「環」





 次の日。9人は、広間に集まっていた。
 今から、データを出来る限りハッキングして、政府から全消去させるためにビルへ向かう。
 今は、まだ部屋に居る利九を待っていた。
 八重は広間の隅で、花の鉢をいじっていて、それを幸四と五月がそばで見守っていた。
 そして。
 八重以外の全員の視線が、巳六に集中していた。

 何だか、ボケッとしている巳六。
 表情自体はいつも通りなのに。
 雰囲気がいつもと違うように見えた。
巳六「…お前ら、さっきから何じろじろ見てんだ?」
 全員速攻目を逸らした。
 そこに、利九がやってくる。
利九「準備が出来た。ビルに向かうぞ」
巳六「…なあ、みんな」
 全員、一斉に巳六を見た。
 巳六は無表情だった。
巳六「…俺やっぱ、どう考えても死ぬのって、怖いって思えねーんだよ。でも…」
 全員を、見回す。
巳六「…死ぬってことは…お前らと、別れることなんだよな…」
七々「!!」
利九「!?」
 巳六は笑った。
 顔は笑っていたが。
 みんなには分かった。巳六は、笑ってなどいない。
巳六「俺、お前らと別れるのは、嫌だなあ。死ぬより、そっちの方が嫌かな…」
 七々は目から涙をこぼし、巳六の両肩を掴んだ。
七々「巳六くん…巳六くん…!!大丈夫だよ、1年したら私も後を追うから…!!!」
太一「七々!!何バカなこと言ってんだ…!!」
 太一は七々の腕を掴んだ。
七々「ごめんね巳六くん…ごめんね、ごめんね…私が余計なこと言ったからだ…!」
巳六「…ううん。これで良かったんだ多分。これが、フツーなんだ」
 泣きじゃくる七々を、巳六が抱きしめて諌めていた。
 その様子を…
 利九が、じっと見つめている。
利九「…」

…お前も、寂しいのか…?
お前でも、寂しいと思ったりするんだな…


 その傍らで、幸四と五月は、八重が9個の花の鉢を、輪のようにして並べていることに気が付いた。
八重「…1コで、1輪。9コ揃うと、9輪で、輪になるんだ」
 小さい、低い、悟ったような声で言った。
八重「1コでも無くなっちゃうと…輪じゃ、なくなっちゃうね…」
幸四「…!」
五月「…!」

置いていく方と
置いていかれる方
どっちが寂しいんだろうな
…多分、どっちも寂しいんだ…
誰かが、1人になってしまう場合は





 9人は、再びビルにやって来た。
 入り口でも全くとがめられず、兵士も黒スーツの男も出てこない。息吹に会うために作ったこの状況が、今になって相当ありがたいものとなった。
 言ってしまえば、データが取り放題である。
利九「順序良く行こう」
 ビルの隅から隅まで、色々な端末を回った。
 他の8人も、手伝えることは何でも手伝った。
 そして。

『ALL ERASE』

 政府の中枢のデータで、少しでもナンバーズに関係する内容のデータを、全て消去した。
 政府にある全てのデータを消したいところだったが、それでは島自体が機能しなくなってしまうので、やめておいた。
幸四「これで…」
太一「…ああ。完全に研究が止まるかは分からないけど、ダメージはデカイはずだ」
 用が済めば、もうこんな所に用は無い。
 9人はすぐに、アジトへ帰った。


 アジトへ帰った夜、利九は手に入れたデータを分析するために部屋に篭った。
 太一もそれを手伝いながら、1人1人に時々、話しかけに行ったりしていた。
太一「三琴、助かったら島を離れて、息吹のことなんか忘れようぜ!」
太一「幸四、研究がこれで止まったら、他のことも何とかなりそうな気がするよな!」
太一「五月、何かあったら、お前の腕を頼りにしてるからな!」
太一「巳六、もし言いたいことがあったら何でも言いに来いよ、な?」
太一「七々、レイの研究もこれで順調に進むな。きっと大丈夫!」
太一「八重、お前が花を並べてくれると、みんなの心が休まるんだ。ありがとうな!」

 アジト中を走り回っている太一に、英二が話しかけた。
英二「…太一、大丈夫…?」
 太一は立ち止まり、英二を見た。
太一「ああ、みんな何とか大丈夫みたいだったな。利九の分析も順調に…」
英二「そうじゃなくて。太一が大丈夫かって聞いてんの」
太一「…!!」
 一瞬油断をして。
 太一の顔から、笑顔が消えた。
 しかしすぐに我に返り、再び笑顔を作る。
太一「あ?なに言ってるんだよ。俺はいつだって元気だ。英二、お前も疲れてるだろ。もう休め、な?」
英二「…自分が休みなよ」
 太一は顔を英二の方に向けたまま、体を利九の部屋の方に向ける。
太一「俺はまだ、やることがあるんだよ」
英二「俺が変わりにやるから」
太一「いや、途中からだと多分分からないと思う。じゃあ、俺もう行くな」
 走って利九の部屋へ向かった。
英二「…」


 翌朝。
 ビルの方から、爆発音がする、との情報が入った。
 表面上が爆発する訳ではなく、爆発音が次から次へと聴こえてくる、というものだった。
幸四「…どうします、太一?」
太一「…」
 一体あの中で、何が起こっているのだろう。
 おぞましくて、考えたくも無い。
太一「データはレイに渡した。ただ待ってるのも何だから…ちょっと、ビルまで見に行ってみるか」
 気は進まないが、データ消去と何か関係があるのかもしれないと思うと、やはり気になった。
 9人がアジトを出る時。
 八重は、9個の花をじっと見つめた。


9人全員で、一緒にドリーム島の雪月花を見たかった。
あたし、わがままだった?
そんなことない
そんなことないって思いたいのに
あたし
島がダメになっちゃうとか
あたしたちが全員死んじゃうとか
そういう予感しかしないんだ
せめて 全部じゃなくても
少しでも叶えばいいのにな
どれか1コでもいい
島だけでも あたしたちの命だけでも
でも そうなったら
島と
あたしたちの命
あたしはどっちを選ぶんだろう











→「光」