チーム:ミモザの6人は、元帥に直接呼ばれ、政府ビルの上階にある元帥執務室に行くことになった。6人はそれぞれ出掛ける準備を済ませた後、男性陣の部屋のリビングに集合していた。
シャルは顔をしかめながら言った。
「何だ何だ。怖えんだけど」
それに対し、アリスは冷静に、皆を見回しながら言った。
「前にも話したけれど、私たちは恐らく、難しい任務を任されるために組まれたチームなのよ。そう考えれば招集は意外では無いわ。行きましょう」
出掛ける際、無表情で佇んでいたアルトにラングは話しかける。
「…アルト、今からお前の親父に会うけど…大丈夫か?」
「…」
アルトはラングの目を暫く見つめた後、ゆっくり、こくんと頷いた。
エンもアルトに近付き、笑顔で話し掛ける。
「アルトくんには私たちがついてるからね!」
「…うん」
アルトは、今度は声に出して返事をした。
ここは政府ビル上階にある、元帥執務室。そして研究室も併用している。元帥は研究開発部長も同時に担当しているのだ。
ラングは扉をノックし、「失礼します。チーム:ミモザです」と名乗り中に入った。元帥は「来たか…」と呟き、ラングたちを中に招き入れた。
この、すさまじいまでの威厳を纏った金髪の男。彼がアルトの父でもある、「アイオラ元帥」である。元帥はホープ帝国の軍を総括する立場で、ホープ帝国の皇帝である大元帥の次に権限があった。
6人は横に並んで敬礼をした。アイオラ元帥はアルトをちらっとだけ見ると、6人全員を見回して、言い渡した。
「今回は特別な任務なので、私が直々に言い渡すことになった。今回の任務は…」
6人とも息を飲む。アイオラ元帥が直々に言い渡す任務とは…
「…ジェイド地区の輝煌石の調査を行う。今回は臨時のチームとなる。シャル、ムジカの2人をジェイド地区の案内人として臨時のチームに入れる。アリスは別チームで時間を置いて後を追う。他の3人は待機。以上だ」
「…!?」
6人とも、思わずお互いの顔を見合わせた。ラングは咄嗟にアイオラ元帥に質問する。
「チーム:ミモザでの行動では無いんですか?」
「今回は特殊な任務だ」
アイオラ元帥は、淡々とそう答えた。
(…よく分かんねーけど、任務だし仕方ないか…)
ラングがそう冷静に考え、皆の方を振り返ると、とあることに気が付く。
シャルとムジカ。2人は目を見開いて顔面蒼白となっていた。
(…どうしたんだ?)
ラングは考えを巡らせた。
アイオラ元帥は、「案内」と言った…
ラングは、はっとした。
(まさか…!?)
ラングは慌ててアイオラ元帥の方に向き直る。そして言い放った。
「元帥、ちょっと、話し合う時間を下さい。一晩だけ」
「…?分かった。今回は特殊な任務だからな。考える時間は必要だろう」
アイオラ元帥のその返答を聞くと、ラングはすぐにエンに目配せをする。エンも既に状況を察しており、ラングとエンは呆然としているシャルとムジカの背中を押して、皆は部屋から出て行った。
…しかし、部屋にアルト1人だけがぽつんと残った。
アイオラ元帥は息子であるアルトの姿を確認すると、…愛しいのか、冷徹なのか…よく分からない。感情の読み取れない表情で目を細め、小声で話しかけた。
「どうだ、アルト。”懐剣:ディライト”に何か変化はあったか?」
アルトはぼーっとしたまま、無表情で、
「…ない」
と、静かに答えた。
その時、近くに居る助手の女がアイオラ元帥に耳打ちをする。元帥は頷くと、もうアルトに興味が無いような表情になり、静かに言い放った。
「そうか。アルト、話は以上だ。行きなさい」
「…うん…」
アルトは空虚にそう返事をすると、静かにすたすたと歩き始め、部屋を出て行く。部屋を出ると、走ってラングたちに追いついた。
6人は政府ビルの踊り場に出る。ラングは間髪入れずシャルとムジカに聞いた。
「率直に聞くぞ。シャル、ムジカ…2人は、ジェイド地区出身なのか?」
「…」
「…」
2人は黙る。しばらくすると、我に返ったようにはっとした。そして、シャルはぎこちなく笑いながら答える。
