7.十字架

7.十字架

 ラング、エン、アルトの3人はジェイド地区で出会った男に連れられて、ジェイド地区から少し離れたスラム街の奥地にある、小さな診療所のような所に来ていた。もう夕方だった。
 奥の部屋に入ると、ベッドにそれぞれ座っている臨時チーム5人全員の姿が確認できた。
 ラングは思わず叫んでしまう。
「シャル!!!ムジカ!!!」
 傷を手当てされたシャルとムジカは、変わらない笑顔で「よう!」「わーみんな来た!」と3人を迎え入れたので、ラングは一気に体の力が抜け、安心しきったようにふう…と息を吐き、エンは「シャル!!ムジカ!!」と叫びながらムジカに抱き付いた。
 ムジカはエンの腕の中で、笑顔のまま涙声で言った。
「わーエン~~会いたかった~~~」
「…ムジカ…遅くなってごめんね…」
 エンもそれに答えるように涙声になった。
 ラングもエンに遅れてシャルに近付き、2人はハイタッチをする。ラングは優しい口調で言った。
「…よく無事だったな」
「心配した?何とかなったぜ」
 シャルがいつものように飄々とした声色で答えたので、ラングは更に安心したのだった。
 ラングは同じくベッドの上に居るトーラスたちをちらりと見て、シャルに聞いた。
「あとでゆっくり話そう。他のみんなとも話したい」
「ああ、俺からも頼む。俺とムジカのこと何度も守ってくれたんだ」
 ラングがトーラスに近付くと、もともと友人同士である2人は拳をこつんと合わせる。トーラスは申し訳なさそうにラングに言った。
「…ラング、2人に怪我をさせてしまった。すまない」
「何言ってんだよ。こうして全員生きてるじゃんか。運も実力のうちだぜ?…怪我はどうだ?」
 トーラスの包帯の量が一番多いような気がしたのでそう聞いたが、トーラスは笑いながら「言っても背中だけだ、問題ない」と答えた。
 エンも盾使いの少年少女に近付き、話しかけていた。
「無事で良かった。ご家族が心配してるよ、帰ろう」
 エンの言葉を聞いた少女は、一気に安心したのか、「うん…」と返事をすると笑顔でぽろぽろと泣き出した。その少女の頭を少年が撫でてあげる…
 彼らを見たエンは、良かった…と心から思った。
(やっぱ来て良かった。やっぱり私たち間違ってないよね。ねえ、ランちゃん)
 ラングとエンが彼らと交流する中、アルトはそれぞれのベッドに座るシャルとムジカの間にしゃがみ、2人の顔を交互に覗き込んだ。シャルは自分を見上げているアルトに笑顔で話しかける。
「よう、アルトくん。元気だった?」
「うん」
 アルトは頷きながら返事をした。アルトは目をしっかりと開き、自分に話しかけてきたシャルのことを観察しているようだった。ぼーっとしていない…シャルとムジカには、アルトの”表情”が見えたような気がした。
 シャルはアルトの頭をポンポンと優しく叩き、更に話しかけた。
「…アルトくん、お兄さんのこと心配してくれてんの?」
「うん」
 ムジカもシャルの真似をするように、アルトの頭をポンポンと優しく叩きながら言った。
「えへへ、アルトくん。来てくれてお姉さん嬉しい。ありがと」
「うん」
 アルトはそう答え、今度はムジカのことを観察し始める。ムジカは思わず笑ってしまった。
 そこで、別の部屋で事を済ませていたのか、ラングたちをここまで案内した男がここで部屋に現れた。ラングはすぐに男の前に行き、頭を下げながら礼を言う。
「あの…仲間を助けて頂きありがとうございました…!」
「俺はジェイド地区の生き残りだ。ああやって時々見回っている。若い彼らを助けられて良かった…」
 男のその言葉にシャルとムジカが反応する。シャルは立ち上がりながら言った。
「あなたもジェイド地区の生き残りなんですか!?」
「…そうか、君たちもジェイドの生き残りか。生き残りは皆、各地で静かに暮らしているよ」
 シャルとムジカは思わず顔を見合わせる。自分たち以外のジェイド地区の生き残りと出会ったのは初めてだったのだ。軍や学校にも何人か居ると聞いてはいるが、実際に会う機会は中々無い。
 男は皆を見回しながら言った。
「怪我の手当ては済んだ。私は医師免許を持っているので心配しなくていい。そろそろ夜になるし、ここで休んで行ってもいいがいつでも帰れるぞ」
 ラングたちは話し合い、一晩簡単に休ませてもらってから早朝にここを発つことにした。少しでも早く元の日々に戻りたかった。


