18D.光と闇-light/Dark

18D.光と闇-light/Dark

 アルトは、ディライトの赤い光を目覚めさせると言った…
 アリスは心配そうな表情でアルトに話しかける。
「…どういうこと?大丈夫なの?」
 それに対し、アルトは穏やかな表情でアリスに答えた。
「話、聞いてくれるの?ありがとう…アリスちゃん」
「話も聞かないで否定できないもの…」
 そう言って目を細めるアリスにアルトは礼をするように頷き、皆を見回してから皇帝に告げた。
「ホウプの直系の子孫の間だけで受け継がれている…地下に眠る”ホウプの遺産”を使う」
 それを聞いた皇帝は、驚きで目を見開きながら言った。
「ホウプの遺産…!?そんなものがあるのですか、アルト」
「うん」
 皇帝は「ホウプの遺産」という言葉に興味を持ったようだった。アルトは続ける。
「ホウプの遺産は、もう父さんが居ないから、知ってるのは僕とお爺さまだけだ。お爺さまはもう隠居していて遺産の話は絶対にしない…だから、僕に任せて」
 アルトの案で話が通りそうな空気だったので、アリスは叫び声を上げた。
「赤い光は危険なのよ…私だから分かるわ。アルトくんにそんな危険なことさせたくない…!」
 そんなアリスに対し、アルトは冷静に答える。
「アリスちゃん、ありがとう。でも、サドネスがあるから大丈夫だよ。それに、全部終われば輝煌が消えるから赤い光も同時に消える。それまで持てばいいんだ。ラング、一緒にジェイド地区に行ってくれる?」
 アルトに話を振られたラングは、心配そうな表情でアルトに耳打ちをした。
「アルト…眠りにつかなくていいのか?封印のことじゃないのか?」
 アルトは皇帝の前だからむやみに名前を出さなかったが、ラングにはリマインド・コアのことだとすぐに分かった。以前、アルトは「リマインド・コアで眠りにつく」と言った…ラングは、ガネットの話を聞いた時もあえてリマインド・コアの話を出さなかったのだ。もちろん理由は、アルトが封印されるのでは…と思ったからだ。
 アルトもラングに対し小声で答える。
「ディライトの赤い光があれば眠らなくてもエネルギーが足りるから大丈夫。今ならサドネスで制御できるから行ける…!」
「…信じるぞ」
 真剣な表情でそう呟き頷くラングに、アリスも続いた。
「アルトくん、私も信じるからね」
 目を潤ませ見つめてくるアリスに、アルトは穏やかな表情で言葉を伝えた。
「アリスちゃん、君は僕と同じ…適性が高いせいでひどい目に合ってきた。もう君にこれ以上辛い思いさせないから…」
 ここで、静かに待っていた皇帝が話に入る。
「話は終わりましたか?」
 皇帝は、アルトたちが小声で話しているのは話し合っているだけだと思い気にしなかった。皇帝は続ける。
「アルトとラングでジェイド地区に行くということでいいですね?それと、遺産のことは信じたいですが、念のために1人残って下さい」
 それを聞いたシャルは「…人質か。そんなことしなくても逃げないって」と呟く。それに対し、皇帝は苦笑しながら言った。
「申し訳ないのですが、私にも皇帝という立場があるので…アリス、お願い出来ますか。誰も戻って来ない、もしくはジェイド地区のエネルギーに変化が無い場合はアリスを封印します」
 そこで、エンが皇帝に向かって言い放った。
「待って下さい!それだと兵器と対峙するメンバーが、私、シャル、ムジカで前衛が居ない状態になります。私が代わりに人質になります。何かあったら私を封印して下さい!」
「確かにそうですね。分かりました」
 アリスは「エン…!」と名前を呼びエンに駆け寄ると、エンは笑顔で「戦略の問題だから気にしないでね」と答えた。アルトはアリスとエンを安心させるように「大丈夫。絶対に成功するから」と言葉を伝えた。
 そこで、シャルが居ても立っても居られず話に入る。
「ったく…アリスもアルトくんも。俺たちが黙って2人を犠牲にする訳ねーだろ!?いい加減にしろっての全く…2人とも大丈夫ってことで話はまとまったんだな?」
 ムジカも、むっとしながら続く。もちろん、2人を大切に思っているからこその反応だ。
「そうだよ!!6人みんな居ないと意味ないんだから。さあ、さっさと兵器片付けてくるよ!行こう、アリス」
「そうね…ごめんなさい。さあ、行きましょう」
 シャルは出る前に、アルトに笑顔で話しかけた。
「…アルトくん、また後でな」
「うん。ありがとう、シャル。ムジカもありがとう」
 アルトは、自分を心配してくれた2人にしっかりとお礼を言った。シャルもムジカも、アルトの言葉に笑顔で頷いた。