「…気付いちゃった?そうなんだよな~」
「そうそう~」
ムジカもぎこちなく笑いながら同意した。
アリスは、思わず「…えっ…!?」と声に出してしまった。
ジェイド地区は8年ほど前に、”ジェイド地区爆発事故”と呼ばれる、輝煌石の抽出中に起きた爆発事故で崩壊した。その事故で大勢の人間が亡くなっている。爆発後は常にエネルギーが噴き出しており、輝煌の濃度が常に高い状態なので今は誰も住んでいない。瓦礫のまま放置されている場所である。
つまり…シャルとムジカは、ジェイド地区爆発事故の生き残り、ということになる。
エンは珍しく、怒りに震えながら呟いた。
「その2人に崩壊した故郷を案内しろって言ってるの、あの人…!?ひどい…」
ムジカはそれを聞き、少し穏やかな笑顔になって言った。
「エン、ありがと。でも任務だから仕方ないよ」
「俺も別に平気だけど?」
シャルも平然を装ってそう続けた。
ラングは、2人の様子を注意深く観察していた。少なくとも、ラングには2人の様子がいつもと違うように見えた…だから、こう提案する。
「2人とも、とりあえず一旦寮に帰ろう。それで、ゆっくり休みながら考えような。いいよな?」
帰り道、シャルもムジカもいつも通りを装って喋っていたのだが、あれだけよく2人で喋っていたのに、この帰り道では2人で喋ることは無く、顔を見合わせることもしなかったのである。
ラングもエンも、食事をとっている間もジェイド地区の話は振らなかった。
今ではない…思わぬ形で突然知らされた仲間の過去なのだ。ラングもエンも、その時を注意深く、じっくりと待った。
夜。リビングに直接繋がるベランダで、シャルは夜景を眺めていた。そこにラングが現れて横に並ぶ。
今しかない。話さなければならない。ラングは単刀直入に聞いた。
「…シャル。ジェイド地区の任務のことなんだけど…」
「別に平気だよ~って言ったら嘘に聞こえる?」
シャルも、ラングにジェイド地区について話さなければならないのは分かっていた。笑いながら答えたが、ふう…と一息つくと、景色を見ながら、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「…まあ、ダラダラしてるより話した方が早いか。…俺の家族は、あの日に死んだ」
「…!!…うん」
過去のことを話してもらおうとしてた訳ではないが、シャルが自分から話し始めたので、ラングはシャルの話を静かに聞いた。シャルは続ける。
「…その時のこと…昔は立ち直れなかったけど、今は正直、よく分かんねーんだよな…もう考えたって無駄だし。何か現実じゃなくなってきてるっていうか。乗り越えたとか、この悲しさを糧に、とか言えたら良かったんだけどねえ。よく分かんねーんだ…もう…」
「…うん」
「ムジカがジェイド地区出身ってのは、実は結構前から知ってた。でもムジカとはジェイド地区の話をしたことは無い。なんつーか…聞けないじゃん。聞いたら何か…ムジカがムジカじゃなくなる気がしてさ。向こうも知ってんだろうなあ、俺がジェイド地区出身って。で、聞けないんだろうなあ。何かそんな気がする…」
ラングはそこまで聞いて、顔面蒼白となった2人の表情を思い出した。
(…確かにそうだ。この話をしてしまったら…2人はあの表情になるんだ…)
ラングは、シャルの方を見ず、空を眺めながら言った。
「明日、任務の断りの連絡入れるわ」
「…え?」
シャルは、ラングの横顔を見る。ラングは続けた。
「2人はジェイド地区に行かなくていい。俺が決めた。明日断るからな」
「リーダー命令?」
ラングは、笑っているシャルの方を振り向き、笑顔になって「そうだ」答えた。
「リーダー命令じゃ仕方ねーなあ。了解了解」
シャルは笑いながら、リビングに戻ろうとする。そして…
「…ありがとうな、ラング」
そう小声で呟くと、リビングに戻っていった。
アリスは、ベランダに居るムジカに話しかけようか話しかけまいか、リビングの中をうろうろしていた。そこに、ムジカと話をしようとしてエンが通りかかる。アリスはエンを見ると、憔悴した様子で話しかけてきた。
