3.ミモザ

3.ミモザ

 ホープ帝国は、政治や軍事が全て総括された政府ビルや軍学校のある中央のセンターシティ、人々が暮らすウェストシティとイーストシティ、スクラップゾーンの多いサウスエリアとノースエリアの5つに分かれている。

 朝。センターシティにある軍学校のロビーで、2つのチームが合流した。

 チーム:フリージアのラング、エン、アルト。
 チーム:アイリスのアリス、シャル、ムジカ。

 6人の初対面である。

 士官は横一列に並んだ6人を見渡し、任務を言い渡した。
「本日からこの6人で新チームを結成する。新しいチーム名は”チーム:ミモザ”だ。本日はチーム戦に慣れてもらうために、テストとして難易度の低い地区の探索を担当してもらう」
 6人は返事をすると私語を挟むことなく、すぐに指定の場所に移動した。


 先日ラングたちが探索したのはセンターシティに比較的近い、難易度の低いサウスエリア。アリスたちが探索したのはカタルシス国の団体が多く目撃されているイーストシティの外れである。今回はサウスエリアの一角であった。
「まずは名前を知った方が良さそうね」
 アリスが最初にそう口にした。6人は歩きながら、まずは自己紹介をすることになった。
 まずはラングたちからだ。
「俺はラング。前のチームではリーダーだった」
「私はエン。で、この子がアルトくん」
 アルトはぼーっとしながら、こくんと軽く頷いた。
 次はアリスたちだ。
「私はアリスよ。で、シャルに、ムジカ」
「どうもよろしく。次は趣味の紹介かな?」
「よろしく~あたしの好きな食べ物は辛い物!」
 シャルたちが無駄に喋らないようにアリスが全員一気に紹介したのだが、無駄だったようだ。
 アリスは咳払いをし、次の話を始めた。
「新しいリーダーを決めなければいけないわね。そっちのリーダーは…ラングだったわね。ちなみにこっちは私がやっていたわ」
 それを聞いたラングは、アリスにこう提案する。
「俺よりアリスがいいんじゃね。エリートなんだろ?」
「ランちゃんリーダーするの面倒なだけでしょ」
 エンはそう言って、肘でラングの脇を小突く。ラングは頭を掻きながら言った。
「…いやー…お前ら2人への指示ならともかく、この俺に知り合ったばかりの3人に指示する才能があるかどうか微妙なんだよな…真面目に」
 エンは小声で、「そうかな?私は向いてると思うけどな…」と呟いた。
 アリスはラングの様子を見て、こう提案する。
「とりあえず、お互いいつものように行動しましょう。それを観察して私が総合的に判断するわ」
「もうアリスがリーダーみたいじゃん」
 ムジカはそう言って笑った。


 6人はとりあえずスクラップゾーンを歩き出した。歩きながら、ラングはみんなを見渡しながら言った。
「俺は前衛だけど盾使いだから、このチーム前衛多いっぽいから盾中心で行動するぜ」
 それを聞いたシャルはラングに言った。
「盾か。俺は敵の進入防げるタイプだから状況によってうまく使ってくれ」
 そしてシャルは、自分の”懐剣:アニムス”の特殊な性質について軽く説明をした。
「なるほど…」
 ラングはその説明を聞いて納得したようだった。

 次に、空中にただよう機械に遭遇する。ラングはアリスに目配せをした後、エンの方を振り返って言った。
「とりあえずこっちから行くか…エン!」
「了解!撃ち落とす!」
 エンは”懐剣:メリー”を展開し、すぐに機械を撃ち落とした。
 それを見た、同じ遠距離用の武器使いであるムジカは歓声を上げる。
「撃ち落とす!か~いいな~あたしも真似する」
「エン、そのくらいでOKだ。アリス、そっちにも遠距離の奴いるんだろ?」
 ラングは、複数ある機械のうち半数くらいを撃破したエンを途中で止める。そして、アリスの方を見た。
 アリスは驚き、少しだけ微笑みながらムジカを振り返り言った。
「…ふふ、そうね。ムジカ、お願い」
「了解!ぶっ壊す!!」
 ムジカは”懐剣:アイラ”を展開し、残った機械を全て撃ち落とし終えた。
「何か言い方変わってねえ…?」
 シャルはムジカの言動に思わず突っ込みを入れてしまった。彼女の掴みどころの無さはシャルとはまた種類が違う。本当に、腕は立つのだが。
 ラングは、ムジカが遠方にある機械もついでに撃破したことを見逃さなかった。
「威力はエンの方が高いけど、ムジカの方が遠くまで届くカンジか。なるほど」
 ラングはそう呟き、納得したような表情をした。そして…
「…」
 アリスは、そんなラングの言動をよく観察していた。

