チーム:ミモザの次の任務は、イーストシティ外れのスラム街にある敵陣…カタルシス国の人間が多く目撃される場所にある輝煌石の調査だった。今度は正真正銘の輝煌石の調査である。ただ、場所が近くにカタルシス国の本部があると言われている場所なのだ。
今回は列車での移動となる。学生の探索の移動には、基本的に列車が使われることが多い。
列車の座席で、ラングはため息をつきながら言った。
「何か、いきなりヤバイ任務が来たな…」
それに、アリスが比較的冷静に答える。
「こういうことをさせる為にこのチームを編成したのかもしれないわね」
イーストシティは都市だが、外れにはスクラップゾーンとスラムが多い。カタルシス国は、ホープ帝国から目を眩ませるためにその場所を選んでいるという話であった。
イーストシティの外れに到着し、スクラップゾーンとスラムが一体化したような場所を6人は歩き始めた。明らかに人の気配がするが、疑われるような行動は慎まなければならないので、6人はよそ見をせずに歩き続けた。やはり人が多く住んでいるらしく、片付けなければならない機械や機械兵とは遭遇しなかった。
そろそろ、カタルシス国の本部があるという区画である。辺りが少し騒がしくなる。リーダーであるラングは、歩きながら小声で「みんな、一応懐剣を展開する準備だけはしておいてくれ」と囁く。皆は声を出さず軽く頷いた。
そして…予想していた通り、懐剣を構えた数人の人間が現れたのである。間違いなくカタルシス国の人間だろう。数人の中の、リーダー格であろう男が言い放った。
「ホープ帝国…!こんな奥地まで…何のつもりだ?」
それに対し、ラングは冷静に答える。
「そっちに公式の文書を送った。戦う意思は無い」
しかし、カタルシス国の人間は互いに目配せをすると、ラングたちに向かって戦闘態勢に入る。目が血走っているように見えた。間違いなく襲いかかってくる。
ラングはそれを確認すると、ミモザのメンバーに向かって言い放った。
「正当防衛だ。全員懐剣展開!アリスとアルトが前衛、俺とシャルが補助する。エンとムジカは念のために狙撃準備で待機だ」
全員は返事をすると懐剣を展開し、ラングに指定された位置についた。
予想していた通り、カタルシス国の人間が襲いかかって来た。ラングの盾とシャルの光の玉で相手を怯ませ、その隙にアリスとアルトが敵に斬り込む。しかし、さすがに本部の側だ。敵はその攻撃を懐剣で受け止める。簡単に倒せそうには無かった。
皆の行動を注意深く観察しながら、ムジカがエンに向かって小声で話しかける。
「今回は本当に輝煌石の調査なのにね~」
「もう、聞こえちゃうよ?」
エンも、皆から目を離さないように小声で答えた。
しばらく懐剣を打ち合う。どことなく、お互いに本気で戦っているというよりは、探り合っている…ようにも感じられた。
そのまましばらく戦っていると、カタルシス国の人間たちは一歩引く。そして、ラングたちを一通り眺めると、こう言い放った。
「…お前たち、まだ学生だな。本当にホープ帝国を信頼してるのか…?どうなっても知らんぞ…」
一体、どんな真意でその言葉を発したのかは分からない。そして彼らは互いに目配せをすると、走って撤退していったのだった。
アリスは、敵が去っていった場所から目を離さずに呟いた。
「…撤退…?珍しいわね。いつもは我を忘れて殴りかかってくる勢いなのに」
ラングはしばらく敵が去った場所を観察した後、皆に呼びかける。
「みんな、今のうちに走り抜けるそ。念のために懐剣は展開したままでいい」
そして6人は、カタルシス国の本部があるという区画を一気に走り抜けた。
走り続けると景色が一気に変わる。そのまま輝煌石の塊がある場所に着いた。輝煌石の塊が複数ある。これだけあれば数年は困らない…それだけの量であった。
シャルは輝煌石の塊を見回しながら、声を漏らす。
「うわーこれはすげえなあ。ただ…場所がなあ。どうすんだろ」
そう、ここは敵陣なのである。ラングも同意するように言った。
「そうだな。こんな所でエネルギー抽出作業やったらカタルシス国が怒り狂いそうだな…」