 男と数人の看護師のお陰で、ラングたちはゆっくり休むことができ、食事にも困らなかった。
 早朝、ラングは男に質問した。
「お礼をしたいんで学校に知らせてもいいですか?」
「いや、結構だ。人目につかない所で穏やかに暮らしたいんだ。さあ、もう帰れるぞ」
 1人1人が男にお礼をしながら部屋を出る中、シャルとムジカの番が来た時、男は2人に対し、小声で思わせぶりに呟いたのだった。
「穏やかに暮らしたいか、真実を知りたいか…君たちが自分で選ばないとならない時が必ずくる。後悔のないように生きなさい」
 2人には、その言葉の意味が今は分からなかった。


 臨時チームは無事帰還した。軍学校に向かい、アイオラ元帥には会う気にもならなかったので士官に報告を済ませる。怪我をしたシャルとムジカは寮で療養することになった。
 ラングたちは命令違反をした訳だが、臨時チームを救出できたことで許されたという話になったようだ。
 「許された」…という表現がラングは気に入らなかったが。

 やっと終わった。学校を出て、再び6人で再会できる…と思われたところで、エンのデバイスにアリスから電話がかかってくる。
『みんな無事だと聞いたわ、本当に良かった…』
「うん、ありがとうアリス…私たちも早くアリスに会いたいな。今どこに居るの?まだ出してもらえないの?」
『…私、今、家に居るんだけど…みんな、父さんが、今回の特別任務に関する大事な話があるって。自宅に5人を招き入れたいって言ってるの』
「アリスの家に?学校か政府ビルじゃダメなの?」
『…人に聞かれたくないって…私にもよく分からないけど…ただ事じゃないのは確かよ』
 そこで、会話を聞いていたラングが電話を変わる。
「確かにそうだ。士官に今回の任務のことを聞いてもみんな良く分からないって言ってたんだ…わざわざチーム:ミモザを組んだのに突然の臨時チーム、強引な手法…俺は理由が気になる」
『…シャルとムジカの怪我はどう?』
「姫、怪我は大丈夫だよ。心配すんな。すぐにでも行けるぞ」
「あたしもアリスの家行きたいな~!話が終わったら一緒に寮に戻ろ!」
 シャルとムジカの返答を聞き、ラングは皆に告げた。
「…よし、じゃあ5人でアリスの家に向かおう」


 5人は、列車でウェストシティの指示された場所で降りる。しばらく歩くとアリスの自宅が見えてきた。アリスの父は研究開発部の次長であると同時に軍の大将でもあるので、家は大きく立派な佇まいであった。玄関でインターホンを鳴らすと、すぐにアリスが出てくる。
「みんな、来てくれてありがとう」
 アリスはそう言ってすぐにシャルとムジカに駆け寄ると、「大丈夫?」と声をかける。シャルもムジカも「ほら、大したことないだろ?」「全然痛くないよ~」と笑顔で答えた。
 大きく立派な建物の中を案内され、5人はアリスの父の個室へと通された。