 探索中、状況によってラングは”懐剣:サドネス”で盾を張り、シャルが前方の障害物を破壊していった。


 しばらく歩いていると、今度は巨大な機械兵が現れる。6人とも冷静であった。ここは、テストとして投入された任務なので何が起こるのかは大体想定できるのだ。
「まずは私が行くわ」
 アリスはそう皆に告げ、”懐剣:ラブ”を展開しながら走り出した。
 そして素早く、美しく機械兵を攻撃していく。彼女の双剣さばきを初めて見たラングとエンは思わず見惚れそうになった。アルトすらもアリスの剣さばきをよく観察していた。
「…すげえ。これが双剣使いか…」
 ラングは思わずそう口にしていた。
 機械兵はまだ倒れていない。アリスはラングに目配せをした。恐らく、ラングたちの実力を確認するためにわざと撃破しなかったのだろう。
 ラングは我に返るとすぐに頷き、アルトの方を振り返って言った。
「よし、こっちはアルトだな。アルト、頼む!」
「…うん」
 アルトはラングに呼びかけられると、またスイッチが入ったように戦闘モードに突入した。アルトはいつものように”懐剣:ディライト”を展開する…
「大剣使い!?」
 アリスはアルトの展開された懐剣を見るなり、思わずそう声に出してしまった。シャルとムジカも目を見開いてアルトの懐剣を見ている。
 アルトはそんな3人をよそに、素早い動きで一気に機械兵を破壊した。その素早さに3人は更に圧倒される。そして機械兵を撃破すると、アルトはまたスイッチが切れたようにぼーっとしたうつろな目の少年に戻るのであった。
 一連の流れを見たアリスは、思わずため息をつきながら漏らした。
「凄いわね…これだけの使い手ならエリートに選出されそうなものだけど。彼のこと知らなかったわ」
 それを聞いたエンは、少し考え込みながら、小声でアリスに伝える。
「アルトくん人より体力が少なくて。大剣は要所要所でしか使えないの」
「…なるほどね。エリートは総合的な戦力で決まるからね」
 アリスは、現在はぼーっとしているアルトの様子を見て、少し納得した様子でそう答えた。
 この会話をシャルも聞いていた。体力が少ないという話と共に、アルトがぼーっとしていてほとんど喋らないので、気になったシャルは小声でエンに話しかけた。
「アルトくん喋らないけど、具合わるいの?」
「ああ、あのね…アルトくんはお喋りが苦手なの。すぐになれるよ。とてもいい子なんだよ」
 これも小声で伝えたエンに、シャルはアルトの様子を観察しながら少し気になる様子で「…ふーん…」と答えた。

 6人はスクラップゾーンの奥地に着いた。ここには特に輝煌石がある訳でも無い。テストにふさわしい場所として選出された難易度の低い場所なので、輝煌石の調査とは関係が無いのである。
「さあ、お互いの懐剣の性質は大体分かったわね。帰りましょう」
 アリスがそう告げると、6人は来た道を引き返し始めた。

 歩きながら、シャルが気になったことを話始める。
「にしても、1つのチームに大剣使いと双剣使いが居るなんて珍しいよな。どういうつもりでこのチームを編成したんだろ?」
 それにはエンが答える。
「難しい任務をこなすチームが必要になったとか?何か6人って多い気がするし」
 2人の会話を聞いたアリスは、少し考え込みながら言った。
「なるほどね…今日はテストだけど、次からは難しい任務を任されるかもしれないわね。ところで…ラング」
「ん?」
 突然名前を呼ばれたラングは、少し驚きながらアリスの方を見た。
 アリスは立ち止まり、ラングの前に立ってから、こう言った。
「今日あなたのことを観察していたのだけど、リーダーはあなたが向いてると思うわ。よくみんなを見てるし、盾使いだから広い視野で周囲を見られると思うし。私はそもそも完全な前衛だから、人数が多いと後ろが見えないこともあるかもしれないしね」
「ええ、俺!?」
 ラングは思わず声を上げる。彼はこの展開を全く予想していなかった。シャルとムジカも驚き、「お~!」と歓声を上げる。しかしエンは、驚く様子も無く、笑顔でラングの背中をパシッと叩く。
「良かったねーランちゃん!やっぱりね、私もそんな気がしてたんだあ」
「いやちょっと…」
 慌てふためくラングに、今度はシャルとムジカが絡みだす。
「新リーダーよろしく!」
「アリスが言うなら絶対合ってるよ~」
 ラングは最後の砦としてアルトを見たが、アルトもこくんと軽く頷いたのだった。
「本当にいいのか?どうなっても知らねーぞ…」
 そう観念したラングに、アリスは「決まりね」と満足そうに言って再び歩き出した。