それを聞いたエンは、少し考え込みながら言った。
「でも、エネルギーが枯渇しかけたらここの輝煌石も必要になるんだろうな」
アリスもそれに同意する。
「そうね。そうなると、やっぱりカタルシス国を何とかしなければならなくなるんでしょうね…本当は争っている場合じゃないのよ」
敵陣の側に、今後必要になるであろう輝煌石がある…今回は、それを確認するための難しい任務、ということなのだろう。
6人は、帰りも本部の側を走って通り過ぎたが、カタルシス国の人間とは遭遇しなかった。
任務を終え、6人は帰るために列車に乗り込んだ。6人は向かい合った座席に座り、今日のことを振り返っていた。
「こういう任務がこれから増えるのかしら。気を引きしめないといけないわね」
アリスが話をそう締めくくろうとすると、ラングは何気ないような口調でこう言い放ったのだ。
「大丈夫。前衛のアリスの怪力があれば何とかなるよな」
エンとシャルとムジカは、ラングのその発言にぎょっとしてしまう。アリスは…
「…」
無表情になり、列車の後部にある外のスペースに行ってしまった。
エンは、怒りで顔を真っ赤にしながらラングに向かって叫んだ。
「ランちゃん、謝って来なさい。本当に女心が分かってないんだから。女の子に怪力とか言わないの!」
「えっ、ああ…そっか」
そう言って慌てるラングに、シャルは笑うのを我慢するために口元を押さえ、ムジカはケタケタと笑っている。
ぼけっと佇んでいるラングに、エンは再び叫んだ。
「ランちゃん、早く行ってきて!!」
「ええ、ああ、うん、分かった分かった」
ラングはそう答え、慌ててアリスの後を追った。
シャルは口元の手を放し、笑いながら言った。
「何だよラング、任務の時は超男前だったのに。両極端だなあ」
「でもいい所もあるんだよ!?」
エンがそう言って何故かラングを庇い始めたので、シャルは「くくく…あっそう。おもしれーなお前ら」と更に笑いながら言った。
「あの、アリス…さっきはごめんな」
ラングは、手すりの付いている外の展望スペースで景色を見ているアリスの後ろ姿に、そう話しかけた。
アリスはラングを振り返ると、首を傾げながら答える。
「…?何の話?」
「え、怪力って言われて怒ってたんじゃねーの?」
「それは気にしないわ。私も実力が欲しいし…確かにもっと怪力になりたいわね」
アリスは無表情でそう言ったので、ラングには怒ってるのか怒ってないのか分からなかった。
ラングも何となくアリスの横に並び、しばらく2人は景色を眺める。すると、アリスがぽつり、ぽつりと話始めたのだ。
「…夢を見るの、私。昨日もその夢を見ちゃって、それでぼーっとしてたんだわ。怒ってるって誤解させてたらごめんなさい」
「…夢?どんなやつ?」
ラングがそう聞くと、アリスは話そうか話すまいか…少し考えた後、ゆっくりと話し始めた。
「ホープ島じゃないどこか…私は私じゃなくて、戦場でずっと戦ってるの。何人もの兵士と戦って、全員倒したところで目が覚める…そんな夢を何回も見てるの」
「全く同じ夢なのか?」
「状況は少し違うけど、大体内容は一緒よ。所詮夢なんだけどね…その夢を見ると、何か疲れてしまって」
「そうか…同じような夢を何回もって、確かにおかしいな。心理的なやつかな?」
「…そっか。考えたこと無かったわ。今度、ちゃんと診てもらった方がいいのかしら」
そこまでアリスの話を聞いて、ラングは景色の方に目をやりながら、ポツリと呟いた。
「…俺も時々、変な夢見るなあ…」
その時、”懐剣:サドネス”の周りに大人たちが横たわる…そんな景色がフラッシュバックする。それは、ラングにとって思い出したくもない記憶で、時々夢に出てきてしまうのだった。
「夢?どんな?」
アリスにそう聞かれるが、ラングは言葉に出すことも嫌だったので、適当にごまかすことにした。
「ああ…何か…腹が減って、食いすぎて失神して目が覚める的なやつ…」
それにしても、あまりにも適当である。
「…」
アリスがうつむいてしまったので、ラングは再び慌てた。
(やばい、また変なこと言っちまったかな?)
すると、アリスの方から…
「…ふふ…」
(…ん?何だ…?)