「…来たか」
 そこには、紺色の髪の、ぴんと背筋の伸びた男…研究開発部長であるアイオラ元帥の直属の部下である、アリスの父・コーラル次長が居た。
「…次長、こんにちは…」
 とりあえず、ラングが代表としてあいさつをした。
 コーラル次長は一礼をして、早速話を始めた。
「ここに呼んだ理由はアリスから聞いているだろう。先日の特別任務についての話だ。皆も不信に思っているだろう」
「はい」
 これには、ラングが即答した。
 コーラル次長は咳ばらいをし、「では、すぐにでも本題に入ろう」と呟くと、アリスを含む6人に言い放った。
「8年ほど前に”ジェイド地区爆発事故”と呼ばれる、輝煌石の抽出中に起きた爆発事故でジェイド地区は崩壊した…それは、誤った情報なのだ。あれは、とある事件を隠ぺいするために作られた嘘だ」
「…!?」
 これには、アリスを始めとした全員が驚きで目を見開かざるを得なかった。アルトすらも少し驚いた表情をしたくらいだ。特に、ジェイド地区出身のシャルとムジカの驚きが一番大きかった。
 コーラル次長は続ける。
「とある事件とは…」
 コーラル次長はそこで話を止め、アリスをじっと見つめる。目を見開いたまま首を傾げるアリスに、コーラル次長は一度深呼吸をすると、皆を見回し、そして、意を決したように言い放った。

「…あれは8年ほど前。実験と称して、アイオラ元帥の命令の元、幼少のアリスと手に持った”懐剣:ラブ”を使い、強引にエネルギーを抽出しようとして起きた事故だ。抽出用ではない懐剣で無理矢理抽出作業を行った結果、大爆発が起きた」

