1.合わせ鏡:上

1.合わせ鏡:上

 そこに、うっすらと、もやのかかっている、ビルの林立する都市があった。

 ここはホープ島(とう)という大陸にある、元々いくつかの国だったものが統一され1つの国となった「ホープ帝国」。
 ビル等が立ち並ぶ発展した都市と、機械が散乱しているエリアが存在していた。
 この大陸の地層は金碧輝煌石(きんぺききこうせき)…通称「輝煌石(きこうせき)」と呼ばれる、青緑色の石で構成されている。基本的にその上に土があるので普段は見えないが、場所によっては鉱山のようにむき出しになっている所もあった。
 その石はエネルギーを蓄えていて、大陸の人間はそこからエネルギーを得て生活などに利用していた。
 輝煌石から漏れ出たエネルギーは大気中にも漂っている。その、石から抽出された、もしくは漏れ出たエネルギーは「輝煌(きこう)」と呼ばれた。
 大陸はこの輝煌の影響で、常にもやがかかったような状態になっていた。


 都市から離れた、機械が散乱している場所…通称スクラップゾーンに、とある探索チームが居た。
 チームの名前は、”チーム:フリージア”。
「…また機械か。何か機械兵も出て来そうだな…めんどくせえな」
 3人のうちの1人が、そう漏らす。
 彼の名前はラング。チームのリーダーである。
 ぶっきらぼうな性格のラングは、ツンツンに立てられた短い黒髪を手で掻きながら、目を細めてため息をついた。
「もう、ランちゃんてば。文句言わないの!」
 同じチームの黒髪の少女はそう言って、ラングの肩をパシッと叩いた。

 3人が機械をかき分けてしばらく歩いていると、ちょこまかと動き回る機械と遭遇する。
「よし、ここは俺がやるか…」
 ラングはそう呟くと、赤い玉のついた”懐剣:サドネス”を展開し、機械を撃破していった。

 ”懐剣(かいけん)”とは…
 輝煌石からエネルギーを抽出、もしくは空気中の輝煌をエネルギーに変換するための端末である。
 武器形状の懐剣の場合、剣の刃の部分が輝煌の光で構成される。懐剣に付いている玉と、別になっている手持ちの玉を反応させることで輝煌の光が展開されるのだ。
 この大陸で生まれた人間は、胎児の頃から空気中の輝煌にさらされているので遺伝子に輝煌の情報が刻み込まれる。そして、生まれる前にどのくらいの量の輝煌を使いこなせるのかの適性が決まるのだ。これは生まれてから変わることは無い。生まれつき、どれだけ懐剣のエネルギーを引き出せるか、どの懐剣が得意なのかが決まっているようなものだ。
 ちなみに武器形状ではない懐剣の場合、エネルギーを抽出して輝煌タンクに溜める作業(このタンクから電気などに使う、島外で懐剣を使う)に使用される。
 懐剣の名前の由来は、誰もが懐に忍ばせて持っているからだと言われていた。この大陸では、懐剣で輝煌を抽出・エネルギーに変換することは日常なのである。

 ラングの懐剣はオードソックスな剣の形をしているが、盾モードを展開すると味方を守ることもできる。

 しばらく歩いていると、今度は空中にふよふよと漂う機械と遭遇した。
 ラングは黒髪の少女の方を振り返りながら言った。
「遠距離か…エン、行けるか?」
「了解!撃ち落とす!」
 この、長い黒髪をかんざしで束ねた、落ち着いた雰囲気の少女の名前はエン。ラングとは同じ一族である。
 同じ一族といっても、先祖が共通しているだけであって血の繋がりはあって無いようなものだが、この一族は基本的に固まって過ごす風習があるので、ラングとエンも幼少の頃から互いをよく知っている。2人は家が近いこともあり、幼馴染でもあり、親友のような、きょうだいのような特別な絆で結ばれていた。