「エン、私、ムジカに何を言っていいか…こんなこと言ったらひどいかもしれないけど、エン、お願いしていいかしら。私は…おしゃべりが苦手だから。変なことを言って傷付けてしまいそうで…」
アリスが一息でそこまで言ったので、エンはアリスを落ち着かせるために、笑顔で答えた。
「そうかな?アリスに話しかけられたらムジカは何だって喜ぶと思うけど」
「…」
しかしアリスは、目を伏せてうつむいてしまった。エンは、アリスの肩を優しくポンと叩く。そして、顔を覗き込みながら優しく言った。
「顔色が良くないよ。そういえばアリスも任務頼まれてたもんね、色々あって気疲れしちゃったのかも。今日はゆっくり休んだ方がいいよ。私が代わりに行ってくるね」
アリスは顔を上げ、エンの顔を見て「…ごめんなさい」と小さく呟いた。エンは笑顔のままアリスに答える。
「元々そのつもりだったから大丈夫だよ♪じゃあ、行ってくるね」
エンはアリスに心配をかけないように、迷うことなくベランダへと出て行った。
エンがベランダに出ると、そこには夜景を眺めるムジカが居た。ムジカはすぐにエンに気付き、「あ、エンだ!」と笑顔で言った。
エンも笑顔で応じると、ムジカの横に並び、自分も夜景を見ながら話しかける。
「…ムジカ。あの…ジェイド地区の任務のことなんだけど…」
「心配してくれてるの?エン、ありがと!でも大丈夫だよ!」
「…本当に?」
「あたし、家族誰も居ないの」
「…!」
ムジカが、自分から話し始めたのだ。もちろん家族が居ない理由は、聞かなくても分かっている。ムジカは笑顔で続けた。
「でももう乗り越えたの。ほら、こうして毎日笑ってると楽しいでしょ??そうすると嫌な事思い出さなくて済むの!」
「…ムジカ」
「ほら、エンも笑って。ね、ほら。えへへ。えへへへへ!」
エンは思わず、ムジカを抱き締めてしまった。
根拠がある訳では無いが…笑っているムジカの姿は、エンには、どちらかというと…
心が、壊れているように見えてしまったのだ。
「えへへ、エンってば、どうしたの?いたいよ~」
どういった言葉をかけるのが正解なのか、エンには分からなかった。だから、こう言うしか無かった。
「…ムジカ、明日はムジカの食べたい物作るね。何食べたい?」
「えっほんと??じゃあ、辛い物!!」
「ああ、自己紹介の時言ってたね。了解、了解!」
ムジカはエンをぎゅっと抱きしめ返した後、「お休み~♡」とベランダを後にする。
ムジカがリビングに戻ると、そこにはそわそわと歩き回っているアリスが居た。アリスは思わず「…あっ」と声に出してしまう。するとムジカはアリスにばっと飛びついた。
「あっ、アリスだ~♡お休み♡」
そしてそのまま、スキップをして部屋に戻っていった。
エンがベランダから戻って来てアリスに話しかける。
「ムジカの様子、どう?」
「いつも明るいけど…今日は明るすぎるわ」
それを聞いたエンは考える仕草をした後、アリスの目を見て言った。
「…私、ランちゃんに、任務断れないか連絡してみるね」
アリスはすぐに頷き、言った。
「…もしそう出来るなら…お願いしたいわ」
「ほら、アリスはもう休んで。ね?」
「…分かったわ。ありがとう、エン」
エンは笑顔でアリスを部屋まで送ると、すぐにリビングに戻りデバイスを使ってラングに電話をかけようとする。すると…
デバイスが鳴った。ラングからである。ラングの方からエンに連絡が来たのだ。エンはすぐに電話に出た。
『エン、今大丈夫か?』
「あ、ランちゃん!丁度良かった」
『エン、ジェイド地区の任務は明日断ることにした』
「…同じこと言おうと思ってた」
『…そうか。ムジカと話をしたのか?』
「うん。ランちゃんもシャルと話した?」
『話した。それで決めた』
「…そうだよね。うん、良かった。ありがとう、ランちゃん」
軍学校は学生に対し、断れない強制的な任務を命じることは禁止されている。頻繁に断ると減点されることもあるが、次の日にラングが断りの連絡を入れると、それはすんなりと受諾された。