「…!!??」
 6人は、驚きを通り越し、完全に思考停止してしまい、無になってしまった。コーラル次長が何を言っているのか、瞬時には理解できなかった。
 そして…最初に口を開いたのは、やはりアリスだった。
「…え、待って父さん。私そんなの全然覚えてない…」
「アリス。お前は、幼少の頃の記憶を一切持たないだろう。それは、大病の結果だと私はお前に伝えてきた。だが、記憶を失ったのはあの事件がきっかけだ。爆発の際は周りの大人たちがお前を庇いお前は助かったが、アリスはその時のショックで記憶を一切失ってしまった…」
「…そうよ、記憶を失ったせいで変な夢を見るようになったと思ってた…」
 アリスのその一言を聞き、ラングは以前アリスが言っていた夢の話を思い出す。だが、記憶の話を聞いたのはこれが初めてだった。
 しばらくすると…アリスは、とあることに気付き、がたがたと震え出した。
 アリスは、気付いてしまったのだ。
 そして…こう言った。
「…わ、私が…ジェイド地区を滅ぼしたっていうの…?」
「!!??」
 シャルとムジカは目を見開きながらアリスの方を振り返る。
 コーラル次長はアリスの一言に対し強く首を振り、すぐに言い放った。
「違う。手段を択ばないアイオラ元帥、そしてそれを止めることが出来なかった私たち大人がジェイド地区を滅ぼした…まだわずか10歳で抵抗する術の無かったアリスのせいではない。だが、この話はいつか話すべきだと思っていた。話さなくてもいつか何らかの形で知ることになるだろうからな…」
「…嘘…嘘!嘘!!嘘!!!!!」
 泣き叫びながら床にうずくまってしまったアリスに、シャルとムジカが駆け寄る。
 アリスはぼろぼろと涙を流しながら、2人に対し叫び声を上げた。
「…シャル…ムジカ…ごめんなさい…私は…私がジェイド地区を滅ぼした…」
 それに対し、シャルはこれ以上ないくらい強く首を横に振る。そして、出来るだけ優しい口調でアリスに囁いた。
「今、次長も言っただろ。アリスのせいじゃない」
 ムジカはアリスと同じようにぼろぼろと涙を流しながらそっと囁いた。
「…そうだよ…何でアリスが謝るの?アリスのせいじゃないよ」
 2人はアリスを攻める気持ちなど微塵も無かった。そして、隠ぺいに関してもどう反応すればいいのか分からなかった。本当なら怒り狂うべき所なのかもしれないが、しかし、この件には…アリスが関わっているのだ。
 アリスは両手で頭を抱え、がたがたと震えながら呟く。
「私は許されない…2人に合わせる顔がない…」
 そんなアリスを、ムジカはぎゅっと抱きしめながら囁く。
「そんなことないよ。そんなこと言わないで。大好き、アリス」
 シャルは思わずコーラル次長を睨み付けてしまった。隠ぺいを攻めるというよりは、目の前に居るアリスを泣かせたことに対してかもしれなかった。シャルは言葉を絞り出した。
「その時アリスいくつだった?10歳か。その年でそんなやべえ任務出来る訳ねーだろ、頭おかしいんじゃねえのかこの国!?」
 コーラル次長は、シャルの言葉をしっかりと受け止めて答える。
「そうだな…この帝国は狂っている。本当は隠ぺいするべきでは無かった。当時も私は隠ぺいに反対したが、皇帝の勅命により決定してしまった。私は無力だ。しかし、嘘はいつかきっとばれる。だから、せめて巻き込まれた君たちには伝えなければならなかった」
「ジェイド地区の生き残りは各地に存在している。みんなにばれたら暴動がおきるぞ…」
「…覚悟している」
 コーラル次長は、シャルの一言一言にしっかりと答えた。そしてこう続ける。
「それと、君たちにはもう1つ謝らなければならないことがある。今回の特殊任務も止めることが出来なかった…アリスを閉じ込めたのは、再び同じ場所に行かせる訳にはいかなかったからだ。本当はシャルくんとムジカくんも助けるように手を回したが妨害されたようだ。すまない…」
 ラングもエンも、3人の様子を見守ることしか出来なかった。とても現実とは思えないような事実を次々と知らされ、どういった言葉をかければいいのか分からなかった。ラングはせめてと思い、コーラル次長に気になることを質問することにした。
「何で今回、元帥はアリスやシャルたちにこだわったんだ…?」
「ジェイド地区の噴き出すエネルギーは確かに止めなければいけない。しかし、何故アイオラ元帥はこんな危険な方法を選んだのか…そして今回の臨時チームは…なぜチーム:ミモザ全員じゃなかったのか、なぜ再びアリスを向かわせたか理由については謎だ。何を考えておられるのか…あの人は気分屋だ。話すか分からないが、詳しく聞かなければならない。何か分かったら、君たちにも知らせるようにしよう」
 コーラル次長はそこまで話し、ゆっくりを深呼吸をすると、最後にこう告げた。
「…話は以上だ。本当にすまない…これを知った君たちがどんな決断をしても…私にはそれをどうにかする権利はない…」
 皆が押し黙って暫くの間空気が止まる。そこでエンが皆を見回し、「みんな、一旦部屋を出よう」と言った。ラングもエンもコーラル次長に会釈をすべきかどうか分からなかったので、他のメンバーの背中を押しながら静かに部屋を出た。
 …そこに、アルトだけが残った。
「…ねえ、おじさん」
「君は…アイオラ元帥のご子息…アルトくんか」
「何で8年前アリスちゃんが選ばれたのか知ってる?」
「…そのことについては、君のお父さんの方が詳しいだろう。大事なことだから、直接聞くといい」
「うん、分かった」
 アルトは素直に頷き、部屋を出ていった。


