2.合わせ鏡:下

2.合わせ鏡:下

 ラングたちが探索をしていた日のほぼ同時刻…

 スクラップゾーンとスラムが一体化したような場所に、また1つの探索チームがあった。
 チームの名前は、”チーム:アイリス”。
「表向きは輝煌石の調査よ。目立つ行動は慎んでね」
 3人のうちの1人が、そうメンバーに呼びかけた。
 彼女の名前はアリス。チームのリーダーである。
 クールな性格の彼女は、肩まで伸びる紺のショートヘアの髪をかき分け、他の2人の返答を待たずに歩き出した。
「はいよー」
「は~い!」
 2人は遅れて返事をし、すぐにアリスの後について歩き出した。
 ここのスクラップゾーンはスラムと一体化しているので、人の気配もあったが、3人は周囲を見回したり動じたりすることもなくひたすら歩き続けた。

 しばらく歩いていると、前方に複数の動き回る機械に遭遇する。
 アリスは機械の様子を確認し、メンバーの方を振り返りながら言った。
「シャル、お願い」
「了解、姫」
 シャルと呼ばれた長身の少年はそう返し、懐剣を展開して機械を一気に片付けた。

 シャルの懐剣は、青い玉のついた”懐剣:アニムス”である。ナイフのような小型の短刀だが、剣を振るうと光の玉が出てその場に留まり、触れた物に攻撃を与えることが出来る。光の玉は複数同時に出すこともでき、状況によって攻撃に利用できたり盾のように敵の侵入を防ぐ役割をすることも出来る。扱いの難しい武器であった。

 ちなみに彼がアリスを「姫」と呼んだのは、特に深い意味は無く適当な思いつきである。
 この、短い銀髪を遊ばせた長身の少年の名前はシャル。普段は頼りになるが、飄々としていて掴みどころがなく、任務中はいつもいいかげんなことばかり言っている。しかも彼1人ならともかく…。
「アリスは姫か~。シャル、あたしは?あたしは?」
 もう1人の少女が、話に入って来た。
「うーん…ムジカは…マスコットキャラ?」
「マスコットか~!いいかもー」
「ちょっと、静かにして。敵陣よ」
 最後の一言はアリスである。
 この、話に入って来たセミロングの茶髪をカールさせた少女の名前はムジカである。天真爛漫で明るく、良く言えばムードメーカーであった。
 シャルとムジカはとにかくよく喋る。その度にアリスに怒られる、という流れが定番になっていた。
 ただ、このチームは幼馴染で組んでいるラングたちとは違い、士官の命令で一時的に組んでいるチームである。シャルとムジカも特別仲がいいという訳では無く、手持無沙汰なのでとりあえず喋っているところもあった。一応、一年弱は組んでいるのでそれなりの絆が出来つつはあるが。

 シャルが機械を片付けると、遠方に危険な動きをしている宙に浮く機械が確認できた。
 アリスは、今度はムジカの方を振り返り言った。
「ムジカ、今のうちに狙撃よ」
「はーい!」
 ムジカは、黄色の玉のついた”懐剣:アイラ”で遠方の機械を狙撃し撃ち落とした。
 ムジカの懐剣は銃の形をしており、かなり遠くまで攻撃が届く。この懐剣は輝煌の適性よりも使い手の狙撃技術が重要で、ムジカはその技術が卓越していたのだった。


 しばらく歩いていると、スラムのような所で数人の男たちが、懐剣を構えてアリスたちの前に立ち塞がる。
 男の1人が言い放った。
「…お前たち、ホープ帝国の人間だよな。何をしに来た?」
「…輝煌石の調査よ。そっちに公式の文書を送ったはずだけど」
 アリスは落ち着いてそう返し、武器を構えることなく冷静に対応した。

 ホープ帝国は以前、ドリーム島という国と戦争をしていた。ドリーム島の降伏という形で戦争は終わったのだが、今度はホープ帝国内で独立を宣言する団体やレジスタンスの活動が活発化し始め、常に緊迫した空気が流れていた。ホープ帝国はそもそも、いくつかの国を強引に1つの国にまとめた帝国なのだ。
 平和は簡単には訪れない。
 ラングやアリスたちが所属するのはもちろん、ホープ帝国の軍学校である。ここで現れた敵は「カタルシス国」という、独立を宣言し宣戦布告をしてきた団体であった。国として独立を宣言しているので、アリスたちを「ホープ帝国の人間」と言ったのだ。
 ホープ島では刃物での戦闘は法で禁止されているが、懐剣での戦闘は許容されている。懐剣は誰でも持ち歩いており、緊迫した情勢で正当防衛に使用する機会が多いからだ。
 ドリーム島との戦争では、輝煌ポンプをドリーム島まで持ち出し懐剣で敵を一網打尽にしてから、火を放ったり降伏させたりして利用していた。

