「陸」

記憶の地











どうしてこんなことになってしまったんだろうと思う。
ただ一緒に居たいだけなのに。
自分の目の前に居る人は、みんなどこかへ行ってしまうのだ。

それでも、今回はあきらめたくないと思って。
何だってやった。
絶対にあきらめたくない。
絶対に取り戻してみせる、と。

何度居なくなっても、
何度でも取り戻してやりたいと思った。


でも

今回は
今回ばっかりは



??「お前、リクって言うんだってな」
 孤児院に来たばかりの頃。陸は赤髪の少年に話しかけられた。
陸「そうだ。お前は?」
??「俺は太一。太陽の太に、数の一」
 太一は笑いながら、紙と鉛筆を持ち出してテーブルに置いた。
太一「太一、英二、三琴―」
 名前を次々と書き出した。
 陸はハッとなる。
陸「数字…?これは、お前達の名前か?」
太一「そうだよ。孤児院に入った順に、零也さんがつけてくれたキョーダイの証なんだぜ!」
 陸は、不思議そうに名前を眺めた。
 名前が全員数字なんて。
太一「おい。リクの”リ”は、どういう字を書くんだ?」
 陸は首を横に振った。
陸「いや、リクは大陸の陸と書いてリクと読むんだ」
 太一は、目を大きく見開いた。
太一「そうなのか?何だ、リクのクは数字の九かと思ってた」
陸「…」
 紙の最後は”八重”で終わっていた。陸は9人目なのだろう。
太一「よし、お前もみんなみたいに、名前数にしろよ。リクのクは”九”で、リは―…これでいいかな」
 ”利”と、書いた。
太一「というか俺、”リ”って漢字コレしか知らないんだけどさ。これでいいか?」
 利九。紙に書かれたそれを、陸はじっと見つめる。
 そして紙に書かれている全員の名前を、一通り眺めた。
 キョーダイの証…
陸「…分かった。それでいい」
 陸は、戦争で家族を失ったばかりだった。
 愛情に、飢えていたところがあったのかもしれない。
 そして、ここに居る子供も、皆、そうなのだろう。
太一「にしても利九、すげーなー」
利九「?」
太一「リクって名前、字を変えるだけで済んだな。俺達に会うの運命だったかもしれないな!」
利九「…」


運命。

この出来事が、
この言葉が、
俺がキョーダイというものに執着するようになった、1つのきっかけだったのかもしれない




 太一たち5人は、長い通路をひたすら歩いていた。
 この先に、最上階へのエレベーターがあるはずだ。
 しかし、利九は歩きながらキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。
太一「利九、どうしたんだ?」
利九「この通路のどこかに、俺が言っていた重要な情報を引き出せる端末があるはずだ」
 見回すのをやめずに言った。
三琴「あら、じゃあ折角だから、造船区のコードと一緒に色んな情報を引き出していきましょう。この通路に戻ってくるか分からないものね」
 しばらく歩いていると。
利九「…ここだ」
 機械で出来た扉があった。
 利九は、横に付いているキーボードのようなものにタイピングをする。
 扉が開いた。
利九「お前達は、外で待っていろ」
太一「1人で大丈夫か?何か手伝うことがあったら手伝うけど」
利九「…じゃあ太一。お前だけ来い」
 利九はスタスタと中に入っていった。
太一「じゃあ、ちょっと待っててくれ。何かあったらすぐ呼びに来いよ」
英二「分かった」
 太一も、恐る恐る中に入った。
 何だか…

…気持ちが悪い。中に入ってはいけない気がする。
何でだろう…


 中に入ると、薄暗い部屋の壁にびっしりと機械が張り巡らされていた。中央にはモニターがある。
 利九は、既に何かをカチカチといじり始めていた。
太一「どうだ?」
 太一は、利九の後ろからモニターを覗き込んだ。
利九「これは…」
太一「何だ、何が分かったんだ?」
 モニターに、字が浮かんでいた。

 <E-ナンバーズ>の手術が施された、年と日付。

太一「ヘエ…こんなことが分かるんだな。あー、これは…巳六だけが年が違う。そういえばそうだったな」
利九「八重が一番最後か…なるほどな」
 そして、また別のページを開いた。
 そこには、こうあった。

・<E-ナンバーズ>の手術は、被検体が12~16歳のうちに施す。(成長期に施してチップを馴染ませる実験)

利九「…そういうことか…!」
 利九は驚きの表情でモニターを見ていた。
太一「何か分かったのか?」
利九「…」
 モニターを見たまま、表情を冷静に戻す。
利九「…4年前、お前達が政府に連れて行かれた時、なぜ俺だけが連れていかれなかったんだろうと疑問に思っていたんだが…
4年前、俺が既に19歳だったからだったんだな…」
 利九は今、23歳である。1人だけ、年が皆と離れているのだ。
 太一は利九の横顔をじっと見つめた。
太一「利九…1人だけ残されて、つらかったか…?」
 利九は手を動かし、静かにページを切り替える。
利九「…別に」
 小さい声で、そう言った。