 部屋を出た後、シャルとムジカはアリスの部屋に向かっていた。次長の部屋を出たと同時に、アリスは自分の部屋に走って戻ってしまったのだ。
 ラングとエンとアルトは、廊下で3人が出るのを待つことにした。ラングは呟いた。
「…3人とも、お互いが心配だから何とか持ってるってカンジだな」
 エンはうつむきながら、小声で呟く。
「本当、こんな何回もひどい目にあわされて頭おかしくなっても仕方ないよ。言葉がかけられない…見守ることしか出来ないなんて悔しい」
 他人に対し気遣いの出来る性格のエンでさえ、言葉を見つけることが出来ないほどの状況だった。ラングは、リーダーとして自分に出来ることを考えなければと必死に思考を巡らせていた。今はとにかく、3人を待つしかない。ラングは再び呟いた。
「…今は…アリスを励ませるのもシャルとムジカだし、シャルとムジカを励ませるのもアリスだけかもしれないな…」
「…ランちゃん。帝国って何なんだろう。私たちがおかしいの?こんなのおかしいよ」
「…そうだな…何なんだろうな…どうしたらいいんだ…俺は…」

 シャルとムジカはアリスの部屋に居た。アリスはうずくまっており、2人が入って来たことに気付いていないようだった。
 ムジカはアリスを不安にさせないように笑顔を作りながら、しゃがんでアリスにそっと話しかける。
「…アリス。遊びに来たよ」
 アリスはびくっと体を震わせ顔を上げると、反射的に言葉を出した。
「…ごめんなさ…」
「だから、謝んなっつーの」
 シャルもしゃがみ、アリスを不安にさせないように、笑いながらそう言った。
 アリスは泣き腫らした顔で、震えながら呟いた。
「2人とも…あの話を聞いてショックでしょ…?事故だと思ってたものが事件だったのよ…」
「…アリスが関わってなかったら、帝国を憎んでたかもな」
 シャルは、真面目な表情になり、静かにそう答えた。アリスの震えが止まる。シャルは続けた。
「アリスに、アイオラ元帥だって…アルトくんの親父だからな。勝手に憎んでいいのか?何か理由があるんじゃないのかって考えたくなるよな」
 ムジカも真面目な表情でシャルに続いた。
「その実験が何のためなのかも分からないし、どうしたらいいかあたしたちには分からない…」
 2人の今の気持ちを端的に表すとしたら…混乱、かもしれない。
 ムジカは再び笑顔になり、アリスに明るく言った。
「一旦、考えるのやめよ!ね!次長が元帥に話聞くって言ってたし、それから考えよう!」
 シャルは、アリスとムジカの肩に手を置き、少しだけ引き寄せる。小さな声で囁いても声が届く距離だった。シャルは静かに囁いた。
「アリス…この事件は、アリスも俺もムジカも全員被害者なんだ。だから…俺たち3人…きっと同じなんだよ…そうだろ」
「…」
 アリスは目を細める。ムジカも笑顔で囁いた。
「そうそう、同じ同じ。だから3人で傷をなめ合おう、ね?」
「お前その言い方はなあ」
 シャルは思わず笑ってしまう。
 シャルはアリスの表情が少しだけ柔らかいものに変わったことを確認し、静かに手を放す。シャルはくつろぐ体勢になり、笑いながら言った。
「にしても、任務とか嫌になっちまったなあ。みんなで学校辞めちまうか?」
「あはは、それもありかも~!」
 ムジカも笑いながらそう答えた。
 アリスは、2人と話をして少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
 ムジカはアリスの両肩に手をそっと置いて、静かに囁いた。
「…ねえ、アリス。すぐに寮に戻らないで、しばらくおうちで休みな。落ち着いたらまた戻っておいで」
「…」
 アリスは、涙を流しながら、こくんと頷いた。
「…ごめんなさい…」
 ムジカは反射的に謝ってしまうアリスに、笑いながら答えた。
「ごめんなさいじゃなくて、ありがとう、ね」
「…ごめんなさ…あの…ありがとう…」

 シャルとムジカが部屋から出てくると、ラングとエンはばっと2人を見た。しゃがんでいたアルトもすぐに立ち上がった。
「アリス、ちょっとおうちで休めば元気になるって!さあ、元気よく帰ろう~!」
 ムジカが笑顔でそう言い、シャルも笑いながら手を振る。その2人の笑顔は無理をしているようには、ラングとエンには感じられなかった。ラングとエンも、笑顔で2人に対し頷く。5人は、そっとアリスの家を後にした。