笑い声が聞こえた。
「ふふ…ふふふ…!もう、ラングってば何言ってるの。ふふ…」
何と、アリスが顔を真っ赤にして、肩を震わせて笑い出したのだ。アリスがこういった表情を見せることがあまりにも意外で、気が付いたらラングも顔を真っ赤にしていた。
「…え…俺、何か変なこと言った?」
ラングが慌ててそう返すと、アリスは指で涙をぬぐいながら言った。
「ごめんなさい。ふふ…変なの」
そして、ふう、と深く深呼吸をする。アリスはラングに笑顔を向けながら言った。
「でも何か…こんなに笑ったの、久々かも。ラング、ありがとう」
「いや別に…俺何もしてないけど」
「確かにそうね。ごめんね」
アリスがまた景色を眺め出したので、ラングは「また後でな」と言い、冷静を取り戻すために深呼吸しながら皆の座席の方に戻っていった。
「ランちゃん、どうだった?」
ラングが座席の方に戻ると、エンがニコニコしながらラングに話しかけてきた。ラングは座席に座りながら首を傾げて答える。
「どうって…何が?」
「何か嬉しそうだから。女の子と2人きりで、何もない訳ないもんね!アリス可愛いし、いいと思うけど」
「はあ!?何でそういう話になるんだよ!」
ラングはエンにからかわれ、さっきのアリスの笑顔を思い出して再び顔を真っ赤にしてしまった。
「えっマジかよランちゃん…私というものがありながら!!」
今の一言はエンではなくシャルである。
ラングは、今度は怒りで顔を真っ赤にしてしまった。
「もう寝る!!」
そしてラングはふてくされ、腕と足を組んで寝てしまった。ちなみにアルトは皆のやり取りを一切見ておらず、先程から既に寝息を立てていたのだった。
任務の日々は続く。
チーム:ミモザの6人は、以前長さを測った輝煌石を再び見回る任務を命じられた。既に探索の済んでいる場所なので、機械兵とはほとんど遭遇することは無かった。
すっかり測る係のようになったエンは、以前測った輝煌石の長さを再び測る。すると…
「…1cm減ってる?」
エンは呟いた。同じ輝煌石を何度も測ったが、結果は変わらなかった。
ラングはスケールを覗き込みながら言った。
「測り方じゃないか?」
「うーん…そうなのかな?」
その後も以前行ったスクラップゾーンを回ったが、どの輝煌石も、1cmほど短くなっていることに気付いた。エンはメモを取りながら言った。
「全部1cmくらい減ってる…ってことは、偶然じゃないってこと?」
それに対し、アリスがメモを覗き込みながら答える。
「輝煌石は、抽出されてない時も徐々に小さくなってる可能性があると聞いたわ」
ムジカは周りの霧を仰ぎながら、アリスに聞いた。
「こうやって、空気中に出てるからじゃないかな~?」
「それもあるかもしれないけど、輝煌石は全部繋がってる可能性がある…って聞いたことがあるわ。例えば、むき出しになった輝煌石を抽出した時、地層にある輝煌石も同時に小さくなってる可能性があるということよ。恐らくその調査よ」
アリスの返答に、ムジカは「えーっ!?」と声を出して驚きながら言った。
「ってことは、地層の輝煌石を使わなくても地層が崩壊するかもしれないってこと?」
「可能性だけどね」
もちろん、他の皆も驚いていた。学生たちがひたすら輝煌石の長さを測っていたのは、地層の崩壊についての調査だったということなのだ。
「懐剣が開発される以前は光発電が盛んだったって聞いたことがあるぜ。その時代に戻るのかねえ」
シャルは、ぼそっと呟いた。
任務がひたすら続いていたが、ある日を堺に、その内容に少し変化が訪れるようになる。
任務は全て、チームのリーダーのデバイスに届く。その後、デバイスでチームのメンバーに連絡するなり学校や寮の部屋に集合するなりして任務に出掛ける。
ある日、チーム:ミモザのリーダーであるラングのデバイスに届いた任務に、ラングは顔をしかめた。
それは、士官からではなく、ホープ帝国軍「元帥(げんすい)」直々の任務だったからだ。元帥はホープ帝国の軍を総括する立場で、軍学校に対しても権限を持っている。基本的に学生への任務は士官から届く。元帥から届くことはかなり珍しかった。
ラングは5人全員を、男性陣の部屋のリビングに集め、皆に告げた。
「今回の任務は、元帥直々の任務だ。ノースエリアのスクラップゾーンで輝煌の調査をする」
「…!」
「…」
ラングの言葉に、エンとアルトが反応した。ラングは2人の反応に気付いたが、とりあえず続ける。
「今回は長さを測る必要は無い。輝煌石の前に着いたら、自分の懐剣に変化が起きないかを注視し報告すること…?よく分かんねーな。どういう意味なんだろう。とりあえずそういうことだ」