 敵は文書の話を聞いても考えを変えず、襲いかかってきた。
(…野良のレジスタンスかしら?)
 アリスはすぐに2人に呼びかける。
「正当防衛よ。2人とも、懐剣展開!」
「はいよ」
「はーい!」
 3人とも懐剣を展開したが、敵はアリスの懐剣を目にするとぎょっとする。アリスの懐剣が双剣だったからだ。

 アリスは学生の中でも、エリートと呼ばれていた。エリートは高い実力を持つため、難易度の高い任務を任されやすい。
 アリスの懐剣は、紫の玉のついた”懐剣:ラブ”という双剣である。双剣は大剣と並ぶ、輝煌の適性の高い者にしか扱えない珍しい武器であった。何故なら、両手で2つの武器を同時にエネルギーに変換しなければならないからだ。2つの武器で畳みかけるため、相手を一気に圧倒できる。

 敵は一瞬躊躇したが、結局は襲いかかって来たのでアリスは一気に切り込んだ。敵はアリスの双剣を前に簡単に斬り伏せられ、結局シャルとムジカの出番は無かった。
 基本的に懐剣での攻撃は衝撃で気絶をするくらいに留まり、死に至ることはほぼない。懐剣での戦闘が許容されている理由はここにもあった。

 アリスは倒れてる敵に手を伸ばし、敵の懐から身分証明書のようなものを手にした。
 シャルはそれを覗き込んで、言葉を漏らす。
「…正真正銘、カタルシス国の人間じゃん。野良じゃない…それなのに文書のことを話しても襲ってきたの?」
「そういうことね。相当恨まれてるわ。何なの…?」
 そう…アリスたちの目的は、輝煌石の調査と見せかけた敵陣の調査なのである。
 カタルシス国の人間は行動が非常に攻撃的だった。ただ、このまま宣戦布告に応じてしまったら戦争になってしまう。なので、このように慎重に内部調査をしているのだ。


 3人は表向きの行動として、一応輝煌石のある場所まで来た。輝煌石は鉱山のようにはなっておらず、崩れ落ちているような見た目になっていた。
 ムジカは走ってすぐに輝煌石の様子を確認すると、走って戻りながらアリスに言った。
「アリス見て!やっぱり枯れてるね!任務完了!」
 このやっぱり…という言い方は、既に枯れていることを知っているからだった。輝煌石の調査はカモフラージュなのでどちらでもいいのである。
 アリスは納得し、2人に告げた。
「とりあえず敵についての報告ね。帰りましょう」


 3人は帰りの列車に乗り込んだ。シャルとムジカが適当に談笑していると、アリスが話に入った。
「明日、新しいチームと合流するそうよ」
 それを聞いた2人は、思わず「へー!」と言葉を漏らした。シャルは少しだけ口を尖らせる。
「そうなの?このチームちょっと、今までの中で長かったから名残惜しいなー」
 それに比べ、ムジカは笑いながら言った。
「でも人数が増えるんだよね?絶対楽しくなるじゃん♪」
「…遊びに行くんじゃないのよ」
 図らずも、アリスのこの一言がツッコミのようになった。


 3人は寮に戻った。シャルは個室、アリスとムジカは3LDKの部屋を使用している。アリスとムジカが同じ部屋なのはムジカがアリスにせがんだからだが、アリスも「チームワークに繋がるかもしれないから」とそれを了承したのであった。

 その後、数日間は危険な任務は無く、スクラップゾーンで輝煌石を発見しては長さを測る、という作業が中心となった。今は学生の中では、その任務が中心となっているようであった。


 新しいチームと合流する朝。シャルがアリスとムジカの部屋に朝食を作りに来ていた。
 2人は料理をしないので、料理が得意なシャルが頻繁に作りに来ているのだ。
 アリスは申し訳なさそうにシャルに言った。
「いつも悪いわね。私も出来るようになった方がいいかしら…」
「いいよ気にしないで、料理趣味だしな。姫、俺の楽しみ奪わないでね♡」
 そんな2人の様子を気にすることも無く、ムジカはシャルに言い放つ。
「シャル、タバスコかけてもいい?」
「…うん、いいけどほどほどにな…ちゃんと元の味付けも味わってくれよ?次は辛い料理にするからさー」
 シャルは顔をしかめるような仕草をしたが、口元は笑っていた。
 3人は食事を終えると、新しいチームと合流するために出発した。


 ――それは、6個の運命が交差する日。

>>3.ミモザ