さんにもそう言われてた」
「…そうだったのか。手に負えなくなるってどういうことだ?」
アルトはうつむき、続ける。
「…赤い光は危険だよ。覚醒すると、力と引き換えに感情がおかしくなるって言ってた…だから昔封印されたんだって…」
「力だけじゃなくて、感情がおかしくなるのが危険ってことなのか?」
「…そう言ってた」
そしてもう1つ…ラングには聞きたいことがあった。
アルトがなぜ子供の頃から喋らなかったのか…もしかしたら、と思うことがあったのだ。ラングは、出来るだけ優しい声でアルトに聞いた。
「アルト…自分が”兵器”として生まれてきたってこと…ずっと知ってたのか?」
それを聞いたアルトは…以前のように、目がうつろに、ぼーっとした表情に戻る。
アルトは、消えてしまいそうな声で、こう言った。
「…うん。小さい頃、父さんに…お前は兵器に入れるために作った部品って言われた」
「…!!??」
全員、言葉を失ってしまった。
――ラングとエンが9歳だった頃。
ぶっきらぼうで人と話すことが苦手で孤立しがちだったラングは、公園で1人の体の小さな少年が、砂場でうずくまっているのを見かける。ラングは何となく彼に話しかけると、彼は顔を上げてこくんと頷いた。
これがラングとアルトの出会いである。
アルトは無表情でほとんど喋らなかったが、あの日以降はラングが公園に来ると傍に寄ってきて、一緒に遊具で遊んだり、ラングの話を頷きながら聞いたり、喋らなくても意思疎通は出来ており、ラングにとっても居心地が良かった。ラングとエンは幼馴染で仲が良かったので、エンとアルトもすぐに仲良くなった。
出会ってから3年くらい経ったある日、ラングとエンは気付いた。アルトがみるみるうちに痩せていったのだ。
エンが「ご飯はどうしてるの?」と聞くと、アルトは2人を家に案内した。家族は父だけで、その父は仕事で家に居たり居なかったりしているという話だった。父が留守にする家で、アルトはラングとエンに、ほとんど中身の入っていない冷蔵庫を見せて、「ここから食べてる」と言った。2人は思わず絶句してしまう…
ある日、帰って来たアルトの父と遭遇したので、ラングとエンはアルトが痩せていることを父に言った。
すると、父はこう答えたのだ。
『それがどうした?』
ラングとエンはその時始めて気付いた。
アルトは、父親にまともな扱いを受けていない…
――あの時に2人でアルトを守ると誓った。アルトの言葉に5人全員が言葉を失う中、ラングもエンも瞬時にその時のことを思い出した。ラングはアルトの肩に手をやり、エンはアルトの手を握る…
アリスもシャルもムジカも、いつもアルトと話す時は無意識に優しい口調になってしまっていたのだが、喋らない、うつろな目、ぼーっとした表情、異常に痩せている、異常に体力が少ない、異常に寒がり、それなのに戦闘能力だけは異常に高い等…ただごとではないことが起きていることは想像がついてしまうのだ。今はただ、優しい目でアルトを見つめることしか出来なかった。
心に深い傷を負ってしまったのか。人間として生きることを諦めてしまったのか…
皆、自分が兵器かどうかなど、もうどうでもよくなっていた。
ラングは、出来るだけ優しい口調でアルトに言った。
「…アルト。アルトには、俺たちがいることは分かるな?1人じゃなくて良かったよな。兵器か…俺たちもみんな同じだ、ほら、みんな一緒」
「…うん…」
そしてラングは、皆を見回しながら続けた。
「みんなも。適性が高いってだけだろ?他は普通の人間と何も変わらないんだろ。じゃあ、今までと何も変わらないな」
皆はやっと笑顔を見せ、お互いにうんうん頷き合う。そして…
「…うん」
アルトも、”笑う事はできなかったが”、少しだけ表情を取り戻し、ほんの少しだけほっとしたように頷いた。そして、しばらく考えた後…
「それと…父さんは僕に…こう言ってた…」
