「雪」





 幸四は、部屋のベッドに寝転がりながら、利九に借りた資料に目を通していた。

バグ…ねえ。バグのせいで苦しめられてきたんですね、僕は。
そんなことは、もうどうでもいいんですけど。
…八重にも、同じバグを施したんでしょうね。
施した時点で、バグですらありませんが。


 八重の、苦しそうな顔が、目に浮かぶ。

…必ず、助けてみせますよ、八重。人を殺すのは苦しいでしょう?
大人に心を付け込まれるのは、苦しいでしょう?八重…


 コンコン。
 ドアが鳴った。
太一「おーい幸四、トランプでもしようぜ」
 幸四は資料を置いて起き上がる。
幸四「太一、どうしたんですか。セキュリティの暗記はいいんですか?」
太一「息抜き、息抜き」
 ベッドに腰をかけ、持ってきたトランプを切り出した。
幸四「仕方ないですねー」
 2人は、何となくババ抜きを始めた。
 しばらくして。
幸四「…明日、僕は絶対にビル班に入りますよ。利九がどう決めようと、それは揺るぎませんから」
太一「…うん。まあ、利九もその辺考えてくれると思うけどな」
幸四「だといいですね」
 幸四が残り3枚、太一が2枚になった。
太一「なあ幸四」
幸四「何ですか?」
太一「…お前、本当にもう大丈夫なのか?」
 幸四は笑った。
幸四「何度も言ってるでしょう?僕はもう、本当に大丈夫ですよ。じゃなきゃ、あんな話みんなの前で出来ませんよ」
太一「…そっか」
 幸四が残り2枚、太一が1枚になった。
幸四「太一と、みんなのおかげですよ。僕はもう、余計なことは考えないことにしたんです。僕にとって大事なのは、単純にキョーダイが大切だってことだけですよ」
 太一がババを引く。
太一「俺もだ。俺も、幸四に学ぶことばっかりなんだよ。お前、いつも前向きだからな」
幸四「僕が前向きなのだとしたら、あの日太一に”引きずって生きるのもアリだ”って言われたせいかもしれませんね」
太一「…俺、そんなこと言ったっけ?」
幸四「言いましたよ。アレで吹っ切れたんですよ、僕は。…上がりです」
 スペードの4と、クローバーの4をベッドに置いた。
幸四「太一。八重に会ったら、あの子の目を見てあげて下さい。目を見られると、あの能力は発動しないんです」
太一「ああ。そう言ってたな昔」
幸四「何でか分かりますか?目を見られると…安心するからなんですよ。
能力は目から発動するから、皆恐れて目を見なくなるんです。それは、とても不安なことなんですよ」
太一「目を見るってことは…」
 太一は笑った。
太一「フツーに接してやればいいってコトだろ?」
 幸四も笑う。
幸四「そうですよ。昔僕にしたみたいに、普通に目を見て話せばいいんです。それだけで、充分救われるんですよ。あ、太一は負けですよ」
 太一は、手に残っている1枚のババを見た。
太一「って…ええ!?いつのまに負けてた!??」
幸四「話に夢中になりすぎですねぇ。さ、部屋に戻って。暗記の続きをしないと、太一」
太一「あー忘れてた!じゃ、おやすみ幸四!」
 慌てて部屋を出て行った。

もう、あれこれ考えても仕方ないんですよ。本来の目的を見失わないようにしないと。そうですよね、太一。



太一「完璧だ俺。みんなびっくりするなよ!」
 朝、広間に全員集まっていた。太一が自身ありげな表情をしている。
英二「ホントに大丈夫なの、太一~?」
太一「大丈夫だって!びっくりするぞみんな」
利九「そうか。頼りにしているぞ」
太一「あー、うん」
 利九に言われると、なぜか妙に自信がなくなってくる。
利九「よし、チーム分けをする。まずは、ビル班。太一に続いて、幸四、五月、七々だ。こっちは八重のことを頼む」
 幸四が利九に一礼する。
幸四「ありがとう、利九」
利九「戦略的に考えただけだ」