 その時、伝達役の士官が皇帝の元に駆け込んできた。
「皇帝!!レギュレート兵器が政府ビル付近に到達したようです!!」
 アリス、シャル、ムジカはエレベーターを降り、すぐに外に出た。
 すると…ガシャ、ガシャ、と機械的な足音のような音が聴こえてくる。そして、ついにレギュレート兵器が政府ビルの敷地内に侵入してきたのだった。
 奪われたのは兵器の部分のみなのでコアは無いのだが、コアのあった部分には輝煌タンクのようなものが積まれており、兵器はそれを動力として動いているようだった。兵器は暴れ、周囲の門や植木がなぎ倒されていった。
 そして、しばらくすると兵器は静かになり、兵器の横に数人のカタルシス国のエンブレムを身に着けた人間と、彼らに囲まれた女性が登場した。
 アリスたちは、彼女に見覚えがあった。その女性は静かに口を開く。
「こんにちは、私はカタルシス国の代表のジェミニよ」
 それに対し、アリスは動じず冷静に言った。
「…あなたは、元帥の助手の…」
「そうよ。覚えててくれて嬉しいわ」
 何故、アイオラの助手がカタルシス国の代表なのか…皆、どういうことなのか考えを巡らす。そこで、シャルがぼそりと呟いた。
「…スパイか何かだった?」
「そう。このレギュレート・兵器を奪い、ホープ帝国の政府ビルを破壊してカタルシス国に勝利をもたらすために…さあ、レギュレート兵器よ…行きなさい!!」
 ジェミニがそう呼びかけて周りの人間と共に後ろに下がると、レギュレート・兵器は再び暴れ出した。
 アリスはすぐに呼びかける。
「…この3人で戦うの、久々よね。2人とも、懐剣展開!迎え撃つ!!」
「了解!!」
 シャルとムジカは答え、懐剣を展開する。

 戦いの火ぶたは切られた…


 ラングとアルトが出掛けようとすると、エンは皇帝に懇願した。
「皇帝、2人を駅まで見送らせて下さい。見張りを何人付けても構いません」
「…分かりました、それならいいでしょう」
 皇帝はすんなりと答えた。
 アルトは思わず「エン…」と呟く。エンは心配そうな表情で声を漏らした。
「だって、アルトくんが心配なんだもん。いくら最後に輝煌と一緒に赤い光が消えるって言ったって…覚醒するんだよ…」
 エンの様子にラングは納得し、アルトの代わりに答えた。
「…そうだよな。よし、3人で駅まで行こう。アルト、いいよな?」
「…うん、いいよ」
 アルトも穏やかに頷いた。
 3人は兵士に見張られた状態で外に出て、駅に向かった。


 駅につくと、列車が来るまで3人は話をすることになった。見張りが居たが3人とも気にしなかった。
 エンは暗い顔で見送りたくないと思い、先程とは違って笑顔になり2人に話しかけた。
「にしても、こうして3人でお喋り出来る日が来て良かったな」
 それに対し、アルトは穏やかな表情で答える。
「…僕、ほとんど話さなかったもんね」
 そこでラングは、アルトに気になることを聞いた。
「何か、話したいっていうきっかけがあったのか?」
 ラングとエンには、アルトが割と唐突に表情が変わり話し始めた記憶があった。
 アルトは頷きながら答える。
「…うん。あったよ。”あの時”のラングとエンの話がきっかけだよ」
「あの時?」
 ラングの問いに、アルトは2人の顔を交互に見て言った。
「…シャルとムジカを助けに、ジェイド地区に行く時の列車で…自分たちが人間である意味を…」
 2人ははっとする。2人も、その時の会話はよく覚えていた。