エンは話を聞き終わると、アルトの方をちらっとだけ見て、ぼそりと呟いた。
「…アルトくんのお父さんからの任務だね」
アルトは無表情のまま、こくんと頷いた。そう…元帥は、アルトの父なのである。
そして、その事実に対し反応した人がもう1人居た。アリスである。アリスは、アルトに対して、少し笑顔になって言った。
「元帥ってアルトくんのお父さんなの?研究開発部の部長でもあるわよね。その直属の部下の次長が私の父よ」
「…?」
すると、先程まで無表情だったアルトが、アリスを見てほんの少しだけ驚いたような表情をしたのだ。アルトはアリスを見つめ、とりあえず一旦こくんと頷くと、そのまま考え込んでしまった。
皆が準備をしたり話し始めたので、ラングはエンに小声で話しかけた。
「…エン。アルトの親父だとよ」
「…うん」
エンは、うつむきながら返事をする。ラングは小声で続けた。
「…アルトの親父か…出来るだけアルトに近付かないで欲しいんだけどな」
「…そうだね。アルトくん、せっかく最近ちょっと顔色が良くなってきたのにね」
基本的に温厚なエンが、個人に対し嫌悪感を示すのはかなり珍しかった。何故、ラングとエンが、アルトの父に嫌悪感を示すのか…
チーム:ミモザは、ノースエリアのスクラップゾーンを歩いていた。輝煌の濃度が高く暴走する機械や機械兵の数が多かったため、戦闘を必要とする場所がかなりあった。
その中で、アルトはアリスの”懐剣:ラブ”の武器さばきをよく観察していた。きっかけは、先程の、アリスの父がアルトの父の部下…という話である。ちなみにアリスの剣は双剣だが、柄の部分を繋げると両剣にもなる。乱戦の時に重宝していた。アリスもアルトも、懐剣の適性と戦闘能力が高いところが共通していた。
そして…歩いている最中。
「…アリスちゃん」
「…えっ?」
なんと、アルトがアリスに話しかけてきたのだ。アリスは、返事以外のアルトの声を初めて聞いたので、驚いてしまった。アリスはすぐに冷静さを取り戻し、アルトに答える。
「あ、ああ…アルトくん。どうしたの?」
「アリスちゃん、お父さんに”兵器”って言われたことある?」
「…え?」
アルトの一言に、アリスは再び驚かされた。
”兵器”とは…
アリスは考え込み、少し記憶を巡らせてから答えた。
「…兵器…無かったと思うけど…どうして?」
「…」
アルトはアリスの返答を聞くと、少し考え込む。そして、小声でアリスに言った。
「…ううん。何でもない」
そしてアルトは、何事も無かったようにアリスから離れていったのだった。
アリスは、再び一人で歩き出したアルトの横顔を見ながら考える。
”兵器”…
(…兵器…どこかで…?)
…ふと、兵器という言葉に聞き覚えがあるような気がしてきたのだ。ただ、それは父から発せられた言葉では無かった気がしている。アリスはしばらく考えていたが、再び戦闘が始まると、そのまますっかり忘れてしまったのだった。
戦闘を重ねながら歩き続け、6人はスクラップゾーンの奥地に着いた。ここは今まで出会ってきた輝煌石のある場所の中でも、かなり輝煌の濃度が高かった。もちろん自分の周囲の輝煌の濃度を下げるために、全員懐剣を展開している。
ラングは一応、メンバーに呼びかける。
「…みんな、懐剣に何か変化はあるか?」
全員、首を横に振った。そもそも変化というのが何を指すのか、何がどう変化するのかが良く分からないのだ。
皆が懐剣を眺めながらあれこれ話していると、アルトが今度はラングに話しかけてきた。
「…ねえラング。ラングたちの懐剣も変化するの…?」
以前から、ごくたまにアルトがラングやエンに対しこのように話しかけてくることがあった。その場合、大体は気になることを質問してくる、という形がほどんどだった。
ラングは久々にアルトの返事以外の声を聞き、少し笑顔になってアルトに答える。
「うーん、どうだろうな。そもそも変化って何のことを言ってるのか分かんねーし…」
「…そうだね」
アルトはそう呟くと、自分の懐剣を眺めながらラングから離れていった。それと入れ替わるようにエンがラングに近付き、笑顔でラングに話しかける。
「ランちゃん、今日のアルトくん、久々にお喋りだね!」
2人は、先程アルトがアリスに話しかけているのもこっそり見ていた。会話内容までは聞こえなかったが。
ラングは笑いながらエンに答えた。
「はは、まあ質問されただけだけどな」
「いいの!ちょっとでもそういう日が増えたらいいの」
懐剣に変化は無かった…という報告をするために、6人は来た道を引き返し始めた。
元帥から直接招集がかかったのは、それから数日経ってからのことだった。