それから数日後の朝。アリスとシャルとムジカの姿が無かった。
早朝、アリスとシャルとムジカのデバイスに直接、アイオラ元帥から内容の伏せられた任務が命じられた。誰にも会わず速やかに行動するようにと書かれた上に、3人はあまりにも朝早いのでメンバーに相談すべきかどうかを考える余裕も無く、結果的に「誰にも会わず速やかに」出掛けるしかなかったのである。
一応ラングのデバイスにシャルからメールが残されていたが、結局はリーダーのラングを通さないまま3人はアイオラ元帥の元に駆り出されてしまった。
任務の内容は…既に分かっている。ラングはメールを見ながら唇を噛んだ。
「くそっ…絶対に断れないようにしたな…!」
軍学校は学生に対し、断れない強制的な任務を命じることは禁止されている…アイオラ元帥は以前と同じ任務を、回りくどい方法で絶対に断れない状況を作って命じたのだ。しかも、数時間後にラングにも追って任務のメールが来た。内容は、”この任務はチーム:ミモザとして受諾された。ラング・エン・アルトは待機”…だ。任務はチームとして一度受けてしまうと、途中で放棄することは許されない。
エンもアリスとムジカの書き置きを見て、男性陣のリビングまで来ていた。わなわなと震えながら呟いた。
「…2人とも、こんな状況だから、私に相談する余裕も無かったんだ…」
他の人ならいいという訳では無いので口には出さなかったが、なぜ博士はあの3人にこだわるのだろう、とラングとエンは思った。
2人はふと、先程からアルトがデバイスで誰かに電話をかけていることに気付く。エンがアルトに聞いた。
「アルトくん、誰に電話してるの?」
「…父さん」
アルトは電話をかけながらそう答えた。
ラングとエンは、出来るだけアルトとアイオラ元帥を関わらせたくないのではっとしたが、確かに今の頼みの綱はアルトなのかもしれなかった。なぜ、こんなことをするのか元帥に聞きたかったのだ。しかし…
「…出ない」
アルトはそう呟く。父とは繋がらなかった。
ラングはそれを確認すると、急いでシャルに電話をかけた。
「シャル、今大丈夫か?」
『よおラング。元気か?』
シャルが電話に出た。ラングはシャルの声を聞き、ほんの少しだけほっとする。ラングは続けた。
「こっちのセリフだ馬鹿…お前、まさか今…」
『うん、列車でジェイド地区に向かってるけど』
予想通りの展開に、ラングの頭はアイオラ元帥に対する怒りで爆発しそうになる。しかし、冷静さを保ちながら電話を続けた。
「任務、受けたのか」
『だって、どうせ断ってもまた頼まれるでしょ。早く終わらせた方が早いと思ってさ』
「…絶対に無理すんなよ。無理そうだったら戻って来い」
『…了解、リーダー』
「ムジカも大丈夫そうか?」
ラングは、エンも今にもムジカに電話をかけそうな勢いだったので、音声を皆に聞こえるように切り替えてムジカの様子も聞いた。シャルはそれに答える。
『いつも通りだよ。大丈夫、すぐに終わらせて2人で無事に帰るぜ。なあムジカ』
『ラング~!心配してくれてありがと!』
そうムジカの元気な声も聞こえてきた。ラングとエンは、少しだけほっとする。
ひょっとして無理をしている…そんな予感もしたが。
エンはラングに近付き、ムジカに呼びかける。
「ムジカ、絶対無理しないでね。美味しいごはん作って待ってるからね」
『うん!無理しない!エンありがとー』
『…ラング、ありがとな。また後でな』
シャルはそう言って、電話を切った。ラングもエンも、後ろ髪を引かれるような気持になった。
待機を命じられたラングは自分にも何か出来ないか考えていると、エンが焦った様子で話しかけてきた。
「ランちゃん、アリスと電話が繋がらないの。どうしたんだろう」
「…!?」
以前と同じ任務なのだとしたら、アリスも別チームでジェイド地区へ向かうはずなのである。ラングは顔をしかめながら呟く。
「…何がどうなってんだ…?」
「任務中だから出れないとかかな…一応繋がるまでやってみるね。いつもなら後でいいかなと思うけど…何だか嫌な予感がするの」