『ランちゃん、私思ったんだ。軍の判断は、帝国の軍としてはもしかしたら正しいのかもしれないって…軍って、こういう時非情にならないといけないのかなあ、って。私たち、まだ子供だから分かってないのかなって。でも…私は、自分が人間であることを手放したくない。自分の感情を否定したくない』
『…そりゃそうだ。人間じゃなくていい、感情が要らないなら機械に全部やらせればいいんだ。でもそれに失敗したから、あちこちで大昔の機械兵が暴れ回ってんだろ。結局人間が懐剣を使ってんだ。だから…俺たちはきっと間違ってない』

 アルトは続ける。
「僕は最終的に封印されてしまうから、人間として生きてる意味なんて無いってずっと思ってた。でも…2人の話を聞いて、僕が最終的にどうなってしまおうと、僕が人間であることに意味があるんじゃないかって思ったんだ」
 確かに、アルトが変わり始めたのはあのあたりだ、と2人は思った。
 エンは笑顔で言った。
「そして、アルトくんは封印されなくて済んだ。最終的にどうもならないよ。これからもみんなで一緒にいるんだよ」
 アルトは「うん…」と頷き、2人の顔を交互に見てから言葉を伝えた。
「…ラングとエンにずっとお礼が言いたかった。いつも支えてくれてありがとう」
 ラングは笑いながら「水臭いこと言うなって!」と答え、エンは照れくさそうにしながら「ううん…私もありがとう、アルトくん」と答えた。
 その時、ついに列車が到着する。
「さて、ささっと片付けてくるか」
 ラングがそう言って列車に乗り込もうとすると、エンは突然謎の胸騒ぎに襲われる。2人の袖を掴んで言葉を漏らした。
「2人とも…帰ってくるよね…?」
 それに対しラングは笑顔で答える。
「はは、当たり前だろ。じゃあまた後でな、エン」
「エン…行ってきます」
 アルトも穏やかな表情でエンに答えた。
 エンは後ろ髪を引かれる思いで列車を見送り、兵士に連れられ政府ビルに戻っていった。


 政府ビルの敷地内。肩で息をするアリスたちの前に、破壊されたレギュレート・コアの破片が煙を出して散らばっていた。破片の側でへたり込むジェミニに、アリスはそっと近づく。ジェミニはうつむきながら呟いた。
「…そういえばラングにも、コアと分離したら兵器の破壊をお願いしてたわ…」
 以前アリスをレギュレート兵器から救出した際、ジェミニはラングにその話をしたことを思い出した。あの時は、いずれ兵器を奪うためにラングを騙したつもりだったのだが。
 ジェミニは顔を上げ、再び呟いた。
「…恐ろしい兵器だったもの…これで良かったのかもしれないわね。これを望んでいたのかも…」
 そしてジェミニは立ち上がり、懐剣を展開しながら後ずさる。
「…兵器なんて無くてもいい。まだ諦めない…!!非情な皇帝…!あいつを屈服させるまでは…」
 非情な皇帝…恐らく、何かがあって皇帝に恨みでもあるのだろう。皇帝のやり方は確かに恨みを買いそうだと皆思った。
 ジェミニとカタルシス国の人間はそのまま走り去ったが、こちらも戦闘でかなり消耗しており、後を追うことは出来なかった。


 ラングとアルトは、列車でジェイド地区に向かっていた。
 ラングはアルトに再確認をする。
「アルト、遺産はリマインド・コアのことでいいんだな?」
「うん。場所はノースエリアだから、ジェイド地区から列車で行けばすぐだよ」
 ジェイド地区はイーストシティとノースエリアの狭間にあるのだ。

 あと少し、あと少しだ…

>>19D.”喜”-Delight