 エンは青緑の玉のついた”懐剣:メリー”を使って機械を撃ち落とした。
 エンの懐剣は長さを自在に変えられる槍で、ある程度遠くても攻撃が届く。状況によっては攻撃力は劣るが短くして接近戦もできるので汎用性に優れていた。
 ちなみにチームでの探索は、基本的にリーダーが指示を出すことになっている。

 ラングはエンが機械を撃ち落としている間は、盾を展開してエンを守った。
 機械を撃ち落とし終わると盾を収納する。エンは笑顔で、「ありがとうランちゃん」と礼を言う。ラングも照れくさそうに「別に…」と言って顔を反らし、エンはそれを見て「なにそれ~」と笑った。
 エンは、2人の様子をぼーっと見ていたもう1人のメンバーに笑いかけた。
「よし、アルトくんも行こう!」
「…うん」
 アルトと呼ばれた少年は軽く頷き、3人は再び歩き出した。


 奥に行くと、もやは霧のように濃いものに変わる。輝煌は濃度が高いと霧のようになるのだ。
 3人は懐剣を展開した。
 輝煌自体は人体に影響はないが、濃度が高すぎると体調を崩す可能性がある。なので懐剣を展開しエネルギーに変換して、自身の周囲の輝煌の濃度を薄めるのだ。

 しばらく、機械を先程のように処理しながら歩いていると、巨大な影が現れた。
 これが、ラングが先程言っていた機械兵である。
 機械兵とは、まだ輝煌をエネルギー利用し始めたばかりの昔、武器状の懐剣が開発される前の産物だ。機械で兵士を作り輝煌で操作していたが、空気中の輝煌を無駄に吸収してしまい暴走する確率が高く、懐剣が開発されてからは打ち捨てられていた。今でも各地に暴走している機械兵が残っており、探索チーム等が懐剣を使って退治しているのだ。
 このスクラップゾーンもその時代の産物である。機械兵以外の機械も輝煌を取り込んでしまい、先程のようにちょこまかと動き回ったり空中を漂ったりしている。

 ラングは巨大な機械兵を確認した後、メンバーの1人の方を振り返って言った。
「機械兵か…アルト、頼む!」
「…うん」
 先程まで、うつろな目でぼーっと2人の後をついていたアルトと呼ばれた少年は、ラングに呼ばれると突然スイッチが入ったように戦闘モードに突入し、小柄な体で、持っている物が大剣とは思えないスピードと身のこなしで機械兵を撃破した。
 そして戦闘が終わると、再びスイッチが切れたようにぼーっとした少年に戻るのであった。
 そう、このうつろな目をした、少しだけ長い金髪を無造作に横で束ねた小柄な少年の名前はアルト。無口でほぼ喋ることは無く、寒がりで戦闘以外の時は袖を伸ばし手を隠してしまっている。見た目も言動も表情も、戦闘時とのギャップがかなり大きかった。
 アルトはラングやエンと家が近く幼少の頃から知っている。そう、彼も幼馴染なのである。ラングとエンはアルトが喋らなくても、子供の頃からそうだったので特に気にしなかったのだ。

 アルトの懐剣は、緑の玉のついた”懐剣:ディライト”という大剣である。
 大剣は変換しなければならない光の量が多く、その分攻撃力がかなり高いが、使い手が少ない。アルトは輝煌の適性の高い珍しい大剣使いな上に、それを素早く振るうことができる希少な存在だった。

 任務内容と共にチーム編成も上司の士官が決めるのだが、3人は幼馴染で息が合うことが評価されたとのことで、懐剣を使い始めてから長い間同じチームとして存在している。

 戦闘を終えて佇んでいるアルトにエンが話しかける。
「アルトくん、ありがとう!!」
「…ううん」
 アルトは必要最低限の返事だけは必ずする。ラングとエンにとってはそれだけで充分だった。
 ぶっきらぼうなラングと無口でぼーっとしたアルトを、面倒見のいいエンがまとめる…これが3人の関係性である。