実際はどうなんだか。

 太一は利九を見て、密かに笑った。
利九「人数が7人なんだが、ビルの方は初めて俺が居ない状況だから、人数をビル班に傾ける形になった。
そして、造船区班は、俺に続いて巳六、英二だ。巳六は造船所の案内と戦う羽目になった時の戦力、
英二も戦力としてこっちに入れた。構うことなく自由に能力を使えるのは、太一、英二、五月、巳六だからな。
その4人が2:2に分かれるようにした」
 座っている五月が、木の棒を肩に担いで、少し笑う。
五月「サンキュー、利九。俺をこっちに入れてくれてよ。俺は、八重を守りたい。八重を泣かす奴は全員、シメてやるよ…」
幸四「めずらしく意見が合いますね、五月。僕も、八重を悲しませる奴は全員シメてやりたいと思ってますよ」
 2人の目が合う。
五月「…八重を守るためだったら、お前に協力しないこともない」
幸四「じゃあ、八重を守る時だけは、協力しましょう」
 2人は拳を軽く打ちつけ合った。
英二「普段から協力しなよ…」
 ボソリとツッコミを入れる。
 巳六だけは1人、納得がいかないようだった。
巳六「利九。俺、七々と一緒がいいんだけど」
利九「戦略的に無理だ」
巳六「ちょっと待て。俺思ったんだけど、七々の能力って何…むぐ」
 利九の腕が後ろから伸びてきて、巳六の口を塞いだ。
巳六「???」
英二「ホラ巳六、もう行くよ」
巳六「むぐ…っ」
 英二がスタスタと外へ向かう。巳六は利九に引きずられて入り口へ向かった。
利九「太一、幸四、五月、七々。健闘を祈る」
太一「ああ。利九も、英二も、巳六も、気い付けろよ」
七々「巳六くん、また後でね」
巳六「むぐーーーーっ!!」
 辛うじて、手を振った。
 みんなが外に出る際に、キッチンから三琴が出てくる。
三琴「みんな、おいしいご飯作って待ってるから、気をつけてね」
太一「ああ。お前も1人なんだから気をつけろな」
 優しく笑いかけて、外へ出た。


巳六「なあっ!何なんだよ、急に!!」
 巳六は、造船区に行く道を歩きながら1人怒っていた。
英二「俺、ヒヤッとしたよ。利九が止めてくれて良かったよ」
巳六「何が!!」
利九「七々の能力のことは、七々の前では禁句だ」
巳六「…えっ?」
 怒りの顔が、一気に疑問に変わる。
利九「今後、七々の前で七々の能力の話をしないように気をつけろ。いいな?」
 巳六は少し考えて、真面目な表情をして言った。
巳六「…七々が傷つくことか」
利九「そうだ」
巳六「…」
 うつむく。が、いきなり思い切り振り向いた。
巳六「教えてくれ。七々の能力って何なんだ。知るくらいはいいだろ?」
利九「…まあ、そうだな。七々の能力は、機械をショートさせて使い物に出来なくなる能力だ」
 巳六は、ポカンとした。
巳六「…そんだけ?」
利九「それだけだ」
巳六「じゃあ、何で七々にはタブーなんだよ」
 英二が、下を見ながら言った。
英二「能力というよりは…その能力ゆえに引き起こされた悲劇に原因がある、って感じかな」
巳六「…七々…」
 利九は、2人の間に入って方をポン、と叩く。
利九「いずれ話す。今は、アンテナのことを考えよう。巳六、まずはポートに案内しろ。もちろん、誰にも見つからないようにだ。船を見定めたら次はアンテナだ」
巳六「…分かった。とりあえず、造船区に着いたら案内するわ」
 巳六は、空を見た。少し曇っている。
巳六「七々…」


 太一たちも、政府ビルに向かって歩いていた。
 すると、どこからともなく雪が降ってくる。
幸四「雪ですねえ」
 太一と五月が幸四の方を見た。幸四は、プッ、と笑う。
幸四「そんなに心配しなくても、もう取り乱したりしませんよ?」
 太一は、幸四の背中を叩いた。
太一「だよなぁ。うん、うん、ただの雪だ。じゃあみんな、行くか!」
五月「図太くなりやがって…」
七々「幸四くんは、いつも前向きだよね」


幸四が昔、兵士を殺していた頃。
雪の日が大嫌いだったそうだ。
なぜかというと、真っ白な雪だと、兵士の血で地面が真っ赤に染まるから…
アジトに来たばかりの頃は、雪が降ると取り乱したりしてたんだけど。
もう、本当に大丈夫みたいだな。
むしろ今は、俺よりしっかりしてる気がするしなぁ。











→「白」