 任務が終わった帰り。6人は寮のそれぞれの部屋に戻るところだった。
 そこでシャルは、歩き出したラングとアルトの間に割って入り、肩を組んで言い放った。
「おい2人とも。お前ら同じ部屋なんだろ。折角だから部屋一緒にしようぜ」
 それを聞いたラングは少し驚いた後、上を向いて考え込んでから答えた。
「うーん…確かに一部屋空いてるな…アルトはどうだ?大丈夫か?」
 ラングに話を振られたアルトは、笑顔のシャルをじーっと見つめ、こくんと頷いた。
「よーし、決まりだな。さっそく移動の準備してくるわ」
 シャルはそう嬉しそうに言い、手を放すと走りながら自分の個室に戻って行った。寮の家具は全て備え付けであり、ルールとマナーを守った上で必要な手続きを済ませれば、部屋はいつでも好きな時に移動が可能なのである。
 その様子を見ていたエンは、アリスとムジカの前に回り込み少し照れくさそうに言った。
「いいなー私も2人の部屋に入りたいな…なんて…」
 それを聞いたムジカは、飛び跳ねて喜ぶ。
「エンも一緒に住む!?いいよ!ねえアリス!」
「…まあ、チームワークが良くなるかもしれないし、戦略的にもアリだと思うわ」
 アリスの返答は堅かったが、結果的に了承してくれたのだった。
「やったあ!じゃあ、私も準備してくるね」
 エンも喜びながらそう言い、走って自分の個室に戻っていった。


「いやちょっと待って…!!アルトくん痩せすぎじゃない!?」
 自分の持ち物をあらかた移動し終えて、リビングで片付けをしていたシャルは、上着を2枚脱いでインナー姿になったアルトの体を見て思わず声を上げてしまった。
 アルトは、戦闘をしているので筋肉が全く無い訳ではないが、先程のあの武器さばきからは想像できないほどの細さだったのだ。小柄なだけでは無く、ラングやシャルと比較すると体は2回りほど小さい。いや、それ以上か?明らかに健康水準に達していないように見えた。
 アルトは寒がりで異常なほど厚着をしているので、シャルは彼がインナー姿になるまで気付かなかったのだ。
 ラングは、シャルの反応を見ても特に動じることも無いアルトを一旦見てから、シャルにこう言った。
「これでもだいぶマシになったんだぞ。今はエンが栄養管理してるからな」

 栄養管理。

 この言葉と、アルトがほとんど喋らないこと、さきほど耳にした「体力が少ない」という話で、シャルはただ事では無いことを感じ取った。
 シャルの、本当は面倒見のいい潜在的な性格に火が付いてしまったのである。シャルはラングとアルトを交互に見て、こう言い放った。
「よし、じゃあ今日からアルトくんの栄養管理は俺がやる」
 予想外のシャルの言葉に、ラングはさすがに「え、お前が料理するのか?」と驚いてしまった。
 シャルは得意げな様子でこう続ける。
「俺趣味が料理だからな。任せてくれ」
 ラングはそれを聞き、やっと納得がいった様子で言った。
「あーそうなんだ。アルトは食べられないもの一杯あるからエンに色々聞いた方がいいと思うぞ」
「そうなの?余計燃えてきたわ。料理人の腕がうずくわ。お兄さんに全部任せなさい、アルトくん」
 アルトは2人が何で盛り上がってるのか分からず、とりあえずこくんと頷いたのだった。

 エンは荷物が多く、準備には少し時間がかかった。大体の片付けが終わると、キッチンの方を眺めながら2人に話しかける。
「2人とも、ご飯はどうしてるの?」
 それにはムジカが、ソファにくつろぎながら答えた。
「シャルがいつも作りに来てくれてたよ~」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、2人は料理は全然しないんだね!」
 全く悪気が無くそう言い放ったエンに、アリスは照れながら「そ、そうね」と答えた。
 エンは苦笑しながら続ける。
「ごめんごめん、変な言い方になっちゃったね。私が料理得意だし好きだから心配しないでね。じゃああっちはシャルに任せても平気ってことかな?」
 エンはそこまで言い、アルトのことを思い出す。
(アルトくんのことだけは伝えとかなきゃな)
 しかし、アルトのことについては既にシャルが張り切っているので、特に問題は無かった。


 こうして、チーム:ミモザ…6人で過ごす日々が始まったのであった。

>>4.予兆