エンは再びアリスに電話をかける。アルトも、時間を置いて再び父に電話をかけた。どちらも相変わらず繋がらない。
待機命令が出ているので派手に動くことは出来ない。ラングも自分に出来ることは無いかと、士官から情報を集めることにした。
ジェイド地区へ向かう列車の中で、シャルとムジカ、今回臨時で一緒にチームを組むことになった2人の少年と1人の少女は座席に座っていた。その中の1人が今回のリーダーの前衛の少年、2人が盾使いの少年少女である。
シャルは立ち上がりながらリーダーに言った。
「リーダー、ちょっと外の空気吸ってきていい?」
「…ああ、もちろんだ。今から故郷に行くんだもんな…遠慮しないで、何でも言ってくれ」
そう答えたリーダーに、ムジカも立ち上がりながら言った。
「じゃああたしも行こうかな」
「…ああ、ゆっくりするといい」
2人は、優しいリーダーに少し心を救われたようだった。
シャルとムジカは、列車の外の展望スペースで、それぞれ風を浴びたり伸びをしたりした。しばらくしてから、シャルが何気なく、いつも通りの口調でムジカに話しかけた。
「…俺の出身、知ってたろ?」
「…知ってたよ~」
「俺も、俺も」
2人は笑いながら言った。前向きになりたいから笑っているのか、笑わないとどうにもならないから笑っているのか、2人にもよく分からなかった。
ムジカは笑顔のまま、シャルの頭をなでる。
「…シャル。大変だったねえ。ほら、頭なでてあげる!いい子いい子」
「…」
シャルは、にやけながらムジカの顔を覗き込んで囁く。
「…そんなことされたら好きになっちゃうぞ?」
飄々とした性格のシャルは、ムジカをおちょくるつもりでそう言ったのだが…
「うん、いいよ!」
ムジカは、照れる訳でも無く笑いながらそう言い放った。
シャルは思わず頭を掻く。
「ムジカと居ると、ほんと調子狂うな…」
「何言ってんの?こっちの穏やかなのが本当のシャルでしょ?」
「…!!(見透かされてる…?)」
そんなやりとりをした後、2人はしばらく景色を眺める。
すると、ムジカの方が、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「…あたしね、生まれた頃に両親が死んだんだって」
「…!」
シャルは思わず、はっとした表情でムジカの横顔を見た。ムジカもシャルの方を振り返り続ける。
「その後は孤児院を行ったり来たり。すぐにここは嫌って騒いで、孤児院の人が私のために別の孤児院に移動させてくれる。それの繰り返し。ほんと子供だったよね~申し訳ないなあ」
「申し訳ないことはねえだろ。色々あったんだからそうなっても仕方ねえよ」
2人はもうおちゃらけることなく、真剣な表情をしていた。ムジカは笑顔で答えた。
「ありがと。あ、今は毎日楽しいし乗り越えたから大丈夫だよ。だからこうやって話せるの」
シャルはムジカの話を聞き、自分も話すのが礼儀だと感じた。ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「…俺は、あの事故の日に両親とも死んだ。そのまますぐに政府の施設に引き取られた」
「…うん。シャル、大変だったね。いい子いい子」
「はは、だから子供扱いすんなっつーの」
「…あたしも、事故の日から政府の施設だったなあ。そのまま大きくなったら流れで軍学校だよね?」
「そうそう」
「一緒だね!」
「…ははは、まあ、そうだな」
2人はいつもよく喋っていたが、ジェイド地区について話をしたのがこれが初めてである。いつも喋っていたのは手持無沙汰だったからだが、心の奥底ではジェイド地区のことを聞いてみたいという気持ちも確かにあった。今日、やっとここまで辿り着いたのかもしれなかった。
ついに列車は、イーストシティの奥地にあるジェイド地区に近い場所に到着した。ジェイド地区は輝煌の濃度が高いため列車で近付くことは出来ない。5人は列車を降り、ジェイド地区に向かって歩き始めたのだった。