アルトはこれは言うまいかどうか迷った。だが、心が弱っていたのか、思わず口をついてしまう…
「お前はレギュレート・コアで眠りにつくか、リマインド・コアで眠りにつくか…どちらかしかないって…」
「…リマインド・コア…?」
そこで列車が到着した。6人は、アイオラ元帥の関係者に見られていないかと辺りを見回しながらすぐに列車に乗った。
列車の車内。6人は、3人掛けの椅子に向かい合って座っていた。
ラングは、先程のアルトの言葉が気になっていた。
「アルト、さっきリマインドが何とかって言ってたよな?」
アルトは先程に比べて落ち着きを取り戻したようだった。穏やかな表情で首を横に振り、言った。
「…ううん…多分もう大丈夫だと思う。僕はもう、父さんに従う気は無いから…」
「そうか、気にしなくても問題ないんだな?」
「うん。もう…1人じゃないし」
「…そうだな。そうそう。1人じゃないんだよ…アルトは」
ラングとアルトは頷き合う。この話は終えても大丈夫そうだった。
ラングは皆を見回しながら言った。
「さて、今後のことも考えないとな。兵器か…」
アリスは冷静に言った。
「私は…兵器と言われて何か納得いったわ。8年前、私が兵器だからジェイド地区に行かされたってことよね。あれを仕向けたのは元帥だったはずよ。覚醒させようとしてたんだわ」
それにシャルとムジカも続く。
「俺とムジカをジェイド地区に行かせたのもそういうことだろうな」
「覚醒させたかったなら、あたしたちじゃないとダメだもんね。だからしつこかったんだね」
皆、だいぶ自分たちの置かれた状況に慣れてきたようだった。そして、エンも続いた。
「私とランちゃんも…兵器って言われると、思い当たる節があるよ。ね、ランちゃん…」
「…そうだな。これの件か、エン」
ラングはそう答え、”懐剣:サドネス”を取り出す。ラングは、過去にサドネスに関して起きた出来事を思い出す…そして、ラングははっとした。
「…待てよ。元帥の話が本当なら親父たちは実験に参加してたんだよな?聞いたことねーぞ。兵器の話も知ってるってことなのか…?」
エンもラングの言葉にすぐに同意する。
「…私も思った。私の母さんもだよね。ねえランちゃん、せっかく戻るしついでに話も聞かない?」
「…そうだな」
ラングの父と、エンの母。避難するだけではなく、彼らに話を聞くという新たな目的が生まれたのだ。ラングは、ふう…とため息をつく。色々なことが一気に起きすぎた…
その時、ムジカが両手を皆の前に広げながら、明るく言い放った。
「みんな、手えつなご!」
「…手?」
ラングは聞き返す。ムジカは笑顔で答えた。
「さあ、みんなで乗り越えよう!…的な」
「はは、あのなあ…」
ラングが冗談だと思い突っ込もうとすると、エンが笑顔でムジカに続いた。
「いいじゃん、やろうよ!」
アリスは「え、ほ、ほんとに?」と照れながら言ったが、シャルも「はは、テンション上がっていいかもなあ」と乗り気になった。
隣同士のムジカとエンが手を繋ぎ、エンが隣のアリスの手を取る。端のムジカとシャルが手を繋ぎ、シャルも隣のラングの手を無理やりとった。
「マジか…」
ラングがそう呟きアルトの方を見ると、アルトも純粋な目で両手を差し出していた。ラングはこれで観念したようだ。
「…仕方ねーな。よし、やるか」
ラングとアルトが手を繋ぎ、最後にアルトとアリスの手が繋がる。
これで、6人は輪になった。
ムジカが笑顔で呼びかける。
「よーし、みんなで乗り越えよう!」
「おう!!」
…と、ラング、シャル、エンの3人が返事をした。アリスはまだ照れくさそうにしており、アルトはきょとんとした表情で皆の反応を観察している。皆は2人の様子に笑ってしまった。
ラングは苦笑しながら言った。
「…これ、着くまでこのままなのか?」
「もちろん!」
ムジカが嬉しそうにそう答えた。
それと同時に雨が降っていた空が晴れ始める…極夜の地区まであと少しだ。