 巨大な機械兵を撃破した3人は、目的の場所へ辿り着いた。そこには、むき出しになった巨大な輝煌石の塊があった。
 ラングは輝煌石に近付き、手で撫でながら言った。
「あったあった。これだけあれば結構なエネルギーが取れそうだな」
「そうだね。確か大きさ測っておくんだっけ?スケールスケール…」
 エンはそう言って、長さを測りメモをとり始めた。
 メモをとるエンに、ラングが少し考え込みながら話しかける。
「長さ測るのって、どのくらいエネルギーが取れそうなのかってことなのか?」
 エンはメモを取りながら答えた。
「んー何か、気になることがあるから測っておいて欲しいって言ってた。すぐにエネルギーにしないで置いておいて、しばらくしたらまた測るんだって」
「…?よく分かんねーな」
 輝煌からエネルギーを抽出すると、輝煌石は消耗して少しずつ小さくなっていく。人が住んでいる地層の輝煌石を消耗すると地上が崩落する心配があるので、出来るだけこういった人が住んでいない場所の輝煌石からエネルギーを抽出するのだ。
 ラングたちの今回の任務は、この輝煌石の発見だった。
 しかし、長さを測り、すぐにエネルギーにせずに置いておく理由を知るのはまだ先の話だった。
 エンがメモをとり終えたのを確認したラングは、メンバーに呼びかけた。
「よし、任務完了だな。帰ろうぜ」
「うん!」
「…うん」
 3人は任務を終え、来た道を引き返した。機械兵はもう出なかった。


 3人は帰り道に、いつも通っているカフェに入る。これが3人の日常である。
 エンは紅茶を飲みながら、2人に話しかけた。
「何かね、今度別のチームと合流して合同チームになるんだって。楽しみだね」
 それを聞いたラングは顔をしかめる。
「え…このままでいいよ。何かめんどくさそうだし」
「もう、ランちゃんてばそんなこと言わないの」
「アルトだって嫌だろ?」
「…」
 アルトはラングに話を振られ、少し考える仕草をした後、軽く首を捻った。
 ラングは少し笑いながらエンに言った。
「ほら、嫌そうだろ」
「そう?楽しみだよね~アルトくん!」
 今度はエンにそう振られ、アルトは再び首を捻る。ラングは思わず声を出して笑ってしまった。


 3人は寮に戻った。
 寮は学生なら誰でも使うことが出来る。そう、ラングたちはまだ学生なのである。
 ホープ帝国は軍事を中心とした国家なので、軍学校が各地にある。ラングたちが通っている学校はその中でも規律より実戦を重視している学校であり、主に探索系は大人の軍人ではなく学生に任される。この学校では戦闘と学術を両立させることが基本で、授業は任務以外の時間に必要な教科を必要数だけ受ければ単位が取れる、という形だった。
 軍学校を卒業すると、軍に入り治安を守ったり外敵と戦う立場になるか、エネルギーを抽出する仕事に就く。輝煌の適性が少ない者や輝煌以外の分野でやりたいことがある者は、軍学校以外の専門学校に入り、輝煌と関係のない仕事に就くのだ。

 寮は最大3人が入れる3LDKタイプと、1人用の1LDKの個室タイプがあり、ラングとアルトは3LDKを2人で、エンは個室を利用していた。

 その後も数日の間、3人はいくつかのスクラップゾーンを訪れ、輝煌石を発見しては長さを測るという作業を行った。ちなみにスクラップゾーンの探索が多いのは、それ以外の場所にある巨大な輝煌石はほとんどエネルギーが抽出され枯渇しているからであった。


 新しいチームと合流する朝。エンがラングとアルトの部屋に朝食を作りに来ていた。
 2人は料理が全く出来ないので、エンが頻繁に作りに来ているのだ。
 エンは、アルトに向かって笑顔で言った。
「アルトくん、いっぱい食べてね!」
「エンおかわり」
「ランちゃんは食べ過ぎ!!」
 既に2杯食べているラングに向かってエンはむっとした表情をしたが、すぐに笑顔に変わる。
 3人は食事を終えると、新しいチームと合流するために出発した。


 ――それは、6個の運命が交差する日。

>>2.合わせ鏡:下