 帰り道、夕日の中、シャルは苦笑しながら言った。
「…俺たちも、さすがにちょっと休みたいなあ」
 エンはそれに対し、優しく答えた。
「…うん、今日はゆっくり休もうね」
 やっと2人に、声をかけることが出来た…エンは内心、泣きそうになっていた。
 しばらく歩いていると、ムジカが前に出て、ラングとエンとアルトの方を振り返る。3人はそのまま足を止めた。
 ムジカは穏やかな笑顔で、3人に言葉を伝えた。
「…ラング…エン…アルトくん…今日は来てくれて嬉しかった。ありがと」
 シャルもムジカに続き、3人の前に出て言葉を伝えた。
「お前らが来なかったら…俺らもうどこにも帰らなかったかもな」
 ジェイド地区に関しては、全てが人間不信になってもおかしくない出来事だった。2人の心を、ラングたちが繋ぎとめたのかもしれなかった。
 ラングは前に出て、シャルとムジカの肩をパシッと叩くと、笑いながら言った。
「…2人が無事で良かった。さあ、寮に帰るそ!」
「了解!」
「りょ~かーい!!」
 シャルとムジカはそう答えると、2人で喋りながら先を歩き出した。
 ラングとエンは2人を見ながら、やっぱり行ってよかった、と心から思ったのだった。


 アリスを除いた5人が寮に戻った次の日。アルトは元帥執務室に居た。自分の父であるアイオラ元帥に会いに来たのである。
 アイオラ元帥は、いつものような、愛おしいのか冷徹なのかよく分からない、感情の読み取れない表情でアルトに話しかけた。
「アルト。お前が自ら私に会いに来るなんて珍しいな」
「何で8年前、ジェイド地区にアリスちゃんを行かせたの?」
「…誰に聞いた?」
「アリスちゃんじゃないといけなかったの?」
 アルトは質問に答えず、更に質問を畳みかけた。
 アイオラ元帥はため息をつきながら答える。
「アリスは類に見る、優れた適性を持った人間だった。ジェイド地区には大陸いちの輝煌石があった。懐剣による実験を行いたかった。私は輝煌について常に研究をしなければならない立場だ。だからアリスを選んだ。それだけだ」
「もしかして実験って”懐剣:ラブ”を覚醒させるための実験なんじゃないの?…父さん…アリスちゃんは、もしかして僕と同じ…」
「アルト、余計なことは考えなくていい。”兵器”として生まれてきたのはお前だけだ」
 アルトの質問は止まらなかった。
「何でシャルとムジカだけを行かせたの?あの2人じゃないとダメだったの?何でチーム:ミモザ全員じゃいけなかったの?何で6人全員の懐剣の変化を知りたがったの?」
「シャルとムジカも他の人間に比べ輝煌の適性が高い。輝煌の濃度が高い場所の任務だからな。案内役には最適だった。チーム:ミモザじゃ無かったのは、6人全員を向かわせるのは失った時のリスクが高いと考えたからだ。6人は特別だからな…」
「…6人は特別?どういう意味?」
「深い意味は無い。適性が比較的高い6人という意味だ」
「みんなを巻き込まないで。みんなにひどいことしたら許さない」
 アルトはいつになく強い口調でそう言い、睨み付けた。アイオラ元帥は、アルトのこのような感情的な表情を見るのは初めてだった。
 アイオラ元帥は笑顔を向け、突然優しい口調になる。
「私が大切な息子であるお前の嫌がることをするもんか。”計画”には絶対にお前の協力が必要だからな」
「…もういい」
 アルトはそう言い捨て、部屋を足早に出て行ってしまった。

「元帥、例の装置についてですが…」
 そこでアイオラ元帥は助手の女に話かけられる。だが…
「…元帥…?」
 アイオラ元帥は反応せず、腕を組んで考え込んでしまった。

「…突然反抗的になったな。何があった?」

>>8.束の間